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第一話 至福の時間はまだ来ない

(0/5)

 静寂に包まれる部屋。

 ベッドの上では、ぐちゃぐちゃな毛布が仮眠をとっている。まるで、「疲れたから寝るぜ」と言っているようだ。

 窓の外は、真っ黒に染まっている。バッテリー切れの、液晶画面みたいだ。

 ぼくの目の前には、バッテリーが満タンの液晶画面がある。そこには、たくさんの数式たちが陳列している。バーゲンセールの商品みたいに、所狭しと並んでいるのだ。

 二次関数、サインコサインタンジェント、部分分数分解に、複素数。実生活で使ったことのない、暗号のような問題たち。こやつらは、律儀に整列をしてやがる。今か今かと、自分の解が出されるのを待っている。

 そんな子犬のような目をした問題たちを、ぼんやりとした授業の記憶だけで解く。公式も、大雑把。とりあえず、いい感じに解いた。

 タブレットに、自分で書いた文字たちが並ぶ。勢いよくペンが動いたものもあれば、ゆったりと動いたものもあった。

 課題の間、ずっとペンを握っていた。だからか、手の筋肉が痛い。一昔前は、手が炭素で汚れていたらしい。今の時代に生まれてよかったと、軽く感じた。

 そんな痛む手で、回答ボタンを押す。

「まあ、こんくらいか」

 平均点と近しい自分の点数。そんな点数に、ぼくは満足した。


(1/5)

「さて、今日もやりますか」

 毛布を叩き起こして、ベッドを奪う。元々は、ぼくの布団だけど。ベッドの横には、小さなテーブルがある。温かな木目が可愛らしく、愛用の品だ。

 そんなテーブルの端の方。そこには、二つの黒色のイヤホンが転がっている。草原で寝転ぶ二人組みたいに、仲が良い。

 右耳に、Rと書かれたイヤホンをつける。反対の左耳には、Lと書かれたイヤホンをつける。このイヤホンは、一部が紫色に輝いて、とてもかっこいい。個人的には、好きなデザインをしている。

 さらに、小さな箱が、イヤホンの横で座っている。ちょこんとして愛おしい。その箱は、忘れたくない思い出をしまうかのごとく、一組のコンタクトを隠していた。

 赤色のコンタクトを右目、青色のコンタクトを左目に入れる。コンタクトは、最初は怖かった。でも、今では恐怖心が消えていた。

 ここまで来たら、後は簡単。スマホを取り出して、アプリのアイコンを、ポチっと押す。たったそれだけ。

 これが、ネワコンへの入り口だ。


(2/5)

 世界が暗転する。暗闇になるこの瞬間は、いつまで経っても慣れない。コンタクトに慣れるより、こっちに慣れたかった。

「プレイヤーネーム、RENK様。ようこそ、ネワコンへ。ログインボーナスを、メールボックスへ送りました。では、良い一日を」

 雑に聞こえる、合成音声の案内。毎日案内をさせられるこのAIを、心底気の毒に思う。

 真っ暗だった視界に、星空のような景色が映る。この景色は、ネワコンの中でも、特に大好きだ。

 次に目が覚めると、巨大な空間が広がっていた。


(3/5)

二〇四五年。全世界共通の超大型仮想空間が運営開始した。その名も、『Next World Contact』。通称、『ネワコン』。

運用開始当初は、全世界のメディアに取り上げられていた。光の速さを超えるかのように、その話題は地球を包み込み、世界を一体化させた。

全世界の人間がアクセス可能で、すでに約九〇億人が利用している。もはや、第二の地球だ。

なんてことを、今も言われている。テレビは、いつまで同じネタを擦るのだろうか。でも、素晴らしい発明品だから、文句を言えない。もどかしいったらありゃしない。

非現実な世界を見せてくれるアニメも、聴衆によって火山のように熱くなるライブも、時に切り合い時に慰め合う商売も、全部ここでできる。他にも、たくさんのことが、ネワコンではできる。そう、言ってしまえば、現実が要らないくらいには、何でも揃っている。  

ぼくは、ここが大好きだ。だって、全部忘れられるから。

小さく腕を伸ばす。背骨が小さく鳴る。

詳しい仕組みはわからないけれど、この発明が世界を変えたこと。これは、紛れもない事実だった。


(4/5)

 今日は課題のせいで来るのが遅くなってしまった。現在時刻は、二〇五〇年五月三日の二三時五二分。明日遊ぶか。

 取り付けたばかりのイヤホンと、コンタクトを外す。ログアウトは、機材を外すだけでできるらしい。

 テーブルの隅にイヤホンを転がし、思い出隠しの箱にコンタクトを入れる。

「おやすみなさい」

 狭い部屋に、ぼくの声が流れた。その声は、砂時計の砂が落ち始めるよりも早く消えた。壁に吸われてしまった。

 翌日。いや、ぎりぎり今日なのかもしれない。意識が落ちる寸前の時間は、流石に把握していなかった。

 どんな夢を見たのか、全く覚えていなかった。壁に吸われた声しか、思い出せなかった。


(5/5)

 あぁ。また、憂鬱な一日が、始まってしまう……。

 ぼくのブルーな気持ちを無視し、秒針は、せわしく回っている。一秒一秒が、浪費されていった。

「マカロン食べたい」

 ぼくは、ブルーな気持ちを消すために、今日の生き甲斐をつくった。


今後投稿するときは、いかなる日でも21時30分になるよう頑張ります!

もしずれちゃったりしたら、ごめんなさい,,,,,,


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