80話『山奥の館』
「この森の奥なのか?」
水晶玉の中で足の包帯をサイアに巻き直してもらっているユリに話しかける。
『ええ、足跡が見えるでしょ?』
「ああ、よく見える。」
俺の前で背をかがめたタツヤがでかい足跡を睨め付ける。
「この足跡を辿っていけばいいのか?」
『あの時私を襲った狙撃手の破片もその足跡と同じ方向に向かっている。急いで足跡を追って。』
「それはわかるんだけどさ……。」
不機嫌な声が聞こえてくる。
後ろにいるレイスケが嫌そうな表情で山道を歩いていた。
「僕を転送使ってまで呼び出す必要性はあったの?」
『私は怪我しているし、カエデは今牢屋から出させてもらえない状態で人手が足りないの。あなたたちが足跡の主を見つけた時に、タツヤに持たせた魔法陣でサイアと入れ替わりで来てもらうから。』
レイスケは水晶玉から聞こえるユリにため息をつきながら俺たちの後をついていく。
ようやく建てられた家で呑気にポーション作りをしていたら急に弓矢を持ってこっちに来いって言われたら困惑するのも無理もない。
「とりあえず早く行こうぜ。ユリの言っていることが本当なら少なくとも厄介なモンスターがいるのは確実だから。」
タツヤが木の上を適宜見回しながら話しかけてくる。
「んじゃ、その舌伸ばしてくる透明なモンスターに気をつけておくよ。」
『気をつけてね。』
ユリは念押しした後、水晶玉から姿を消した。
水晶玉をカバンにしまいながら茂みを掻き分けながら歩いていく。
「伏せろ!」
山を登っていると、タツヤが突然上を見上げてすぐに屈んだ。
俺はレイスケを突き飛ばしながら屈んで上を見上げる。
さっきまでレイスケがいた場所に赤い粘性のものが伸びてきていた。
「なになに!?」
驚いているレイスケを無視しながら立ち上がって槍を振りぬく。
伸びている舌は槍の柄に巻き付いて引き込もうとしてきた。
一瞬足が地面から足が離れる。
「こいつ結構力強いぞ!」
俺は近くの木の浮き上がった根っこ部分に足を蹴り入れる。
うまい具合に根っこの間に靴がはまった。
「須賀、この伸びた舌の先だ!普通の方で頼む!」
俺は後ろで弓矢を持っているレイスケに向かって叫ぶ。
レイスケは慌てて弓に矢をつがえて慌てて引き絞っていた。
震えながらも放たれた矢は正確に伸びた舌の根元に向かって飛んで行った。
しかし、本体が透明化して隠れているであろう木の上を矢は通りすぎて、もう一本奥の木に刺さった。
「え?」
レイスケが信じられない表情を浮かべながら俺に視線を向けてくる。
確かに俺が言っていた箇所を矢は正確に通っていた。
「本体あそこにあるんじゃないのか?」
俺が木の上に集中をしていると、クチュッという音が手元から聞こえてきた。
槍に視線を戻すと、伸びてきていた舌の先端部分が花みたいに開いていた。
開いた箇所からヤツメウナギとかの星形みたいな口を表してクシュルルルと鳴き声をあげる。
「ショウ動くな!」
タツヤが白いダガーを握って振りかぶった。
長い舌の先端が動いて、タツヤのダガーを振り上げた腕に何か白い線が降りかかる。
「糸!?」
タツヤが腕に降りかかったものを見て困惑していると、勢いよく空中に放り投げられた。
「タツ……!」
俺がタツヤに手を伸ばした瞬間、長い舌の根元が俺の方に向かって素早く叩き込まれていく。
根っこに足を引っ掛けていたせいでバランスがうまく取れずそのまま倒れ込んだ。
「これ生物の舌じゃねえ!舌みたいな生物だ!」
腕から宙吊りにタツヤが叫んで状況がよくわかった。
顔を上げると、目の前に長い舌が地面に落ちてとぐろを巻いている。
長い舌は牙を剥き出しながらシュルリルッと鳴き声をあげていた。
多分尻尾部分から糸を出してぶら下がり、上から奇襲をかけるワーム系、ミミズ系のモンスターなのだろう。
ミミズが素早く地面を這って俺に近づいてくる。
咄嗟に起き上がって逃げようとするが、根っこに嵌めた足が全く動かない。
「こっちに来んな!」
俺は槍をミミズに向かって振り下ろすが、ミミズはうまい具合に体を反らして槍を避けてそのまま槍に巻きついて俺に向かってきた。
咄嗟に槍をそのまま地面に突き刺して体を反らしながらカバンに入ったクナイ槍を取り出して振り上げる。
ミミズは伸びてくるクナイ槍を交わして俺がさっきまで足を引っ掛けていた根っこの木へと飛び移った。
レイスケが放った矢を体をくねらせてかわしながら木を這い昇っていく。
急いで根っこに挟まった足を抜いて雷竜の槍を手に取る。
クナイ槍を急いで回るような投げ方をしてタツヤに絡みついた糸を切った。
糸が切れて地面に落ちるタツヤの上をミミズが牙を剥き出して飛びかかっていた。
「ナイス、ショウ。」
タツヤは急いで立ち上がってナイフを構えてミミズを探し回る。
ミミズは木に登って後ろ側に回ってから姿が見当たらなくなった。
俺はレイスケの腕を掴んでタツヤの後ろに周り、背中合わせで空を見上げる。
「須賀、見つけたらすぐに矢を打ち込んでくれ。外してもいい。」
俺はレイスケに指示しながら雷竜の槍の穂先をすぐに向けられるように構える。
タツヤももう1本の青いナイフを取り出して、いつでも投げれるように構える。
俺は自分の視界内を真剣に見ながら、他の2人の反応にいつでも対応できるように身構える。
「いた!」
茂みからガサッと音がすると同時に、レイスケが矢を放った。
矢が衝突した茂みからミミズはクシュルルルと泣きながら飛び出して、レイスケに向かって飛びかかってくる。
反射的に槍を真横へと向けることに全力を尽くす。
「放たれろ!」
俺は叫ぶと同時に手に持った槍の穂先が飛び出して行った。
ミミズは空中にいるにも関わらず少し動いて穂先をかわした。
穂先はミミズの奥にあった木に命中し光りながら爆発する。
「何やってんだ!」
レイスケが涙目になりながら腕を組んで尻餅をついた。
的が細長い分、避けられること自体は想定していた。
槍を打ち出した反動で持ち上がった槍をそのまま回して石突を向けて足を踏み込む。
突き出した石突でミミズを捉えたのを確認すると同時に地面に槍を突き立てた。
ミミズは地面にめり込むほど押し付けられて少し動きが鈍る。
「そのまま捉えてろ!」
タツヤが叫びながら2本のダガーでミミズを挟み、そのまま首を斬り潰した。
首だけになったミミズはクシュルルルと力なく叫んだ後、その場で動かなくなった。
俺とタツヤのカバンの中に入った水晶玉が光り始める。
『モンスター【タンネットワーム】討伐報酬:銀貨10枚』
水晶玉からミミズ、タンネットワームの死が伝えられた。
「結構強かったね。」
「強いというより、厄介だったな。」
腕にまだ絡みついていた糸を取っ払いながらタツヤが地面を再び見始める。
足跡を再び追い始めて山を再び登っていく。
かなり歩いたところで、タツヤが立ち止まった。
「なんだこれ?」
タツヤが尋ねながら指をさした先には大きな屋敷が現れた。
石造りでかなり古びた作りをしている。
「ここが足跡の持ち主、というか長谷たちの拠点なのかな?」
「ユリ、到着した。」
俺が水晶玉を取り出して話しかける。
『わかった、魔法陣を展開して。』
ユリに言われた通りにタツヤがカバンから魔法陣の書かれた大きな紙を地面に広げる。
『『転移書簡』。』
水晶玉のユリが唱えると同時に魔法陣からユリとサイアが現れた。
「足の怪我は大丈夫か?」
「教会のシスターに治癒してもらったから大丈夫。」
そう言いながら立ち上がったユリは別の魔法陣を設置する。
「須賀くんも手伝ってくれてありがとね。」
「君たちに頼んで矢を買ってきてもらったんだからお礼を言うのは僕のほうだよ!また用があったら呼び出してくれ。それまで僕も弓の腕を鍛えとくよ。」
それだけ言うと、レイスケはユリの敷いた魔法陣の上に立った後、魔法陣の中へ落ちていった。
「さて、この中に長谷がいるってことであってる?」
魔法陣をしまって立ち上がったユリが古びた屋敷へと視線を向けながら確かめてきた。
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