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Subjects Runes【完全完結版/累計800万PV】~高速詠唱×現代知識で貴族社会を成り上がる戦記ファンタジー~  作者: くまひこ
第1部アージェント王国編 第1章 超速爆炎の新入生

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第10話 新入生歓迎ダンジョン

 新入生歓迎ダンジョン当日の早朝。


 全部員はすでに冒険者ギルドへ集合し、テーブル席を占拠していた。その様子を、周囲の冒険者たちが興味深そうに眺めている。


「なんだなんだ、一体何が始まるんだ?」


「例年のあれだよ。お貴族様の坊っちゃん嬢ちゃんがぞろぞろ集まってダンジョン攻略する、恒例イベントだ」


「あー、毎年やってるやつか。でも所詮、おままごとみてえなもんだろ?」


「馬鹿、でかい声で言うな。お貴族様に聞こえるぞ」


「そうだぞ。それに、あいつらは将来俺たちのパーティーに入るかもしれない魔術師候補だ。口には気をつけろ」


「おっと、そうだったな」


 そんなふうに冒険者たちがざわつく中、部長ウォルフによるパーティー編成の発表が始まった。


「今年の新入部員は10名。2名ずつ5班に分け、そこへ先輩部員を加えて5人1組のパーティーとする。人数が足りない班には、ギルドの冒険者に臨時参加してもらった。では発表する」


 ウォルフはメンバー表をテーブルに広げ、読み上げていった。


A:前衛 アゾート、キース、臨時冒険者

  後衛 マール、サーシャ


B:前衛 カイン、ロジャーズ、ウォルフ

  後衛 ミルモ、バーン


C:前衛 ダン、ネオン、臨時冒険者

  後衛 アズマイヤ、セレーネ


D:……


 ネオンが俺の脇腹をつつき、小声で聞いてきた。


「ロジャーズ、ミルモ、バーン、アズマイヤって誰だっけ?」


「ロジャーズはセレーネに付きまとってる上級クラスの新入部員。残り三人は部の先輩だ。アズマイヤさんは3年生の回復役」


「なるほど。……というか、この編成ひどくない? なんで私がアゾートと別組で、セレン姉様と同じ班なのよ」


「俺はセレーネがお前と同じ組で、かなり安心してるんだが」


「部長に抗議してくる」


 そう言い残し、ネオンは部長のもとへ向かっていった。




 バカは放っておいて、俺はパーティーメンバーと挨拶を済ませることにした。


 サーシャ、キース、俺、マールの順に簡単な自己紹介を終えると、臨時参加の冒険者も名乗った。


「俺はランクB冒険者、ワルトファールスターク・バルトーカ・モホロビチッチだ。よろしく頼む」


 ……長い名前だな。外国の貴族か?


「よろしくお願いします、モホロビチッチさん。失礼ですが、外国の貴族の方でしょうか?」


「いや、この近くの村のただの平民だ。苗字呼びなんて堅苦しいことは抜きにして、気軽にファーストネームで呼んでくれ」


 冒険者らしいがっしりした体格の前衛盾職が、背中の大剣と大盾を揺らしながら、柔和な笑みで右手を差し出してくる。


「わかりました、ワルト……なんとかさん」


「ワルトファールスタークだ」


「はあ……」


 気軽に呼びたくても、名前が長すぎて覚えられないんだよ! むしろ苗字の方が短いし、そっちで呼ばせてくれ!


 俺は気を取り直し、クエスト選びに目を向けた。


 すでに受付嬢が、俺たち向けの候補をいくつか見繕ってくれている。


 魔獣討伐、財宝探し――定番の依頼が並ぶ中、ひとつだけ妙に気になるクエストがあった。



 『エッシャー洞窟の古代魔法遺跡発掘』



 エッシャー洞窟は、古代魔法文明の遺跡として名高い場所だ。調査自体はとっくに終わり、現在は観光名所になっている。


 ――だが。


「依頼書によると、最近エッシャー洞窟内で新しい通路が発見されたらしいわ。だから遺跡研究者の護衛を、冒険者ギルドに依頼してきたみたいね」


 サーシャ先輩の説明によれば、ここは天然洞窟のため罠の危険は低く、洞窟内の魔獣討伐が俺たちの主な役割らしい。


「先輩たちがよければ、これを受けたいです。俺、古代魔法文明に興味ありますし」


 俺がそう言うと、キース先輩が頷いた。


「クエストは新入生が決めればいいよ。マールの意見は?」


「私は特に希望ありません。これでいいです」


 結局、この依頼を希望するパーティーは他になく、俺たちの行き先はすんなりエッシャー洞窟に決まった。


 どうやら他のパーティーもクエストが決まったようだ。


「ダンは『ダンガール迷宮都市』で財宝探しか。俺は『ビスポル火山ダンジョン』で魔獣討伐さ」


 カインが模擬剣ではなく本物の剣を肩で叩き、ニカッと笑う。


「おうよ。ダンジョンと言えば財宝、財宝と言えば迷宮都市。これ以外に選択肢あるか? なあ、ネオン」


 ダンが同意を求めるが、ネオンは不満げにぶつぶつ言っている。


「何拗ねてんだよ。パーティーCは最高じゃないか。セレーネさん筆頭に美人しかいねえ。お前はいつもクラスの女子に囲まれてるから分からんだろうが、年上のお姉さんもいいものだぞ」


 ちなみに、ダンの班の臨時冒険者は少し大柄な女剣士で、頼れる姉御といった雰囲気だ。アズマイヤ先輩も、ほわっとした感じの女子生徒である。


「ダンは本当にしょうがないわね。普段モテないからって調子に乗りすぎ。いざという時に緊張して失敗しなきゃいいんだけど」


 マールが容赦なくツッコミを入れるが、当のダンはネオンと肩を組み、お姉様方に鼻の下を伸ばして絶好調だ。


 ……ていうか、お前が今肩を組んでるネオンも女なんだが。


 つまり、お前のパーティーはお前以外全員女。


 夢にまで見たハーレム主人公だぞ、お前。


 ……いや、知らぬが仏か。


「それでは今から新入生歓迎ダンジョンを開始する。全員、転移陣へ移動!」


 転移陣は遠距離移動用の魔術具で、距離に応じた魔力を必要とする。


 エッシャー洞窟は比較的近場なので、俺たちは自前の魔力で足りた。だが、平民で魔力を持たないワルト何とかさんには、ダンジョン部の部費で購入した魔石を使ってもらうことになった。




 転移陣で一瞬にしてエッシャー洞窟へ到着した俺たち。


 ……そして洞窟入口の脇には、まさかの観光案内所が建っていた。


 俺の冒険心をへし折る無粋な施設である。


 そこで護衛対象の研究者たちと合流し、大勢の観光客に混ざって洞窟内を進んでいく。


 クエスト感ゼロの道中だったが、研究者たちによる遺跡解説は興味深く、俺としてはかなり勉強になった。


 そして――


「ここからが、最近発見された通路への道です」


 研究者の一人が、突然脇道を指し示した。


 ロープの先は立入禁止になっており、バリケードの前には守衛が立っている。


「お気をつけて」


 守衛が敬礼し、俺たちは研究者たちと共に脇道の奥へ進んだ。


 やがて突き当たりに辿り着く。


 そこは少し開けた空間になっていた。


 床、壁、天井は平らで滑らかな石材に覆われ、正面の壁には祭壇のような構造物が突き出している。


 そして、その祭壇の裏側に――下へ続く階段があった。


「この祭壇裏の階段が、最近発見された通路です」


 俺たちは狭い階段を一列になって降りていく。


 降りきった先には、再び洞窟が続いていた。


 この辺りまでは探索済みらしく、壁には照明の魔術具が一定間隔で設置され、周囲を明るく照らしている。


 だが、かなり奥まで進んだところで、その照明が途切れた。


 周囲が、急に暗くなる。


「この辺りからが未踏領域です。魔獣に警戒しつつ、ゆっくり進みましょう。我々研究者は魔獣除けの結界魔術具を設置していきます。先行しすぎないよう注意してください」


「了解しました」




 さあ、ここからが本番だ。


 パーティーAの司令塔はサーシャ先輩。前衛はキース先輩の指示に従って動き、ベテラン冒険者のワー何とかさんが、いざという時のフォロー役を務める。


 俺は先頭でランタンを掲げ、前方を照らしながら慎重に進む。


 右後方にはワー何とかさん。左後方には、盾と剣を構えたキース先輩。


 その後ろにサーシャ先輩とマール、さらに研究者たちが続いた。


 地下水が天井から壁を伝い、地面のあちこちに水たまりを作っている。


 足場は滑りやすく、自然と歩みは遅くなった。


 日光の届かない洞窟内には植物一本生えていない。


 魔獣の気配すらない、静まり返った死の世界。


 俺たちの足音だけが、洞窟の壁に反響していた。


 研究者たちは淡々と結界魔術具を設置していく。


 結局、何事も起きないまま三時間ほど進み、俺たちは昼食を取ることにした。


「魔獣、出てこなかったね」


 隣に座ったマールがぽつりと呟く。


「そうだな。ずっと警戒しっぱなしだったし、距離のわりに疲れた」


「私は後衛だからアゾートほどじゃないけど……すごく緊張してるよ」


 マールとそんな話をしていると、サーシャ先輩が口を開いた。


「今日は洞窟内で宿泊する予定よ。午後は、野営に向いた場所を探しながら進むことになるわ」


「この先に適地がなければ、最悪ここまで戻ればいい。少なくとも野営場所には困らなさそうだ」


 キース先輩が周囲を見回しながら言う。


「よし。少し休んだら、先へ進みましょう」

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