71話『追放』
「これより計画を話す。」
ユリが真剣な表情で俺たちを見回しながら話しかけてくる。
ベッドにふんぞり返っているせいか、あまり威厳はない。
「それよりユリは動けるのか?」
「5日後には動けるようになるからそれまで私はここにいることになる。」
「じゃあまだしばらくここにいないか?」
俺はユリの返答に呆れながら尋ねる。
「そういうわけには行かない。脱獄した長谷が逃げた方がわかったから…。」
「長谷とかどうでもいいだろ。」
タツヤの説得を遮るように声を強めて言う。
今は長谷を捕まえる以上に重要なことがある。
「よくないよ、あの燃やす神器も彼の手元に戻ってるからほっといたら被害が出る。早く捕まえないと…。」
「捕まえるのはこの国の騎士たちの仕事だろ?」
再びユリの発言を遮るように喋る。
言葉に詰まったらしく、ユリが呻きながら枕で顔を隠していた。
「ランスマスターさんのこと?」
カエデが不安そうな表情で話しかけてくる。
俺は無言で頷いて返答する。
あの戦いの時、俺の槍技を喰らったフレイクは今も目覚める気配が無い。
数日前、救護室でフレイクに寄り添っているキーソンくんに出会った。
「母を生きて連れて帰ってきてくれてありがとうございます…。」
キーソンくんは俺に感謝の言葉を述べてくれたが、笑顔は必死に作られているのが見てわかるほどだった。
あの時に言われた言葉が、今も頭の中で響いている。
今も目覚めない彼女を見ていると、離れるわけにはいかない。
「俺はフレイクさんの意識が戻るまでここに…。」
「ショウ、気持ちはわかる。」
横からタツヤが肩に手を置きながら話しかけてくる。
「ただお前がいないと…。」
「旅の話なら前衛はカエデ1人で十分だろ。ユリ達を守り切れたんだから…。」
「いや、そういう話じゃ…。」
タツヤが何か言おうとした瞬間、救護室の扉が開き兵士が続々と入ってきた。
何しに来たのか考えているうちに、ユリの寝そべったベッドを中心に囲んできて槍と剣を突きつけてきた。
「待って俺たち何かしたか!?」
「それについて今から詳しく話す。」
兵士たちの間を押し除け、団長が輪の中に入ってきた。
「あの、これは一体…。」
「体を起こさなくていい。要があるのはそこの黄色い少年だ。」
団長は俺に向き直りながら近寄ってくる。
「フレイクさんのことですか?」
「ああ、ランスマスターが倒れたのは貴様の槍技が要因だったな?」
団長の質問に首を下げた瞬間、すぐさま襟首を鷲掴んできた。
「話の内容は貴様の処遇についての話だ。」
恨みが詰まっているのがわかるくらい、団長の腕の力が強くなっていくのが布越しでわかる。
この国で強いランスマスターでもあるフレイクを瀕死にしたんだ。
最悪死刑にされるかもしれないけど、俺が原因だから文句はない。
カエデたちが何か言いたげな表情をしているが、言えるような雰囲気ではない。
「それで、俺はどうやって殺されるんですか?」
俺は少し体を捻って起き上がり、団長に面と向かって尋ねる。
「オーツ王を含めた王国の議会の最終判決を伝える。ランスマスターのフレイク・タニティアが目を覚ますまでショウ・アオヤマのディモンド王国での滞在を禁ずる。」
「は?」
判決を聞いて、俺は自分の聞き間違いかどうかを考える。
「そんなわけない!俺はフレイクさんを…ランスマスターを意識不明にしたんだ…。」
「次起きたらまずお前を全力で殴り飛ばすから覚悟しておけ。」
団長の口から出たセリフを聞いて口が動かなくなった。
間違いなくフレイクが俺に言った言葉だ。
「あいつは言ったことは必ず約束を守るやつだ。この約束も守るだろう。」
団長は俺に顔を近づけて、話しかける。
いまだに俺の襟首を掴んでいる手の力は強い。
「それに神器を使える貴様を殺すわけにはいかないという擁護派の意見によって、追放で済んだ、それだけのことだ。」
そこまで言うと、団長は俺の服の裾から手を離して、救護室を出ていった。
次々と槍や剣を構えていた兵士たちも次々と部屋を出て行った。
「ショウ、大丈夫か?」
横からタツヤが話しかけてくる。
「ああ。」
俺は少し戸惑いながらも返事をする。
後ろからカエデが肩に手を置いてくれた。
「じゃあ改めて計画を話す。」
ユリが後ろから話しかけてくる。
「まず脱獄した長谷くんについてだけど、逃げたのは東のパーズ王国の方向で合ってるよね?」
「ああ、東側の住人が少女に連れられている長谷ともう1人の姿を見たって言っていた。」
ユリの質問にタツヤが首を縦に振りながら話しかける。
「ということで、カエデは転移書簡で鍛冶屋の2人の元へ向かってパーズ王国の西門方面で待機、ショウとタツヤは馬車でパーズ王国へ向かう。私とサイアは私の完治後、片岡に魔法陣の書かれた紙を渡した後にカエデと合流する。」
「要するに挟み撃ちってわけだ。昨日のうちに馬車は準備してあるからすぐに行くぞ。」
タツヤが話しながら俺の手を掴む。
「わかった、ちょっと待ってくれ。」
俺は第4救護室を出た後、第3救護室の中に入る。
近くのベッドでは目を閉じたフレイクがいた。
「1ヶ月間、訓練をつけていただきありがとうございます…。」
目を覚さないフレイクに一礼する。
「目を覚ましたと聞いたら、まっすぐあなたの元へ向かいます。」
俺はそういうと、扉の前で待っていたタツヤの元へ向かう。
「もういいのか?」
「ああ。」
俺は頷いてタツヤに連れて行かれて門の前に止めてある馬車の前に来た。
馬車の横には片岡が立っていた。
「見送りか?」
タツヤが尋ねると、片岡が頷いた。
「目が覚めたら、報告してくれよ。」
「ええ、彼女が目覚めるまで追放と聞かされた以上、あなたと会うのはあっちの世界に戻ってからになりそうなので。」
本人は皮肉を言ったつもりなのだろうが、今までと違って嫌な気分にはならない。
片岡はそれだけ言うと、城の中へと入って行った。
「んじゃ、行くぞ。」
タツヤが馬車の扉を開けて手を差し伸べてきた。
俺はタツヤに引っ張られるように馬車に入る。
椅子に座ると同時に、馬車はゆっくりと城の門を出て行った。
2階の階段を上がったところの窓から、アサハラ王国の紋章が描かれた馬車が門から出ていくのが見えた。
「友人の見送りは済んだか?」
廊下の奥から団長が話しかけてきた。
「騎士団長様、先程は報告を代わって頂きありがとうございます。」
「勘弁して欲しかったがな…。」
団長は少しぶっきらぼうに返事しながら返事をする。
僕の方を振り向いて手招きをしてきたから着いていくと、玉座の間に連れてこられた。
中央ではオーツ王が今回の戦いの被害状況が書かれた書類を確認していた。
「報告です。先ほどショウ・アオヤマに判決を伝えてきました。」
団長は報告をしながらその場に跪いた。
まだ慣れてない僕も少し遅れて跪いて頭を下げる。
「ご苦労だった。」
オーツ王は団長に一言だけ言って再び書類を見直している。
「何か言いたげだな。」
玉座の間からオーツ王の淡々とした口調で団長に話しかける。
「小僧を見逃すのが嫌だったか?」
オーツ王の質問に、団長は全身を震わしながらさらに頭を下げる。
「あなたのお言葉を聞いておいなければ、救護室であの少年の首を切り落としていたに違いありません。」
僕は団長の言葉を聞いて軽く青ざめる。
遠目で救護室に兵士が入っていくのを見た時に報告だけのはずなのにと思っていたけど、だいぶ蒼山が危険な状態だったことに少し寒気を感じた。
王は少しため息を吐くと、机の上に置いていた冠を被る。
確か、一度見たことある人間と視界を共有することができる神器とかだったはずだ。
「小僧の乗った馬車は…外に向かったか。」
冠を取った王は一言呟いていた。
「兵士たちの訓練へ戻れ。」
オーツ王がつぶやくと団長はすぐさま立ち上がり、玉座の間を後にした。
「では、僕も書類の整理に戻ります。」
「好きにしろ。」
僕はオーツ王に一礼した後、玉座の間を出て廊下から窓の外を眺めた。
あの二人が出て行った東の門が閉めていくのが見えていた。
ここまで読んでいただ、ありがとうございます。もしこの作品を読んでいただいた後に感想を書いていただければ励みになります。また、どこか漢字や文法の間違いがあった場合、指摘していただけるとありがたいです。
また、花粉症も相まって風邪に近い症状が出始めているので、しばらく休暇を取ろうと思います。
4月1日から再開しようと考えております。
それまで喜んで待っていただけると嬉しいです。




