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ジャム瓶一杯の願いごと

作者: 冲田

フィン

 『昔々、人里(ひとざと)から少しばかり離れた小さな家に、ある夫婦が(つつ)ましく()らしておりました。

  窓の外ではごうごうと風が鳴り、雨粒(あまつぶ)屋根(やね)(たた)いています。

  そんな夜であるというのに、コンコンとノックの音が聞こえてきました』


ルカ

 『こんな嵐の夜に、誰か(たず)ねてきたのだろうか。それとも、風に飛んできた木の実や小石が当たったのだろうか』


フィン

 『家の主人は、窓からこっそり外を見てみます。もう一度、コンコンと音がして、こんどは「こんな夜更(よふ)けに申し訳ありません」と声もしました。

  主人はすこぅしだけ戸を開きました。その少しのすき間からも、雨が吹き込んできます。

 (とびら)の向こうには、分厚(ぶあつ)いマントを着た人影がありましたが、目深(まぶか)にかぶったフードで顔は少しも見えませんでした』


ルカ

 『どちら様ですか』


フィン

 『旅の者なのですが、宿が得られぬまま彷徨(さまよ)っていたところ、このように嵐がやってきてしまいました。()かりを(たよ)りにようやくあなた様のお(たく)辿(たど)()いたのです。どうか、一夜の寝床(ねどこ)をお()しいただけないでしょうか』


ルカ

 『それはそれは、災難(さいなん)でございましたな。しかし、(みょう)な話でもあります。

 宿(やど)のある町場(まちば)は、ここからそう遠くもないでしょうに』


フィン

 『「恥ずかしながら、道に迷ってしまったのです」

  旅人はそう答えますが、主人はなおも怪訝(けげん)そうな顔つきをしています。』


ルカ

 『ほらほら、あなた。いつまでもお客様を外に立たせているものではありませんわ。戸を開け放しているものだから、玄関もびしょ()れよ。

 さあさ、まずは入っていただきましょう』


フィン

 『奥さんがうながしましたので、主人はしぶしぶ旅人を部屋の中にいれました。』


ルカ

 『寒かったでしょう。どうぞ暖炉(だんろ)の火にあたってくださいな。それから、びしょびしょのマントもどうぞお()ぎになって、一緒に(かわ)かすといいわ』


フィン

 『いえ、マントを脱ぐことはできないのです』


ルカ

 『人の家に入ってきておいて、マントを脱げないとはどういうことだ』


フィン

 『ともかく、顔を見られるわけにはいかないのです。ですから、お許しください。部屋の(すみ)っこ、どこか(ゆか)だけ貸してもらえれば、他にご迷惑(めいわく)はかけませんから』


ルカ

 『顔を見せられないだと? まさか、町場で強盗(ごうとう)でもして、逃げてきたのではあるまいな。そんな(あや)しくて(あぶ)ない(やつ)()めるわけにはいかないぞ』


フィン

 『「まさかまさか。そんなわけではありません。ともかく、(わけ)は言えませんが顔を見られたくないのです。

  とはいえ怪しさを否定(ひてい)できないことは自覚しております。ですから、一夜の宿へのお礼ははずみます。顔を見ないというお約束だけ守っていただきたい」

  旅人は、そう言うと金貨(きんか)の入った(おも)くて大きな(ふくろ)を取り出しました』


ルカ

 『いやいや、そんなつもりで言ったんじゃないんだ。しかしまあ、(うたが)って悪かったよ。  こんな嵐の夜に追い出すようなことをするわけがないじゃないか。もちろん、約束も守るよ』


フィン

 『夫婦は、旅人に(あたた)かい夕飯を()()い、(やわ)らかい寝床(ねどこ)も用意しました。旅人は夕飯を食べる時もフードを目深にかぶったまま(うつむ)いていましたし、寝る時も(かべ)に向かって小さく丸まるように横になり、毛布を頭までかぶりました』


ルカ

 『「何がそんなに顔を見られたくないのだろう。本当にお(たず)ね者だったりしたら事だぞ」

 「いいえ、あなた。きっと、とっても(みにく)い顔をしているんでしょうよ。大きな(きず)があったり、ひょっとして怪物(かいぶつ)みたいな顔をしているのかもしれないわ」

 「今はぐっすり寝ているのだから、ちょっと(のぞ)いて見るくらい、ばれやしなんじゃないか」

 「そんなそんな、だめですよ。あんな大金(たいきん)をもらって、約束したんですから」』


フィン

 『次の日の朝、旅人が目覚めると、親切な夫婦は旅人の寝床のすぐ近くに(たお)れていました。

 「ああ、あんなに言ったのに。約束もしてくれたのに。誘惑(ゆうわく)にあらがえず、私の顔を見てしまったのですね」


 旅人は目を覚ますことのない夫婦に、一夜の宿への感謝を告げると、小さな家を後にしました』



ルカ

 「子どもたちを怖がらせるような、こんなおとぎ話があることは知っているけど、私には関係ない。だって私はそのどうしても見てみたいという誘惑に(さそ)われようがないんだから」


フィン

 「そんなおとぎ話があることは知っているけど、こんな嵐の夜には、暖かい(あか)りの()れる扉をノックする。だって、僕でも嵐の夜には屋根が欲しいもの」




<雨風の中、戸を叩く音>


ルカ

 「こんな嵐の夜に、誰か(たず)ねてきたのだろうか。それとも、風に飛んできた木の実や小石が当たったのだろうか」


<さらに、戸を叩く音>


フィン

 「部屋が暗いけれど、もう寝てるのかな。それとも()()かな? 空き家だったらちょっと失礼して……」


<扉が開く>


ルカ

 「こんばんは? どなたか、いらっしゃるんですか?」


フィン

 「あ! え……っと。 すみません。今夜泊まれるところを探していまして」


ルカ

 「こんな日にお客様とは。それに、ずいぶん若そうなお声ですけど、お一人ですか?」


フィン

 「ええ。僕、一人です」


ルカ

 「……ともかく、雨風(あめかぜ)も吹き込みますから、お入りください」


フィン

 「ありがとうございます」


ルカ

 「とはいえ、私では何もお役には立てません。この(とお)り部屋も()らかり放題(ほうだい)。おもてなしも難しい」


フィン

 「寝ていたでしょうに起こしてしまってごめんなさい。散らかってても(かま)いませんし、おもてなしもいりません。 (あか)りだけ、つけてもらってもいいですか?」


ルカ

 「ああ、失礼。あなたの近くにランプがあります。どうぞ、使ってください」


フィン

 「じゃあ、お借りします」


<フィン、灯りをつける>


ルカ

 「ふふ。想像以上に散らかってるでしょう?」


フィン

 「はい……あー、いえ、別に」


ルカ

 「こんな訳です。近くに村があります。そちらに向かわれて、まともな大人を(たよ)ってはどうでしょうか」


フィン

 「いえ……村はちょっと……」


ルカ

 「事情がおありですか?」


フィン

 「事情というか……。もう村には立ち寄ってて……」


ルカ

 「つまり、すでに(ことわ)られた後、と」


フィン

 「えっと……」


ルカ

 「確かに、嵐の夜のノックの音を、不吉(ふきつ)(きざ)しと思う者は多いですからね」


フィン

 「お願いします。ベッドも食事もなくていいです。雨風が防げる屋根だけ貸してください! もちろん、お礼はします。お(かね)ならたくさんあります」


ルカ

 「そのかわり、自分の顔は(けっ)して見てくれるなって?」


フィン

 「あ……えっと……それは、なんでそう思ったんですか」


ルカ

 「冗談(じょうだん)ですよ。まるでお伽話(とぎばなし)の夜のようだなって、可笑(おか)しがっただけです」


フィン

 「実は、顔を見て欲しくないのは、確かにその通りで」


ルカ

 「それはまたどうして?」


フィン

 「僕は、()まわしい怪物だから」


ルカ

 「それじゃあ、本当にお伽話みたいじゃないか。なるほど、君が村で、一夜(いちや)宿(やど)にありつけないのも、うなづけますね。もうちょっと、うまくやらなきゃ」


フィン

 「(うそ)は苦手で」


ルカ

 「わかりましたよ。では、どうぞ。こんなところでよければ。

  お名前くらいは教えてもらえますか?」


フィン

 「フィンといいます」


ルカ

 「わたしはルカです。さ、びしょ()れのマントは玄関に()けて。ベッドはあいにくひとつしかないから……」


フィン

 「あの、マントは、脱げないです。なので、このままマントにくるまって、床で寝ます」


ルカ

 「風邪(かぜ)をひいてしまいますよ?」


フィン

 「大丈夫。たぶん」


ルカ

 「顔を見てくれるなと言うなら、心配せずとも大丈夫ですよ」


フィン

 「みんなそう言うんですけど、その約束が守られることって、ほとんどないんです」


ルカ

 「どうしてもご心配なら、私は先に寝ましょう。寝ている間に毛布でもなんでも好きに使ってもらって(かま)いませんから」


フィン

 「ありがとうございます」



<翌朝>


フィン

 「あれ? なんで僕、ベッドで寝てるんだろう?」



<フィン、床に横たわるルカを見つける>



フィン

 「まさか! ……ああ! やっぱり!」



フィン

 「ルカさん! ルカさん! ねぇ、目を覚まして!」


<フィン、ルカを揺すり起こそうとする>


フィン

 「──この人も、だめだった。僕の……僕のせいで!」


ルカ

 「ん……んん……?」


フィン

 「え⁉︎」


ルカ

 「おはようございます……。ふわぁ……<あくび>

  早いんですね」


フィン

 「なんで床で寝てるんですか! びっくりしたじゃないですか!

  僕、あなたが死……いや、えっと、僕が床で寝てたはずなのに!」


ルカ

 「だって。お客様を濡れたマントに(くる)ませたまま、床に(ころ)がしておけるわけないでしょう? でも、君は納得(なっとく)してくれそうになかったから、失礼ながら(ねむ)ってしまった後でこっそり、ね」


フィン

 「そうだ! マント! 僕の顔……!」


ルカ

 「大丈夫ですよ。見えてませんから」


フィン

 「けど! ──いや、でも……確かに、あなたは見てないはず、だ」


ルカ

 「マントは──。はい、どうぞ。だいたい(かわ)いたと思いますけど」


フィン

 「あ、ありがとうございます」


   <フィンはマントをさっと羽織り、フードを目深に被る>


ルカ

 「起きてしまったなら、朝食にしましょうか。ええと……フライパンはどこにいったか……」


フィン

 「あの、泊めてもらったお礼に、片付けを手伝いましょうか? フライパンの場所もわかんない部屋っていうのは、なんというか……不便(ふべん)でしょう?」


ルカ

 「本当ですか? とても助かります! いつもはね、村から来てくれるお手伝いさんに(たよ)っていたんですけど、ちょっと前からぱったりと来てくれなくなってしまいまして」


フィン

 「お手伝いさんが?」


ルカ

 「ええ、突然、何も言わずにね。他の知り合いも最近は訪ねてきてくれなくて。一体どうなってるんだか」


フィン

 「それは……」


ルカ

 「そういえばフィンさんは、ここに来るより前に村を訪ねてましたよね。何か知りませんか」


フィン

 「あ、フライパン! ありましたよ!」


ルカ

 「……ああ、ありがとう! 探してもらったついでに朝食づくりもお願いしていいですか? 料理も得意ではなくて」


フィン

 「もちろんです。えーっと食材は……。あ、このへんにありますね。

  ──あ〜、結構ダメになっちゃってるものもあるな……」


ルカ

 「ダメになった食材などは()てておいてもらえると助かります」


フィン

 「わかりました。じゃ、朝食ができるまで、ルカさんは僕のことが見えないように、座っててください」



<間>



ルカ

 「わぁ。美味(おい)しそうな(にお)いがしてる。いただきます。……(あっつ)!」


フィン

 「手づかみじゃ、そりゃあ、あっついですよ! フォーク使ってください」


ルカ

 「フォークはどこかな?」


フィン

 「お皿のすぐそばに用意してありますって」


ルカ

 「……あ、本当だ」


フィン

 「──ずっと気になっていたんですけど」


ルカ

 「なんですか?」


フィン

 「見えてないんですか? ひょっとして、まったく」


ルカ

 「ええ。伝えたつもりでしたけど……。フィンさんの心配に対して『大丈夫』とも言ったでしょう?」


フィン

 「そっか、そうだったんだ!」


ルカ

 「だから、フィンさんがどうしても気に入ってらっしゃらないそのお顔、窮屈(きゅうくつ)(かく)そう隠そうとしなくてもいいんですよ。どうせ、見えていないんですから」


フィン

 「夜、空き家のように部屋が暗かったことも、部屋がどうしても散らかってしまうことも……そっか……納得(なっとく)がいきました」


ルカ

 「部屋の散らかりについては、不便(ふべん)()であることだけが原因じゃないですけどね。きっと見えていても、たいがい変わらないです」


フィン

 「だったら、僕、しばらくここにいてもいいですか? 身の回りのお手伝いをさせてください!」


ルカ

 「それは(うれ)しい(もう)()ですけれど、フィンさんにとってここは、いずこへかの(みち)すがらでしょう?」


フィン

 「根無草(ねなしぐさ)なだけなんです。いつまでたっても道すがらです」


ルカ

「そう……ですか。では、フィンさんの気がすむまでどうぞ、いてもらっても構いませんよ。ここにはどうせ私一人しかいませんし、私も、手助けをしてくれる方にいてもらえると、とても助かります」



<間>



フィン

 「もう真っ暗ですけど、こんな時間におでかけですか?」


ルカ

 「ええ。(おか)の方に」


フィン

 「丘? 村や町ではなくて?」


ルカ

 「そちらも、近々(ちかぢか)買い物にでも行かなければいけないですけど。これは習慣(しゅうかん)みたいなものなんです」


フィン

 「ついていったほうがいいですか?」


ルカ

 「()れた道ですから大丈夫ですが、良かったらどうぞ、一緒に行きましょう」



<間>



フィン

 「丘とは言っても、それなりの坂道なんですね。暗くて怖いし……」


ルカ

 「もうすぐ見える景色(けしき)は、とても綺麗(きれい)なものだそうですよ。『星降(ほしふ)砂漠(さばく)』と、呼ばれています」


フィン

 「星降る砂漠……? 丘を登っているのに、砂漠?」


ルカ

 「坂がなだらかになってきたので、そろそろ顔をあげて、夜空を見てみて下さい」


フィン

 「夜空……わぁ! 本当に、星が降ってる!」


ルカ

 「どんな景色か、教えてもらえますか?」


フィン

 「手が届きそうなほどに空一面がきらきらとしていて、それから、こぼれ落ちるようにたくさんの星が流れてます。

 足元は──砂漠と呼ばれているのも(うなづ)けます。()みしめると真っ白な砂の地面に足が持って行かれそうです。ここまでは森だったというのに、突然砂漠が現れるなんて不思議だなぁ。

 そこかしこには星のかけらがきらめいていて、今も時にころころと、かけらが空から落ちてきていますよ」


ルカ

 「ああ、かつて聞いた通りです。だけど全然違う。同じ場所に立って、今まさに見ているものを感動とともに伝えてもらうと、鮮明(せんめい)経験(けいけん)になりますね。数えきれないほど来ているのに、まるで別の場所にいるかのようです」


フィン

「こんなに綺麗(きれい)なところ、夜空や景色を見にきたのでないなら、足しげく(かよ)うのはなぜですか?」


ルカ

 「これです。砂の上に落ちている星のカケラを集めているんです。

 この砂地は、落ちてきた星が(くず)れたものが長い月日でつもってできています。その過程で星の一部が綺麗に輝くカケラとして残ったり、カケラの状態で空から降ってくるそうです」


フィン

 「確かに、宝石みたいで、ほんのりと光を放っていて、とっても素敵だけど……」


ルカ

 「見ることもできないのに、でしょ?

  願いのために集めてるんです、この星のカケラを」


フィン

 「ひょっとして、これは願い星のカケラ?


 『星のカケラを ジャム(びん)いっぱい集めたら ねがいごとをしてみよう。

  星まつりより 流れ星より 何より確かに カケラは願いを(かな)えよう。

  けれど願いはひとつだけ。 ただひとつ、あなたの命の限りに ひとつだけ』」

 

ルカ

 「それです。フィンさんにも、願いはありますか?」


フィン

 「──ありますよ。どうしても叶えたい願いが。でも、叶うことはないと思う」


ルカ

 「星の力でも?」


フィン

 「(くわ)しく話すことはできないんだけど……僕は、()むべき怪物なんです。子々孫々(ししそんそん)(のろ)われている。

  だから、自分のために願ったところで、呪いの力には勝てないから」


ルカ

 「なるほど。顔を見られるのをとても嫌がるのは、それが関係してるのかな?    あ、答えなくていいですよ。誰かに呪いについて話すことも、おそらくは禁忌(きんき)のひとつなんでしょう?」


フィン

 「僕、ルカさんが願いを叶えられるように、一緒にカケラを集めます。

  ルカさんの目になって、この(あた)りにたくさん落ちてますよ、って、教えます」


ルカ

 「それは、とても助かりますね。話し相手になってもらえるだけでも、嬉しいです」


フィン

 「今までは、小石と星のカケラをどうやって区別してたんですか?」


ルカ

 「手当(てあ)たり次第(しだい)(ひろ)ってみるしかありません。  ごくごくほんの少しだけ暖かい温度だったり、手触(てざわ)りだったり。  本当のところ、ちゃんとカケラを拾えているかもわからないんですけど。なので、時間がかかってしまって」


フィン

 「そういえば、一番はじめは? 星降る砂漠に一人でたどり着いて、カケラを拾ってって、難しいですよね?」


ルカ

 「初めてここを(おとず)れた時は、もう一人、いたんです。その人に助けられて、一時(いっとき)は今の家にも一緒にいました。

  その人は友人というわけでもなくて、私は星降る砂漠で役に立つかわりに、ここに連れてきてもらったんです。特に(じょう)があるわけでもなく、自分のカケラを集め終えて去っていきましたよ。だいぶ昔の話ですけれど」


フィン

 「役に立つって……?」


ルカ

 「私は、砂の上に落ちた星のカケラを、一時的に明るく輝かせる方法を知っているんです。

  砂の上から、砂の中から、カケラのひと(つぶ)を探し当てるのは途方(とほう)もないことです。実際、(あきら)める人も多い。

  でも、落ちている場所がある程度はっきりすれば、探しやすいでしょう?

  自分自身にはまったく役立たないんですけどね」


フィン

 「その人はちょっとひどいな。ルカさんを利用するだけして、置いてけぼりなんて!」


ルカ

 「その分、ここまでの遠い道のりで大変お世話になりましたから。私一人では、到底(とうてい)たどりつけなかった」


フィン

「ルカさんの願い、叶うといいですね! 何をお願いするつもりなんですか?」


ルカ

「私の願いは、この目が見えることです。

 見えたことがないのですから、視覚(しかく)()けているのが私の世界。だから別に、見えないことが不幸だとか(みじ)めだとか、そんなことを思っているわけではありません。

 けれど、音に聞く風景を、何気(なにげ)ない単語ののひとつひとつを、()れた形の色彩(しきさい)を、まるで知らないというのも、もったいないと感じているんです」


フィン

 「目が、見えること……」



<間>

<後日、家の中>



フィン

 「ルカ、ただいま! 食べるものとか、身の回りのものとか、色々買ってきた!」


ルカ

 「ありがとう。本当に助かるよ。

  ところで、村の様子はどうでした? フィンに、なにか危険(きけん)はなかった?」


フィン

 「危険? 僕は一番近くの村じゃなくて、東のほうの町に行ってたけど……」


ルカ

 「そうでしたか。それで良かったかもしれません。怖くて悲しい話を聞いたので……。本当によかった。無事に帰ってきて」


フィン

 「怖い話? そんなのどこから?」


ルカ

 「ああ、フィンが留守にしている間に、久しぶりに人に会ってね。教えてくれたんだよ」


フィン

 「どんな、話?」


ルカ

 「ある(ばん)突然(とつぜん)に、村で何人もの死者が出たそうなんです。それが、病気というわけでもなく、傷があるわけでもなく。宿の夫婦と()()みの奉公人(ほうこうにん)、それからその宿の食堂にいた何人か。

  食堂で出すものに(どく)でも仕込(しこ)まれたか、なんて話にもなってるみたいだけど、(うら)みならばたくさんの人を()()むというのは考えにくいし、強盗の仕業(しわざ)にしては金目(かねめ)のものがまったくの手付かず」


フィン

 「──結局、だれの仕業(しわざ)か、わかったの?」


ルカ

 「恐怖からか情報が錯綜(さくそう)しているらしくてね。

 最近、村の近辺(きんぺん)野盗(やとう)一味(いちみ)がうろついていただとか、世にも美しいまるで神の使いか妖精(ようせい)かを見かけただとか、大きくて禍々(まがまが)しい怪物の影に追われただとか、村はずれで寝込(ねこ)んでいるお(じい)さんの(みょう)な病気の話だとか……。そういった、いつもだったらホラ()じりのちょっとした世間話(せけんばなし)ですむ(うわさ)が、全てその悲惨(ひさん)な出来事に(むす)びついてしまうそうで。

ともかく不気味(ぶきみ)だということで、村の人たちは(おび)()ごしているのだそうです」


フィン

 「それは……こ、わい ね」


ルカ

 「以前まで家事をお願いしていた女性も……。そりゃあ見ないはずで、その(ばん)犠牲(ぎせい)になった一人だったそうだよ」


フィン

 「ごめん……なさい」 <聞こえるかどうか、消えそうな声で>


ルカ

 「え?」


フィン

 「えっと、いや、すごく、悲しい出来事、だね」


ルカ

 「人の手によるものなのか、あるいは病気のたぐいなのか。何にせよ、村に近づけば危険が(およ)ぶかもしれませんから、外出の時には気をつけてね」


フィン

 「うん、僕は大丈夫。 ──気をつけるよ」



<間>

<さらに後日、家の中>


ルカ

 「ごちそうさまでした。フィンはかなり料理が上達したね」


フィン

 「ふふふ。調理の本も買ったから、作れる種類も増えたよ!」


ルカ

 「とても、(たの)もしいですね」


フィン

 「星のカケラも、だいぶ集まってきたね。今夜も砂漠に(ひろ)いに行くの?」


ルカ

 「そうですね。天気も良さそうですし」


フィン

 「もう一息(ひといき)でルカの願いはきっと叶って、そうしたら、今まで見たかったもの、なんでも見れるよ」


ルカ

 「フィンは、なにかお願いごとしようと思ってる?」


フィン

 「たったひとつの願いなんて、思いつかないよ」


ルカ

 「欲がないんですね」


フィン

 「今が、すごく幸せなんだ。これからもずっとルカと一緒にいれたら、それだけで……」


ルカ

 「私も、これからもフィンと一緒にいれたらと思ってるよ。

  フィンが見ている景色を、世界を、一緒に見れたらどんなに良いだろう」


フィン

 「……あ、それよりね、僕ずっと気になっていたことがあって!

  この、星のカケラを入れている容器(ようき)はジャム(びん)というより、ピクルスでも()けられるほどの大きさだけど、それにしたって、ルカは何年も集めてるんでしょ? 僕、不思議で……」


ルカ

 「不思議?」


フィン

 「カケラを見ることができないから、集めるのに時間がかかるのはわかるんだけど、もうとっくに集まっててもいいような気もするんだ」


ルカ

 「ああ、それは。 集めては減り、集めては減りを()(かえ)してるからね」


フィン

 「どうして減るの?」


ルカ

 「星のカケラを求めて星降る砂漠を訪れる人は、(めず)しくない。途方(とほう)もない作業を自分一人でこなす人もいるけれど、星のカケラの話と一緒に私の(うわさ)を聞きつけて(たず)ねて来る人もいるんだ」


フィン

 「星のカケラを光らせる力のこと?」


ルカ

 「そう。同行(どうこう)を求められたら、私は、()しみなくその力を使うよ。それは自分のためにもなることだから。ただ、多少の助けにはなっても途方もない作業をすることは変わらない。

  そうすると、()()をしたくなる。

  私の目が見えないことをいいことに、こっそりと、私が集めたカケラを()がものにしてしまうんだよ」


フィン

 「そんなことをする人がいるの? 泥棒(どろぼう)じゃないか」


ルカ

 「それがね、私を訪ねたほとんどの人は()()をするんだよ。

  今すぐにでも叶えたい、ただひとつの強い願いがあって、でも願いを叶えるにはこのままでは時間がかかりすぎる。

  目の前には自分の分とあわせれば十分(じゅうぶん)であろう量のカケラがある。そして、この(ぬす)みは大変に容易(たやす)い。誘惑(ゆうわく)に、負けてしまうんだ」


フィン

 「盗まれるかもしれないことがわかっていて、どうしてそれでもルカは力を貸してあげようと思うの? (そん)するばっかりじゃない」


ルカ

 「──損はしないから。私の願いはそのうち叶うよ」


フィン

 「ルカ、優しすぎ」


ルカ

 「私が優しくあることが、人にとって優しい事柄(ことがら)だとは(かぎ)らないよ」


フィン

 「うーん……よくわからないけど……」


ルカ

 「フィンには……カケラの(ちから)を使って願いを叶えて欲しくないな」


フィン

 「どうして? 僕がどんな願いをすると思っているの?」


ルカ

 「どんな願いでも、だよ」


フィン

 「僕が、僕の願いを言ったら、ルカが困るから?」


ルカ

 「そうじゃない。カケラの力を使って願いを叶えても、幸せになれるわけじゃないからだよ。“星のカケラ”なんて綺麗(きれい)な言葉でごまかしているけど、これは」


フィン

 「ずっと一緒にカケラを集めてきたのに、どうして今さら?」


ルカ

 「私の口からは言えない。フィンが自身の呪いの話をすることが、禁忌(きんき)であることと同じでね」


フィン

 「……それを言われたら、何も言い返せないじゃないか」



フィン(モノローグ)

 「星のカケラがジャム瓶いっぱいになるまで、もう少し。

  実を言うと、僕もルカの目が見えないのをいいことに、()()をしている。本当ならもっと早く、カケラは集まっていた。

  わざと、カケラが見つかりにくい場所にルカを連れて行った。星のカケラを(ひろ)っているふりをして僕のジャム瓶の中には、落ちた星がカケラになり(そこ)ねてできた、小石を()めていた。

  だって、ルカの目が見えるようになってしまったら、僕は出て行かないといけない。一緒にいればいるほど、いつかルカを殺してしまうから。少しでも、時間(かせ)ぎをしたかった。


  ルカと一緒にいたい。けれど、ルカは、僕の願いを聞いておきながら、叶えて欲しくない、なんて言う。 ルカの願いが叶ってしまったら、僕はまた一人になってしまう。

  だから僕は……」



<間>

<後日、星の砂漠で> 



フィン

 「──はい。これ、ルカのジャム瓶」

  星のカケラ、集まったね」


ルカ

 「うん、ありがとう」


フィン

 「けど、よく考えたらジャム瓶にいっぱいって、ものすごく大雑把(おおざっぱ)な数え方だよね」


ルカ

 「実際(じっさい)のところ、カケラの数は大雑把でいいんです。その瓶が大きくても小さくても、いっぱいになればそれでいい。大きい瓶にすれば、より大きな、もしくは確実に、願いが叶うかもしれないと、そんな(よく)の大きさでしかないんです」


フィン

 「じゃあ、ルカのはずいぶん大きな欲だね」


ルカ

 「そうなってしまうね」


フィン

 「願いごとが叶わないこともあるの?」


ルカ

 「叶わないということはほとんどないみたいですよ。その後、望んだ通りの人生になるかどうかは、別として」


フィン

 「へぇ……」


ルカ

 「では」


フィン

 「……うん」


ルカ

 「願い星のカケラよ。我が願いを叶えたまえ。

  どうか……フィンにかけられた呪いが解けて、美しい姿へとなりますように」


フィン

 「え……?」


ルカ

 「──さあ、どうだろう?」


フィン

 「どうって……。自分じゃ、よくわかんない……」


ルカ

 「それもそうだ。じゃあ、帰ろうか。うちにも(かがみ)があったはずだから」


フィン

 「どうして? どうして? 自分のために願いを使わなかったの?」


ルカ

 「私の願いはいいんです。どのみち、あなたの呪いと同じ。自らカケラに願ったところで、私の呪われた目が見えるようにはならないんですよ。だから、フィンのために願いを使いたかった。

  美しい姿になれば、なにも私などにすがりつかずとも、フィンは自由に生きていけるでしょう?   ここにいることを選んでくれるのならば、それも自由です」


フィン

 「僕……は……」


ルカ

 「あんまり、喜んでくれないんだね?」


フィン

 「申し訳ない、気がしちゃって」



<間>

<家の中>



ルカ

 「さ、家に着いた。ねえ、鏡を見てみてよ」


フィン

 「うん、すごく、素敵だよ。気に入った」


ルカ

 「顔に触れてみてもいい?」


フィン

 「──うん、いいよ」


<ルカ、形を確かめるように、フィンの顔を撫でる>


ルカ

 「私には美しいか醜いかなんてわからないけれど、少なくとも人間の顔はしているみたいですね」


フィン

 「大丈夫。ちゃんと、ルカが願ってくれた通りだよ」


ルカ

 「それなら、よかった」


フィン

 「なんだか、びっくりしすぎて疲れちゃった。夜遅いし、ルカももう、早く休んだほうがいいよ」


ルカ

 「わかった。じゃあ、おやすみなさい」



<間>

<その日の夜中>



フィン(モノローグ)

 「違うんだ、ルカ。ごめんなさい、ごめんなさい。

  ルカの大事な願いを、思いを、ただ無駄(むだ)にさせてしまった。

  きっと、(ばち)があたったんだ。ずるをしたから。

  ルカが見えていないのをいいことに、小石の詰まった瓶を渡してしまったから。ルカの願いが叶わなければ、ずっと一緒にいれると思ったから」


フィン(モノローグ)

 「僕は……忌むべき怪物だけれど、もともと見た目が(みにく)いわけじゃない。むしろその逆。

  僕の外見の美しさに魅了(みりょう)された人間を、自分の意思とは関係なく呪い殺してしまうような、そんな怪物なんだ。

  だから、僕は何にも変わってない。

  でもルカは、呪いが解けて醜い怪物から美しい人間に変わったのだと、願いは叶ったのだと、信じてる」


フィン(モロノーグ)

 「僕のために、ただ一度だけの願いを使ってくれた人に、本当のことなんて言えないよ。

  心まで忌まわしき怪物のようだと、ルカに知られたくない」


フィン(モノローグ)

 「返さなきゃ。ルカの願いを。

  僕はルカの呪いを解くんだ。ジャム瓶いっぱいの星のカケラは、僕が持ってるんだから」



フィン

 「願い星のカケラよ。我が願いを叶えたまえ。

  どうか……ルカにかけられた呪いが解けて、目が見えるようになりますように」



<間>

<翌朝>



ルカ

 「痛い。目が刺すように、痛い……?」


ルカ(モノローグ)

 「目が、見えている……? 私の手。身体。ベッド。壁。これが、私の家の中?

  でも、なぜ……?」


ルカ(モノローグ)

 「まさか……」


ルカ(モノローグ)

 「フィン。ごめんなさい。ごめんなさい。

  これは、この目は、君が星のカケラに願ってくれたんでしょう?

  私が勘違(かんちが)いさせるような言い方をしたから……。フィンの大事な願いをただ、無駄にさせてしまった。

  ああ、願いごとなどしないでくれと、言ったのに。

  願い星は、望みを叶えてくれる、素敵(すてき)綺麗(きれい)な石というだけのものではないのに!」


ルカ

 「フィン? フィンは? もう、起きてる?」


<間>


ルカ

 「どこにも、いない。

  ひょっとして、テーブルの上のこれは、置き手紙、なのかな……。

  そうだとすると、ひょっとしてフィンはもう、出て行ってしまったのか……」 


ルカ(モノローグ)

 「私は……確かに目が見えるようになりたかった。けれど、私の盲目(もうもく)は呪いによるものなんだ。星のカケラにたくさんの人たちの願いを(ささ)げた先で、私の呪いはいずれ、問題なく解けたはずだった。

  だから、カケラなどに願ってやる必要は、なかったんだよ」


ルカ(モノローグ)

 「でも、そんなこと、フィンは知らなくていい。素直にありがとうを伝えよう」


ルカ(モノローグ)

 「(のぼ)る朝日や(しず)む夕日を、星降る夜空を、青々とした草原や、雪をかぶった(みね)を、フィンと一緒に見たかったな。

  だから、何も言わずに行ってしまったのは(さび)しいけれど、きっと、(だま)って出て行った理由や別れの言葉が、この紙には書いてあるんだろう。

  ふふふ。私が文字を読めないことは、忘れていたみたいだけど」

 

ルカ

 「せめてどうか。フィンの新しい人生が、幸せでありますように」


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