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86話『屋敷からの脱出』

「うごっ!」

鳩尾にクリーンヒットした谷岡の拳を必死に掴む。

後ろからタツヤ谷岡の首を肘で巻いて絞めようとするが、顎で肘を挟まれて締めきれずにいた。

足元では宇喜田が必死に谷岡の足を掴んでいた。

「タツヤ!はがいじめにしろ!」

「今しようとしてるからちょっと、痛え!」

タツヤが再び首を絞めるが、後ろに首を振って後頭部で頭突きをかまされていた。

「谷岡落ち着け!」

「知ってたさ!俺が本物の谷岡じゃないってことは!」

震えに近い声で、笑いな気の表情で谷岡が俺に向かって叫びかけてくる。

「今までの記憶がないこととあのメイドのテレパシーで理解したんだよ!俺がどんな恐怖から生まれたのかは知らないが、消されたくなければ侵入者を欺き殺せってあのメイドに告げられたんだ!」

そう叫びながら谷岡が壁に突き刺さったクナイ槍を再び掴んだ。

「こんなところで死にたくねえんだよ!」

必死に懇願しながら谷岡が奮ったクナイ槍が俺の右の二の腕に突き刺さった。

腕から引き抜いたクナイ槍を振りかぶった瞬間、谷岡が床に崩れた。

「え?」

倒れた谷岡の足が徐々に黒ずんで塵になって行く。

「消滅が始まった?まだとどめさしてないぞ?」

「嫌だ!嫌だ!」

タツヤが困惑した表情で泣き叫ぶ谷岡を眺めていた。

崩れていく足を掴んでいた宇喜田の顔に光が見え始める。

「恐想書簡の能力が解除されてるんです!誰かがあのメイドを殺したんです!」

「そんな……嫌だ、死にたくない……。」

床の上で谷岡が下半身が黒ずんでなくなっていくと同時に、廊下からもサイクロプスのもがき苦しむ声が聞こえてきた。

扉に近づいて外を眺めると、サイクロプスが廊下の壁にヒビを入れながら崩れて塵へと変わっていっていた。

夜の情景が徐々に崩れていき、昼間の太陽が窓へ差し込んできていた。


薄暗くて狭い通路を通っていくと、廊下の窓に火の光が差し込んでいた。

「聞こえる?」

『あ、ユリか!今屋敷の玄関確認してるけど開いているんだ!』

カバンから取り出した水晶玉からガッツポーズを浮かべるショウの姿があった。

背景にはさっきまでの暗い夜の風景は映ってなく、昼にしか見えないような青い空が広がっていた。

「よかった、ようやく外出れるんだね。」

『俺はこのまま玄関の扉を開けっぱなしにするから、ユリはタツヤ達と一緒に2階にいる杉原を連れて行ってくれ。』

そういうと、水晶玉からショウの姿が消えた。

私は取り出した魔法陣の書かれた紙を床に置く。

「『転移書簡』。」

魔法陣が起動して、古びた日記が出てきた。

「これで持ち帰れる。」

あのメイドの持っていた日記帳はなんとか燃やさずに済んだ。

あとで気になっていた情報を確認し直すために、魔法陣を床に敷いて日記を全部乗っけてきた。

あとは部屋に帰って見直すだけだ。

私は安堵しながら3階の降りる階段へと向かう。

ふと廊下を奥の廊下を見ると、ぐったりとした人が見えた。

「ようやくだ……ようやく外に出れるんだ……。」

ちょっと小柄でぽっちゃりした、薙刀を背中に背負っている青年が私に顔を向ける。

確か、隣のクラスのやつだった西宮とかだったはずだ。

「あなたが、助けてくれたんですか?」

西宮が半分涙目になりながら私に近づいてきた。

「どうも、とりあえず私の仲間が下の階にいるから着いてきて。」

涙と笑顔を浮かべた西宮が私の後をついてくる。

2階の部屋を見て回ると、ベッドで寝息を立てている杉原さんがいた。

「杉原さん、無事?」

「ええ、なんとか。」

西宮に杉原さんを担いでもらいながら下の階に降りると、地面に槍を刺して玄関の扉を固定しているショウと、屋敷周りの茂みに敵がいないか見張っているサイアの姿があった。

他にも2人くらい学校のクラスメートが増えていた。

「おう、お疲れ。」

「タツヤは?」

「屋敷で俺が出会った他の生存者の探索をしてもらってる。」

ショウと話していると、後ろの扉からタツヤが走ってきた。

「ショウ、お前が言っていたほぼほぼ瀕死の騎士とおっ始めていた男女はいなかったぞ?」

「は?」

タツヤの返答を聞いて、ショウが困惑した表情を浮かべていた。

「いや、言われた通り杉原が寝ていた部屋の隣2つを確認したけど、誰もいなかったぞ。」

「私も部屋を確認したけど、そんなの一切なかったよ?」

私とタツヤの返事を聞いたショウが困惑した表情を見せる。

私も確認したから事実だから、間違ってないはずだ。

「もしかしたら、誰かのトラウマとかだったパターンは?」

タツヤが訳のわからないことを言い始めた。

しかし、ショウの顔に納得したような表情を浮かべていた。

「確か、タツヤは人面犬、宇喜田はアノマロカリスだっけ?」

ショウが本を大事に抱えている宇喜田が首を縦に激しく降っていた。

「んで、俺やサイアはショウのトラウマと戦って、富士が谷岡か。そうなると……。」

タツヤたちが何かを考えた後、顔を歪めながら私の方を振り向いてきた。

「なあ、ユリにとってトラウマになってたり、怖い思いをしたことある?」

申し訳なさそうにタツヤが尋ねてくる。

急にトラウマがあるかと言われても、すぐに思い浮かぶ気が全くしない。

「なんでそんな話になるの?」

「さっきまでの敵が、相手の恐怖を具現化する魔法を使ってたから、サイクロプスもそれっぽい。」

「ああ、それ僕です。」

杉原さんを抱えていた西宮が申し訳なさそうな表情で口を出す。

男子3人が殺意のこもった視線で西宮を睨みつけながら近寄ってくる。

「お前があの不死身召喚の元凶か!」

「人面犬やアノマロカリスと違って死なないからしんどかったぞ!」

「トラウマになるくらい怖く作った覚えはないですよ!」

3人がオドオドしている西宮に詰め寄って怒鳴っていた。

「まあ、そういうわけでお前の怖かったのとかってなんだ?」

速攻で怒鳴るのを切り上げてタツヤが話しかけてくる。

「全くないわね。」

「じゃあ小さい頃のトラウマとかは?」

タツヤに聞かれて子供の頃を思い出してみる。

「子供の頃怖かったこと……。」

頭の中を必死にかき乱して考える。

脳内で家の夜の廊下が浮かび上がる。

確か幼稚園くらいの頃だ。

トイレに行きたくなった時に母親についてきてもらおうと扉を開けた時……。

「ショウ、おっ始めていた男女のことを忘れてくれる?」

「あれユリのトラウマだったの!?」

驚いた表情でショウが振り向いてきていた。

両親の醜態を見られたことを軽くため息をついて落ち着こうとしたが、色々と激昂しそうで仕方がなかった。

『おい、誰か聞こえてる?』

カバンの中に入った水晶玉から天川の声が聞こえてきた。

「ええ、聞こえているよ。」

『よかった、なんか急に繋がらなくなってびっくりしたよ。』

安堵の表情と浮かべる天川の後ろで縄で両手を縛られた下田と黒井が兵士たちに連れて行かれるのが見えた。

「彼らはどうしたの?」

『一応俺たちの国の特注牢獄へ監禁することで手を打った。とりあえず彼らが死刑にされることは無くなった。』

天川の話を聞いて、少しだけ安堵する。

とりあえずあの2人が殺されることはなくて済んでほっとしている。

「というか、あなたの部下と馬車とかも半日で来たのね。」

『半日?君たちがいなくなって1週間くらい経ってるぞ。』

「え?」

私が驚いていると、天川の後ろからカエデが手を振っていた。

ここまで読んでいただ、ありがとうございます。もしこの作品を読んでいただいた後に感想を書いていただければ励みになります。また、どこか漢字や文法の間違いがあった場合、指摘していただけるとありがたいです。

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