52話『三日天下』
「スプラッシュマグナム!」
杖から放たれた水球は割れて、盗賊らしき男たちが次々と流されていく。
後ろから矢が脇腹を通り過ぎていく。
「動くなこの魔法つか・・・。」
後ろにいたアーチャーが弓を構えた瞬間、背後に近づいていたサイアの短剣がバッサリと背中に斬りつける。
悲鳴に近い声を上げながらアーチャーがうめきながらその場に倒れ込む。
「遠距離は任せてください。」
かろうじて生きているアーチャーの服で短剣の血を拭きながらサイアが周囲を見回す。
「とりあえず、早くカエデと合流しなきゃ。1人でこのアジトに乗り込んで行って心配だもの。」
私はサイアの手を握って、盗賊団のアジトの廊下を進んでいく。
数分前、私たちは盗賊たちのアジトを見つけたとサイアの報告を聞いて魔法陣でアジト付近に移動した。
どうやって突撃しようか話し合おうとした時、カエデがアジトに単独で入って吹っ飛ばしながら突っ切っていくと言ってアジトを爆破しながら突撃していった。
急いで追いかけてアジト内に入ったが、ほとんど爆風で吹き飛んで気絶した人とかでいっぱいだった。
「長谷くん、なんで2人に棍棒を向けているの?」
曲がり角の奥からカエデの声が聞こえてきた。
こっそり覗き込むと、地べたに座り込んでいるショウとタツヤの前にカエデが立っていた。
廊下の奥の方には、確か野球部の部長を務めていた長谷一平がいた。
「やあ早川さん、俺この組織の頭なんだけど、ちょっと内輪揉めで喧嘩をしているだけなんだ。」
長谷がカエデに言い訳をしているが、辻褄が合わない。
「何言ってんだこの嘘つき!」
「お前の部下たちに連れてこられたんだぞこっちは!」
ショウとタツヤが口々に長谷に暴言を吐く。
「ショウとタツヤは私たちと一緒に行動しているんだけど・・・。」
カエデが小さく、それでもはっきり聞こえる声で長谷に近づく。
下手な嘘をついた長谷の顔が徐々に青ざめていくのが目に見えてわかる。
「あんた達大丈夫?」
私はこっそり2人の元へ向かう。
2人は私に気づいて、そのままの姿勢で私たちの元に向かう。
「『転移書簡』。」
急いでポーションを取り出すために魔道書を開く。
見たところ外傷はなさそうだから、解毒用のポーションを取り出す。
「長谷くんがこの盗賊団の頭なんだよね?」
「あ、ああ・・・。」
カエデの感情のこもってないような声に長谷を震え上がらせる。
「正直、学校の同級生に会えたことは嬉しかったんだけどな〜。」
カエデは呟きながら長谷に剣を向ける。
「やめてくれ!この盗賊団は俺が一生懸命作り上げた組織なんだ・・・。」
「盗賊団に美談は必要?」
カエデは一言呟くと、姿勢を低くして長谷に近づいた。
長谷は咄嗟に棍棒でカエデの振りかぶった剣を受け止めようとする姿勢をとった。
多分棍棒ごと真っ二つにされそうだが、流石に慈悲は無いだろう。
「カエデ、そいつの棍棒は炎の神器だ!」
ポーションを飲んで立ち上がったショウがカエデに向かって叫んだ。
同時にカエデの剣が長谷の棍棒で受け止められた。
「はは、手遅れだな!」
長谷が笑い声を上げると同時にカエデの体が炎に包まれた。
全員の血の気が引いた瞬間、カエデを包んでいた炎が赤い柄だけの剣に吸収されていった。
「へ?」
長谷は状況を飲み込めないと言いたげな表情でカエデを見る。
「ショウごめん聞いてなかった、長谷の神器の能力は?」
「ぶつかったものを火で包み込む棍棒。」
「わかった、やっちゃえカエデ。」
私がいうよりも早く、カエデは炎を紅い刃へと変化させ長谷に向かって振り上げられた。
ギリギリのところで長谷は剣を避けた後、来た道を戻っていった。
「追いかけてくる!」
カエデは振り向かずに長谷を追いかけていった。
「ユリ、カエデを頼む。俺たちは自分の武器を探してくる。」
タツヤを立たせたショウに言われて、私はサイアに2人の護衛を頼んでカエデの跡を追っていった。
空いている扉からカエデと長谷の声が聞こえてくる。
「カエデ、大丈夫?」
部屋に入り込むと、見たことある少女を人質に取った長谷の姿があった。
「お前ら近づいてこいよ!この女がどうなってもいいのか!」
長谷が悲鳴に近い声を上げながら少女に棍棒を近づける。
元野球部部長がここまで落ちこぼれていることに、もはや呆れてくる。
「ユリ、援護をお願い。」
カエデは一呼吸したあと、少女を掴んでいる長谷の腕に剣を叩き込んだ。
峰打ちだったからぶった斬られてはないが、火傷したのか腕を抑えている。
「この子をお願い!」
カエデが少女を長谷の手元から勢いよくぶん取って私に向かって突き飛ばしてきた。
少女を無事抱えてカエデを見ると、ガンと音を立てながらカエデの剣の峰が長谷のこめかみにぶつかった。
長谷は白目を剥いてそのまま地面に倒れ込んだ。
「ああ、終わった?」
後ろからショウが部屋の中を覗き込みながら話しかけてくる。
手にはしっかりと神器の槍が握られていた。
「タツヤとサイアは?」
「体調良くなったからアジト内の盗賊たちを縛ってくるって言ってた。」
ショウと話していると、長谷が唸り声を上げながら立ち上がった。
すぐに後ろにいたショウが長谷に走り寄って雷竜の槍を構える。
「動くなよ。」
ショウが長谷を脅していると、腹部に軽い痛みを感じた。
よく見ると、助けた少女の手に握られた短剣が突き刺さっていた。
徐々に感覚が掴めなくなっていく。
「え、ユリ!?」
カエデが驚いて私の方を振り向いた。
少女が短剣を握ったままカエデに近づいていく。
「避けろカエデ!」
ショウが長谷に向けていた槍で少女の手にあった短剣を弾き飛ばした。
「よっしゃあ!」
槍が喉元を離れた長谷は棍棒を手に取って壁に叩きつけようとした。
「バブルジェイル。」
ポーションを飲みながら急いで長谷を泡で包み込んだ。
棍棒は泡の中で跳ね返り、長谷は身動きを取れなくなった。
カエデが少女を手っ取り早く床に押さえ込んだ。
「なんであなたがこんなことを・・・。」
カエデが床に押さえつけた少女に向かって驚きの声をあげる。
「いうことを聞かないと、パパとママを殺すって言われた・・・。」
泣きそうな少女の話を聞いたカエデが冷たい視線を長谷に送る。
「ユリ、水の拘束を解いて。」
言われるがままバブルジェイルを解くと、カエデの拳が長谷の腹部に叩き込まれた。
長谷が声をあげる暇もなく、続け様にカエデの拳が頬へめり込んで行く。
「待って・・・たんま・・・。」
長谷が泣きながら懇願するが、カエデはお構いなしに顔面に拳を叩き込んだ。
痙攣して動かなくなった長谷を確認したあと、カエデが俺たちの方を向く。
「誰かこの世界の警察の呼び方って知ってる?」
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