76話『自在の弓と狙撃手』
黒石暦は、学校ではかなり浮いていた奴だ。
厨二病で、学校内で魔法陣とか作ったり水晶玉と言いながら持ってきたビー玉で占いとかしたりと結構浮いている存在だったのは覚えている。
そんな黒石は今、屋根の上から弓に数本も矢をつがえながら俺に話しかけていた。
「貴様何者だ!」
騎士の1人が叫びながら剣と盾を構える。
「我が名を聞く前に貴様から名乗ってもらおうか!」
黒石は高らかに笑っている。
「パーズ王国の王政を担う貴族、キロヴ・イルザスの次男、グラム・イルザス!」
剣と盾を構えた騎士は怒りのこもった声で屋根の上の黒石に向かって叫ぶ。
「我はこの世界の軍神ラーグルより天命を受けし100の兵士が1人にして神器『自在の弓』の使い手、コヨミ・クロイシである!」
黒石は自己紹介をすると同時に、引き絞った弓をグラムと名乗った騎士に向かって放った。
グラムはすぐさま飛んでくる矢に盾を向けた。
次の瞬間、矢は急カーブして盾を避け、そのまま横から鎧と兜の間を縫い込むように突き刺さった。
「なん……だと……。」
グラムはあり得ないと言いたげな声を兜から出しながら倒れた。
その場にいた騎士たちが慌てて騒ぎ出した。
「さあ友よ、共にこの世界の人類を共に抹殺しにゆくぞ!」
黒石は俺に向かって手を伸ばしてきた。
後ろを振り向いて長髪の男が冒険者たちに歯がいじめにされているのを確認する。
「黒石、俺達は今、他の学校のやつを探す冒険をしているんだ。」
俺は槍を持った手を伸ばしながら黒石に向かって叫ぶ。
黒石の顔にさらに笑みが浮かぶ。
「そうか!ならば共に仲間を探し人類の殲滅を……。」
「放たれろ!」
バレないように角度をつけた槍の穂先が打ち出され、黒石の乗った家の屋根を壊した。
黒石は驚いた表情で屋根の壊れてない箇所に掴まる。
「けど、俺たちは人と戦いに来たんじゃねえだろ!」
俺は槍を両手で掴みながら黒石に向かって叫ぶ。
黒石は少し信じられない表情をした後、俺を真顔で睨みつける。
「そうか、神の命に背くのか!」
「その神の命令は魔王討伐じゃなかったのか!?」
「まあいい、貴様は我にその雷の神器を向けた以上、死を覚悟したまえ!」
そう言って黒石が屋根から手を離した。
黒石が空に伸ばした手が、すでに飛ばしていたらしい浮遊している矢を掴んだ。
再び近くの家の屋根に着地した黒石が俺に向かって弓を向ける。
2つの矢印が絡み合うような形の弓には、3本の矢がつがえられていた。
「我が弓から放たれる矢からは何人たりとも逃げることはできない!」
黒石が叫びながら矢を放った。
走って避けるが、3本とも急カーブして俺に向かってくる。
単純に放った矢を自在に操れる弓と考えていいだろう。
振り返って向かってくる矢に槍を叩き込む。
2本の矢にぶつかって、1本が折れた。
折れた矢はそのまま道路に落ちて動かなくなった。
「待ちたまえ!」
黒石が矢を掴みながら上空を飛んで追いかけてくる。
策を考えていると、横の路地裏からカエデが飛び出てきた。
「放たれろ!」
カエデが叫びながら黒石に向かって赤い刃を飛ばしてきた。
黒石は一瞬驚いた表情を浮かべたが、上空から音を立てて落下してきた矢が刃にぶつかって軌道を逸らした。
黒石は横で起こった刃の爆発を見て軽く青ざめた表情を浮かべていた。
「ああもう!収束!」
爆発の炎を回収しながらカエデが悔しそうな表情を浮かべる。
「大丈夫かカエデ!?」
「ふざけんなあの厨二病!ずっと空中から矢飛ばしてくるし、不意打ちの投刃も全部弾かれるし!」
カエデは俺と並走しながら愚痴をこぼす。
確かに近接戦メインのカエデとは相性が悪いのは目に見えている。
「まあそんぐらいなら対処は可能だ、矢も折れば追尾機能がなくなるから……。」
「31本。」
カエデが走りながら数を呟いた。
「……なんのこと?」
俺は何を言っているのかなんとなく察したが、他の可能性を期待して尋ねる。
「ショウと会うまでに叩き折った矢の数だよ!ここに来る前にたくさん飛ばしている!上を見て!」
カエデが指を上空にさしながら叫ぶ。
見上げると、夜空には無数の星空が浮かんでいるが、それをたまに隠すように無数の細い何かが飛び交っている。
「あれが全部矢ってことか!?」
「そうさ!我が弓が一度でも矢を放ったら壊れるまで自在に浮かばし続けることが可能だ!故にどのような巨大な敵が立ちはだかろうと、スイミーの集合体の如き矢の群れに敵うものはいない!」
上空から黒石の高らかな笑い声が聞こえてくる。
「ショウ、何か作戦とかある?」
少し肩で息をし始めているカエデに首を横に振る。
今の所思い浮かぶ、可能な黒石の対抗策はゼロだ。
「とりあえず対処しやすい狭い場所を探そう!」
俺はそう叫びながら上空を矢の群れが飛び交う道路を走っていった。
血が滲んで痛む腕を押さえながら路地裏から壁を見る。
人影は今のところ見えない。
出来れば奴には私を見失っていて欲しい。
「他の皆を探さないと……。」
路地裏を必死に歩いて周囲の音を聞き取る。
未だにサイアを探し回っているらしい冒険者たちの声が聞こえる。
私の後ろにいるサイアが不安そうな表情で服の裾を掴んでくる。
この世界での狼種の獣人に対する差別意識を考えると、捕まったら碌な目に遭わないのは明確だ。
「大丈夫、私がついているから……。」
少し声を上げた瞬間、近くの家の壁に穴が空いた。
穴の空いた家から悲鳴が聞こえてきた。
家に開いた穴の位置から逆の方の壁を見る。
小さな人影が壁の上に見えた。
「バレてる!」
急いで遮蔽物になる家の壁に隠れる。
「ユリ〜!どこだああ!」
近くからタツヤの声が聞こえてくる。
水晶玉が手元にないのがここまで苦しいことは今までにないだろう。
「タツヤ、路地に隠れ……!」
私が少し叫んだ瞬間、家の壊れる音と同時に足に激痛が走った。
「ユリ様!」
サイアが一瞬目を見開いて驚いたが、すぐに氷を生成して足に当ててきた。
必死に声を抑えて家の壁から顔を覗かせる。
この国をモンスターの襲撃から防ぐために聳え立つ壁の上の小さな人影からは、夜空でわかりにくいが微かに細い煙が見える。
「ユリ!無事か!」
声の方を向くと、ダガーを持ったタツヤが頬を抑えながら走り寄ってきた。
急いで家の裏に引き込んでタツヤの鞄を探る。
「落ち着け、ポーションはこっちだ。」
タツヤがジャケットからポーションを取り出して手渡してきた。
急いで足に空いた穴にポーションをかける。
足の肉が徐々に塞がっていく。
「ありがとう……。」
私は息を整えながらタツヤに寄り添う。
「ユリ、いったい何が?」
「この国を囲む壁の上に、狙撃手がいる。」
私が説明しようとした瞬間、サイアが私の襟首を掴んで引っ張る。
家の壁を貫通しながら私とタツヤの間を白い弾丸が通り抜け、石畳の床に穴を開けていた。
穴の空いた石畳を見て、タツヤが身震いしながら家から顔を出す。
「なあ、その狙撃手は人間なのか?」
首を引っ込めたタツヤが笑いながら私に話しかけてくる。
「かなり遠くのはずなのに私の声を聞いていくつもある家の壁突き破りながら銃弾を打ち込んだくる狙撃手が、人間だと……生物だと思う?」
私がタツヤに尋ねると同時に、再び壁に穴を開けて銃弾が撃ち込まれてきた。
「じゃあ何者なんだよ!?」
タツヤが軽く悲鳴まじりに話しかけてくる。
今思い浮かぶ上で最悪の筋書きが徐々に浮かび上がる。
土を使う敵とは、3度戦ったことがある。
1体は自ら、2体は私たちが倒した。
そして、奴らは6体仲間が存在すると言っていた。
そして、長谷たちが暴れ始めると同時に奴も動き出し、ショウから離れた私を狙い始めた。
多分、この計画が起こることをわかって動いているのだろう。
「シンパシアと名乗っていたゴーレム、戦って2体は壊した。残っている4体のうちの誰かが、私たちを狙っているのかもしれない。」
私が考えられる最悪の答えを呟くと同時に、家の壁を貫通して白い弾丸が私の頬を掠めていった。
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