56話『ランスマスター』
「あんたは一発殴った方がいいかしら?」
ユリが土下座する浅原の前にしゃがみながら話しかける。
天川もユリに必死に謝っているが聞く耳を持たない。
「とりあえずユリ、落ち着こうか・・・。」
「落ち着けないよ!」
カエデがユリに近づいて落ち着かせようと近づいた瞬間、ユリのあげた頭がカエデに衝突した。
「ごめん!」
ユリは顔を抑えて悶えているカエデに一言謝った後、すぐにまた浅原を睨みつける。
イオラさんがカエデに近づいて杖で治療を始めていた。
「私たちは彼女をこの王国に連れて行くことが目的だったの!奪還作戦に出るのは聞いてないよ!」
ユリがひたすら土下座する浅原に怒鳴りつけていた。
十国会議の結果、サフィア王国への奪還作戦が1ヶ月後に行われることになった。
その作戦に、本来参加する予定のなかった俺たちも参加することになった。
「ごめんなさい、私もあなたたちは参加させないように頼んだんだけど、オーツ様は神器を使えるものは積極的に参加させるべきだって意見を押し通してきて・・・。」
「浅原があの馬車に国章書き込んだ結果、私たちがアサハラ王国の兵士ってこじつけられたから完璧この土下座している王様が問題なのでイオラさんは謝らないで!」
ユリは浅原の頭を踏み付けながらイオラさんを励ます。
「もう決まったから仕方ないよ。私は元から戦うつもりだったし。」
イオラに治療されたカエデは起き上がってユリの肩に手を伸ばして置く。
正直俺もカエデの意見に賛成だし、タツヤもカエデに向かって相槌を打っている。
部屋でギャアギャア騒いでいると、扉がノックされた。
「失礼する!」
誰かが扉を開ける前に扉が勝手に開かれて、灰色の服を着た金髪の女性が入ってきた。
確か、10日前に手合わせしたランスマスターだ。
部屋に入ってきたランスマスターは周囲の仲間を見回して、俺に指をさした。
「君も今度の戦いに参加すると聞いたから修行に誘いにきた!ついてきてもらおう!」
「え、どういうこ・・・。」
俺が尋ねようとした瞬間、ランスマスターは俺の腕を引っ掴んで部屋から出て行こうとした。
必死に振り解こうとするが、腕力が強すぎてそのまま引き摺られていった。
「さて、それじゃあ修行を始めようか。」
前に戦った訓練場の広場で、ランスマスターが木の槍を俺に投げつけて渡してくる。
木の槍は地面に深々と突き刺さっていた。
「あの、これはどういうことで・・・。」
「僕が頼んだ。」
声の方向を向くと、片岡が椅子に座ってくつろいでいた。
「君の戦い、前に見ていたけどまだまだ荒削りだっただろ。だからランスマスターに頼んで君を鍛えさせることにした。」
片岡はすごく苛立ちを覚えそうな邪悪な笑みを浮かべながら話しかけてくる。
多分いい事をして悦に浸っているつもりだと思うが、余計なお世話だ。
「さあさあ、君も槍を取って。」
目の前でランスマスターが木の槍をクルクルと回しながら話しかけてくる。
「まあ、わかりました。」
俺がため息を吐きながら槍を掴んだ瞬間、目と鼻の先までランスマスターが近づいてきた。
咄嗟に槍の柄をしっかり握り構えると、槍が振り下ろされていた。
「いきなりかよ!」
「やっぱり反射神経いいね君!」
ランスマスターは楽しそうな声を上げながらで俺に木の槍を徐々に押し込んでくる。
俺はランスマスターの腹部に目掛けて膝蹴りを入れようとする。
ランスマスターは槍を押し付けながら、俺の膝の上に左足を乗せそのまま飛び上がった。
太陽を背にしたランスマスターが引き戻した槍を再び構え直す。
光で見づらい中、踏み台にされた足を前に踏み込まんで前に走りこむ。
さっきまで俺のいた場所に、ランスマスターが投げた槍が突き刺さった。
「あっぶね!」
「これ避けるって、やっぱ素質があるね!」
ランスマスターは地面に突き刺さった槍をとって走り寄ってくる。
俺は後ろに下がりながら石突ギリギリの場所を持って振りかぶる。
ランスマスターが突き出した槍に向かって、槍をバットみたいに振り込んだ。
俺の持った木の槍はランスマスターの手に当たり、槍の穂先が俺からそれた。
「やった・・・。」
俺が笑みを浮かべていると、弾いた槍がランスマスターの腕の中でクルクルとペン回しの容量で周り始めた。
ランスマスターは俺と同じように石突ギリギリまで槍を滑らせて、遠心力の乗っかった一撃を俺の脇腹に叩き込まれた。
「いっだ!」
俺は脇腹を抑えながらその場にうずくまると、槍が首筋スレスレを通って地面に突き刺さる。
「いや〜、今の反撃は良かったよ。」
目の前を向くと、ランスマスターがあぐらを描いて座り込んだ。
「まず攻撃を受け流すのは上手いね。今回はどっちも木の槍だから壊れることはないけど、本物でも簡単に叩き斬られないね。それに上からの奇襲も太陽で見づらいはずなのによくかわせていたと思うよ。」
ランスマスターは次々と俺の動きの評価をする。
手合わせで負けたのに思った以上に褒められていることに少し驚きつつある。
「さて、ここまでは良かった点だけど、ここからは悪かった点だ。目立って悪かった点はないけど、守りに徹しすぎているところが問題だね。」
ランスマスターが槍を抜き取ると俺に向かって振り下ろす。
咄嗟に俺は両手で振り下ろされる槍を掴んで防ぐ。
すぐさまランスマスターは振り下ろした槍の石突を踏んづけて地面にめり込ませた後、俺がさっきまで持っていた槍をすぐにとって俺の首筋に突きつけた。
「こんな感じに攻撃を避けたり受け止めるのは上手いけど、攻撃するタイミングが無くなっているから、攻撃を上手くできるような特訓をしようか!」
ランスマスターは槍を地面に突き刺しながら話していると、あの騎士が俺たちの元に走ってきた。
「大丈夫か!?一体何が!?」
騎士がかなり焦った様子でランスマスターに話しかける。
「国王から彼らも今度の戦いに加わるから特訓しとけと命令されました。」
ランクマスターが丁寧な口調で騎士に返答する。
心当たりでもあるのか、騎士は天を見上げてため息を吐いていた。
「そういえば名前を聞いてなかったけど、君の名前は?」
ランスマスターが尋ねてくる。
「蒼山翔です・・・。」
「アオヤマね。私はフレイク・タニティア、よろしくね!」
そう言いながらランスマスター、フレイクは笑いながら俺に手を差し伸べてきた。
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