66話『槍技』
「久しぶりだな、雷竜の槍使い。」
俺に視線を向けていたカルミネの左腕から剣が落ちてそのまま俺に向かって飛んでくる。
咄嗟に槍で薙ぎ払うが、弾かれた剣は空中でクルクル回転して再び俺に向かって飛んでくる。
再び飛んでくる剣を柄で塞ぐ。
「あの傑作ゴーレムとやらも倒してきたのか。」
カルミネが俺をまっすぐ見ながら呟く。
しかし今はそれ以上に別の方に視線が向く。
「フレイクさん、大丈夫ですか!」
俺はカルミネの横で薙刀を握って脂汗を浮かべるフレイクに話しかける。
すでに左の脇腹あたりから赤い模様が灰色の服に広がっていた。
「急所を狙ったが避けられた。楽にしてやろうと思ったのに。」
カルミネは呟きながら俺に向かって歩みを進める。
「逃げろ、あいつはお前より強い。」
フレイクが脇腹を抑えながら話しかけてくるが、そんなことを言っている状況じゃない。
「俺が相手だ、カルミネ・ガイスト。」
「ちょうど俺も前に殺されかけた借りを返したいからな。」
そういうとカルミネは背中に背負っていた鞘を全て地面に下ろして、剣を構える。
とりあえず今はカルミネをフレイクから引き離すことが優先だ。
「剣技『ヘイズレイド』。」
カルミネが聞いたことのないスキルを呟くと同時に、黒い鎧が目と鼻の先まで近づいていた。
咄嗟に槍を前に出して下から上がってくるように向かってくる剣を受け流す。
「剣技『バンブレイク』。」
後ろに半歩下がって立て直そうとしている間に、カルミネは振り上がった剣をそのまま勢いよく振り下ろしてきた。
横っ跳びで避けると、石畳の床に勢いよく叩きつけられた剣の刃が折れて俺のカバンを掠りながら後ろの壁にぶつかった。
上空から飛んできた剣を手に取って突き出してきたが、それをしゃがんで避けながら槍を振りかぶる。
カルミネは咄嗟に俺が振り上げてくる槍を突き出した腕の装甲でそのまま防いできた。
咄嗟に槍を捻って鎧の隙間に刺し込んだ。
「放たれろ!」
槍の穂先は鎧に挟まったまま青い光を放って爆発した。
俺は破裂の衝撃で吹っ飛ばされながらもすぐに立ち上がる。
カルミネに視線を移すと、電気がパチパチとなる右腕を確認していた。
「ほんと怖いなその槍。剣ぶっ壊れてんじゃねえか。」
カルミネは手の中で砕けた剣の柄を床にばら撒きながら呟く。
前は雷を喰らった時は死にそうと言っていたのに、今は大分余裕そうだ。
すでに対策済みというわけだろう。
「武器がなくなったのに、ずいぶん余裕だな。」
「そりゃまだ沢山あるからね。」
カルミネが笑いながら握っていた左手を広げる。
手品みたいに左手から溢れ出た火炎瓶が俺を囲むように飛んできて地面に破裂した。
「逃げ場がねえ!」
「さて、そのままゆっくり焼け死んでもらうか、それとも…。」
炎の間から微かに見えるカルミネが含みのあることを呟いている。
次の瞬間、後ろから空を切る音が聞こえてきた。
咄嗟に身を屈めて見上げると、上空を剣が飛んでいった。
飛んで行った方を見ると、もう1本の剣が壁に開いた大きな穴から入ってきていた。
「俺に叩き切られるかの2択だ。」
カルミネがしゃべると同時に、姿勢を低くしたのか炎の間から見えなくなった。
「剣技『ヘイズレイド』。」
炎の中を突っ切って、目と鼻の先までカルミネが近づいていた。
反射で槍の柄で下から上がってくる剣をいなした瞬間、肩を飛んでいた剣が掠っていた。
振り返ったカルミネの剣を、再生した穂と鱗の部分で挟んで固定する。
「まじか!」
カルミネが驚いて外そうとしているが、その前に剣が挟まったまま槍に踵を落として地面に叩きつけてへし折った。
カルミネは折れた剣を俺に向かって投げつけながら炎の外へと出ていった。
上空を飛んでいた剣は追撃してこずにカルミネが出て行った方へ飛んで行った。
「ただでさえあの女のせいで結構剣壊されたのにお前まで壊せるのか…。」
炎の奥からカルミネの呆れた声が聞こえてくる。
フレイクの訓練を受けているときに鎌槍で相手の攻撃を防いでそのまま巻き落とす訓練をしたが、ここで活かせるとはあまり思わなかった。
「まあいい、このまま俺が一方的に…。」
「さっきはよくもやってくれたな!」
カルミネの発言に被せるように、フレイクの声が聞こえてきた。
「ふざけんな!この場で1番してほしくない動きしてんじゃねえ!」
2人が揉める音と鉄がぶつかり合うような音が響きはじめた。
「ショウ、今のうちになんとかそこを出ろ!」
フレイクの声を聞いて、俺は周囲の炎を見回す。
今外で戦っているフレイクはポーションを持ってなかったから、あの怪我のまま戦っているはずだ。
時間をかけていると必ずフレイクが押され始めるのが目に見えている。
咄嗟に槍の穂先を床に向けてぶつかり合う音の方に石突を向けてしっかり握る。
「放たれろ。」
破裂した槍の穂先が爆発してその衝撃で炎の壁を飛び越えた。
目の前では互いに相手の武器を素手で掴んで睨み合っている2人の姿があった。
カルミネは鎧の上から槍を掴んでいるが、フレイクは素手で剣を抑えていて血が垂れている。
周囲にはカルミネが浮かして攻撃してくるような武器は一切ないが、これ以上フレイクにダメージを負わせられない。
「フレイクさんから離れろ!」
槍をカルミネに叩き込みながら、胴に回し蹴りを叩き込む。
後ろに引き下がったところでフレイクを抱えて距離を取る。
「手は大丈夫ですか?」
「問題ない。」
フレイクは呟きながら薙刀の穂先をカルミネに向ける。
「揃いも揃ってしぶといな。」
呆れたように覗き穴を左手で覆いながらカルミネが話しかけてくる。
ぎこちない動きで兜をガチャガチャ鳴らしているのが少し異様だ。
「しぶとくて結構。私はこいつや家にいる家族を守らないといけないからね。」
「守るものね〜。」
少し苛立った声を出しながらカルミネは俺たちに左手で押さえている兜をフレイクに向けた。
「あんた達みたいにこの国を滅ぼすような危ない奴らから大切なものを守るのが私の…。」
「剣技『ヘイズレイド』!」
フレイクが話すのを遮るようにカルミネが勢いよく突っ込んできた。
フレイクが両手で持った薙刀の柄で剣を防ぐが、それでも軽く突き飛ばされるように後ずさりをさせられていた。
「フレイクさん!」
反射的に守れなかったことを少し後悔しいながら鍔迫り合いをしている2人へと視線を向ける。
片手で剣を打ち込んでいるカルミネより両手で薙刀を持って防いでいるフレイクの方が有利に思えるが、さっき剣を手づかみで防いでいたからか、徐々に押されているのが目に見えた。
槍の穂先をカルミネのガラ空きの背中に向ける。
深呼吸をして、脳内で何度もシュミレーションした動きを思い出しながら、足を踏み込んだ。
「槍技『シャープアサルト』!」
スキルの名前を叫びながら床を勢いよく蹴り付ける。
全身をジェットコースターとかでしか感じたことのないような風圧が前から向かってくる。
「この風圧!」
気づいたらしいカルミネの兜が俺の方へ向くが、もう遅い。
「これでとどめだあぁ!!」
叫びながら槍を突き出した。
ドグシャッと聞いたことのない音が玉座の間に響き渡った。
槍は深々と食い込んでいき、貫通した箇所の肉片は勢いよく壁に衝突し、へばりついていた。
槍の柄を伝って、生暖かい血が手へと流れてきた。
俺は目の前の槍が刺さった奴の顔を見つめる。
「槍技を覚えたのかよ…。」
カルミネの声が玉座の間に静かに響く。
「死にはしなくても、痛いじゃ済まなかったよ。当たっていたら…。」
フレイクの頭の上で左手のみで逆立ちしているカルミネの赤い2つの光が三日月状に細くなった。
俺の手に持った槍は、カルミネと競り合っていたフレイクの脇腹を貫通していた。
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