孤独の狂気 — 百鬼夜行 —
銀は走っていた。
北浜の緩やかなコーナー、橋の継ぎ目をかすめて抜けるたび、背後に残る影があった。
追跡者。
頑丈な鉄の鎧に身を隠したチェイサーが、毎夜のように牙を剥いてくる。
ある夜も、銀色の狼の鼻先に、あの直線的な排気音が引っかかった。
アクセルを絞ると、夜風が耳を裂き、GPzは獣のように唸った。
背後のチェイサーも躊躇わない。
ヘッドライトがひときわ濃い光を環状に落とす。
——ちぎってみろ。
追跡者が吠えていた。
だが、その声は銀にとっては祝福に近かった。
すべてのコーナーで牙を研ぎ、すべての直線で呼吸を合わせる。
重い鉄が、狼の尻尾に噛みつこうとするたびに、銀の右手がGPzを遠くへ放つ。
排気が夜に溶ける。
スロットルが開くたび、旧い鉄は牙を剥き、
銀の背に生き物のように吸い付いた。
背後で一瞬、チェイサーの車体が滑った。
銀は息を吐く。
隙を食う。
北の分岐で流れを変えると、重量が足を引きずるチェイサーは追いつけない。
——夜に置き去りだ。
ミラーにはもう誰も映らない。
だが、銀は知っていた。
あいつはまた来る。
夜のどこかで息を潜め、牙を研いでいる。
それがたまらなかった。
別の夜。
また別の夜。
何度でも追跡者は現れた。
捕まえたいのか、喰いたいのか、それともただ背中を見たいだけか。
銀にはどうでもよかった。
ただ、追われるたびに、狼の脚は鋭くなる。
追跡者もまた、夜を裂くたびに速度を増していった。
そうして——環状は変わった。
ネットの底から這い出した影、街の奥で牙を研いだ野良ども、
潰えたはずの走り屋が、魑魅魍魎のように夜を埋め尽くした。
番犬が守った秩序は、銀の狂気でかき回された。
速さを求めるだけの亡霊たちが、環の上に溢れた。
銀は笑った。
群れは持たない。
孤独のはずが、孤独じゃなかった。
同じ血の匂いを嗅ぎ分け、同じ牙を剥く獣たちが、
環状の輪を血と鉄の音で満たしていく。
——狂走の時代だ。
潮の匂いと、古いオイルの匂いが、銀の肺を満たした。
孤独の狂気が、環状に牙を刻んでいた。




