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Confidence

 僕は、あの時みた影のことをあーでもない、こーでもないと頭を捻らせていた時だった。


「ロック!」


 目の前からノルドが、鎧を鳴らしながら駆け寄ってきた。どこかあわてている様子の彼に、僕は首を傾げた。


「どうしたんだ? そんなに慌てて……」


「どうしたもこうしたもあるか! 門で見張りをしてたやつが、異常を見つけたんだ!」


 その言伝に、僕は胸の内が飛び跳ねるような感覚を覚えた。

 まさか僕が見たあの影に何か関係が……?

 そんな勘ぐりをしてしまう。やはりさっさと報告すべきだったかと後悔が押し寄せてくると、ノルドは続いて口を開いた。


「今、屋敷内が軽く混乱しているから、整理するためにも一度中庭に集合の号令をかけてんだ。俺たちも急ぐぞ!」


 言いたいことだけ言って、彼は僕の横を通り過ぎていった。

 そうだな。あれこれ考えるのは後だ。僕はまだ全容をまだ何も把握できていない。そうやって無理やり思考を切り替えて、僕はノルドの後を追うように、中庭に向けて駆け出した。


 中庭に着くと、さっきとは打って変わって、慌てた様子の騎士たちで溢れかえっていた。

 あの時影を見た場所に目を向けても、やはりそんなものはどこにもない。


「これはどういうことだ騎士ども!!!」


 混乱渦巻く中、二人の護衛を連れたカリア殿が喚きながら姿を現した。

 その護衛こそ、今回のカリア殿護衛の指揮をとっている十一番隊隊長のナイル・シャトレールと、副隊長のブルーグ・ヘルベルグだ。


「落ち着いてください、閣下。現在異常の原因を調査中でございます。閣下の身の危険に及ぶにはいたしません」


 低身長なカリア殿に合わせるように、ナイル隊長は落ち着いた様子で腰を曲げて、そう告げた。その姿勢のまま、彼はブルーグ副隊長に目配せを送った。

 彼は返事もなしにコクンと頷くと、その重そうなフル装備などお構いなしに跳躍し、一瞬で屋根の上までのぼってみせた。

 すごいなぁ……フルフェイスまで覆った重装備なのに、あんな軽々と。二番隊のタンク隊出身の彼のことだから、軽やかな動きは難しいのかな、なんて勝手な想像をしてたけど、ナイル隊長から直々にスカウトを受けたエリートは違うや。


「騎士団諸君!! 刻限を告げる鐘の音から時計の針は半分を回った。あと半分。あと半分の間に、怪盗は姿を現すはず。ここからは手段を問わん! すでに屋敷内に侵入されたものとして警戒し、しらみ潰しに炙り出せ!!」


 その指令に、周りは一気に落ち着きを取り戻した。そして揃った返事をして、解散した。

 さすがは十一番隊を10年も引っ張り続けてきた男だ。彼のその大胆不敵さと戦略性の高さのおかげで王都の犯罪率が下がったと、僕は本気で考えている。


 僕も動こう。そう決心して、ナイル隊長に近づいた。


「お、おいお前! ワシに近づくんじゃない!!」


「落ち着いてください閣下。彼は騎士の一人です。見習い。名前と用件を手短に」


「は、ハッ! 第六番隊所属、ロック。ご報告したいことが。僕、さっき異常が出る前、あそこに何か黒い影を見たんです!」


「何?」


 少し低くなった彼の声に身震いするも、僕は続ける。


「僕の主観で申し訳ありません。影と言っても、人影とは断定できず……。これを報告して隊列に混乱を招くのはまずいかと考え、伏せていました。重ねて申し訳ございません!」


「いや、その判断を私は尊重するよ。しかし人とは断定できないものの、屋根に何らかの影か……。これはブルーグのやつにも共有しておくべきだな。ロックと言ったな。ブルーグ副隊長と合流してそれを伝えろ。やつには屋根から順番に異常を探すよう指示を出している。私は閣下を安全な場所へと移す必要がある。頼めるか?」


 あの一瞬の目配せでそんな指示を……。って、感心している場合じゃない!

 僕はそれに短く返事をすると、ナイル隊長は「よし」と短く切る。そして、カリア殿を連れて中庭から姿を消した。

 やるべきことは胸に刻んだ。ブルーグ副隊長を探そう。




 そうと決まって僕がやってきたのは、屋敷にある唯一の屋上だった。ここから屋根へと乗り移れるのではと思ってのことだった。

 案の定、屋上からならば屋根の上へと乗り移れそうだ。だけど、屋上から見渡す限り、ブルーグ副隊長はいないようだった。

 無駄足かと思いながら、来た道を引き返そうとした時だった。


 足元に違和感があった。別に足が地についていないとか、そういう感覚的なことではない。

 そこには、砕けた煉瓦の破片があった。おそらく、屋根に使われている煉瓦だろう。


 不思議に思って、僕は屋根の上に身を乗り出す。鎧の重さがより一層自己主張を示してくることに顔を顰めるも、それを飲み込んで屋根を見回した。

 屋根の至る所に、足跡のような踏み込みの跡があった。それも大量に。


 それを見て、僕の中にあった違和感は、半ば確信に変わった。

 僕が見た影は、間違いなく人だ。


 ここにある踏み込み跡が全てブルーグ副隊長のものだとしたら、副隊長はここで一人で派手に踊っていたということに結論づけなければ説明がつかない。

 状況からしてそんなことはあり得ないから、多分、副隊長はここで誰かとやり合った。それも、戦闘というには派手ではないもの。あくまでも、副隊長と何者かによる追走劇、と言ったところだろうか。


 いくつかの踏み込み跡は、副隊長のものにしては小さい。副隊長の身長は低くても、鎧の重量を考えれば、こんな軽い跡にはならないはずだ。

 それは力強いというより、どこか華奢な印象を残していた。


 ブルーグ副隊長は、その異常の正体である誰かと遭遇したんだ。


 副隊長を追うべきか、それとも――。ここに副隊長がいないということは、おそらくその誰かを追いかけたのだろう。

 一瞬そう迷ったけど、僕は副隊長を探すよりも、ナイル隊長と再度合流した方が早いかもしれないと結論づけた。

 僕は決心して、再び屋敷内へと戻っていくことにした。




 屋上から屋敷内に戻って、僕は最上階である三階から順番に隊長を探そうとした。

 だが、それは思ったより早かった。


 三方囲いとなっているこの屋敷。その最西端にある部屋の前。一番端っこの部屋ということもあり、人通りは少なくて、警備もハッキリ言って手薄かった。

 こんな場所には流石にいないだろうなぁ……なんて思いながら、僕は曲がり角からその部屋の前の廊下を覗き込んだ。


 そこには、今まさにその部屋へ入ろうとしていたブルーグ副隊長の姿が一瞬映った。


 ラッキーって思った。まさか隊長よりも先に見つけるのが難しそうな副隊長を見つけられるとは思わなかったから。

 その思考に落ちた瞬間、またも強烈な違和感を覚えた。


 おかしくないか?

 なんで副隊長が、こんな端っこの部屋に来ているんだろう。あの人は今、異常の原因である何者かを追っているんじゃなかったのか?

 もしかして、一度その何者かに逃げられて、ナイル隊長と合流を考えているとか……。だとしても、こんなところにやってくる説明はつくか?


 疑問が疑問を呼ぶ。

 だけど、今ここを素通りしてナイル隊長を探すよりも、部屋に入ったブルーグ副隊長と合流した方がいいんじゃないのか。

 違和感は尽きない。それでも、ここで引き返す選択肢は、最初から僕の中になかった。

 僕は部屋の扉に、手をかけた。

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