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大人への道程  作者: 石原裕
第二章 筆おろしと破瓜

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第4話 慎一は、昼間は麻衣と、夜には忍と、結び合った

 翌日の朝、慎一の部屋で一悶着あった。

騒ぎで自室のドアを開けて覗いた麻衣の視線の先に、慎一の部屋の前に突っ立って彼と言い争っているメイドの姿が在った。

「私はお部屋を掃除しに来たんです、中へ入れて下さい!」

「どうしたの?」

問いかけながら麻衣は慎一の部屋の中へ入って行き、直ぐに丸めたシーツを持って出て来た。

「きまりが悪かったのよ。シーツを汚してしまったから・・・」

「えっ?何か吐きでもされたんですか?」

「違うのよ。二十歳前の若い男の子がシーツを汚したと言えば、判るでしょう、あなたにも」

メイドは漸く理解したようだった。

「未だ坊やなのよ、可愛いわね」

メイドは洗濯物を持って階下へ降りて行った。麻衣は笑って見送った。

 その日の夜、ダイニングで夕食を摂った後、忍は、ほぼ一日中姿を観ない麻衣を探しにバーやサロンなどを覗いて見た、が、彼女の姿は見当たらなかった。忍は庭を探し、プールサイドを見回ってから浜へ降りて行った。話声が聞こえたのは浜へ降りる石段の辺りで、其処には洒落たベンチが備え付けられていた。

声は慎一であった。ベンチに麻衣が座っていた。水着の上にガウンを着て二人とも髪が濡れていた。海で泳いで来たらしかった。

「僕、お姉さんが好きなんです!」

慎一の思い詰めたような声が聞こえて、忍はぎょっとして足を止めた。

「女の人がこんなに綺麗だって思ったこと、生まれて初めてです」

「あなた、殺し文句が上手いのね」

「違うんです、真実です」

慎一はベンチに座っている麻衣の両足を抱くような格好で跪いていた。麻衣は彼の髪を片手で撫でていた。弟のような若い男のすることを笑いながら許容している態度だった。慎一が麻衣の膝に顔を埋めた時、忍は石段を足音高く下りて行った。慌てて慎一が麻衣から離れ、石段を駆け上がって行った。

麻衣の眼が笑っていた。

「あんまり馬鹿げた真似は止しなさいよ!あなたは二十二歳の大人なのよ」

「私は唯、あの子の悩みを聞いてあげただけよ」

夜の海は岬に建って居る幾つもの照明で明るく輝いていた。

「あの子、今までガールフレンド一人作る暇も無かったんだって、勉強、勉強で」

「そういうのがマザコンになるのよ」

「色んな呪縛から自分を解放する方法を教えてやれば良いんだわね、きっと」

波が麻衣の座っているベンチ近くまで寄せていた。

「あの子、抱いてやったら、人生観が変わるかもね」

麻衣はさらりとそう言って、立ち上がった。

「何を馬鹿なことを言っているのよ。悪ふざけは止しなさいよ」

忍は思った。

男に処女願望が在ると聞くが、女にも童貞嗜好が在るのだろうか?・・・


 次の日の夜、慎一が浜辺への階段を下りて行くと、丁度、上がって来る忍と出くわした。彼女は大胆なビキニの水着で、手にビーチガウンを下げていた。

脚を止めた慎一に彼女が言った。

「海へ入ろうと思ったんだけど、もう海で泳ぐ時期でも無いわね」

忍が先に立って石段を登り、慎一は外燈の照明に晒された忍のセミヌードを見上げながら歩く形になった。忍は麻衣ほど豊満ではないが、二十二歳の肢体はなかなかの肉感だった。

「ねえ、プールへ行かない?」

忍が声を懸け、慎一が頷いた。

歳上の女は若い歳下の男の手を引っ張って室内プールの中へ入って行った。

建物の中に人の気配は無かった。

「いらっしゃいよ」

忍が水に飛び込み、慎一を促した。

彼女が少し泳ぐと、ビキニの水着は胸が捲れた。

「泳ぎ難いわ」

水の中で彼女は水着を脱ぎ捨てた。

「あなたも脱がなくっちゃ駄目よ」

逃げ回る慎一を全裸で追い回して、忍は彼の水着に手を懸けた。若い歳下の男は自分の本能に忠実な肉体を、歳上の女の前に曝け出した。

「可愛いわね、君って・・・」

忍は手を伸ばして慎一を抱き寄せながら、自ら唇を重ねて行った。

 麻衣が忍の部屋の前を通ると「睡眠中」の札が出ていて、軽くノックをしてみても返事がなかった。彼女は一階へ降りて庭から二階の部屋を眺めた。忍の部屋はカーテンが閉まって、灯も消えていた。時計を見ると未だ十時過ぎである。麻衣は思った。

早寝でもしたのだろうか・・・

慎一の部屋には未だスタンドの灯が点いているようだった。

レースのカーテンの向こうに人影が動いていた。麻衣が何気無く見ていると、急に、人影が二つになった。大胆にも、カーテン越しのシルエットは何方も裸で抱き合った。

 それからの数日間、麻衣と忍と慎一の三人は、ダイニングルームのテーブルに仲良く腰掛けて談笑しながら食事を摂った。慎一は、昼間は麻衣と戯れ合い、夜には忍と結び合った。


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