95話『治療中』
「次で最後です。」
ベッドで横になっている私に、サイアが私の肩に氷のナイフを滑り込ませる。
痛みを必死に堪えていると、肩の内側から最後のガラスのかけらが取り出されていた。
「これで全部取り出せました。」
サイアは呟きながら取り出されたガラスをテーブルの上の白い布に置いていた。
私は慎重に起き上がって、肩の傷に手渡されたポーションをかける。
染みるような痛みを感じたが、少しして肩には傷1つない状態になった。
相変わらずこの世界のポーションはだいぶおかしい性能をしている。
「カエデ、そっちはどう?」
私は反対側のベッドの横に座っているカエデに話しかける。
反対側のベッドの上では、深川が少し安心したような表情で寝息を立てていた。
「外傷はポーションでなんとかなったるけど、骨折は治ってないからしばらく経つこともままならないと思う。」
カエデが深川の頭を撫でながら返答してくる。
扉をノックされると同時に、夢野が部屋に入ってきた。
「星宮は意識を取り戻した。そっちはどうだ?」
「ぐっすり寝てる。」
左腕をさするカエデの返答を聞いた夢野は、少し安堵した表情で深川を見ていた。
「ところで、なんで鷹見が襲ってきたのか知らない?」
私が尋ねると、夢野は怪訝そうな表情をして首を横に振った。
鷹見と戦ってたタツヤが「福田先生を積極に狙ってた。」と言っていたから、先生に聞けば一番手っ取り早いのだろう。
「福田先生は今どうしてる?」
「ダイチと小畑と蒼山がヤクザみたいな尋問してるけど、ひたすら謝ってばかりで何も言ってない。」
夢野の返答を聞いて、少し福田先生が気の毒に思えた。
福田先生の神の書は『交代書簡』という人と人の位置を入れ替える能力がある。
本来なら入れ替わることで位置情報を撹乱させるような使い方をするらしいが、福田先生は自分に飛んでくる攻撃を蒼山たちや星宮と入れ替わって身代わりにする動きに使っていた。
身代わりにされて相当怒っているだろう3人が尋問しているなら、何箇所か骨折されてもおかしくないだろう。
「わかった、私が本人に直接聞いてくる。」
私はそう言ってベットから起き上がった後、隣の部屋へと向かう。
隣の部屋の扉を開けると、ベッドの上で鷹見がぬいぐるみサイズの木製のゴーレムを見つめていた。
プチゴーレムは私の方に赤い核を向けてくるが、すぐに鷹見へと抱きついている。
「手袋は回収したはずじゃ……。」
「この世界に転生して、最初に作ったゴーレムよ。」
鷹見は俯きながらゴーレムを持ち上げる。
鷹見さんの神器はあのキューブで構成された手袋だ。
兵種関連の本で得た知識だと、アルケミストという兵種は自分で武器やゴーレムを作ることができるらしい。
そしてゴーレムを作る際は6属性のどれか1つの魔法陣が描かれた手袋をはめて作り出すと書いてあった。
ただ、鷹見の手袋はあらゆる素材をキューブ状にどんなものでもゴーレムを作れる手袋で、今回みたいに土や石の他に、木材や植物、炎や水なんかもキューブにして組み込めるらしい。
「大丈夫、今は戦うつもりはない。」
鷹見はプチゴーレムを持ち上げながら微笑む。
数時間前までショウ達にゴーレムで攻撃していた人物と同一人物と思えない。
「なんで夢野たちに襲いかかっていたの?」
私が尋ねると、鷹見は少し嫌そうな表情をする。
「夢野くんと星宮くんは関係ないよ。狙っていたのは深川さんと福田先生だけ。」
鷹見さんが理由を話し出した。
「転生する前から、私は深川さんにいじめられていたの。」
最初に出てきた言葉を聞いて、なんとなく流れが分かった。
「それについて福田先生に何度か相談したけど、適当に注意しただけだった。むしろいじめは悪化した。」
鷹見の話を聞いて、なんとなく腑に落ちる。
うちのクラスの岩倉先生ならば二度と起こそうと思わないくらい叱るだろうが、人を怒るのが苦手な性格の福田先生ならちょっと注意するくらいなのもよくわかる。
「ちなみにいじめの原因は?」
「深川さんが好きな夢野くんが私を好きだったとか。」
鷹見がため息混じりに呟く。
「しょうもない理由ね……。」
「あの子にとっては真剣な悩みなのかもね。だとしても、彼女のイジメは度が過ぎていた。」
鷹見から笑顔が消えていく。
「あまり喋りたくなければ、喋らなくていいよ。」
「そう、じゃあやめとくね。」
私が宥めると、鷹見は少し安堵の息と言葉を漏らす。
流石に顔色がすぐに変わるくらいのいじめの話すを聞く勇気はなかった。
「とりあえず、私から言うことがあるとするならあれはやりすぎってことね。多分もういじめられないと思うけど謝っておいてね。」
「彼女が目覚めたらね。」
たかみは微笑みながら返事していた。
「まあ、とりあえずこの後どうするかについて……。」
「どこでもいいから、深川さんから離れられる場所に行きたい。」
私が話そうとする前に鷹見が食い気味に答える。
すでに天川に連絡を入れており、鷹見は小杉のいる教会で匿うことにしてもらっている。
『飛鳥、こいつを信じるな。』
机からガラスにぶつかる音と共に声が響いてくる。
少しため息をつきながら机を振り向くと、ガラス瓶の中に入った白い物体が暴れ回っていた。
「けどデュナさん……。」
『人間は皆殺しにしないといけないんだよ!』
ガラス瓶の中には砂の化物、デュナの核を担っている白い喉仏が入っていた。
完全に動かない砂の塊の中から必死に砂じゃない物質を探して、ようやく見つけたのが、この喉仏だった。
最初はこの物体が核とは思わなかったが、喉仏にこべりついていた砂を使ってガラスの棘を打ち出して最後の抵抗をしてきたおかげで確信が持てた。
「これ本当にどうしよう。天川たちは多分これが暴れ始めると負けるの確定だし。」
「ユリが管理すればいいんじゃない?」
後ろを見ると、扉の前でカエデが立っていた。
「カエデ、深川は?」
「サイアちゃんと夢野くんが見てくれてる。それよりその骨の話だよね?戦ってて思ったけど、砂が固まると使えなくなるのは解っているから水魔法を使えるユリが管理すればいいんじゃない?」
カエデの提案を聞いて少し考える。
「そうした方が良さそうね。それならガラスだと壊れそうだし、木製の容器に閉じ込めるべきかな?」
「中が見えないと困るからガラスのままにして、内側を水分で浸すのとかどう?」
『おい、一体何を考えて……。』
カエデと話していると廊下からうるさい声が聞こえてくる。
扉から顔を出すと、廊下でタツヤとショウが福田先生に蹴りを入れていた。
「あんたたち、何やってんの?」
「こいつのせいで俺たち怪我したからその分蹴ってる!」
「少なくとも俺は腕がしばらく使えないからな!その分の仕返しだ!」
そういいながらショウが勢いよく福田先生の尻に蹴りを入れていた。
確かに今のショウの腕は宿屋でもらった布で腕を吊っている状態だ。
「まあ、あとで他の生徒の情報とか聞きたいからそれくらいに……。」
私が説得しようとした瞬間、ショウの蹴りが尻からずれて股間に叩き込まれていた。
「おごっおっおっおっおああぁ……。」
福田先生は顔を青ざめて何か呟いた後、その場に倒れ込んだ。
ショウとタツヤを見ると、気まずそうに股間を手で隠していた。
「蹴ったのあんたたちでしょ……。」
その場で震え上がっている2人に、私はため息をつきながら呟いた。
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