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【恋愛 異世界】

タイムマシン症候群

作者: 小雨川蛙

 

 遥か未来。

 世間を悩ませている問題があった。


「対策をしなければ……」

「いや、しかしどうやって……?」

「止めるとしたら拘束するしかありませんよ?」


 人々は頭を抱える。

 人道的に人間を拘束する事は論外だ。

 かと言って放置するわけにもいかない。

 だが、止めるとしたら拘束をするしかない。

 しかし、そうなると人道的に……と言った様子でループする。

 皆、心の中では薄々気づいているのだ。

 この問題に解決策などないと。

 ごく少数の賢い人々が頭を悩ませる中、大多数の頭の悪い人は涙を流して呟くのだ。


「良いじゃないか。愛こそが人の本質なのだから」

 病室でベッドに横になりながら新聞を読んでいた女性の下に一人の老人が訪ねてくる。


「あなたは……?」


 女性が老人に呼び掛けると老人の目から涙が落ちる。

 そして、それを見た途端、女性は穏やかに微笑んだ。


「そっか、来てくれたんだ」


「うん。ついさっき」


 そう言いながら老人は女性に近づくと思い切り彼女を抱きしめた。


「寂しかったんだね。とっても」


 女性の言葉に老人は肩を震わせながら泣いた。

 泣き続けた。

 その背中を撫でながら、女性は尋ねる。


「私の命、あとどれくらいもつの?」

「三ヵ月だ。僕は君の死に目に会えなかった」

「そっか、ごめんね」


 しばらくの間、二人は抱き合っていたが、やがて女性は静かに自分の恋人の名を呼んだ。

 今、この瞬間も彼女の治療費を稼ぐために汗をかいて働いている、最愛の人の名を。


「うん」


 老人が返事をした。


「自暴自棄になって自殺したりせず、頑張って生きてくれたんだ」

「うん。君の後を追わないって君と約束したから……だけど、もう僕もじきに死ぬ。だから……」

「会いに来てくれたのね」


 女性の目から涙が落ちる。

 彼女が先ほどまで読んでいた新聞には大きく見出しが書かれていた。


『タイムマシンによる行方不明者及び失踪者の数、過去最多に。政府は安易な使用を控えるよう国民に呼びかけている』

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― 新着の感想 ―
センス・オブ・ワンダー! 『人は未来だけを見て生きる』のではなく『人は過去に縛られながら生きていく』という事を古典的なタイムマシーンを使われた事がお見事。 ロバート・ハインラインの『夏への扉』や梶尾真…
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