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87話『情報』

「ねえ、先に行ってもらってもいい?」

カエデが少し震え声で俺に話しかけてくる。

俺は尋ねてくるカエデに首を小さく横に振理ながら、視線をアルバイン邸に向ける。

屋敷の前ではすでに鞘から抜いた状態の大剣を地面に突き刺しているアルバインの姿があった。

「そこの2人!用があるのなら入りたまえ!」

屋敷の前に立ったアルバインが声を張り上げてくる。

「同時に行くぞ……。」

「はい……。」

俺はあまりうかない顔のカエデの手を引っ張って門を潜った。

「本日はお招きいただきありがとうございます。」

俺はカエデと共にカバンを両手で持ちながら、アルバインに向かって頭を下げる。

アルバインは頭を下げる俺たちを見た後、大剣を背中の鞘に収めた。

「では、案内しよう!」

アルバインはいつもの口調で話しながら扉を開ける。

すぐ目の前の廊下が焼けこげて、奥の窓ガラスは砕けている。

あれ全部を俺たち2人でやったと考えると、改めて罪悪感が背中にのしかかってくる。

「なんか、すみま……。」

「静かに!」

俺が呟こうとすると、アルバインが制止してくる。

「話は部屋についてからだ。」

落ち着いた声でアルバインが話しかけてくる。

案内された部屋に入って席の前で立つ。

アルバインが反対側に座ったところで俺とカエデも椅子に座った。

「では、話を聞こう。」

「「すみませんでした!」」

俺とカエデは机にぶつかりそうな勢いで頭を下げる。

「頭を上げろ、私も見ていたから分かっている。あの矢の雨を降らせた無法者を捕まえてくれた以上、そこまで貴様に怒る理由はない。」

頭を上げるとアルバインが強張った表情ではあるが、怒りは感じ取れなかった。

「ただ、今から貴様らの歳の者にとってはかなりきつい物を渡さなくてはな。」

そういうと、扉がコンコンとノックされる。

部屋に青髪のメガネをかけたメイドが入ってきた。

メイド服を着ている人を見て、俺は少し肩を震わす。

「渡したまえ。」

アルバインが合図をすると、メイドが俺たちの前に1枚の紙を置いた。

『修理費用、金貨37枚、銀貨73枚、銅貨43枚』

「君らの歳でこの金額を払うのはキツイかもしれないが、悪く思うなよ。」

アルバインが話しているうちに、俺は持ってきたカバンを取り出す。

「こちらで足りるでしょうか?」

俺は2人に見えるように鞄を開く。

中には昨日ユリが用意していた硬貨が丁寧にまとめられて入っていた。

アルバインは口を開けながらメイドに相槌を打つ。

「失礼します。」

メイドはそう言ってカバンの中の硬貨を机の上に全て取り出し、数え始めた。

少しして、メイドが必要数の枚数を机の上に並べる。

「必要な金額は全てありました。残りはカバンに戻しておきます。」

少し驚いたような表情を浮かべるアルバインに、メイドが少し冷や汗を出しながら答える。

「君たち、一端の冒険者なんだよな?」

アルバインが驚きながら並べられた硬貨を眺める。

サフィア王国奪還作戦の時に大量のモンスターを殺したためか、馬車の金庫には大量のお金が溜まっていた。

おかげで今回の弁償のお金もすでに準備できる状態になっていた。

「まあ、しばらく贅沢は出来なくなるくらいの額ですけど。」

俺も少し苦笑いをしながら返事をする。

「とりあえず、これでこの話はおしまいにしよう。君を部屋の外で待機してなさい。」

アルバインに話しかけられたメイドは俺のそばにカバンを置いた後、そそくさと廊下へと出ていった。

「本来だったらここから金の払い方についての話をしようと思ってたが、準備していてもらったおかげで時間が思いっきり余ったな。普通に君たちの話でも聞いてみようかな。」

アルバインは少し笑いながら俺たちに話しかけてくる。

カエデが横で縮こまっていて話し出す勇気はなさそうだ。

「そういえば、一昨日までこの国の郊外の森にある古びた屋敷を訪れたのですが、何か知っていますか?」

「古びた屋敷?」

俺が尋ねると、アルバインが不思議そうな表情を浮かべる。

「もしかして、コリンロス家の屋敷か?」

少しその場で唸った後、アルバインが訪ねてくる。

「コリンロス家ですか?」

「ああ、数十年前まで存在した貴族だな。私の祖父が当主だった頃に血は途絶えたと聞いている。」

アルバインは説明しながら机を叩く。

先ほどのメイドが再び入ってきた。

「コリンロス家に関する資料があったはずだ。取ってきてくれ。」

メイドは急いで扉を出て、廊下を走っていった。

「あそこはもう誰も訪れないからモンスターが屯している。一度訪れたのか?」

「訪れて中にまで入りました。」

俺が返事をすると、アルバインは若干呆れたような表情を浮かべる。

「あそこは一度入ったら行方不明になることで有名だぞ。よく戻って来れたな。」

「原因になっているメイドを倒したからだと思います。」

話をしていると、さっきのメイドが書類の束を持って入ってきた。

「お持ちしました。」

メイドはお辞儀しながら資料の束を机に置く。

「さっき言っていたコリンロス家の資料だ。読んでみるといい。」

少し愛想笑いをするアルバインの行っていることを聞きながら、手渡された資料を読む。

『ジョスキ・コリンロス、43歳、身長172cm、体重75kg、執務は丁寧にそつなくこなし、人付き合いも上手い。魚料理を残しがち、幼女趣味と加虐趣味がある。常に10〜12歳ほどの少女のメイドを連れている。』

「ひどい内容ですね。」

「祖父の時代は貴族内でも互いに粗探しをしてのしあがろうとしていた時代だ。弱みを握るために多く書かれているのだろう。」

アルバインの話を聞きながら、資料を眺めていく。

少しして、あのメイドのらしい情報が入り込んできた。

『ミリア・オクトヌベス、13歳、身長141cm、46kg、喉に問題があるのか人と話していることはない。』

多分こいつが俺たちを襲ったメイドだろう。

もしかしたら、あそこで死んでしまった亡霊みたいなものなのだろうか。

「にしても、そのメイドが最近までずっと生きていたとなると、かなり老齢だったのか?」

「ええと、多分これに書かれているのと同じくらいの年齢だったんですが……。」

俺が返事をすると、アルバインがみるみる顔を青くしていく。

「さて、私はそろそろ用があるので失礼しよう!これからも頑張りたまえ!」

いつもの口調に戻ったアルバインは激励の言葉を並べながら席を立った。

アルバインが部屋を出た後、あのメイドが一礼して立っていた。

メイドの後をついて行って、門の前まで案内された。

「それでは、私はここで。」

メイドは丁寧に伝えて屋敷へ戻って行ったのを確認する。

扉が閉じたところで、カエデが横で跪いた。

「もっと怒られると思ってた……。」

横でぐったりしているカエデに手を差し伸べる。

正直、俺もかなり怒られる覚悟で来ていたから、あれだけで済んだのは良かったと思うべきだろう。

俺はカバンに入れていた水晶玉を取り出す。

「ユリ、聞こえるか?」

水晶玉に古い本を読んでいるユリの姿が映っていた。

『聞こえているよ。どうだった?』

「とりあえず思った以上に怒られなかった。」

『昨日のうちに準備しといてよかった。』

水晶玉の中で、ユリが安堵の表情を浮かべる。

「とりあえずすぐ戻るね。」

横からカエデが話しかけてくる。

『あ、2人はさっき出発したタツヤの馬車に乗ってもらう。』

ユリの言ったことに俺とカエデは顔をあわせる。

すでにやる気のない表情で水晶を眺めている。

「何かあったのか?」

『さっき富士さんと話していたんだけど、3人の学校の人と出会っていたことがわかった。』

ユリの話を聞いて、俺もカエデもすぐに姿勢を正す。

「誰がいたの?」

『隣のクラスの夢乃、星宮、深川さんの3人って言ってた。あの屋敷にいた間に1週間以上経ってるから急いで追い付かないといけない。』

そう言いながら、水晶玉の中のユリが魔導書を取り出す。

「『転移書簡』。」

ユリが詠唱すると同時に、出かけるときに手渡されていた魔法陣の描かれた紙が光り始めた。

気がつくと、揺れ動く馬車の倉庫にいた。

扉を開けると、馭者台でタツヤが必死に手綱を握っていた。

「お、来たか。」

タツヤが少し冷や汗を流しながら話しかけてくる。

外の風景を見て状況を把握する。

すでにパーズ王国は出ているらしく、もう普通の道しかない。

「なんか、馬車早くないか?」

「至急迎えって言われたからね。聞いた話によると、水晶玉を交わしてもいないから足取りは最後にあった箇所だけだから急がないといけないからな。」

タツヤはそう言いながら手綱を振るう。

さらに馬車がさらに早くなってきた。

「それ操縦出来るのか?」

「若干出来てない。」

「カエデ、馬車に掴まれ!」

俺の叫びに反応したカエデがすぐに机にしがみついた。

俺も咄嗟にその場にかがみ込んで椅子にしがみついた。

馬車はスピードを一切落とさずに道を突き進んでいった。

こまで読んでいただ、ありがとうございます。もしこの作品を読んでいただいた後に感想を書いていただければ励みになります。また、どこか漢字や文法の間違いがあった場合、指摘していただけるとありがたいです。

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