85話『しょうたい』
「撒いたか?」
扉の隙間から廊下を見ているタツヤに話しかける。
タツヤは扉から顔を出して廊下を見回したと扉を閉じた。
「階段を上がるのは遅いらしい、多分撒いた、」
タツヤの返事を聞いて、娯楽室らしい部屋の中へ隠れた全員がその場で安堵の表情を浮かべて崩れた。
「よかった、マジで死ぬかと思った。」
「とりあえずお前ら、あれ連れてきた分の1発殴らせろ。」
タツヤはそういうと俺と谷岡の頭に拳を2回振り下ろした。
「とりあえず、あいつらはなんなんだ?サイクロプスとかゲームのキャラだろ?」
「ここにいる人間たちの怖いものを呼び出す神の書をこいつが落とした。んであのメイドが使ってる。」
頭を抑えながら俺が尋ねると、タツヤが2文でわかりやすく説明してきた。
申し訳なさそうな表情で宇喜田が手を合わせている。
あいつの神器が原因なのかと少し呆れのため息が漏れる。
「んじゃ、俺やこの場にいない夏川とかの怖いものも召喚されているってことか?」
「ああ、お前の最も怖いものと戦ったけど、幸い勝てたよ。それより俺も聞きたいんだが……。」
タツヤはそう言いながら頭を抱える谷岡に指をさした。
「そいつは?」
「谷岡だ。この館で迷ってたんだってよ。」
「ああ、お前らの仲間か。」
タツヤが2人に向かって話しかける。
宇喜田は困惑した表情で谷岡を見つめている。
部屋の隅でサイアに頭を撫でられながら震えている富士の方を見る。
サイクロプスに追いかけられてあのがそれほど怖かったのだろう、冷や汗が尋常じゃない。
「それで、あのサイクロプスはどう倒せばいい?俺の雷も効かなかったんだけど。」
「ゲームと同じで不死身だから、宇喜田の神の書を取り返せば消せるらしい。」
「けど今あいつ、隠しているんだろうけど谷岡の神器も持っているんだろ?」
俺の質問にクナイ槍を伸ばしていた谷岡が一瞬目を見開いた後、首を縦に振った。
「そういえば宇喜田も言ってたな、あらゆる力を100倍にする薙刀とかだっけ?」
「……知らないです。」
「え?」
宇喜田が首を横に振ったのを見て、タツヤが驚いていた。
「いやだって、お前が薙刀使うって言ってたんじゃ……。」
「それは西宮くんの神器です。谷岡くんのは知りません。」
宇喜田が反論した瞬間、その場に沈黙が訪れた。
微かに聞こえるのは、隅に座っている富士の
「ごめんなさい……。」
と連呼する声だけだった。
慎重に目を谷岡に向けると、頭を下げた谷岡がクナイ槍の石突ギリギリを掴んでいた。
「お前!」
タツヤが白いダガーを取り出しながら叫ぶと同時に、谷岡が長身の体を勢いよく曲げてクナイ槍をタツヤのふくらはぎに叩き込んでいた。
急いで俺も槍を構えるが、それよりも早く谷岡はタツヤのふくらはぎからクナイ槍を引き抜き俺の槍を持った右腕に向かって手早い突きを放ってきた。
咄嗟に右腕を上げて避けようとするが、間に合わず服の裾に突き刺さった。
谷岡はそのまま俺にぶつかって壁にクナイ槍をめり込ませた。
雷竜の槍を手放して、谷岡の躊躇が一切ない勢いのこもった拳を両手で掴んで止める。
「おい谷岡、どういうことだ!」
急いで谷岡の両手を必死に掴みながら話しかける。
「ショウ絶対離すな!多分そいつも神の書で呼び出された敵だ!」
タツヤが叫びながら谷岡に向かってダガーを振り下ろす。
谷岡の長い足がタツヤの手に持ったダガーを蹴り飛ばしている。
「ちょっと待て、なんで谷岡が敵なんだよ!」
「普通に疑問なのは見た目だ!なんでそいつだけ制服なんだ!」
タツヤが起き上がりながら返答する。
「それはモンスター倒した金でオーダーメイドって……。」
「オーダーメイドでもボタンや校章まで完全再現できるわけねえだろ!」
「だとしても、神の書で谷岡が出るってどういうことだ!」
俺たちが叫んでいると、部屋の隅で座っていた富士が立ち上がっていた。
「ごめん、私は谷岡くんが怖い……。」
涙を大量にこぼしながら富士が嗚咽混じりに叫ぶ。
慌てて立ち上がった宇喜田が杖を俺と谷岡に向ける。
「ブレイズ……。」
「ちょっと待て!魔法ストップ!俺にも当たる!」
俺が必死に叫んでいると、谷岡が俺の腹部に頭突きをしてきた。
谷岡の後ろでタツヤとサイアがダガーを構えているが、谷岡が想像以上に暴れているのに加え、俺に当たる可能性があるからか迂闊に近づけずにいた。
「サイア、こいつだけ凍らせることはできるか?」
「どう足掻いてもショウ様ごと凍らせることになります。」
「ああ、クソが!」
俺は叫びながら谷岡の右腕を離した。
咄嗟に腕が離されたことでバランスを崩した谷岡に向かって拳を突き出していた。
必死に鼻を押さえて悪臭を無視しながらメイド服を着たミイラへと近づいていく。
髪は何色かわからないくらい萎びていて、顔も誰か判別もできない。
今わかるのは首が異様に曲がっているのが死因というくらいだろう。
机の上にあるノートを確認する。
ここ最近も使われていたらしいペンに一瞬目がいくが、すぐに視線をノートへ戻して開いた。
『きょうは3にんのひとがかってにやしきにはいってきた。たいちょうさんがいってたとおりとじこめてこらしめようとした。ひろったまほうからみたことないもんすたーがあらわれて3にんをおいかけていった。』
拙い文章で書かれたノートを見ながら次のページをめくるが、白紙だった。
「日記?」
少し考えながら横のノートに埋め尽くされた本棚を見る。
「これ全部が日記?誰の?」
困惑しながらノートを反対方向に閉じると、裏に著者らしい名前が書いてあった。
『みりあ・おくとぬべす。』
全部ひらがなで書かれているところからして、まだ幼い人物が書いたのだろう。
「あのメイドも幼いけど、あれくらいならカタカナも使いそうな……。いや、今はそれはどうでもいいことね。」
ノートを閉じて棚へと向かい、一番古そうな左上の段の端にある日記へと手を伸ばした。
埃をかぶって、紙が少しパサついたりしているが、崩れずに無事本を棚から取り出す。
『おもいでをのこしたいからきょうからにっきをかくことにした。なまえもうしろにわたしのなまえもかきこんでみた。ごしゅじんさまのためにがんばろう。』
最初の日記はそれくらいの文章と次のページに緑髪の女の子が笑顔で腕を振り上げている絵が描かれていた。
あのメイドがミリア・オクトヌベスであっているのだろう。
流し読みをして重要な文章とかはないか確認していく。
何冊か読み終えて6冊目に入った。
『きょう、ごしゅじんさまにあいされた。いたいしとてもくるしかったけど、ごしゅじんさまに求められたのがすごくうれしかった。』
内容を忘れたいと思いながら次のページをめくると、前ページの情景を少女漫画に近い絵柄で丁寧に描かれた逢瀬の絵が現れた。
主人らしき男がメイドを上から首を絞めるように覆い被さっている絵だ。
「ここだけ書いたやつ別なの!?」
少し絵に呆れた感心をしながら急いでページを捲る。
『やしきにたくさんのぶきをもったひとたちがやってきてやしきのなかであばれまわった。なんにんものめいどさんがころされた。ごしゅじんさま、ぶじだといいなあ。』
ページを捲ると、少女漫画風に描かれた人物たちが赤い色で塗りつぶされていた。
そのあとは侵入者が来たりとか主人が帰ってこないとか書いてあってばかりだった。
「飽きないのかしら、これ書いてて。」
呆れながら次々と日記を取り出して読み漁っていく。
『きょう、またひとがかってにはいってきた。ぜんしんくろいよろいをみにつけていて、かおがいっさいわからなかった。』
適当に呼んで次のページをめくろうとしたところで再び文字のページを見る。
「黒い鎧?」
脳内で蔦と泡で包まれて一切動かなかった黒い騎士が素通りしていく。
次のページを開くと、十字の覗き口に赤い目が浮かんでいる黒い鎧の絵が描かれていた。
気になって次のページをめくろうとした瞬間、手に棒が叩きこまれた。
横を向くと、私に突撃してきていたあの箒が宙に浮いていた。
多分見えないだけで、目の前にあの緑髪のメイドがいるのだろう。
「もしかして、これ全部あなたの日記?」
私が尋ねると、机の上にあったペンが突然動き始めて日記のページに書き込まれる。
『ここはごしゅじんさまがわたしをあいするためにつくったへや。ちらかさないで。』
「愛するための部屋ねえ……。」
後ろのミイラを見た後、箒から大体の位置を予想して顔があるであろう空間に視線を向ける。
「ご主人様に殺された部屋の間違いじゃない?」
次の瞬間、首が急に締め付けられるような感触が伝わってくると同時に壁に押し付けられた。
「バーニング……スター……。」
杖に炎を宿らせて本棚に近づけると、首を絞める力が緩んだ。
徐々に炎を弱くしていくと、相手も落ち着いてきたのか、首を絞める力がなくなっていた。
「普通に話すことはできる?」
首を抑えながら声をかけると、日記帳とペンが宙に浮いてきた。
箒も同時に浮いているから少なくとも手に持っている感じではないだろう。
『しんにゅうしゃとはなしたくない。』
「じゃあ、ごめん!」
私は叫びながら杖の先端で微かに灯っていた炎をさらに強くしてミイラに向かって投げつけた。
何もない空間に箒を持った人の形が燃え上がっていた。
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