88話『臆病な教師』
馬車の手綱を握ってみて第一に思ったことは、タツヤへの感謝だった。
数時間前、タツヤは俺に馬車の操縦を頼んで後ろの椅子にぐっすりと眠っていた。
パーズ王国を出て5日経ち、3つほど村を跨いでいる。
その際に訪れた村で富士たちが出会った3人に関する情報を集めていた。
そして昨日訪れた村によると、2日前にその村を出たとのことだ。
その村までは馬車をゆっくり歩かせて丸1日で着く距離とのことだ。
「ショウ、大丈夫?うまく操れてる?」
上の見張り台からカエデが尋ねてくる。
正直、かなり緊張している。
今の所は運が良いのか馬が落ち着いて歩いてくれているが、馬が暴れ始めたらうまく操れる自信は全くない。
「まあ、俺もそれなりに今操れてるから気にするなよ。」
俺はそう言って手綱を振る。
1頭の馬が少し嘶いた後、馬車の速度が少し速くなった。
「おっと……。」
急いで手綱を引っ張ると、もう一頭も嘶いてさらに早くなった。
タツヤが操って暴走する時よりは勢いは無いが、俺にはもう馬車を操れる自信が無かった。
「カエデ、一旦馬車を止めたいけどどうすればいいんだっけ?」
「確か強く引っ張るとか……じゃ……。」
カエデの言葉が途切れ途切れになる。
「どうした?」
「馬車を止めないで右側の茂みに突っ込んで!」
上からカエデの焦った声が聞こえてくる。
手綱を強く握ったせいか、馬の暴れる力が少し大きくなった。
「どういうことだ?」
「人が襲われてる!」
カエデの返答を聞いて、俺は咄嗟に手綱を右に引っ張る。
馬たちが無理やり右に向けられた衝撃で驚いたようで、勢いよく走り始めた。
馬車は茂みに勢いよく突撃した。
茂みを抜けると、平たい土地に出た。
丸太で出来た柵の近くで5メートルくらいの巨体が人間を掴んでいた。
巨体は幾つもの石や土、木材で出来たキューブがバラバラに組み合わさって出来ている感じだ。
「あれもモンスターなのか?」
「わからない、とりあえずあの掴まれてる人を助けないと!近づいて!」
上から聞こえるカエデの指示に従って、馬車を操る。
だが、馬車は思い通りに進んでくれない。
「おい、なにが起こっているんだ?」
後ろからタツヤ驚いた声を上げながら尋ねてきた。
「タツヤ、操縦を手伝ってくれ!あいつに近づきたい!」
タツヤが馭者台から周囲を見て状況を察したのか頷いてくる。
少し安堵して手綱を後ろのタツヤに渡そうとした瞬間、馬車が一瞬宙に浮いた。
多分、車輪に石が衝突したのだろう。
衝撃で姿勢を崩した際、手綱が手から離れた。
「ちょっと待て!!」
タツヤが悲鳴を上げながら身を乗り出して、手放した手綱を再度掴んだ。
今にも馬車から落下しそうなタツヤの腰を掴んで引き上げる。
「悪い。」
「大丈夫、あの巨体に近づくんだよな?」
奥の巨体を睨みつけながらタツヤが馭者台に座り直す。
暴れる馬車をそのまま動かして巨体へと近づいていく。
巨体が俺たちに顔を向けてくる。
頭部は体と同じくいろんな素材のキューブで構成されているが、頭部の中央には赤く光り輝く宝石みたいなのが取り憑いてあった。
脳内で別の形の似たものを思い浮かべる。
「あれってゴーレムの核やってた魔石じゃないか?」
俺がタツヤに話しかけると、タツヤも頷いていた。
巨体の宝石は過去に見たドアイとかいうゴーレムの魔石に似た輝きを浮かべていた。
「カエデ、多分あいつの弱点は頭部の赤い宝石だ!」
俺が叫ぶと同時に、馬車がゴーレムに近づいた。
馬車の屋根を走る音と、縁あたりで飛び立つ音が聞こえた。
ゴーレムの左腕にカエデがひっついていた。
「放たれろ!」
カエデが腰に刺していた剣を振りながら刃を飛ばす。
赤い刀身が弧を描きながら右肩へと飛んでいき破裂した。
人間を掴んだ右腕が地面に落ちて、バラバラになった。
「やった!」
カエデが左手にしっかり掴まりながら笑っていると、ゴーレムの腕が突然傍聴した。
膨らんだ左腕は驚いているカエデを包み込むように裏返った。
「「え?」」
俺とタツヤの声が重なった。
ゴーレムの左腕はカエデを包み込んだ後、そのまま元に戻ろうとし始めた。
「あいつ、カエデを潰す気だ!タツヤ、急いでやつの頭部が見えるところに!」
「お。おう!」
俺が急いで倉庫の梯子を登って見張り台で雷竜の槍を手に持つ。ゴーレムの顔は左腕のキューブを内側に落ち込もうとしているが、カエデがかなり抵抗しているのか、そこまで力が強くないのか左腕以外が動いていない。
狙撃銃のように構えてゴーレムの赤い宝石に狙いを定める。
「放たれろ。」
槍の穂先が赤いキューブに直撃して破裂した。
赤いキューブが粉々に砕けると同時に、ゴーレムを構成していたキューブがその場に次々と崩れ落ちていった。
馬車がゆっくりと速度を落としたところで見張り台から飛び降りてキューブの山へ向かう。
「カエデ、無事か?」
俺がキューブに近づきながら話しかけると、左腕のキューブの残骸が盛り上がって赤い剣の柄が飛び出てきた。
「怖かった!急に内側に詰め込まれて潰されるかと思った!」
息を整えながらカエデが震え声で返事をしてくる。
ただ声の割に、外傷はそこまで見当たらなかった。
「それよりあの握られていた人は?」
カエデが立ち上がって倒れている人の元へと向かう。
「あ、この人……。」
カエデが驚いた表情で倒れている人を見る。
俺も近づいて確認して彼女が驚いた理由を理解した。
倒れていた人は、似合わない赤髪の若い眼鏡をつけた20代の大人だ。
確か隣のクラスの担任で物理を教えていた臆病な新人教師。
「あ〜、福田先生ですよね?」
カエデがボーッと開いた目の福田先生に話しかける。
福田先生はゆっくり顔を動かして、カエデの顔をまじまじと見た後、目を見開いて飛び起きた。
「うわあ!もう許してくれ!」
福田先生は必死に後退りしながら叫んでいた。
「先生、落ち着いてください。」
カエデが不思議そうな表情で福田先生に近づく。
福田先生が震えながらカエデと目を合わせる。
「君たちは……早川さんかい?」
福田先生が震え声で話しかけてくる。
後ろの俺と馬車から出てくるタツヤを見て、福田先生は息が徐々に整っていった。
「あの、何があったんですか?」
カエデが話しかけると、福田先生は何も言わずに顔を地面に向ける。
「お願い……許して……。」
目の前で頭を下げているクソ女が涙で充血した目で懇願してくる。
再び抵抗と判断されたらしく、木と石のゴーレムが後ろに回し込んだクソ女の腕をさらにきつく抑え込む。
パアンと音が鳴ると同時にクソ女が悲鳴を上げる。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」
クソ女が泣きながら頭を降ると、さらに抵抗と認識したゴーレムがさらに腕を捻る。
さらにクソ女の悲鳴が大きくなっていく。
「ストップ。」
私がつぶやくと、ゴーレムが核のハマった頭部を私に向ける。
この女にはまだ死んでほしくない。
「ねえ、お願い……許して……。」
目の周りが赤くなり、すでに衰弱しつつあった。
「私はあなたにまだ死んでほしくないんだ。」
私が笑みを浮かべるとクソ女が再び涙を流し始める。
「助けて……夢野くん……。」
嗚咽を混ぜながらクソ女が呟く。
ふと後ろから足音が聞こえてくる。
振り向くと、アルミみたいに周囲の風景を反射するマントを羽織った少女が歩み寄ってきた。
「デュナさん、どうしましたか?」
「その女性の神器を回収しに来ました。」
マントを羽織った少女、デュナさんが話しかけてくる。
その右手に持った青い刃の斧を見せながら話しかけてくる。
水の膜を作り出して斬撃やベールの壁を作り出したりする星宮の神器だ。
「この子の神器は起動中対象をずっと無敵にする魔導書でした。強いのは確かだけど、使用者本人にはかけられず、シスターの治癒を同時に使えないのが欠点ですね。」
私は微笑みながらデュナに魔導書を渡した。
「お願い……返して……。」
クソ女が震えながら私に縋ろうとしてくる。
抵抗と認識したゴーレムが力を加えて、再び悲鳴が上がった。
ここまで読んでいただ、ありがとうございます。もしこの作品を読んでいただいた後に感想を書いていただければ励みになります。また、どこか漢字や文法の間違いがあった場合、指摘していただけるとありがたいです。
追記:投稿の際、一部の文章の入力が終わってませんでしたので、急いで追加しました。
申し訳ございません。




