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速さは、海を渡る — 抜かれた刀身 —
環状の夜は、侍にとって砥石だった。
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町工場で鍛え直した刃。
新しい足回りは、曲がりくねった車列を切り裂くためにあった。
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若い光の群れがいる。
環状の小僧ども。
軽くて速い、牙の生えかけた獣たち。
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侍は構わず踏み込んだ。
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夜の奥で、タコメーターが跳ねた。
クラッチを叩き、シフトが刺さる。
鋭く曲がる。
タイヤが泣く。
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一台、二台。
小僧のテールを切り伏せるたび、
CR-Xのボンネットが刀身のように月明かりを弾いた。
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古豪の言葉が脳裏をかすめる。
「俺を抜け。そしたら、あの化物に届く。」
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追い越すたび、侍の瞳は冷たく光った。
斬る。
まだ斬り足りない。
速さの向こうに届くまで。
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誰かがスマホで撮っていた。
路肩の影で息を飲んだ者が言葉を漏らした。
「青い目の侍がいる——」
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噂が環状を這った。
亡霊の牙に触れた者たちが、
次の獣の名を囁き始める。
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夜はまだ浅い。
侍は一度もギアを緩めなかった。