98話『巨大魚』
「ショウ!」
後ろからカエデが叫びながらコートの襟首を掴んできた。
転んだ俺の前に、魚が体をぶつけていた。体を捻って口に引っかかっている釣り竿を大口で飲み込んでいた。
「なんだこのでかい魚!?」
「コノカワデハミタコトナイサカナデス。」
後ろからヨウナシが焦った声で呟きながら2本の前脚を三日月みたいに曲げる。
その前脚の付け根と爪先には糸が張られていて、2番目の両前脚で木の枝を糸と脚につがえる。
過去に戦った時にも見せたように、糸を引き絞って脚を離す。
2本の枝が陸地に上がった灰色の巨大魚に向かって放たれる。
灰色の魚はヒレを地面につけて、体を勢いよく捻る。
かなりの図体があるはずなのに灰色の魚は2本の枝の間に入り込んでかわした。
「何その避け方!?」
カエデが若干呆れながら剣を構える。
俺もカバンに括り付けた槍を取り外そうとしていると、灰色の魚が大きなヒレを前に伸ばし、そのままオールみたいに動かす。
鱗がツルツルしているのか、巨体からは想像できない速度で俺たちに突撃してきた。
サイアが状況を把握できないカエデを引っ張って避けているのを確認しながら横っ飛びに避ける。
「たすっ!」
灰色の魚が大口を開けて横切る際、微かに人の声が聞こえた気がする。
灰色の魚はそのまま柵に激突した。
「なんだ!?」
物見櫓から弓を持った兵士が驚いた声を上げる。
いつの間にか内側にこんなでかい魚がいたら、驚くのはまあわかる。
物見櫓の兵士がベルを鳴らすと、テントの中から兵士たちが出てくる。
「なんだこの巨大魚!」
「2人は我々の後ろへ!」
剣か槍と盾を持った兵士たちが前に立ち、後ろで弓兵が弓を構える。
次々と弓兵が放つ矢が旋回しようとする灰色の魚に次々と当たるが、鱗で弾かれていて効いている様子は無い。
「え、なにあれ……。」
遅れてテントから出てきた白石が灰色の魚を見ながら呆れた声を出す。
灰色の魚は旋回し終わって、再び口を開けて突進してきた。
盾を構えた兵士たちをボーリングのピンみたいに吹き飛ばしながら俺たちに向かってきた。
再び横っ飛びで避ける際、大きく開いた口の中に、気になるものが見えた。
「ヒカリ、あの魚ここで食べよう!今燃やす!」
「ちょっと待って!!」
剣を構えるカエデを一回宥める。
「今あの魚の中に腕見えた!しかも動いてる!」
俺が叫ぶと、その場にいた全員の視線が俺に向けられる。
背後で灰色の魚が俺たちにヒレで旋回して、口を開ける。
その口の中を真正面から見ると、黒い口の奥の中で丸い蓋のようなものがくくりつけられた人間の左手が伸びていた。
近くの数名の兵士が体を震わせながら魚から後退りする。
「わかった、じゃあ刺身にする。」
カエデは呟きながら赤い剣をしまい、鉄の剣を鞘から抜いてバッドを持つみたいに構える。
灰色の魚は再び口を開けてヒレを地面につける。
さっきと違って右ヒレを前に出し、左のヒレは横に伸ばしている。
「あれ、なんか動き変じゃない?」
カエデが不思議そうに魚を見ている。
次の瞬間、灰色の魚の体が大きく回り、尾ビレがカエデと兵士数名を巻き込む。
次の瞬間、尾ビレで弾かれたカエデ達が上空へ飛んでいった。
「カエデ!」
急いでカエデの元に向かおうとするが、サイアが横から制止してくる。
真下にヨウナシが咄嗟に用意したネットに、カエデたちは落下していた。
「来ます。」
少し安堵している俺の襟首を掴んでサイアが後ろに引っ張る。
俺の鼻を再び回って勢いのついた灰色の魚の尾ビレが掠っていった。
「あぶねえなあの魚!」
俺は愚痴をこぼしながら急停止しようとする灰色の魚にカバンから取り出したクナイ槍を伸ばして投げつける。
クナイ槍は灰色の魚の鱗に弾けれて通らなかった。
「全く通ってないじゃん!どうすんの!?」
「内側から攻撃するしかなさそうだ、頼むぞ。」
俺は後ろから話しかけてきた白石に返事をすると、灰色の魚に向かって走り出す。
灰色の魚は再び回って尾ビレを叩き込もうとしてくる。
すぐにスライディングで尾ビレをギリギリかわしながらクナイ槍を掴んで再び立ち上がる。
逆手で穂のギリギリを持って近づいて、口を開けて驚いた顔見たいになっている灰色の魚の目に勢いよくクナイ槍を突き刺した。
灰色の魚が暴れて体を上下に揺らす。
俺も勢いで吹っ飛ばされそうになるのを必死に耐えていると、灰色の魚はV字で止まった。
「倒れえええ!!」
確認しようとした瞬間、灰色の魚が反り上がってた体の両端を地面に叩きつけて、少し飛び跳ねた。
クナイ槍が穂の根元から折れて、バランスを崩した。
上から落下してくる灰色の魚が口を開けて詰め寄ってくる。
「まずい、食われる!」
「放たれろ!」
灰色の魚の口の中から聞いたことのある声が聞こえてきた。
それと同時に突風が灰色の魚の口から吹いて俺を吹き飛ばす。
少しズレるような形だが灰色の魚に食われることだけは避けれた。
それ以上に今気になるのは魚の中から聞こえた声だ。
確実に学校にいた頃からの聞き覚えのある声だ。
「白石、多分俺たちの学校のやつだ!なんとしても助け出すぞ!」
俺はなんとか着地して立ち上がる。
雷竜の槍を使おうとするが、括り付けている紐がとても硬くて取れない。
あのゴーレム達と戦った後、サイアが代わりに括り付けてくれたらしいがそれにしたって硬すぎる。
「ああもう!」
俺は叫びながら紐を引きちぎって槍を構える。
もし灰色の魚に飲み込まれている奴が俺の知っている奴なら、背丈は俺よりちょっと背が低いくらいのやつだ。
痛みで少し呆けている灰色の魚の尾ビレに穂先を向けて狙いを定める。
「放たれろ。」
静かに呟くと同時に、打ち出された穂先が青い光を放ちながら灰色の魚の尾ビレを吹き飛ばしていた。
灰色の魚が転がりながら川へと向かっていく。
「ニガシマセン!」
ヨウナシが叫びながら灰色の魚に糸を括り付ける。
灰色の魚が口を開いて俺に飛びかかろうとしてきた。
「しまっ!」
「ショウ!!」
後ろからネットから降りてきたらしいカエデが鉄の剣を、灰色の魚の開いた下顎に勢いよく突き刺した。
下顎側の鱗が弾けて剣が飛び出し地面に突き刺さった。
「魚が固定された!今だ!」
白石がすかさず叫ぶと、兵士たちが灰色の魚に近づいて次々と剣で切りつけたり、槍を刺しこんで、斧を叩き込んでいた。
数分後、灰色の魚は動かなくなってその場で動けなくなっていた。
カバンの中の水晶玉は『モンスター【ヒネリアロワナ】討伐報酬:銀貨10枚』と光を浮かべていた。
俺は急いで灰色の魚の口の中に手を突っ込む。
細長いものを掴んだと感じると同時に、勢いよく引き抜いた。
灰色の魚の口から白髪の全裸の青年が出てきた。
顔を見ると、学校でよく遊んでいた友人の顔だった。
「マモル!返事できるか!」
「あ……ショウ……。」
目を半開きにしている全裸の青年、赤崎守が朦朧とする意識で答えてくれた。
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