表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/126

69話『確保と脱獄』

「怪我人2人、うち1名は致命傷を受けてる、シスターを連れてこい!」

「城内にまだ土人形がいたら殲滅しろ!」

兵士たちが次々と入ってきて俺たちを囲ったりフレイクの元へ近づいたりしていた。

「蒼山、無事か!」

扉から白いローブを着た天川が入ってきた。

「ここだ。」

「そいつ、あの時サフィア王国の姫様襲ったやつか?」

俺が頷くと、天川が扉に向かって杖を高々と掲げた。

兵士たちの間をかき分けて、1人の女性が入ってきた。

全身黒い服を纏っていて、頭も膨れ上がるような頭巾を被っている。

ファンタジー作品とかでいう、シスターなのだろう。

「トラドンサキア教国のルスタインです。幹部の捕獲を任されています。」

微笑みながらルスタインという女性が俺たちに近づく。

後ろからはバンダナを巻いたローブを着た少女が周囲を見回している。

どっかで見たことあるけど、少しも思い出せないし、それよりも今はフレイクの心配だ。

「すみません、それよりも先にフレイクさんを…。」

俺は何名かの兵士に包帯を巻いたりしているフレイクに指をさす。

ルスタインは周囲を見回した後、水晶を取り出した。

「フログ、重傷の者がいるので城へ来てください。」

『今向かっています!』

水晶から聞こえると同時に、壁に開いた穴から白髪で眼鏡をかけた青年が入ってきた。

手には杖があり、教会の神父のような服を纏っているから多分モンクというやつだろう。

「司教様、怪我人は!」

「あそこです。」

ルスタインがフレイクに指をさすと、フログと言われた青年は走ってフレイクの元へ向かった。

「では私も確保に移りますね。」

フログがフレイクに駆け寄ったのを確認したところで、ルスタインがカルミネの周りに種をばら撒くと、本を携えて杖を構えた。

「トラスアイヴィー。」

ルスタインが詠唱すると、ばら撒かれた種から目が出てすぐに蔦が伸びてきた。

伸びてきた蔦はカルミネの鎧に巻ついた後、さらに太くなって動きを止めた。

俺も多分槍がない時にこの蔦に絡まれたら抜け出すのは困難だろう。

「まだ隙間のあるうちに槍を引き抜いてください。」

ルスタインに言われて両足と体を貫いていた槍を引き抜く。

「バブルジェイル。」

引き抜いた血のついてない槍を見ていると、ルスタインが見たことのある本を開いて詠唱をする。

カルミネは蔦を絡まされた上から泡の牢獄に閉じ込められていた。

「この蔦さ、後々引っぺがすの大変じゃねえか?」

泡の中からカルミネが声を出すと、周囲にいた兵士たちが槍を突き立てれる構えを取った。

「安心しろ、今全力で解こうとしても無理だから。」

カルミネは冗談混じりの声で話すが、蔦と泡で動けないにも関わらず周りの兵士は安堵の表情を浮かべる気配はない。

「報告です。」

扉から見たことない国の紋章が入った鎧を着た兵士が入ってきた。

「サイア城南側で戦闘をしていたディモンド王国軍がゴブリンたちを退きました!また魔王軍幹部の1体と名乗ったジャイアントを炎の剣を操る剣士が討伐したとのことです!」

報告を聞いた兵士たちが再びざわめき始める。

カルミネの兜が報告に来た兵士に向いた。

「それ本当か?」

「はい!上半身は弾け飛び、下半身は焼けこげておりました!」

報告を聞いた兵士たちがその場で盛り上がっている。

カルミネはそのまま動かなくなった。

「では我々はこの騎士を連れて行きます。ドワーナはこの騎士が暴れたら抑えれるように身構えていてください。」

ルスタインはカルミネを浮かせながら、ドワーナと呼ばれた少女を連れて廊下を歩いて行った。

俺は周囲の兵士の間を通って、フレイクとモンクの元へ向かう。

「あの、フレイクさんは…。」

「腹部に空いた穴やそこにあった内臓などの致命傷は完治しましたが、それでもまだ重症です。足の骨とかポッキリ折れてて、さっきまでどうやってさっきまで立ってたのか聞きたいくらいです。それに…。」

フログがフレイクの頭を扉をノックするように小突く。

フレイクは頭を一切あげる様子がない。

「意識がない。」

フログを突き飛ばしてフレイクの胸に耳を当てる。

心臓の音は聞こえるが、肩を揺らしても反応がない。

「モンクとかシスターでもダメなのか?」

「神の力でも意識を戻すことはできません。命が助かったと思うだけ神に感謝してください。」

フログは気まずそうな顔で話したあと、部屋を出ていった。

「蒼山、その人は…。」

「俺に槍を教えてた人だ…。」

虚空を見つめる瞼に手を下ろして閉じさせる。

あのモンクは、腹部に開いた穴が致命傷だと言っていた。

その穴を開けたのは…。

「お疲れ様です。」

後ろから声が聞こえてきて振り向くと、片岡がいた。

次々とディモンド王国の兵士たちが入り込んでくる。

「ゴブリンたちは?」

「規約書簡に『効果範囲内のゴブリンは無抵抗で殺されるのを待て』って書き込んで動けなくなったゴブリン半数は減らしましたが、後の奴らには逃げられました。」

少し悔しそうな表情で片岡が呟く。

おそらくあのウィークとかいうゴブリンには逃げられたのだろう。

「カエデたちは?」

「早川さんたちならジャイアントを討伐して今は上原さんたちと城の壁あたりに居るはずです。」

片岡と話していると、担架を持った兵士たちがフレイクを乗っけて扉へ向かう。

「彼女の目が覚めたら、君たちにも報告をします。」

片岡が水晶を取り出して俺に向けてくる。

俺も水晶を取り出して片岡の水晶に近づけた。

互いの水晶が光を放ち、少しして消えた。

覗き込むと、『ソウ・カタオカ』と文字が浮かび上がっていた。

「これで通信もできるんでしたっけ?」

「そうだな、僕とも交換しとこう。」

片岡と天川が話していると、汗だくのディモンド王国の兵士が入ってきた。

身につけている服と鎧に返り血が付いてないのを見るに、この戦いに参加していなかったのだろう。

「伝達兵?ディモンド王国で何かあったのか?」

片岡が怪訝そうな表情を浮かべて兵士を見ている。

俺たちの方を振り向いた兵士は急いで俺たちの元へ走り寄ってきた。

「報告です!投獄されていた盗賊の頭とその部下1名が行方をくらましました!」

「はっ?どういうこと?」

片岡が目を見開いて兵士に詰め寄っている。

その言葉使いは普段から使っている敬語を一才使っていなかった。


森の木々から差し込んでくる陽の光が目を無理やり閉ざそうとしてくる。

「無事着いてきていますね?」

目の前を歩く周囲の風景を反射する頭巾を被った少女が話しかけてくる。

無言で首を縦に振ると、少女は再び森の中を歩いていく。

「頭、この女信じて大丈夫なんですかね?」

後ろから曲剣を携えている長髪の部下が周囲を見回しながら話しかけてくる。

確かに目の前の少女はとても怪しいし、ファーストコンタクトも最悪だった。

王国の牢獄にいた時、突然牢屋の中に現れて開口一番「こんにちは、クズども。」と言ってきた。

周囲にいた他の部下たちが殴りかかろうと近づいた瞬間、少女が一回転すると同時に近かったものは皆首が両断された。

少女が被っている頭巾の端から赤い血が垂れていたから、多分あれが凶器だろう。

ただその後に鍵を開けて俺たちが逃げ出すのに協力してくれ、さらには俺の神器まで持ってきてくれた以上、味方の可能性が高い。

「もうそろそろ目的地に到着します。」

少女が俺たちの方を見ずに呟くと、目の前の奥に5メートルほどの巨体の影が見えた。

目の前に箱を背負った巨人が近くの木から姿を現した。

「ジャイアント!?」

部下が俺の前に立って曲剣を構える。

俺も背中に背負っている棍棒の柄を握って臨戦体制に入る。

「彼は運搬係です。攻撃に転じようとしないでください。」

少女はため息を吐きながら俺たちの方を向いた。

ジャイアントが背負った箱を下ろして、側面の扉を開く。

中からは見知った男が笑いながら箱から出てきた。

「やあ長谷くん、前の世界ぶりだね。」

「渡辺…清路…。」

目の前の男、渡辺は俺に名前を呼ばれたのが嬉しいのか、笑みを浮かべながら近づいてくる。

こっちの世界で今まであった学校のやつは、皆敵対してきたが、こいつは襲いかかってくる素振りがない。

「武器を下せ、知り合いだ。」

部下を落ち着かせながら俺は渡辺の元に歩み寄る。

「よお、迎えに来てくれてありがとうな。」

「会って早々悪いが、君には手伝ってほしいことがあるんだ。手伝ってくれるかい?」

渡辺は笑いながら話しかけてくる。

生徒会でいろんな生徒の相談に真摯に向き合ってきたやつだ。

俺は二つ返事で首を縦に振ると、ジャイアントの箱の中へと案内された。

ここまで読んでいただ、ありがとうございます。もしこの作品を読んでいただいた後に感想を書いていただければ励みになります。また、どこか漢字や文法の間違いがあった場合、指摘していただけるとありがたいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ