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58話『槍技』

「失礼する!」

ノックもなしに俺たちが泊まっている宿屋(冤罪かけた騎士が滞在期間の費用を払ってくれることになった)の扉が勢いよく開かれて、フレイクが入ってきた。

昨日のうちに土曜日は訓練はないと言われたばかりだったから、昼からタツヤが買っていたトランプでポーカーをしていて急な客人に驚きを隠せなかった。

「ランスマスターさん、なんでここに?」

タツヤが驚いてトランプを机の上に置きながら話しかけてくる。

机に置かれたクイーンとキングで作られたフルハウスを見て、賭けとか無しで遊んでてよかったと安堵しながらフレイクを見る。

「昨日言ってた槍技を教えるのにちょうどいい任務を頼まれたから一緒に来てもらおう。」

そう言いながら部屋にズカズカと入ったフレイクは、壁に立てかけられた俺の槍を手に取って俺に投げてくる。

「ついでに君も来てくれるかい?人は多い方がいいからね。」

フレイクはタツヤに話ながら廊下へと出ていった。

タツヤはどうすると言いたげな表情で俺を向いて肩をすくめる。

「まあ、暇だったし行くか・・・。」

「女子たちと一緒に買い物行けば捕まらなかったかな。」

タツヤがダガーをジャケットに携行したのを見て、俺はフレイクの後を追った。


「ゴブリン討伐?」

馬車で移動しているなか、タツヤがフレイクに尋ねた。

「そう、君たちがやっつけた盗賊団が蔓延っていた村の近くの森で、ゴブリンが何体も見掛けられたらしい。城下町の依頼所でも何人もの冒険者たちが依頼に向かったけど、怪我人や死者が出始めているらしいから、オーツ王直々に討伐してこいとのことだ。」

フレイクは話しながら、馬車に立てかけた槍を手に取った。

ちょうど馬車が止まり、扉が開けられる。

外では複数名の兵士を連れたあの女騎士が立っていた。

「協力感謝致します、ランスマスター。」

女騎士に一礼しながらフレイクは馬車を飛び降りる。

「ご苦労様、ゴブリンの数は?」

「20体以上30体以下といったところです。」

俺たちが馬車を降りるのを確認した女騎士は、兵士4名と俺たち3人の合計7人を連れてゴブリンたちの元へと歩き始めた。

少し歩いたところで、女騎士が足を止める。

「あそこです。」

女騎士が指をさした先には、5匹のゴブリンが火を囲んでたむろしていた。

各々武器を手元に置いている。

ふと後ろを見ると、兵士の1人がすでに弓を引き絞っていた。

「撃て。」

女騎士が一言呟くと、兵士が放った矢が1体の頭を貫通した。

唐突に倒れ込んだ仲間を見たゴブリンたちは武器を取って周囲を見回し始めた。

「もう一発行きます。」

再び矢が放たれて短刀を持っていたゴブリンの胸を貫いた。

斧を持ったゴブリンが俺たちの方を向いた。

「いたぞ!」

ゴブリンが叫ぶと同時に、再び兵士が矢を放った。

今度は盾で防がれた。

「頼むぞ。」

女騎士が呟くと同時に、フレイクが3体のゴブリンの真ん中に特殊な槍を持って立っていた。

槍というより、刀みたいに刃が曲がっている薙刀だ。

それも、両端に刃物が付いているタイプのものだ。

フレイクが手首を捻った瞬間、薙刀がくるんと周ると同時にゴブリン3体の首が同時に落ちた。

「なんかあっさり倒されたな。」

「さっきはもっといたはずですが・・・。」

女騎士がつぶやいた瞬間、後ろにいた槍を持った兵士が苦しそうな声を上げながら倒れる。

背後にいたゴブリンは兵士に刺さった短剣を抜いてそのまま逃げようとしていた。

「いつの間に!」

タツヤがゴブリンの頭部に向かって勢いよくダガーを投げつけた。

頭部にダガーが刺さったゴブリンはそのまま倒れ込んだ。

「もう回り込んでいるのか・・・。」

女騎士がつぶやいた瞬間、周りからヒュンと音が聞こえて大量の矢が飛んできた。

「危ない!」

俺はタツヤの腕を引っ掴んでその場を離れる。

女騎士は兵士たちを庇うように飛んでくる矢を全身の鎧と盾で弾いていた。

なんとか矢の雨が降った場所から離れた瞬間、後ろの草むらから斧を振りかぶったゴブリンの姿があった。

「あっぶねえ!」

振り下ろされる斧を雷竜の槍で受け止める。

そのままゴブリンは背後に回り込んだフレイクの薙刀で真っ二つに両断された。

「だいじょ・・・。」

タツヤが女騎士たちに尋ねようと振り向いた瞬間、顔を真っ青にしていた。

振り返ると、20はいるであろうゴブリンたちが弓矢を構えていた。

「動いたらどうなるか、わかるよな。」

派手な装飾の施された真っ赤に染まった大剣を持った他の奴らより一回り大きいゴブリンが俺たちを見下ろしてくる。

「おれはウィーク様直属の部下5人衆の1人、コッザ様だ!」

「アオヤマは私の動きを見といて。」

小声で俺に耳打ちすると、両手で薙刀を持って右足を後ろに伸ばし、左足を深々と曲げた。

視線の先には威張り散らしているゴブリンに向けられていた。

「槍技『シャープアサルト』。」

フレイクがつぶやいた瞬間、さっきまでフレイクの残像が一瞬浮かんで消えた。

「ゴボフアァ!!」

汚い悲鳴が聞こえてきた方向を振り向くと、威張り散らしていたゴブリンのコッザの体にフレイクの薙刀が深々と貫いていた。

「コッザさ・・・!」

「こいついつのま・・・!」

フレイクは近くにいたゴブリンたちを、コッザが突き刺さったままの薙刀で斬り伏せていく。

「全員ランスマスターに続け!」

女騎士たちが叫ぶと同時に兵士たちが次々とゴブリンたちに向かう。

ゴブリンたちは2、3体で襲いかかるが、さすが王国の兵士たちと言えるほどの強さだ。

次々に兵士たちによってゴブリンたちは斬り伏せられていく。

「ショウくるぞ!」

タツヤが指を刺した方を見ると、槍を持ったゴブリンが走って向かってきた。

すぐさま槍を両手で振るうと、ゴブリンの槍は真っ二つに折れて宙を舞う。

「よし、これで・・・。」

武器を壊したゴブリンからタツヤが目を逸らそうとした瞬間。ゴブリンが巻いている布の下から短剣を取り出してさらに走り寄ってくる。

「危ない!」

俺はタツヤを突き飛ばしながら、突き出された短剣を槍で受け流した。

前に会ったゴブリンの幹部同様、2種類くらいの武器が使えるらしい。

「すまねえ!」

「今のうちにとどめ頼む!」

タツヤは首を縦に振って手に持ったダガーをゴブリンに投げつけた。

周囲にはもう生きているゴブリンはいなかった。

「これで全部だった?」

「ああ、こいつは重症だがなんとかなった。」

フレイクと女騎士が最初に後ろから刺されていた兵士を囲みながら話していた。

他の兵士たちが負傷した兵士を運んでいくと、フレイクが俺たちに向かって手を振ってきた。

「お疲れ、歩けるかい?」

フレイクの質問に首を縦に振りながらきた道を歩いて戻る。

村の中ではもう一台の馬車と共に、杖を持った上原が負傷した兵士に近づいていた。

「神よ、傷付きし者を癒したまえ。」

上原が呟くと、刺されていた兵士の背中の傷が徐々に塞がっていっていた。

徐々に息が落ち着いていく兵士に礼をした上原は俺たちに気づくと手を振っていた。

「ショウ、私のやった槍技は見たか?」

フレイクの質問に、俺は首を縦に振った。

一瞬で串刺しにされていたが、あのコッザと名乗ったゴブリンの持っていた大剣の赤黒さから、相当強いやつだったに違いない。

「ランスマスターってめっちゃ強いですよね。なんでそこまで強いんですか?」

「守りたいものがあると、人は強くなるってもんよ。」

タツヤの質問にフレイクが笑いながら話しかける。

フレイクの笑い声に混ざって、村の方から足音が聞こえてくる。

母親の手を引っ張って1人の少女が走り寄ってきた。

「この前は、助けてくれてありがとうございます!」

少女が丁寧に頭を下げた。

確か、この村の宿屋を営んでいた少女だ。

「私や娘たちを助けてくれてありがとうございます・・・。」

少女の手を取った女性が俺たちに頭を下げてきた。

俺とタツヤは少女に一礼をして、馬車に乗っかった。

「あの親子もあんたたちが守ったんだろ、誇りな。」

フレイクが笑いながら馬車に乗ってきた。

俺は苦笑いしながら後ろで手を振っている少女たちを見ていた。

ここまで読んでいただ、ありがとうございます。もしこの作品を読んでいただいた後に感想を書いていただければ励みになります。また、どこか漢字や文法の間違いがあった場合、指摘していただけるとありがたいです。

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