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Re:CALL3  作者: 明上 廻
9/42

襲撃2

 防衛局の入り口から、管制室に直行する。

 その道中でいつもよりすれ違う人数の多さに違和感を覚えた。

 おそらく今回の警報アラートで変則的対応を迫られているのだろう。

 さらに悪いことは続くものだ。

 まさか到着早々、問題児に会うとは………。

 「げ」

 「あん? 人の顔見るなり嫌悪するのが礼儀か?」

 茶髪、つり目、ヤンキー、馬鹿、言葉より拳。

 おそらく、この項目で検索すると出るであろう人物。

 今、会いたくないリスト断然一位の剣崎郁美けんざき いくみ様のご登場だ。

 「い、いやぁ、たしか、お前さあ。出社は明日のはず…だった気がするんだけど………。なぜにいらっしゃるのかなーと、思いまして、はい」

 「明日、初出勤の予定なのも理由だけど。下見をするものってお前に倣ったから慣れるために施設見学しに来てんだよ。悪いか⁉」

 恥ずかしいのか、顔を赤くして怒気を荒げている。

 ライオンが威嚇して、吠えているようにしか見えない。

 この野獣のようなオーラを身にまとったやべぇやつが前の任務の護衛対象だった人だ。

 というか、律儀に僕が言ったことを実践していたのか。

 元々、親御さんは内政側に就職させるために普通校に通わせていたが、急に方向転換して大学を卒業後、防衛局へ配属となった。進路を思いとどまってほしい親御さん(と僕)は止めようとしたがタコ殴りにされた挙句、一緒に雑木林に埋められた記憶は新しい。

 つまり、やべぇやつである。

 ただ、父親の剣崎総司令官に比べると思いっきりの良さや戦闘能力はバツグンにいい。

 知性は、あまり感じないけれど。

 「んで、お前こそどーしていんだよ。今日、休暇って聞いていたはずなんだが?」

 はい、きました。

 予想していました。

 質問攻めタイム。

 「ちょっと、立て込んでいるから。また後で。じゃ!」

 騒がぬ神に祟りなし。

 時間もないし、悠長に構えてられない。

 廊下は走らないのが鉄則だがそうも言っていられない。

 「あ、こら! 待ちやがれ!」

 「あ、廊下は走ってはいけないんだよ!」

 「目の前で走っているお前に言われたかないんだよ!」

 わかるよ、でも仕方ないんだ。

 それにお前めんどくさいし………。

 「誰がめんどくさいだ! てめぇ許さないからな!」

 あれぇ?

 なんで心の声聞こえているの⁉

 テレパシー⁉

 通信回線も開けてないから聞こえるはずないのにぃ⁉

 お前の魔法系統ってそっち系じゃないよね?

 「おめえとは、何年の付き合いだと思ってやがる⁉ 思考や表情から大体読み取れんだよ!」

 いつの間にかめんどくさい人間がさらにめんどくささを増しててマジ面倒。

 そんなことを考えながら防衛局指令室に入る。

 指令室は、かなりあわただしい様子でアラーム解除もしていない状況だった。

 今日の当直長である石永中将のところに向かう。

 慣れ親しんだ人で良かったと安堵する。

 「お忙しいところ失礼します。状況をお聞きしたいです」

 対面している男は、まるで巌のようなガタイの人であり隆起した筋肉が実直なトレーニングを積み重ねてきたことを物語っている。

 しかし、悲しいかな。

 昔、脚を故障したおかげでうまく歩けなくなったらしい。そのため、戦線に行くことがかなわなくなった、とのことだ。

 「甲斐田か。こっちはてんてこ舞いだ。防衛ライン東ブロックの監視カメラが誤作動したのかノイズのみ。探知は働いているから総数は把握できるものの、対象が何なのか把握できない上に、現場に急行してもらった部隊員たちの通信が途切れる現象が起きていてよくわからん状況だ」

 あきらかにおかしい。

 誤作動が起きることは仕方がない。予期せぬトラブルは多々ある。しかし、それが重なる可能性は低い。ゼロではないにしても明らかな異常事態と捉えるべきだ。

 なら、先ほどの件も今のうちに報告するべきだ。

 「石永指令、お耳に入れたいことがございます。先ほど地上東ブロックの居住区が襲撃されていたことが確認されました」

 「なんだと⁉」

 僕の一言で指令室の人達がいっきに騒めきだした。

 「今、緊急保護のため四乃宮邸で無事な者たちを保護していますが、この状況と照らし合わせると無関係とはいいがたい状況です。おそらく周到に用意された計画のように思われてなりません」

 「………現状わからないが、頭に入れておこう」

 石永指令は司令官の中でも柔軟な対応が取れる人だ。

 とりあえず、一番の主戦力を戻すべきだろう。

 「姉さ………四乃宮大佐との連絡はどうなっています?」

 「混線しているのか、ノイズのみだ」

 ノイズが返ってくるということは、誰かしら通信を行っているということだ。

 つまり、特務隊は交戦中とみるべきだ。

 そしてあの姉一号が真っ先に死ぬはずがない。

 なにより石永さんが今日の担当でよかった。

 不幸中の幸いといえる。剣崎最高司令なら、それどころではない、とか慌ててそうだな。

 「では、石永指令。いま四方の現場にいるのは誰ですか」

 「北を戸高、東をアルフォード、南を北条がそれぞれ指揮しているはずだ」

 目的の人物がいた。

 この中で、唯一と言っていい変わり者がいる。

 北条正樹ほうじょう まさき

 機械オタクであり、某アニメに取りつかれた結果、人型決戦兵器なるものを作り出した。あと機体を真っ赤に染めている。まさか仕事に趣味の領域を持ってくるとは思わなかった。

 北条は僕を特段特別視していなかったことから、他の同僚より付き合いがある。また、北条の才能に関しても特異的なものがあるので交流が続いている。

 少し賭けになるが………。

 「石永指令、使えない通信は防衛局支給の【ゼロシフト】ですか?」

 「ああ、そうだ」

 だとすると、まだ希望がある。

 あとは、北条が渡しておいた機器を機体に取り付けてくれていることを願うばかりだ。

 渡しておいた回線機につなぐ。

 コール音とともに対象者がすぐに出てくれた。

 『パイ先⁉ この忙しいときにどうしましたか?』

 おそらく操縦中なのだろう。機械の駆動音が回線ごしに聞こえる。

 つながったことを、手でジェスチャーして、僕の首元に音声拡散装置を巻き付ける。

 これで僕を介して現場状況を共有することができる。

 電波通話がつながるということは、各エリアに魔法妨害が行われていると断定したほうがいい。周波数式の旧世代の通信機が役に立った。

 『現状を把握したい。お前の報告を僕を介して指令室全員に届けている』

 『え? マジっすか⁉ ありがたいっス! 通信機が使えなくて報告できない状況で………。というか、パイ先、今日休みじゃありませんでした?』

 こいつ、なんでのんきなん?

 『いいから、状況を教えろ!』

 『ハ、ハイっス! 目標、防衛線第一での警告無視。続いて第二で威嚇射撃も効果なし。依然進行中っス!』

 『目標は見えるか?』

 『現在砂嵐がひどくてよくとらえられませんが、人型で規則正しく配置されているように見えるっス!』

 その報告に石永指令が口をはさんだ。

 「人型? だが、こちらのレーダーだと各エリア50は超える数をとらえているぞ? そんな人数どこから湧いて出ているんだ?」

 『知らないっスよ………。それより今は、どう対処するかが先っスよ』

 その通りだ。

 ふざけているが的確な判断能力を持っている。

 やはり有能だ。

 『第三防衛線には来ないでほしいっスね。ラインに入ったら無条件殺傷になるっス。人でないことを祈るのみっスね………』

 いまだに新人である北条は、戦局をわかっていない。

 本来であれば確実にコロニーを守るためなら、現状況ですら無条件発砲できる。

 それをしないのは、人としての一線を保っているからだろう。

 『ほかに気が付いたことはないか?』

 『そうっスね………』

 こいつの洞察力はかなりのものだ。

 戦場を俯瞰して、いつも一歩先のことをやってのける。

 『ここまで北、東、南それぞれ50体くらい確認されているみたいっスけど、なんで西側にはないのか気になるっス』

 「西が海岸沿いだからでは?」

 石永指令の問いには答えず北条は気になることをさらに口ずさんでいく。

 『あと、北、東、南に50体()()()()()()()()()()()()のも不自然っス。普通であれば、何かしら偏りが生まれるはずっス』

 確かに。

 「北条、南エリアの人数は何人いる?」

 『いま、自分も含めて30人弱っス!』

 「10人連れて西エリアに飛んでくれないか? 石永さんには許可をとる」

 『了解っス!』

 回線は開けたまま、いまのやり取りを聞いた石永指令は———。

 「甲斐田、あまり独断で命令を出すな。それにお前は本来、休暇の身なんだぞ? 労基にとがめられる身になれ」

 僕が指揮を勝手に取るのは問題ないんだ………。

 訂正命令が出ていないのがその証拠だ。

 それよりも労基の方が怖いとか、なんか石永さんは抜けている。

 「すみません。しかし、今は迅速な対応が求められます。故に了承行為を省いた次第です。それに石永指令であれば同じ判断をすると思いましたので」

 「………、お前は年相応の対応を覚えろ」

 そういいながら、手でゴーサインを作ってくれた。

 許可は取れた。

 が、すぐに悲鳴じみた声が聞こえた。

 『パイ先パイ先! やばいっス! どうなっているんすか!?』

 「どうした!?」

 『どうしたもないっス! 西エリアに入った途端、前方からレーダーに反応があるっス! しかも、ものすごい数っス!』

 「っ!」

 急いで、戦闘員のサポートをしているオペレータたちに石永指令が言い放す。

 「オペレータ! 西地区の映像を出せ! 西は通信障害起きてないだろ⁉」

 「は、はい!」

 が、急いでモニターに出してもらったが特に何も映し出されていなかった。

 どういうことだ?

 「北条、レーダーは、確かなのか? こっちの映像には何も映ってないぞ?」

 『パイ先、地表じゃないっス。この反応、上空っス!』

 「っ………最悪だな。」

 このコロニー3では、映像監視やレーダー感知システムを採用しているが、それは地表から500mまでの範囲までだ。前世代の甲斐田悠一氏からは再三にわたり警告されてきたことだが、500m以上直線距離10km範囲飛翔は困難とされてきたため、予算の都合上見送られ、昨今においては予算削減で棚上げにされてきた。

 「北条、上空に向けて一斉射撃! うち漏らしはこっちでカバーする!」

 『了解っス!』

 その声と同時に、駆動音に混じって発砲音が混在するようになった。

 その間にオペレータにモニター画面を動かしてもらう。

 「オペレータ、画面を上空に!」

 「了解!」

 画面を上に向けてもらった。

 解像度は低いものの動きは見えた。雲の中を大量の何かが移動していた。

 以前、理奈姉さんから渡された旧古代のビデオでみたイワシという魚の群れを連想させるものだった。

 またこの映像から北、東、南エリアの敵勢力は囮であることを示していた。

 つまり———。


 「狙いは防衛局中央司令部か⁉」


 石永指令が焦るように言い放ち、それが周りに拡散して混乱がたちどころに起きる。

 これでは抑えようがない。

 「郁美! そこにある非常用ボタンを押せ!」

 「お、おう! まかせろ!」

 即断即決が、剣崎のいいところであり欠点だが、今回はいい方向に動いてくれた。

 この非常用ボタンは、最終的に防衛局中央司令部が追い込まれたときに魔法障壁を張る使用になっている。

 だが機能としては一時的。

 一定以上の衝撃を超過すると破ける。

 だからこそ被ダメを減らす必要がある。

 自分の魔術回路を励起させる。


 「格納!」


 自分が今、扱える魔法を駆使するしかない。

 この中央指令室を守る様に亜空間の入り口を広大に張り、飛翔物を亜空間に隔離する。

 それが今できる最善だ。

 それでも限界は来る。

 例え北条が西地区から迎撃していても。

 防御障壁が展開していても。

 それをこえる火力で押し切られれば。

 上空から押し寄せる飛翔体が直上から一気に押し寄せてきた。

 防衛局司令部の直上から何かが特攻してくる。

 それも空中爆散して。

 「ぐっ!」

 限界まで亜空間の入口を広げるが中央司令部全域を覆うことは不可能だ。

 それに今は戦闘用の軍服でもない。

 通常、着用していれば持続時間や領域の展開範囲が広がる。

 また専属の武器もない。

 今は、ないないの状態なのだ。

 北条たちが限界まで迎撃をしている姿が見えるが数が多すぎる。

 敵勢力は、北条達に一切目もくれずこっちに突っ込んできている。

 連続して亜空間に送っているが、3割ほど障壁に漏れていた。

 モニターが直上から降ってくるものをとらえた。

 それは人形だった。


 マネキン人形。


 その人形に大型の飛翔ユニットと爆薬を載せて突っ込んできているのだ。

 たとえ障壁があるとは言え、一体だけでも衝撃はすさまじい。

 障壁にぶつかって爆発するたびに、衝撃で建物全体に響き渡る。

 しかも一体一体の爆弾量はそうでもないのに、コロニーの防御機構が揺らいでいる。

 正確に言うには、消えかけているのだ。

 ご丁寧に魔法妨害(アンチマジック)つきか………。

 体から力がどんどん抜け落ちていく。

 それと同時に冷や汗が止まらなくなってきた。

 魔法の行使は、限界を超えると命を削る諸刃の剣となる。

 そして、無理に使い続けるとマイナス領域に入り意識を失う。

 仕方がないとはいえ、限界まで使わなければいけない。

 息も絶え絶えになりながら石永指令に指先でサインを送る。

 僕の顔を察してか、石永指令がみんなに指示を出す。

 「各員、ここを破棄する。E4アラート発令! 指令室を下層BF3の予備施設に移行。急げ!」

 やっぱり、石永指令は頼りになる。即応してくれるし、柔軟性が高い。

 全員の退避まで時間を稼ぐ。

 この中防衛局中央司令部から防衛局員が全員退避するまで数十分かかるとされている。

 つまり耐久だ。

 必死で石永指令が『訓練ではない』ことを放送で言っているが、果たして迅速に行動してくれる人がどれほどいるか。




 …………。

 三十分後。

 『パイ先! 上空からくる飛翔体、もうすぐなくなりそうっス! レーダーだとかなり減ってきているっス!』

 それはうれしい知らせだが———。

 「それでも、こっちも限界が近い。こっちの展開時間は残り数秒だ」

 『それ、やばいっス! この数からしてあと3分くらいは続きそうっス!』

 そういっている間に、展開している亜空間がどんどん縮小していく。

 「急いできたとはいえ、戦闘用装備がないとこれが限界か!」

 『パイ先! 今まで補助なしでやってたんっスか!?』

 「何言ってやがる! 今日は休暇だから私服だっつうの!」

 『パイ先、やっぱしすげぇーっス! 通常、戦闘用の服があるのとないのじゃあ魔法行使率が違うっス! だいたい70倍とされているんスよ!? そんでもって………』

 「しゃべっている暇があるならもっと撃ってくれ!」

 後輩からの賛辞を受けながらもさすがに限界を迎えた。

 通常、ここまで亜空間の入り口を大きく展開したこともない。

 そして、三十分以上も展開し続けたこともない。

 ここにきて姉一号のように訓練をしてこなかったことが仇となった。

 体に刻まれている回路が焼けるように熱い。


 突然、プツッという音が聞こえた。


 視界が暗転する。

 限界に達して回路が冷却状態に移行したようだ。

 当然それは、亜空間の入り口が閉じることを意味する。

 入口が閉じた瞬間、怒涛のような衝撃が一気に押し寄せた。

 力が入らず地面に転がっていることしかできない自分がもどかしい。

 視界の焦点を合わせる間もなく、手の感触だけで周囲を探知する。

 空間魔法は今、冷却中だ。

 なら他に使えそうなものを使うだけだ。

 コツっと指先に何か触れた。

 感触からして、おそらくリングだ。

 他の隊員が持っていたものだろう。

 視界にまだノイズが走る中、設定を防護壁にして一気に3つ起動する。

 すでに魔力としてはマイナス領域であるが、リングは魔力を消費しないバッテリー機能が存在する。

 その間に、少しでも回復に努める。

 焼け石に水かもしれないが、防衛局中央司令部に展開されている障壁の上にさらに障壁を三重に貼る。

 「手ぇ貸すぜ!」

 剣崎も障壁を展開し、層は5層になった。

 「おい、剣崎! 退避命令出ただろうが!」

 「うるせぇ、てめぇも休日中に来て命令無視連発してんじゃないか! 俺ばっかり、わるくいってくんじゃねぇ!」

 そんなやりとりをしている間にすでに5層張った障壁は2枚にまでなっていた。

 「本格的にやべぇ………」

 視界は未だに暗転しているが、こいつも危機的状況を理解したのか焦りが伺えた。

 「だから、言っただろが!」

 こいつはほんとに後先考える前に体が動くタイプだから面倒なんだよ。

 だが、確実に数は減ってきていた。

 あと少し………。

 だが、こっちの限界はすぐに来た。

 張っていた障壁が消え、建物に直接の衝撃が走り指令室の天井が崩れ崩壊した。

 そして、侵入した人形3体が閃光を発したと同時に衝撃が自分に襲い掛かった。




 どのくらい意識を失っていたのだろう。

 明滅しかけた視野が少しずつ輪郭をとらえながら焦点を合わせていく。

 体を動かそうとすると、あちこちから痛みが駆け巡る。

 体を打ったのだろう。

 でも、頭はクリアだ。

 アドレナリンのせいで痛みを感じにくくなっているようだ。

 未だに視野がぼやけるため周囲をみるのに苦労する。

 『パイ先! パイ先! 応答してください、パイ先!』

 北条の声が耳に響く。

 「うるさい。耳に響いて頭が割れそうだ」

 『無事だったんっスね⁉ モニターごしに中央司令部が倒壊して焦ったっス!』

 「無事とは言い難い状況だな。建物は倒壊。モニター破損。状況把握不可能と来た。すでに機能不全だ………。いっ⁉」

 『パイ先!? もしかしてケガしたんっスか⁉』

 脇腹を見ると、壁から生えていた鉄骨が貫通していた。

 「ん? あぁ、脇腹に鉄骨がぶっ刺さっていたわ」

 『重症じゃないっスか⁉』

 「大丈夫だ。問題ない。それよりもこれからはお前の部隊が要になる。各エリア担当に情報伝達を頼む。防衛局中央司令部が陥落。応援部隊が来るまで対空、地上ともに警戒を厳となせ、ってな」

 『言っている場合じゃないっス! パイ先は、パイ先自身の心配をしてくださいっス!』

 「これはお前にしかできない。それに今、石永指令は指示を出せる状態じゃない」

 横目に倒れこんでいる石永指令を見る。

 息をしているのはわかるが、頭を打ったようだ。それに頭部の一部から出血している。このままでは、死んでしまう。

 他の隊員たちを逃がすために自らが、最後まで残った結果だ。

 『え、もしかして………』

 「生きている。でも、頭からの出血がひどい。すぐに治療に連れて行かないとまずい」

 『それは、パイ先もでしょ⁉』

 「大丈夫だ。まだ意識がある。うちの家で生活するにあたって貧弱だと毎日倒れることになるからな。………気合いれるか」

 『何するつもりっスか⁉』

 脇腹に刺さっている鉄骨を引き抜く。

 頭が白と黒に明滅を繰り返す。

 口から噛み締めた吐息が漏れ出る。

 歩いて、石永指令の持ち物をまさぐる。

 煙草ようのライター。

 あとは自分の服を裂いて布をつくる。

 石永指令が持っていたライターのオイルを布に染み込ませる。

 オイル付きの布を傷口にねじりこませてから、ライターの着火コイルを起動させる。

 当然とはいえ、火が布を伝って、傷口を焼いていく。

 声にならない悲鳴が口からもれる。

 痛みと集中力で、噴き出る汗がすでに私服の上着をぐしょぬれにしていた。

 「いま、体に空いていた穴を対処した。これでしばらく出血多量で死ぬことはない」

 『パイ先、平然とし過ぎっス! もっと自分を大切にするっス!』

 「うるさい。いいから各エリア担当への伝達を頼んだぞ」

 『もうしているっス! さっきまでいた9人に割り振って各エリアに向かって飛んで行ってもらったっス! 自分は西エリアを引き続き監視するっス!』

 「わかった。こっちは何とか、けが人を運ぶ。通信終了」

 北条と連絡を終えると次につなぐ。

 「紅葉さん、聞こえますか」

 『感度良好です』

 「最悪の事態です。防衛局中央司令部が落とされました。けが人負傷者多数。すぐに剣崎最高司令に連絡を取って、予備施設の立ち上げをさせてください。くっ———」

 『っ! 負傷したの⁉』

 ん?

 いつもの紅葉さんらしくない。

 四乃宮邸での日常に比べればどうということはないのに、ハハハ。

 「体に穴が開いたくらいです。それよりも急いでください」

 『っ! ………かしこまりました。あのゴミを強制連行します』

 「はは。相変わらず容赦ないなぁ。でも、頼みましたよ」

 『無事に帰還してください。お待ちしております』

 「わかりましたよ、紅葉さん。通信終了」

 それにしてもこのケガはさすがにくるものだ。

 気丈に振る舞ったがすでに動くだけで悲鳴ものだ。

 紅葉さんにはまだ育ててくれた恩を返していない。

 姉さんたちにもまだ返すべき恩も返せていない。

 だから、まだ死ねない。

 でも、状況からしてまだ予断を許さない。

 今のが、第2フェーズだとしたら第3フェーズがいつ来てもおかしくない。

 思うに、敵のねらいは姉一号がここに到着するまでに陥落させたいという短期決戦式のものだろう。

 誰だって、姉一号と正面から戦いたくないだろう。

 すでに30分は稼いだ。

 こっちの異常をおそらく、真衣姉さんも察知したはずだ。

 ………希望的観測かもしれないけれど。

 第2フェーズでここまでの物量作戦できたのなら、次は質で来るはずだ。

 次の第3フェーズが本命の可能性が高い。

 だとしたらすでに倒壊したこの場所にそのままとどまるのは愚の骨頂である。

 退避が遅れた隊員を何としても逃がさなくては。


 だからこそ、絶対に動けるやつがいることは不幸中の幸いだ。


 「剣崎! 返事しろ!」

 「うっせぇ! 今、復元中なんだよ!」

 そういって、剣崎はグネグネに曲がった右脚を自ら切断して瓦礫から這い出てきた。

 瓦礫から抜け出したあたりで、右脚の切断面に腕をめり込ませて思いっきり引っ張った。そうすると、新しい脚が生えてきた。

 郁美の特異体質だ。

 自己再生は、重症の傷だろうが脳を破壊しようが生き返る。

 不死に近い能力保持者だ。

 あくまで()()()()()()()であって()()ではない。

 再生能力を上回る致命的な破砕攻撃や、体すべて消滅させられたら生き返ることはできない。

 幼いころから、郁美はこの特異体質のせいでしょっちゅう狙われることがあった。

 そのためのボディーガードとし僕が抜擢されたわけだが、それからというもの、郁美自身につけまわされる始末となった。

 「うっし! 復活!」

 「そうか。ならそこらへんに転がっている隊員を扉の向こう側………通路にまとめておいてくれ」

 「あん? どうすんだよ?」

 「まとめて医療機関に転送する」

 「なるほど。やっぱりお前の魔法便利だな!」

 この状況わかっているのか?

 ほんとこいつ能天気だな。

 「ん? お前、動くの辛そうだな。かなり消耗しているし、運ぶだけなら俺がやっておくぞ?」

 「今は時間との勝負だ。いつ第3フェーズが来てもおかしくない。早く退避させないと危険なんだよ」

 「なるほどな」

 重傷者の順にコロニー内部の医療センターに転送していく。

 残った隊員はざっと石永指令を含め7名といったところだ。

 ———が、それを悠長に許すほど甘い状況ではなかった。

 『パイ先、パイ先、聞こえますか!』

 「どうした?」

 『西エリアからレーダーに反応があるっス! 一機近づいてくる機影が見えたっス! すごく速いっス!』

 第3フェーズ⁉

 思ったよりもはやい!

 「迎撃は⁉」

 『速すぎるっス! しかも機動力があって弾が全然当たらないっス!』

 単騎での突貫。

 何をするつもりだ⁉

 「剣崎、急げ! もうすぐが来るぞ!」

 「やっている! いま5名移動させた!」

 『パイ先、あと10秒でそっちにつきます!』

 速すぎる‼

 50キロ以上の距離をたった30秒くらいで飛行するなんて。

 どんな事をすればそんなに早く飛べるんだ!?

 最後の一人を通路に押し込んだと同時に轟音と同時に天井に開いた穴から降ってきた。砂煙が舞っている間に空間魔法を起動する。

 入り口を床に転がっている人たちを覆える程度に設定して出口をコロニー内でも大きい病院に設定する。


 ついでに剣崎も蹴って押し込む。


 「っ! 何しやがる、おい!」

 「うっさい!」

 文句は言わせない。

 いまはそれどころではないのだ。

 これから対峙する敵はおそらく中央司令部を破砕もしくは爆破する存在だろう。

 剣崎では相性が悪い。

 「そっちは、頼むぞ!」

 「クソッ! あとで覚えてろ!」

 その声を最後に転移の扉が閉じる。

 砂煙が落ちつくと姿があらわになる。


 クリスタルのような六角柱の姿があった。 


 が、パキパキと音を立て始め、人型になっていった。

 まさしく変形だ。

 明らかにさっきまでの人形とは違う。

 クリスタル内部からコアのようなものが露出して脈動し始めたのだ。

 本能的に理解してしまった。


 あれは爆弾だ。


 しかもここは地上地区の中で最も装甲の薄い場所。

 すぐに別な場所へ移さないと地下にあるコロニーに文字通り、大穴が開く。

 「クソッ!」

 口から悪態が出る。

 こっちはもう限界だ。

 そんな中でこいつの相手は荷が重すぎる。

 クリスタル人形は、コアを守るように立ちはだかった。

 あきらかな防衛体制だ。

 「最悪な展開だな………」

 仕方がない。

 床に転がっていた、刀を手に取る。

 これは石永司令の魔法補助道具だ。

 だが、石永指令用に調整されているため他の人が使用すると過度の不快感が襲う。

 例えるなら、自分の体に3本目の腕が生えて勝手に動いているようなものだ。

 しかし、現状ではしかたない。

 ほかに手がないのだから。

 相対するクリスタル体が突撃の構えが見て取れた。

 迷っている暇はない。

 自分専用で持っている得物よりも軽すぎて不安感がよぎるが仕方がない。

 すぐに自分に残っている魔力を刀に込める。

 かなりの不快感に嘔吐しそうになるが耐えるしかない。

 その瞬間を見逃す相手ではなかった。

 「っ⁉」

 予想を超えるスピードで肉薄してきたところを鞘でいなす。

 いなしたところに脚を絡めて転倒させる。

 そこに刀の斬撃を加えようとしたが素早く体をよじらされて躱された。

 「はやい!」

 しかし、完全に回避できたわけではなく腕のような突起物の一本を破壊できた。

 クリスタル体は、転がりながら体制を整えた。

 腕を壊されたことが意外だったのか破壊された部分を見つめるようにしてみていた。

 しかし、それも数秒で、またさっきの構えをしてきた。

 それはさっき見た。

 またしても突進をしてきたのでカウンターの要領で蹴り上げてコアを背にするように体勢を入れ替えることに成功した。

 これで空間魔法によってコアを何もないところへ移動させてしまえば脅威は前の人形だけになる。素早く左手をコアに伸ばした。

 ———が、僕は完全に失念していた。

 相手が特殊な人形体であることを。

 変形をしていたことを。

 

 ザクッという音と共に体のバランスを失った。


 「あ?」


 床に仰向けに転がると自分の左腕がなくなっていることに気が付いた。

 そして真上にあるコアから金属片が露出しており血が滴っていた。


 ———ああ、左腕を切り落とされたのか。


 そもそもコア部も人形の制御下………。 

 焦っていたとはいえ、このコアもあの人形の一部であることを失念していた。

 自分の落ち度だ。


 完全な敗北である。


 転がった自分の左腕を見ながら冷静にそう思ってしまった。

 左腕から血が噴き出し、あたり一面が血の海になっていく。

 無力化に成功したことを確信したのか、動かなくなった僕を無視して今まで動いていた人形はただコアを眺めているだけで動かなくなった。

 コアの爆発はもうすぐだろう。

 脈打ち方が激しくなってきている。

 だが、こちらは無理を押し切って消耗したおかげで限界が襲ってきた。

 ぼやける視界の中、不快感が限界にきて仰向けのまま吐血する。

 どうやら胃の中に溜まっていた血液が無理に戦闘した影響で逆流してきたようだ。

 口の中ではゴボゴボ、と音を立てながら血が湧き上がっていく。

 気道に入らないように吐き出す。

 自分の出した血液で窒息はごめんだ。


 それに希望はまだある。


 『床に転がったから無力化した』と思って殺さない甘い相手で助かった。

 そしてコアが光り輝き、視界一面を覆った。



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