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72話『知人の手がかり』

目を開けると、隙間に赤い液体が入り込んだ石畳が目の前に広がっていく。

手元に穂先が真っ赤に染まった雷竜の槍がある。

少し視線を上げると、目の前に腹部が真っ赤に染まったフレイクの姿があった。

「フレイクさん!」

俺は急いで槍を放り投げて近寄った。

右腕に触れた瞬間、目を見開いたフレイクが途端に腕を掴んでくる。

「お前のせいだ。」

今にも死にそうな表情でフレイクが呟くと同時に、俺の腹部から剣が飛び出てきた。

「よそ見してんじゃねえよ……。」

カルミネの声が耳元で聞こえると同時に、腹部に刺さった剣が体を裂きながら俺の顔に向かってきた。

「うわああぁ!!」

叫びながら目を閉じた瞬間、剣が骨を砕いて登ってくる音が消えた。

目を開けると、木材が敷き詰められた天井が映っていた。

体を起こすと、横の窓から陽の光が差し込んでいた。

壁にかけられた時計は2時を指していた

「またか……。」

周囲を見回してベッドから降りると、扉を開けてトレーを持ったタツヤが入ってきた。

「よお、よく眠れたか?」

テーブルに朝食のパンとシチューが乗ったトレーを置きながらタツヤが話しかけてくる。

俺は息を整えながら首を縦に振って返答する。

追放される形ではあるが、ディモンド王国を出て4日経った。

俺とタツヤはパーズ王国に近い村の宿屋に泊まっていた。

「長谷のやつ、やっぱり王国には入ってないのか?」

「カエデが依頼所行った時に長谷の指名手配の紙がもう貼られていたって言ってたからそれで見つかってないとなると王国の壁周りに潜んでいるのかもしれないな。」

タツヤが持ってきてくれたパンを食べながら返答する。

先にパーズ王国に転移で到着したカエデが、鍛冶屋にいたダイキとナオミにも協力してもらって長谷を探しているが今のところ見つからないらしい。

「そろそろ行けるか?」

「ああ。」

食べ終わったトレーを机に置きながらコートを着込んで宿屋を出る。

俺が見張り台に乗ったのを確認すると、タツヤが馬車の手綱を引っ張る。

馬が歩き出し、馬車は村を出て歩き始めた。

「ショウはもうちょっと寝てていいぞ。」

下からタツヤが馬車を操りながら話しかけてくる。

「いや、一応周囲にモンスターがいないか確認しないと。」

「2日前もうなされていて目のしたにクマできてただろ。」

下からタツヤが促してきたから、少し見張り台の上で寝っ転がる。

30分ほど寝っ転がって空を見ていると、徐々に荒かった息が徐々に安定してくる。

少し体を起こして見張り台から周囲を見回す。

右に鬱蒼とした森が広がっていて少し奥にコバルトンの群れが見えたりするが、襲ってくる様子はない。

「見えてきたぞ。」

タツヤが話しかけてきて振り向くと、パーズ王国の壁が徐々に見えてきていた。

壁をぼーっと見ていると、馬車の歩みが徐々に止まっていく。

「どうした?」

「人が道路をまっすぐ来てるんだ。」

道路を見ると、フードを深く被った旅人らしき人が馬車に向かって歩いてきていた。

馬車が少し道をずれると、旅人も馬車の前へと移動してきた。

一瞬困惑した表情を浮かべながらタツヤが道に馬車を戻すと、旅人も立ち塞がるように移動してきた。

「すみません、どいてもらってもいいですか?」

タツヤが尋ねると、旅人がフードを取った。

「すみません…水をくれませんか……。」

ボロボロな茶髪に痩せ細ったような青年が俺たちの前に現れた。

「ショウ、こいつって……。」

「なんだ知っているのか?」

見張り台から降りて馭者台のタツヤの元に近づく。

フードをとった青年の顔は学校でも一度見かけたことのあるやつだ。

確か隣のクラスにいた倉田悠太とかだったはずだ。

「お前倉田か?」

タツヤが馬車を停止して降りて、倉田に尋ねた。

「名前を知ってる!?こっちに来るな!」

突然倉田は驚いたような声を上げながら白いラッパみたいなものを取り出した。

ラッパの息を吹き込む方をタツヤに向けて叫んできた。

気迫に押されてタツヤは両手をあげてその場で動きを止める。

「おう、動かないからちょっとそのラッパを降ろして……。」

「信用できるか!持ってる武器置いてくれ!馬車の横にいるお前もだ!」

倉田は俺にも左手に持ったラッパの吹き込み口を扉から顔を出している俺に向けながら叫んでくる。

俺は手に持っていた雷竜の槍を馬車の中にある机の上に置いて馬車から降りる。

タツヤも地面に青い短剣を置きながら徐々に後ろに下がっていく。

「倉田、そんなに怯えるって何があったんだ?」

タツヤは慎重に話しかけているが、倉田は答える様子は一才なさそうだ。

「もう一度言っておくが、俺たちはお前に危害を与えるつもりは一切ない!」

俺が両手をあげて震えている倉田に向かって叫ぶ。

倉田は周囲を何度も見回した後、慎重にラッパをおろした。

「本当に、敵じゃないのか?」

不安そうな声で倉田が話しかけてくる。

俺とタツヤは首を縦にブンブンと振ると、徐々に倉田は近づいてタツヤが地面に置いた短剣を拾ってこっちに近づいてきた。

タツヤが俺に近づいてきたところで、倉田はその場に倒れ込んだ。

近づいて確認すると、だいぶ肌がカサカサしている。

「タツヤ、これ多分脱水症状だ!」

「荷物置き場から水取ってくる!ショウは倉田を馬車に入れておいてくれ!」

タツヤが走って後ろの荷物置き場に入って行った。

俺は倉田を抱えて馬車の中の椅子に寝転がせた。

タツヤが水の染み込んだタオル首の付け根、両脇、太ももの間に挟んでいく。

「なあショウ、この右腕……。」

タツヤが脇にタオルを挟みながら倉田の右腕を持ち上げる。

倉田の右腕は左腕に対して少し干からびていた。

十数分後、ぼんやりとした目を開けた倉田が馬車の中を見まわし始めた。

「よお。起きたか?」

トランプをシャッフルしていたタツヤが話しかけると、倉田は飛び起きてローブの中に手を突っ込んだ。

「僕の銃は!?」

倉田が青ざめた表情でタツヤの胸ぐらを掴んできた。

「落ち着け、これのことだろ。」

俺はトランプを机に置いて、横に置いていた白いラッパを掲げる。

おそらく、倉田の神器はこの白いラッパみたいな銃なのだろう。

急いで倉田が飛びかかろうとしてきたが、タツヤが後ろから羽交締めにして抑える。

「何度も言っとくが、俺たちはお前と戦うつもりはないから。」

俺がラッパを机に置いて両手を上げる。

タツヤが解放すると、倉田は急いでラッパを左手で掴むとすぐにローブの下に隠して椅子に座る。

水の入ったコップを渡すと、コップを隅々まで確認してから一気に飲み干した。

「いくつか聞きたいんだけど、どうしてそんなに怯えているんだ?」

タツヤが尋ねるが、まだ信じきれていないのか倉田は俺とタツヤを交互に見る。

意を決した倉田はもう一杯水を飲んだ後、口を開いた。

「2日前、近くの王国に到着した際にクラスの人に会ったんだけど、そいつらがパーズ王国でテロを企てているんだ。」

「「テロ!?」」

俺とタツヤは倉田に近づいて詰め寄る。

俺たちの驚きの反応を見た倉田は少し安堵の表情を浮かべる。

おそらく、倉田が想定していたテロに俺たちが関わっていないことがわかったのだろう。

パーズ王国と反対側から来る馬車ってところで敵ではないとわかって欲しかったがそれほど怖い思いをしたのだろう。

「そのテロ計画って、誰が何のために考えたんだ?」

「確か5人くらい人がいて、覚えているのは1組の下田くんと野球部の長谷くんだったと思う。」

「今長谷って言った!?」

倉田の口から長谷の名前が出てきた瞬間、タツヤと共に胸ぐらを掴む。

長谷の手がかりが向こうから来てくれたことはだいぶ楽になる。

ただそれ以上に気になることがあった。

「5人って言ったか?」

俺が聞き返すと、タツヤに揺さぶられた倉田は冷や汗を流しながら頷く。

タツヤがすぐに紙を取り出して倉田の情報を書き出していく。

「まず5人くらいがテロを企てていて、うち2人は長谷と1組の下田淳二なんだね?」

タツヤが詰め寄ると、倉田は首を縦に振る。

下田淳二は1組で上川一と共に漫才やお笑いの話で盛り上がっていたお調子者だ。

「下田がテロに参加するとは思えないけど……。何をするか言っていたか?」

「確か……罪をもみ消している腐敗した騎士や貴族に鉄槌を下すとか言っていた気がする。」

倉田の話を聞いて、タツヤに視線を向ける。

タツヤも察したのか、眉をひくつかせて俺に視線を向けていた。

「まさか2人もそんな馬鹿げたテロに参加しないか考えてないよね!?」

「いや、参加する気はない。」

俺は不安そうな表情で話しかけてくる倉田を諌める。

「ただあの国の騎士のことを考えると、要求がすごく納得いくんだよな。」

タツヤが苦笑いを浮かべながら俺の言いたかったことを伝えた。

「とりあえず、パーズ王国に向かおう。タツヤ頼む。」

「了解。」

俺が話すと、タツヤは急いで馭者台に乗っかる。

すでに夕日が差し掛かっているパーズ王国に向かって馬車が走り出した。

みなさまお久しぶりです。

親戚の葬式や風邪にかかったりなど色々な諸事情でしばらく休みをとっておりました。

私も無事健康になり、今まで通り投稿を再開しようと思います。

そしてここまで読んでいただ、ありがとうございます。もしこの作品を読んでいただいた後に感想を書いていただければ励みになります。また、どこか漢字や文法の間違いがあった場合、指摘していただけるとありがたいです。

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