63話『城への突入』
フレイクの後を追って徐々に城へと走っていく。
片岡が築いた土の壁には次々とレンガが投げ込まれて穴が空いていくのが目に見えてわかる。
「片岡様を信じましょう。」
後ろからサイアが前を見るように促しながら話しかけてきくる。
それなりに走っていると、城の壁に到達した。
「あれ?門は?」
「確かサフィア王城の門は北側にあったはず。」
フレイクの返事に俺は上空の雲ひとつない青空を見上げた。
これから城を半周して門を目指すとなると、それなりに時間がかかる。
「まあすでに被害はでかいからいいか。」
フレイクは呟くと壁に向かって構える。
何をするか尋ねようとした瞬間、フレイクが薙刀を壁に向かって振り下ろした。
バキンと音がなるが、薙刀が折れた様子はない。
続け様に薙刀を2、3回振り回したフレイクはそのまま壁に蹴りを入れた。
丈夫そうな城の壁が音を立てて崩れていった。
「どうなっているんですかその薙刀…。」
「ああ、これは…!」
フレイクが説明しようとした瞬間、フレイクが俺の腕を掴んで壁に開いた穴の中に投げ込んだ。
力加減間違えてるだろと思えるような勢いで投げ込まれたからかかなり背中が痛い。
何事かと顔を挙げると、さっきまで俺退いた場所に槍みたいに電柱みたいな灰色の棒が突き刺さっていた。
サイアの腕を掴んでフレイクが城の庭の中へと入ってくる。
「なんなんですかあれ…。」
「無視して砦へ向か…。」
フレイクが走ろうとすると砦との間にドロリとした灰色の網目状の壁が作られていた。
『お願いです。そっちへ行かないでください。』
壁の上を見上げると、埴輪顔の木偶の坊が立っていた。
あの時は目と口だけだったが、見下ろしてくる木偶の坊は目から涙の後のように縦に線が入っていて、何も来てなかった土気色の体には灰色の鎧をまとっていた。
「嘘でしょ?ゴーレム?」
フレイクが困惑の表情を浮かべながら、真上の木偶の坊を見上げる。
「そんなにゴーレムって強いんですか?それとも珍しい?」
不思議に思いながら槍を構える。
この世界で育ったはずのフレイクがゴーレムを見て明らかに動揺している。
「どっちみち、モンスターの一体なんだから戦うことになるのはわかって…。」
「ゴーレムはモンスターじゃない。あいつらはアルチザンって兵種の人間が作る人形だ。」
フレイクの話を聞いて、俺は改めて木偶の坊、ゴーレムに視線を移す。
「おい、てめえの主人は誰だ?」
『主人の名前は教えれませんが、私の名前なら教えれます。』
「答えないなら私たちはこの塔の上のデカブツ倒しに行くから。」
フレイクは呟きながら、網目上に固まった乱雑な壁を振り回した薙刀が木っ端微塵にした。
すかさずゴーレムが右腕の手のひらに空いた穴をフレイクに向けながら飛び降りてきた。
着地したゴーレムの手に空いた穴から、灰色の球体が飛び出してきた。
フレイクが薙刀で全て弾いている間に、俺も槍を手に取って構える。
「ゴーレムは魔石を心臓代わりにしている。それを見つけ出して壊せ。」
フレイクの指示を聞いて、俺は首を縦に振った。
背後ではサイアが無言で投げる用の氷のナイフを生成する音が聞こえる。
『戦うことは嫌いです。』
目の前のゴーレムが両手で顔を覆いながら呟く。
土気色の角ばった大きな手の隙間から灰色のドロドロとした液体が溢れていく。
『プレデ・ドアイ。主人の作りし最高傑作の6体のゴーレム『シンパシア』の1人で、あなた方を大地の植物の肥やしに変えるものです。』
自己紹介をしたゴーレム、プレデが顔を覆っていた両手を大きく広げた。
手の隙間から溢れていた灰色の液体が俺たちに向かって降り注がれる。
背後からサイアが投げた氷のナイフが飛び散った液体に衝突して砕けた。
咄嗟に腕で塞ぐと、ビシビシと腕に液体だったものがぶつかってきた。
「痛っ!」
それなりに速度がついて衝突した水滴は思った以上に痛かった。
プレデが掌の穴から流れる灰色の液体が固まって、長い棍棒になった。
プレデがフレイクに向かって棍棒を掴んで投げつけた。
フレイクは薙刀で軽く棍棒を真っ二つに叩き切った。
「さっきまで液体だったとは思えない硬さだね。」
『かなり硬いはずなのにあっさり両断されたことの方がショックは大きいですよ。』
プレデは呆れたと言いたげな動作をした後、再び手の平から灰色の棍棒を作り出してフレイクに投げつける。
「学習能力はそこまでないのか。」
フレイクは呆れた様子で、飛んでくる棍棒を再び斬り飛ばそうと薙刀を振りかぶった。
次の瞬間、棍棒が突然液化して薙刀に衝突した。
棍棒だった液体はそのまま薙刀を素通りしてフレイクに向かって飛んで行った。
「へ?」
『最高傑作である私たちに学習能力がないわけないでしょう。』
プレデがつぶやくと同時に、棍棒だった液体がフレイクの太ももに降りかかった。
右手から灰色の棍棒を作りながら振りかぶった。
フレイクが避けようと動こうとするが、足にかかった液体が固まったのかその場から動けずにいた。
「何この液体!」
フレイクは愚痴をこぼしながら、振り下ろされる棍棒に向かって薙刀を振るう。
ポッキリ折れた棍棒の太い部分が液化してフレイクに降りかかる。
フレイクは降りかかる液体を左腕で防ぎながら右手で薙刀を振り回す。
『しまった。』
フレイクの薙刀は、後ろへ下がろうとするプレデの胴体を鎧の上から叩き斬った。
鎧がボロボロと崩れ落ちて、柔らかいらしい土気色の胴体の斬り口が開いた。
切り口から茶色く光る菱形の透き通った結晶が見えた。
「あれが魔石?」
「あっている!私は今動けないから2人とも頼むぞ!」
フレイクが液体のかかった腕を足にかかった液体にぶつけながら指示してくる。
ぶつかるたびにガンガンと音が鳴っていて液体とは思えない。
『鎧が…鎧が…。』
プレデは崩れていく鎧とその下から見える切り口を見て震え声を上げながら俺たちから距離をとる。
俺は槍を構えて2人の前に出る。
「サイア、援護を頼む。」
「わかりました。お気をつけて。」
サイアは呟きながら後ろで氷のナイフを作りながら頷いた。
目の前を振り向くと、プレデがブツブツと呟いていた。
『城内のゴーレムに命じます、私の強化をお願いします。』
震え声を出すプレデが顔を俺に向ける。
「いやあああああ!!!」
何か仕掛けてくると思って槍を構えた瞬間、城の中から女性の悲鳴が聞こえてきた。
俺とフレイクは悲鳴の聞こえる城へ目を向けた。
「ショウ様、来ます!」
プレデの方を向いて、俺は寒気を感じた。
プレデの両手のひらから、灰色の水がさっきの比にならないくらい溢れ出ていた。
徐々にプレデを中心に灰色の液体が城の庭に広がっていく。
「ショウ様、こちらへ。」
後ろを振り向くと、サイアが城の壁に氷の足場を生成していた。
俺はフレイクの腕を掴んで氷の足場の上に乗った。
「その液体、取れそうですか?」
「多分これ、城の建設とかにも使われるコンクリートだね。ゴーレムに何らかの仕組みが施されているのか、個体と液体へ自由に変えれるっぽいね。」
フレイクが嫌そうな顔を浮かべながら地面に広がる灰色の液体を眺める。
城の中から聞こえた女性の悲鳴、砦の上では南の兵士たちにレンガを投げつけるジャイアント、そして目の前でコンクリートを操るゴーレム。
簡単に解決できるような奴らばかりじゃない。
「放たれろ。」
考え事をしていると、俺たちが入ってきた壁の穴から声が聞こえた。
同時にプレデに向かって赤い刃が飛んで行った。
波打ったコンクリートが赤い刃を飲み込んだ瞬間、破裂した。
爆発はコンクリートで防いでいたプレデの左腕をやけ焦がしていた。
飛んできた壁を見ると、カエデとタツヤとユリがいた。
「ランスマスターさん、東側から突っ切って加勢に来ました!」
ユリがプレデに杖を構えながら話しかけてきた。
「私は城の中にいるだろう人質を助けに行ってくる!ショウたちは目の前のゴーレムと砦の上のジャイアントを頼む!」
フレイクは城の壁を切り開けて中へと入っていった。
サイアが氷の足場を拡大して、3人が乗っかってきた。
「気をつけろ、あいつが言うには最高傑作のゴーレムらしい。」
「さっき戦って倒してきたやつの仲間ってこと?」
横で尋ねてくるカエデの顔をまじまじと見つめる。
「倒したの?」
「うん、ただ目の前の奴より弱かったと思う。なんか目の前の奴は段違いの強さっぽいけど…。」
カエデが冷や汗を垂らしながらつぶやく。
プレデの方を見ると、右手から溢れ出す液状のコンクリートが地面から盛り上がって3匹の複数の大蛇の形を模っていた。
「あいつら感情を感じて強化されるとか言ってたから、多分人質に何か激しい感情を抱かせて強化しているんだと思う。」
『泣いて詫びても殺します。』
プレデが呟くとともに、コンクリートの蛇たちが俺たちに向かって長い体を伸ばしてきた。
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