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78話『バレット・ホームラン』

『タツヤ、東側のどこにいるの!?』

水晶玉から息を荒げて走るカエデが話しかけてくる。

路地裏から道路の周囲を見回して目印になりそうな看板を探す。

私はタツヤの肩を叩きながら魚の絵が描かれたレストランの看板に指をさした。

手首の掠めるように家の壁を貫通して白い弾丸が飛んでくる。

サイアが徐々に痛み始める手首を凍らせて出血を抑え始めた。

「魚の看板が掲げてあるレストラン近くの路地裏だ。急いで来てくれ!」

『わかった!魚屋探すのね!』

不安になる返事を最後に水晶玉からカエデの姿が消えた。

ぎこちない表情を浮かべてタツヤが私の方を見る。

「たぶん伝わっているから今は待とう……。」

私が説得すると同時に目の前を白い弾丸が通る。

「とりあえずここから離れましょう。」

サイアが氷で作った潜望鏡を覗き込みながら話しかけてくる。

「すぐに壊せ!」

タツヤがハッとした表情でサイアに詰め寄る。

確かに屋根から氷の物質が出ていたら、今もサイアを探しているだろう冒険者に見つかる可能性がある。

というか、その潜望鏡が狙撃手に位置を知らせていることになっている。

サイアも意図を察したようですぐに水を溶かした。

「ユリイイィ!!どこおおぉ!!」

路地裏に通じる大通りからカエデの声が聞こえてきた。

迎えが来てくれたことに安堵すると同時に、大通りの方で銃弾が床にぶつかる音が聞こえてくる。

「対象を変えた?」

少し驚きながら、路地裏から顔を出す。

大通りの真ん中で、抜き身の剣を持って周囲を見回すカエデの姿があった。

咄嗟に手を伸ばした瞬間、手のひらを白い弾丸が貫通した。

「あ“!」

手のひらを抑えながら路地裏に引っ込む。

カエデがポーションを取り出しながら路地裏に入り込んでくる。

「敵は壁の上にいる狙撃手?」

「うん、壁越しからの命中率からして人間の可能性は低い。ゴーレムだと思う。」

私の手のひらにポーションをかけているカエデが嫌そうな表情を浮かべる。

「弓使いや狙撃手って、遠距離ばっかり……。」

カエデがため息を吐きながら私を力一杯引き寄せる。

さっきまでいた場所を白い弾丸が家を貫通しながら飛んできた。

口ぶりからして、遠距離の敵と戦ってこっちに来たのだろう。

なんか申し訳ない気持ちになってきた。

「カエデは何かできるか?」

「あの距離近づかないといけないし、刃を飛ばせたとしても飛距離的に無理だと思う。」

「ショウは?」

「私が捕獲した敵、黒井と壊した屋敷について今アルバインさんと話している。」

淡々とカエデが返事をすると、タツヤがボーッと夜空を見上げている。

「ユリの魔法は?」

「射程圏外。」

私の返事を聞いて、カエデも夜空へと視線を向ける。

多分、この距離から反撃できるとしたら、ショウしかいないだろう。

そのつもりでタツヤに呼び出してもらったが、今からだと間に合わないかもしれない。

「ユリ、何か策はある?」

「ごめん、ない。」

カエデはため息を吐くと、立ち上がって家の壁に開いた穴と銃弾で砕けた床の位置を見ていく。

「よし、サイアちゃんは氷で階段を作って。」

「はい。」

サイアは返事をして壁に手を当てて氷の足場を生成していく。

「カエデ、一体何するつも……。」

「ユリは2枚の魔法陣をこの鞘に重ねて巻きつけてもらってもいい?」

「あ、わかった。」

カエデの提案に頷くと同時に、右足首を白い弾丸が壁を貫通して掠めてくる。

「……っつ!」

「大丈夫!?」

うずくまった私にタツヤがもう1本のポーションを足首にかけてくる。

「ありがとう。」

私はタツヤに礼を言いながら渡された剣の鞘に魔法陣の描かれた紙を巻き付ける。

「階段を上がったら、私を泡で囲ってね。」

カエデは剣を鞘に戻して氷の階段を上がって行った。

「バブルドーム!」

私がカエデを泡で包むと同時に、泡が凄まじい速度で湾曲した。

「ありがとう!泡を解いて!」

「けどそんなことしたら直撃する!」

「位置がわかれば問題ない!」

私は少し不安になりながら氷の階段を登ってバブルドームを解除した。

屋根の上でカエデが鞘に収まった剣をそのまま構えている。

「魔法陣を起動させて。」

落ち着いたカエデの声を聞いて頷きながら本を開く。

「『転移書簡』。」

カエデの持つ剣の鞘に二重に重なった魔法陣が展開される。

壁の一箇所から一瞬光ったと同時にカエデ魔法陣の起動している剣を光に向けた。白い銃弾が魔法陣に吸い込まれ、吸い込んだ魔法陣の紙の下にあるもう一枚の魔法陣から白い弾丸が排出された。

白い弾丸は向かってきた軌道をそのままなぞるように壁に向かって飛んでいった。

壁の上の方に明るい火花が飛び散り、黒いマントを羽織った人影が棒状のものを持ったまま外側へ崩れ落ちていくように見えた。

「いけた?」

「安心できないからまだ魔法陣は展開して。」

カエデが息を整えながら壁を睨む。

数分経って銃撃がないのを確認して、カエデが一息ついて屋根の上に座り込んだ。

張り詰めた空気が一気に消えていった。

「多分倒した……。」

額からじわじわ出てくる汗を拭いながらカエデが笑顔を浮かべる。

私も安堵しながら屋根から顔を出し、下で姿勢を低くしている2人に親指を立てる。

サイアは安堵の表情を浮かべて地べたに座り込んでいる。

ガッツポーズをしていたタツヤは急いで水晶玉を取り出す。

「ショウ、こっちは無事片付いた!」

タツヤが満面の笑みで話しかけるが、すぐに笑顔が引き攣り始める。

「あっちで何か起こってた?」

私が腰の抜けたカエデを支えて階段を降りながら話しかける。

水晶玉を覗き込むと、手をロープで拘束されて正座させられているショウとロープで身体中をぐるぐる巻にされた黒井の姿があった。

『おい、仲間が話しかけているぞ。』

水晶玉から聞いたことのあるおっさんの声が聞こえてくる。

おそらく過去に私たちが護衛をしたアルバインだろう。

「ショウ!なんで捉えられているの!!?」

カエデがタツヤから水晶玉を取り上げながら叫ぶ。

『とりあえずカエデはすぐに戻ってこい!』

疲れた表情を浮かべたショウの叫び声が水晶玉と遠くから聞こえてきた。

心当たりのあるらしいカエデは申し訳なさそうな表情を浮かべていた。


「お疲れ様です、イッペイ様。」

壁に引っ掛けていたロープを回収していると、後ろから声をかけられる。

振り向くと、あの刃付きマントを被った少女が箱を背負ったジャイアントと共に現れた。

ジャイアントの下ろしたに箱に、気絶した杉原を詰め込む。

「神器のマントですか。被っていなかったら致命傷と言ったところですね。」

少女は杉原の頭を撫でながら怪我の度合いを見る。

杉原を見ていると、壁伝いに歩く音が聞こえてくる。

振り向くと、ボロボロのマントを被った人影が白い粉を落としながらフラフラと棒を支えに歩み寄ってきた。

『してやられました……。』

鳴き声に近い声をあげる人影がマントを取り、顔を持ち上げる。

埴輪みたいに3つの点で表現され、目元から涙腺みたいに伸びた縦線が印象的な顔が現れる。

「それで、新しい量産型のボディの調子は?」

ゴーレムのマスター、平田に頼まれていたことを思い出して尋ねる。

『そうですね。手のひらの魔砲門は私たち意外にも使いやすくなっています。ただオプションパーツの狙撃用砲身はまだ改善の余地がありますね。』

ゴーレムは通常の音声で手に持った棒、砲身を手のひらの魔砲門と呼ばれた穴に再びつけ直してみせる。

だがそれ以上に、白い鎧ごと貫かれたらしく開いた穴が空いていることを少ししか気にしていないのが少し驚きだ。

このゴーレムが今もなお量産されていると思うと敵に回さなくて良かったと思う。

「それで俺の部下や他の仲間は?」

「捕縛されました。」

俺の質問に少女が淡々と答える。

「おい今なんて言った!」

俺は振り向いて少女の胸ぐらを掴もうとした。

少女の体は掴んだところから徐々に粒状になってこぼれ落ちる。

「牢獄の部下みたいに切り飛ばしますよ?」

少女が睨みながら俺から距離を取る。

俺はため息をつきながら箱の中に入り込む。

「あいつらを助けに行く気はあるか?」

「ありません。神器持ちとはいえ捨て駒想定の作戦だったので彼らが逃げられるかどうかですね。文句は計画立案者の3時の番人に仰ってください。」

そこまで言うと少女とゴーレムも箱に入り込んだ。

俺が入ると同時にジャイアントが箱を背負った後、森の奥を走りはじめる。

ここまで読んでいただ、ありがとうございます。もしこの作品を読んでいただいた後に感想を書いていただければ励みになります。また、どこか漢字や文法の間違いがあった場合、指摘していただけるとありがたいです。

また、ここ最近新しい環境の変化で筆の進みが少し遅くなりつつあります。何かいいリフレッシュ方法などを教えていただけるとありがたいです。

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― 新着の感想 ―
今晩は。 読ませて頂いております。 ゴーレムの狙撃に対して、転移を用いた擬似的な反射で撃破と理解であっているのかな? 面白い方法と思います。 ただ、表現を入れ込み過ぎて、逆に理解し辛くなっているか…
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