64話『悲しみを溢す者』
伸びてくる蛇の突撃を避けて、目元目掛けて槍を突き出す。
ガキンと音を立てて槍が蛇の目にぶつかるが、目が潰れる様子はない。
「ショウ、こっちに来て!バブルドーム!」
ユリが噛みつこうとする大蛇の攻撃をしゃがんで避けながら泡のドームを展開する。
中に入って後ろを振り返ると、ドームを必死に壊そうと噛みついてくる。
「よし、とりあえず割られる心配はないわね…。」
ドームの外で暴れ回る灰色の大蛇を見ながらユリが呟く。
「とりあえず状況を整理すると、あいつはクソつよゴーレムの1体で、水の力で合ってるのか?」
タツヤが確信を持てなさそうな表情でプレデに視線を向ける。
プレデは手の平から次々と液体を生み出して、その液体から灰色の大蛇が作られていく。
「液体と個体を行き来するコンクリートってフレイクさんは言ってたから、水と土の複合で考えとこう。」
「ただそれで考えても、あいつさっきの植物使うゴーレムより能力の強さが異常じゃない?」
カエデが不思議そうにプレデを見つめる。
確かにプレデは一度カエデの刃の爆発を受けて左腕が使えなくなったにも関わらず右腕だけで地面がコンクリートで覆えるほどの量が溢れ出ていた。
相手は俺たちが攻撃してこないのをいいことにコンクリで作った鎧を再び纏い始めていた。
「なんか心当たりある?」
「多分女性の悲鳴が聞こえた瞬間、出てくる液体の量が増えたと思う。」
俺が返事をすると、心当たりでもあるのかユリが考え込む。
「悲しみ?」
ユリが呟きながらプレデを見る。
新しい鎧を作り終えたプレデが右腕を俺たちに突き出して棍棒を生成した。
勢いよく吹き出したからなのか、割れた瓶みたいに先端が尖っている。
『話し合いはもう終わりでいいですね?』
プレデが呟くとともに、灰色の蛇たちがドームの周りを回り始めた。
「まだ作戦も思いついてないのに…とりあえず散開するよ!」
ユリが合図すると同時にカエデが俺たちを囲もうとしていた蛇を焼き切った。
とりあえず、カエデの攻撃が効くようで少し安堵した。
次々とカエデに叩っ斬られていく蛇たちはボロボロと崩れ落ちていくが、すぐに新しい蛇が灰色の沼から現れてくる。
「キリがないよ!」
カエデが次々出てくる蛇を叩き斬りながら悲鳴交じりに叫ぶ。
「スプラッシュマグナム!」
ユリが大蛇達に向かって水球を放つ。
蛇は苦しそうに動いた後、そのまま固まった。
「コンクリートだから水が通用するとは思ったけど、ここまですぐに固まるものなの?」
「ナイスだユリ!」
困惑するユリに親指を立てた後、タツヤがサイアに手渡された氷のナイフをプレデに投げつけていた。
蛇達はプレデを囲むようにとぐろを巻いてナイフを防いだ。
「なあ、これって俺たちが圧倒的に不利じゃないか?」
「あまり言いたくないけどそうなる。」
俺がユリに尋ねると、気まずそうに頷いた。
さっきから攻撃を喰らっているのはプレデが生み出した灰色の蛇だけだ。
しかもその蛇はプレデが生成したやつで、今ある攻撃で通るのはカエデの炎の剣だけだ。
そして何度壊しても地面に広がる沼からすぐに新しい蛇が出てくる。
「唯一良い情報は、使える蛇は最大3匹ということだな。」
「とりあえずもう一度ドームを展開する。そこで話を…!」
ユリが杖を構えようとした瞬間、灰色の蛇の1体が突撃してきた。
急いで間に入って槍の柄を噛ませる。
槍に噛み付いている蛇の後ろからもう一匹の蛇が横からユリに体当たりした。
「ユリ!」
カエデが体当たりをかました蛇の体を両断した。
蛇はすぐに溶けて、沼から新しい大蛇が出てきた。
「ユリ、大丈夫?」
「ぶつかられただけだから問題は…。」
ユリが立ちあがろうとして、杖を見る。
杖は真っ二つに折れて、先端に付いていた水晶にはヒビが入っていた。
「ごめん、多分あと1回しか魔法使えないかも。」
ユリが申し訳なさそうに喋るっている。
『心苦しいですが、この機は逃しません。』
とぐろを巻いた蛇の中からプレデが声をかけてくる。
すぐさま沼から2匹の大蛇が出てきてユリ達に向かって襲いかかってきた。
急いで上から覆い被さるように庇おうとした瞬間、蛇の体が崩れて液体になって降り注いだ。
上着についたコンクリートを払いながら、プレデの方を見る。
『強化係がやられたのか!?』
臨戦体制になった蛇の中からプレデが動揺した声をあげながらコンクリで出来た盾を構えていた。
「ランスマスターさんが人質を助けたのか?」
「だとしてら好都合だ!」
俺は白いダガーを構えたタツヤに相槌を打って同時にプレデの元へ向かう。
『壁!壁を…!』
「スプラッシュマグナム!」
俺たちの背後から飛んできた大きな水球が競り上がろうとするコンクリートの沼の上で破裂して降りかかった。
咄嗟にサイアが地面に触れると、氷がコンクリートを覆うように作られていく。
蛇が俺たちの横から壁を伝って飛びかかろうとしてくるが、すぐにカエデが蛇を切り飛ばした。
『こっちに来ないでください!』
悲鳴に近い声を出しながらプレデが盾を投げつけてくる。
狙いがうまく定まってなかったのか、少し頭下げて回避できた。
すぐに右腕からコンクリの棍棒を振り上げていた。
俺はプレデの左側へ走り寄って槍を構えた。
前回ゴーレムと戦った時には、タツヤのダガーは突き刺さっていた以上、鎧の隙間からねじ込めば突き刺すことが出来る。
プレデが俺から咄嗟に左腕を動かそうとするが、カエデの刃の爆発で焼けこげてから一切動かなくなっているのは把握済みだ。
プレデの左脇腹めがけて、槍がヒビを入れながらめり込んだ。
「放たれろ!」
俺が叫ぶと同時に、プレデの体の中から黄色い光が漏れ出てきた。
その場に静けさが残る。
『貴方に尋ねます。』
プレデの首が俺に向いた。
『電気が絶縁体に通ると思いますか?』
無言で槍を抜き取って石突を向けて突き刺す。
確かに電気は通らないが、土で出来ているらしい体は石突でも貫通できるほど柔らかかった。
三つ爪の足みたいな石突が何かに引っ掛かったのを感じて槍を引き抜いた。
足の中には龍の置物が宝玉を持つときみたいに、魔石が挟まっていた。
『あ…。』
「今だタツヤ!」
石突に嵌った魔石めがけてタツヤの白いダガーが突き立てられた。
魔石は突き立てられた箇所からヒビが入って割れた。
『ここま…か。ゴーレ…に通達。魔族た…を守りなが…爆散せよ…。』
そこまで言うと、プレデは動かなくなった。
「これであとは上のジャイアントだけか。」
「すぐに向かいましょう。」
ユリがそう言うと、砦の中へと向かおうとした。
「あいつ、自分の杖がもう1回しか使えないの忘れてないよな!?」
タツヤが急いでユリの跡を追っていった。
「ショウも早く行こう。」
カエデが話しかけてくるが、俺は城の壁に開いた壁を睨みつけていた。
人質を助けたはずなのに、フレイクが戻ってくるのが遅すぎる。
「わかった、ショウはランスマスターの人に向かって、問題がなかったら2人で砦に向かってきてね。行くよサイアちゃん。」
カエデは首を縦に振って、サイアと共にジャイアントがいる砦の階段を登って行った。
俺は城の壁に開いた穴を通って城の中に入った。
上の方から金属がぶつかり合う音が聞こえてくる。
金属がぶつかり合う中に、ガシャガシャと鎧の音が響いてくる。
「あいつか…。」
俺は顔を見たことのないあいつを思い浮かべながら上へ続く螺旋階段を登っていく。
階段を上り切って廊下に差し掛かると、バラバラになった埴輪顔のゴーレムたちが転がっていた。
右側の廊下の壁にはメイド服を着た女性が目を見開いてもたれかかっていた。
「大丈夫で…。」
近寄って話しかけようとして、口を押さえる。
登ってきた時は左半身しか見えてなかったが、真正面から見ると右腕と左足が雑巾みたいに捻られていて、骨と血がむき出していた。
多分廊下に転がっていたゴーレムたちがやったのだろう。
そっと胸元に耳を当てるが、音は聞こえてこない。
「完璧に死んでいる…。」
少し動揺していると、さっきよりもはっきり金属同士がぶつかり合う音が聞こえてきた。
目を見開いたメイドの瞼をそっと降ろして、音のする方へ向かった。
廊下の最奥に豪華な門が建っていた。
アサハラ王国でもあった玉座の間みたいな場所だろう。
扉を蹴り開けて玉座の間の中へと入っていった。
周囲には真っ二つに折れた剣や盾、少し溶けかかっているガラスの破片が転がっている。
何があったのかわからないが、壁には大きな穴が空いて風が吹き込んでくる。
「ショウ…来ちゃったか…。」
玉座の間の中央では、薙刀で体を必死に支えているフレイクと、両手に剣を持った全身真っ黒の鎧を身に纏った騎士が対峙していた。
「久しぶりだな、雷竜の槍使い。」
背中に鞘を10本くらい背負った全身黒い鎧を着た騎士、カルミネ・ガイストが俺の方に振り向く。
黒い兜の十字の覗き穴の布で覆われた隙間から2つの赤い光が揺らめいていた。
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