8話『異世界講座』
「彼の運送、感謝します。」
登録証を確認した村の門番が、運送された兵士と共に頭を深々と下げる。
タツヤはイヤイヤとジェスチャーしながら兵士に手を振る。
「俺もその人に馬車の使い方教えてもらえたからここまで来れたんです。」
俺は村に着くまでの道中で兵士から馬車の扱いに関するアドバイスをもらっていたタツヤの姿が思い出される。
もしアドバイスもらってなかったらこの門に衝突する形で来ることになっていたかもしれない。
「じゃあとりあえず僕の借りてる宿に案内しよう!」
荷車の中で、レイスケが俺の肩を叩いてくる。
助けを求めようとカエデの方を見るが、カエデはサイアを抱きしめながら目をそらす。
レイスケが持っていたポーションでカエデの火傷は完治したからか、何も言えないのだろう。
「おい須賀、なんか馴れ馴れしくないか?」
俺はレイスケに睨みつけながら質問をする。
「だってこっちの世界に来て会えた学校のやつお前らだけだもん!馴れ馴れしくもするさ!」
そう言いながらタツヤの元へ近づく。
「その右の角を曲がったら馬車止める待機所だよ。」
タツヤは相槌を打ちながら右へと曲がっていく。
馬車を待機所の管理人に渡してレイスケのいう宿へと向かう。
俺たちが到着した村は囲いの村と違って、出店や建物より農地が多い村だ。
依頼所や宿屋など、旅人や冒険者に必要な施設は最低限ある程度で、それ以外の村の6割を農場と化している。
「おうレイ!この前は農作業手伝ってくれてありがとな!」
宿屋の隣の倉庫らしい建物から麦わら帽子を被ったおじさんが話しかけてきた。
「いえいえ、居候の身なのでこちらもそれ相応の働きをして当然です。」
レイスケはおじさんと和気藹々と喋っている。
「あいつこの世界に順応するの早いな。」
タツヤが俺の耳元でコソコソと話しかける。
ふとおじさんが俺たちを見る。
「お前らレイの友人かい?ここの料理はうまいぞ。」
おじさんは豪快に笑いながら腰につけたポーチから麻袋を取り出す。
麻袋の中からはクッキーが出てきた。
「もらっていいですか?」
カエデが目を輝かせてクッキーを見つめる。
もちろんとおじさんが首を縦に振るとクッキーを数枚取って口に頬張る。
こっちの世界で久々の糖分だからかカエデがこの上ない幸せな表情を見せてる。
「あ、私ももらってもいいですか?」
ユリが丁寧にお辞儀しながら1枚もらって口に入れる。
美味しいと顔だけで表現しているユリの後ろから、深々とローブを被ったサイアが手を覗かせる。
「サイアも食べよ!」
カエデがサイアの口にクッキーを押し込む。
ローブの奥からサイアの輝く目が見えてほっこりする。
「じゃあ僕たちはちょっと話したいことがあるのでこれで。」
そういうとレイスケが宿屋の中へ入って行った。
俺たちもおじさんにお礼をして宿屋に入って行く。
部屋の中に入ると、それなりに大きな部屋がある。
「広いなここ。」
「たまに村の周辺に現れるモンスターを倒した報酬も注ぎ込んで借りてるからね。」
そう言いながらレイスケは俺たちをソファに案内する。
上座にレイスケ、俺、タツヤの順に、下座にカエデ、ユリ、サイアの順番で座る。
「サイアちゃんだっけ?君にはこれをあげるよ。」
レイスケはニコニコ笑いながらサイアにクッキーを渡す。
サイアが丁寧にお辞儀して口に含んだ。
「美味しいです……ね……。」
サイアは笑顔で返事しようとしていたが、言い終わる前にユリの膝へ眠りこけた。
カエデが立ち上がって剣の炎の刃先をレイスケの喉元に伸びる。
「安心して、リラックス効果と睡眠効果のある薬草を混ぜてあるだけだ。」
「どこに安心する要素があるの?」
カエデの剣の刃先が集束し赤い刃へと変貌する。
レイスケは汗を流しながら真剣な表情で説得を始める。
「勝手に食べさせてすまない。ただ今は知らない人に話を聞かれるのはちょっと怖いんだ。普段は僕が眠れない時に食べるやつだから。」
「弓と矢筒を机に置いて。」
カエデの静かな、それでも怒りが感じ取れる声で忠告する。
レイスケは手元に持っていた弓と矢筒を机の上に置いた。
カエデは不満そうな表情でソファに座り直す。
「まず、お互いが持っている情報を出し合わないか?」
レイスケは紅茶と茶菓子を持ってきながら提案をしてくる。
今度は薬草がまぶしてなさそうだ。
「須賀、まずはお前が知っている情報を教えてくれないか?」
横からレイスケを睨みつけながら拳を見せる。
タツヤも手に短剣を持って俺の横からレイスケを見ている。
「そうだね、まずは武器について知っていることを話すよ。小畑くん、僕の弓矢を持ってみて。」
レイスケはタツヤに弓と矢を渡して壁に向かっていく。
タツヤが弓を持ったのを見て、レイスケはカエデにも使ったポーションを取り出す。
「じゃあ小畑くん、僕の腕に弓を打ってみて。」
「は!?」
レイスケの唐突な発言にタツヤが変な声をあげる。
「大丈夫、このポーションをかければ風穴は塞がるから。」
「いや……でも人を撃つことはその……。」
タツヤが戸惑っていると、立ち上がったカエデがタツヤから弓矢を取り上げる。
「サイアに薬盛ったの、これでチャラにする。」
カエデは弓を力一杯引き絞り、躊躇いなくレイスケの腕目掛けて矢を放った。
矢は、レイスケの腕に浅く刺さった。
「おかしいな、力一杯引き絞ったのに……。」
怪訝そうな表情をしているカエデを矢が刺さった場所にポーションをかけながらレイスケがフフフと笑う。
「そうなんだよ、剣道部の主将でもあるゴリラな早川さんが弓を引っ張っても僕の腕に全くささr……。」
レイスケの失礼な発言にカエデが頭を鷲掴んで壁に押し当てる。
「次似たような発言をしたら剣で刺す。」
「やめて、それは死にかねないから……。」
カエデが手を離すと、レイスケはゼエゼエと息を荒げる。
「とりあえず、この通り力の強い人が弓を引っ張ってもひ弱な僕にそこまでダメージを負わせれないのはわかったね?」
レイスケの質問に俺たちは首を縦に振る。
「多分これはカエデの『兵種』が関係してるんだ。」
レイスケはカエデの剣を指差しながら喋る。
「この世界では選んだ兵種によって、武器の使いやすさが変わるんだ。」
レイスケはそう言いながら武器の描かれた紙を取り出す。
「この世界の武器は大きく分けて剣、斧、槍、ダガー、弓の5種類に分かれるんだ。そこから剣なら刀や大剣や細剣、槍なら棒や薙刀、弓ならクロスボウとか銃とかなりの種類に分けられる。」
武器の絵が描かれた紙でレイスケは丁寧に説明していく。
「つまり、私は剣士だから弓より剣の方が使えるってことか……。」
カエデが自分の剣を見ながら険しい表情を浮かべる。
丁寧に調べたと考えると、少し尊敬の目を向けそうになる。
「次は属性と魔法についてだね。」
すかさずレイスケが新しい紙を取り出す。
紙には六角形の図面が描かれている。
「この世界では炎、生、水、土、雷、風の6つの属性が存在する。魔法も主にこの6種類とそこから派生した数種類の属性で成り立っているものが多くて、髪の色でその人の1番使うのが得意な魔力がわかるんだ。わかりやすい例だと早川さんと蒼山くんだね。」
レイスケは俺とカエデの髪に指を差しながら説明する。
確かにこっちの世界に来てから、俺の髪は黄色くなり、カエデの髪も赤くなっている。
「早川さんは赤色だから炎属性の魔力が高くて、炎関連の魔法や武器が使いやすくなる。それで髪が黄色い場合は雷だね。蒼山くんなのに髪が黄色いのおもしr……。」
気がついたら、俺の腕がレイスケの胸ぐらを掴んでいた。
「ごめん……言いすぎたね……。」
レイスケは引きつった笑顔を見せながらソファに座り込む。
早くカッとなる癖は治したほうがいいなと思いながら机の上の紅茶を飲む。
俺が落ち着いたのを見計らって、ユリが手をあげる。
「私は魔法使いだけど、髪は黒いままなの。その場合はどうなるの?闇属性とか言わないよね?」
「その場合は普通に全部の魔法が使えるんだよ。髪色が変わっている人はその属性魔法に全て振ってる感じ。早川さんで例えるなら、炎属性の魔力は平均よりものすごく高いけど、それ以外の魔力は平均よりすごく低いみたいな感じ。」
喋り終わると、レイスケは一息ついてソファに座り込む。
「それと魔法使い系の役職について調べたんだけど、魔法使いのみ持っている魔導書の魔法しか使えないって聞いたけど本当?」
興味深そうな顔でレイスケがユリに話しかける。
「そうね、私が今持っているのは一般的な水魔法の本と神が授けた魔導書があるわね。神様からもらったの戦闘向きじゃないけど。」
「次は君たちの番だ。」
レイスケは紅茶を1杯飲んで聞く姿勢を取った。
「じゃあこれについて話し合おう。」
ユリはそう言ってあの時の新聞を出して今まで得た情報を数時間に渡って共有した。
外の窓を見ると、すでに夕方になっていた。
「今共有できる情報はこれくらいだね。」
「情報を教えてくれてありがとね。」
そういうとレイスケは水晶玉を取り出す。
「どうした?」
「え、グループで動いていて知らないの?」
レイスケが驚いた表情で俺たちを見回す。
レイスケは呆れた表情で俺に水晶を向けた。
「蒼山くんも水晶玉をかざして。」
レイスケに言われるがまま俺もカバンから水晶をかざす。
互いの水晶が光り始める。
皆が見つめる中、水晶玉の白い光が徐々に弱まっていき、消えていった。
水晶玉を見つめると『レイスケ・スガ』と書かれている。
「そこで待っててね。」
レイスケはそういうと、部屋を出ていく。
少しして水晶玉が光り始めた。
「応答って言って〜。」
廊下からレイスケの声が聞こえてきた。
「応答。」
呟くと、水晶玉の中に風景が映る。
『やあ、ここから見えるかな?この水晶の便利な機能だよ。伝言を送る能力もあるから知ってて損はないと思うぞ。』
水晶玉の中でレイスケが笑顔で説明してくる。
水晶玉に連絡の機能があることを知って4人も水晶玉を取り出していく。
数分後、全員の名前が水晶玉から見れるようになったところで、話し合いは終わった。
ここまで読んでいただ、ありがとうございます。もしこの作品を読んでいただいた後に感想を書いていただければ励みになります。また、どこか漢字や文法の間違いがあった場合、指摘していただけるとありがたいです。