79話『釈放』
「ショウ、元気か?」
タツヤが手を振りながら牢屋の前に立つ。
「俺はそろそろ出れそうか?」
俺は少し震えながら話しかける。
俺の入っている牢屋には、長谷の部下、下田、黒井が俺に殺意のこもっている視線を向けてきていた。
「今から出してもらえるぞ。本格的に屋敷を燃やしたカエデはまだ1週間ほど出れないらしいけど。」
タツヤが話していると、2人の兵士が牢屋の鍵を持って歩み寄ってきた。
俺が扉から出てきた瞬間、長谷の部下が俺と兵士たちを突き飛ばす。
「おい待て!お前は牢を閉じろ!」
すでに牢屋から少し離れていたタツヤが足を伸ばして長谷の部下に引っ掛けた。
転んだところを兵士が押さえつける。
牢屋の方を見ると、兵士が牢屋の鍵を再び施錠していた。
長谷の部下が2人の兵士に連れて行かれるのを見ながら俺はタツヤと他の兵士と共に牢屋を出て行った。
黒井と戦い終えてから半日経った。
元から街で暴れ回っていた長谷の部下と下田と黒井、それを止めるために戦って屋敷に損害を与えた俺とカエデは投獄されていた。
道や地下水道に穴を開けたりした下田とすでに何人かの騎士に重傷を負わせた黒井は、天川が必死に交渉して死刑は免れているが、一生牢獄にいる可能性はあるだろうとのことだ。
「それで、杉原がどこに行ったかわかったのか?」
「とりあえず赤い棍棒を持っている男に連れて行かれたって情報はあった。」
タツヤが俺の質問に返事しながら地図を開く。
長谷の部下を追うために、長谷の相手をナオミに任せた。
その時から一切姿を見なくなっていた。
「やっぱ捕まっていたのか。」
「ユリを狙っていた狙撃手も手伝ったらしい。白い弾丸が落ちていたんだと。」
「それ生きているのか?」
「通った後に血があったから怪我しているだろうね。生きていることを願おう。」
タツヤと話しているうちに、鍛冶屋に到着した。
店の中に入ると、椅子に座ったダイキが俺たちに視線を向けてきた。
「ショウ、お勤めご苦労様。」
「悪い、まだ嫁さん見つかってねえ。」
「嫁じゃないよ。」
ダイキは苦笑いを浮かべながらタツヤを小突く。
「俺は武器とかを作るのは上手いけど、金勘定や宣伝とかをナオミに頼っていたし、少し鍛冶屋が寂しくなる。どうか彼女を早く見つけて連れ帰ってくれ。」
ダイキはそう言うと俺たちに頭を下げてきた。
俺とタツヤは一瞬目を合わせた後、同時にダイキの肩に手を置いた。
「絶対に連れ帰ってやる。」
俺の返答に、ダイキが少し安堵の表情を向ける。
「それと話は逸れるけど、新しい槍を作ってくれないか?」
困惑した表情を再び浮かべたダイキに俺は申し訳なく感じながら、かつてダイキが作ってくれた槍を差し出す。
長谷と戦っていた時に、2本に分かれる槍の半分が弾かれた際に燃やされて溶けてしまっていた。
2本に分かれた槍を交互に見た後、ダイキが少し笑う。
「実は新しい槍を考えていて、試験段階のものが出来ている。」
ダイキは話しながら戸棚の引き出しを開ける。
引き出しの中から忍者とかが使うクナイに似たものが10本くらい入っていた。
「見た目から安直に『クナイ槍』って呼んでるんだ。」
「だいぶ短くないか?」
手渡されたくないを眺めながら爪みたいになっている部分を掴むと、少し違和感があった。
もしやと思い2人から離れてクナイを縦に振った。
くないの中から管状に柄が次々と伸びてきた。
「伸ばして使う感じか!便利だな!」
「デパートの玩具屋にあった伸びる剣から思いついた投げに特化した槍だ。ちょっと使ってみてくれ。」
ダイキが空きスペースに案山子を設置しながら提案してきた。
槍を逆手に持って振りかぶって案山子に狙いを定める。
「アダチ!鎧の点検を頼む!」
俺が案山子に向かって投げつけるのと同タイミングで、入り口から普段着姿のアルバインが入ってきた。
槍はアルバインの目の前を通って案山子の頭部に突き刺さった。
俺たちの怯えるような視線が鍛冶屋に入ってきたアルバインへと向けられた。
「貴様ら、俺に恨みでもあるのか?」
アルバインの落ち着いたトーンの声が鍛冶屋内に響く。
俺たちは必死に首を横に振りながらその場で両手を上げる。
「俺たちはただ新しい武器の使い勝手を見ていただけであなたに恨みは一切ありません!」
俺の必死に弁明している姿と、案山子に刺さっている槍を見て、アルバインも納得したようだ。
アルバインはため息を吐きながら無数の矢がぶつかった跡の残っている鎧を兵士たちに運ばせてきた。
「ではあとは頼むぞ!」
そういうとアルバインは鍛冶屋を出て行った。
重かった空気から解放されてその場で息を整える。
「何であの人はこうもタイミング悪いんだ……。」
「毎度冤罪かけられるのはしんどいぞ。」
俺は少し愚痴をこぼしながら案山子に近づく。
槍は案山子の頭部を突き抜けて後ろから飛び出している。
「使い勝手はどうだった?」
「確かに投げやすかったし、石突部分に開いた穴にロープくくりつけて引き戻すのもできそうだな。」
性能について話ながら案山子に刺さった槍を引っこ抜いて柄を戻した。
「結構便利だな。ありがとう。」
「銀貨15枚ね。」
俺は銀貨を渡してもらってから槍を管の中にしまい込んで鞄にしまった。
「これが見つかりました。」
王国の外側の壁の外周を歩いていると、サイアが地面から何かを掴んでこっちに戻ってくる。
怪我はまだ完全に回復しきってないが、動けないわけではない。
昨夜戦いにあまり参加していなかった私が頑張る番だ。
手渡されたのは白い破片だった。
胸ポケットに布で覆って持っていた、1週間前に体に打ち込まれた白い弾丸と照らし合わせる。
おそらく白い弾丸も同じ素材でできている。
「コンクリート……。」
白い破片の触り心地から考えられる素材を口にする。
一度、コンクリートを使うゴーレムと戦ったことがある。
あの時確かにショウとタツヤが魔石を砕いていたはずだ。
「あれで生きているの?」
「ユリ様……。」
サイアが裾を掴んで話しかけてくる。
「大丈夫、少し考え込んでいただけだよ。」
「そうではなく、ユリ様のいるところ……。」
サイアは足回りを見回しながら呟く。
足元を見ると、何かの輪郭が見える。
その場から距離をとって、輪郭を指でなぞっていくと大きな人型の足跡が浮かび上がってきた。
「これって……。」
「ジャイアントの足跡ですね。」
冷や汗をかく私の横で、サイアが冷静に答える。
私は足跡の指先が向いた方へと慎重に歩いていく。
茂みを少し抜けると、また別の巨大な足跡が見つかった。
足跡を慎重に辿っていって森の中をサイアに支えられながら歩いていく。
徐々に歩いていくと、足跡がどんどんはっきりとし始めていく。
「もしかしたら、この足跡の先に長谷が……。」
「ユリ様!」
足跡を見ていると、サイアが襟首を掴んで後ろに勢いよく引っ張ってきた。
後ろに尻餅をつくと同時に、目の前をピンク色の物体が伸びてきて横の木にビタンとぶつかった。
上を見ると、何もいない木の上から舌みたいなものが伸びてきていた。
上の方からクシュルルルと音にしづらい鳴き声が聞こえてきた。
「ユリ様、引きましょう。」
サイアが腰からダガーを取り出しながら私の前に立つ。
私は頷きながら何もない空間へとぐろを巻いて戻っていく舌を眺めながら歩いてきた獣道を慎重に2人で戻って行った。
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