49話『村の夜盗』
頭をトントンと何かが突いてくる。
目を開けると、カエデが覗き込んでいた。
すでに夜なのか天井に吊されたランプの明かりの周囲以外の光源は外の月くらいだ。
「ここは?」
「馬車の中だよ。」
気づくと体が横になっていて、カエデに膝枕をされていた。
体を起こすと、サイアがカエデの肩を借りて目を閉じていた。
前を見ると、佐々木とイオラが肩を寄り添いあって寝息を立てていた。
「よお、起きたか。」
馭者台からタツヤが話しかけてくる。
馭者台を向くと、タツヤが外を指さしていた。
外を見ると、目の前に篝火で照らされた木の門が見えてきた。
王国を囲んでいたような石の壁ではなく、木の柵で囲まれた村だ。
「そこの馬車、止まりなさい。」
門の前にいた門番らしき兵士が目をこすりながら歩み寄ってきた。
俺は馬車を降りて、荷物置き場の荷物を門番に見せる。
今までの門番の中で1番長く見回っていた。
「もう問題ないな。通っていいぞ。」
門番が手を挙げると、扉が開いた。
「なんていうか、静かな村だね。」
馬車に入ると、外を見ていたカエデが話しかけてきた。
すでに夜だから寝静まっているのもあるだろうけど、村の外から鳥が鳴いているのが聞こえてくるくらいには静かな村だ。
「とりあえずこの馬車を待機所に置いてくるから、みんなを宿屋に連れて行って。」
タツヤが馬車の中の俺たちに小さな声で話しかけてくる。
「わかった、サイアちゃん起きて。」
「起きてます。」
カエデが肩を貸していたサイアを揺らすと、目がぱっちりと開いた状態のサイアが振り向いてきた。
カエデは一瞬肩を振るわせたが、すぐに目の前で寝息を立てている2人の肩を強請った。
「佐々木さん、イオラさん、到着しましたよ〜。」
カエデが2人を起こしている間に、俺は見張り台にいるユリの元へ向かう。荷物置き場の梯子を登ると、丸まって寝息を立てているユリの姿があった。
「風邪ひくぞ。」
「眠い・・・早く宿行きたい・・・。」
ユリを引きずって馬車を降りると、カエデとサイア、目をこするイオラと佐々木がすでに外に出ていた。
「じゃあ先に行っといてくれ〜。」
タツヤはそのまま寝ぼけ眼をこすりながら場所を移動させ始めた。
俺は降りた面々と共に宿屋へと入っていった。
「いらっしゃいませ・・・。」
生気の無い声で宿屋の幼い少女が出迎える。
「部屋割りはどうする?」
「佐々木とイオラさん、私とカエデとサイア、あとは男子で別れよう。」
「わかった、3部屋お願いできますか?」
俺が尋ねると、宿屋の少女は鍵を3つ手渡してきた。
「気をつけてください。」
少女が不穏なことを言いながら宿屋の奥に入って行った。
少女の言っていたことを気にしながら俺はユリと佐々木に鍵を渡した。
「結構暗くて迷うから、俺はタツヤを迎えに行ってくる。」
「じゃあお先に。」
女子たちは先に上の階に上がって行ったのを確認して俺は宿屋を出る。
外はとても暗く、月が無ければ多分何も見えなかったかもしれない。
俺はきた道を戻ったところまで戻る。
「お待たせ〜。」
馬車と別れたT字路の中心に立っていると、手を振りながらタツヤがやってきた。
「なあショウ、この村なんかおかしくないか?」
タツヤが周囲を見回しながら話しかけてくる。
「そうだな、なんて言うか殺風景すぎると思う。」
「今までの街でも、夜でも人はそれなりにいたはずだし・・・。」
タツヤと喋りながら宿屋へと向かっていく。
「すみません・・・。」
近くの建物の路地裏からか細い声が聞こえてきた。
タツヤと共に振り向くと、ボロボロのワンピースにフードを被った幼い少女が地面に座っていた。
さっき通ってきた時にはいなかったはずだ。
「どうしたんだ?」
タツヤが不思議そうな表情で少女に近づく。
俺は周囲を見回しながらタツヤの跡を追う。
「何か・・・恵んでください・・・。」
少女が震え声を上げながらタツヤのジャケットの裾にしがみついた。
「ちょっと待ってて、確かカバンの中にパンが入って・・・。」
タツヤがカバンを探り始めた瞬間、少女がタツヤに抱きついた。
タツヤに抱きついた少女の手には液が垂れた短剣が握られていた。
「タツヤ!その女から離れろ!」
俺はカバンに結びつけていた槍を手に取って少女の短剣を持った手にぶつける。
短剣を地面に落とした少女は舌打ちをしながら路地裏の奥へと逃げていった。
「え、なんでナイフ!?」
「多分盗賊だろ、なんか刃の部分に塗られているから触るな・・・。」
タツヤに注意をしながら道を見ると、5人くらいの男たちが俺たちを睨みつけていた。
肩を叩かれタツヤの指を刺した方を見ると、10人くらいの男がいた。
皆剣や斧、槍や短剣を持っている。
「さっきの女の仲間か?」
「あいつヘマしやがったか、まあいい。」
長髪の男がため息を吐きながら大きな蛮刀を振り上げた。
タツヤもナイフを取り出して俺と背中を合わせる。
「ショウ、いけるか?」
「本物の武器での喧嘩はあんまり経験ないけど、粘るか。」
タツヤの質問に笑いかけながら槍を構える。
俺も雷竜の槍の穂先を形成し始めた。
「やっちまえ!」
長髪の男が叫んだ瞬間、囲んでいた男たちが怒号をあげて俺たちに向かってきた。
俺に向かって槍持ちの2人、斧持ち、剣と盾持ちの順に向かってきた。
「放たれろ。」
俺は槍の穂先を男たちの足元に向けて呟く。
放たれた穂は煉瓦の石畳の上で光を放ち、轟音が轟いた。
「なんだこれ!」
「目が!目が!」
耳や目を抑える男たちに近付いて、槍を振りかぶる。
槍の穂は放ったからすぐに形成されない以上、鈍器として使う。
男たちの頭に次々と槍の穂先部分にある鱗みたいな部分をぶつけていく。
槍で殴られた7人の男たちは頭を押さえて呻き声をあげている。
「なかなかやるようだな!」
顔を上げると、長髪の男があのでかい蛮刀を振りかぶっていた。
槍を盾に構えて、振られてきた蛮刀にぶつける。
腕が痺れて後ろに後ずさる。
「未だお前ら!」
長髪の男が叫ぶと、彼の背後から矢が2本飛んできた。
1本は石突で弾けたが、もう1本は右足に刺さった。
「隙ができたな!」
長髪の男が蛮刀を高々と振り上げてきた。
痛みに耐えながら槍で防ごうとすると、背後から飛んできたダガーが長髪の男の腕に刺さった。
男が空中で蛮刀を振り上げたまま静止する。
「大丈夫かショウ!?」
後ろを向くと、槍を持った男の顔面に拳を叩き込んでいるタツヤがいた。
「悪い、油断した。」
俺は少し左側にずれて右手で槍を振りかぶった。
刺さったダガーが抜けて、男の蛮刀が地面に叩きつけられた。
蛮刀が叩きつけられた地面のヒビを見て少し体が震える。
「タツヤは背後の弓矢持ちを頼む。あのロン毛は俺がやる。」
「気をつけろよ!」
タツヤは俺を睨みつけている長髪の後ろに回り込んで地面に落ちてるダガーを拾ってそのまま奥に向かった。
少し遅れて長髪の蛮刀がタツヤのいたところを空ぶる。
「なんなんだ今の・・・。」
「お前の相手は俺だぞ。」
後ろを向こうとした長髪の男に話しかけながら槍を構える。
「へえ、それで動けるのかい?」
長髪の男は蛮刀を両手で持って構える。
正直、大ぶりの攻撃はかなり遅いが威力は普通に弾き飛ばされそうだった。
「まあ、なんとかなるだろうな・・・。」
俺は長髪の男に笑みを見せながら痛みを堪えながら右足を踏み締める。
長髪の男は蛮刀を高々と振り上げた。
「剣技『バンブレイク』!」
「え?」
俺が一瞬気を取られた隙に、蛮刀が目の前に振り下ろされた。
すんでのところで槍を横にして蛮刀の重い一撃を必死に防いでいる。
「どういうことだ!?」
長髪の男は困惑した表情でさらに蛮刀を押し込んでいく。
「ショウ、そっちは大丈夫か!」
長髪の男の後ろからタツヤがダガーを構えながら走り寄ってくる。
長髪の男の意識がタツヤに向いた隙に、俺は左腕を槍から外す。
槍が斜めになって蛮刀が槍の柄を沿って地面にぶつかった。
そのまま右手で槍を長髪の男の肩に叩き込んだ。
鱗の部分がパチパチと火花を上げた瞬間、穂が形成されていった。
「アババババ!」
長髪の男は槍の穂先がぶつかり感電していた。
左足を踏み出して立ち上がった勢いで槍を頭目掛けて叩き込む。
額にジグザグ模様を浮かばせながら長髪の男はその場に倒れた。
「俺の剣技を喰らって折れないとは、どういう槍だそれは・・・。」
長髪の男は痙攣しながら喋ると、そのまま動かなくなった。
「ショウ、大丈夫か?」
タツヤが蛮刀を蹴飛ばしながら話しかけてくる。
「とりあえずこれで全部か?」
「そうだね、とりあえず宿に帰って女子たちにほうこ・・・。」
タツヤの呂律が突然回らなくなった。
タツヤに触れようとした瞬間、脇腹に軽く痛みが走る。
横を見ると、さっきのボロボロの少女がさっきの短剣を俺に突き刺して立っていた。
徐々に体の力がなくなっていくのが分かる。
「おい、何してんだ・・・。」
タツヤが少女のフードを無理やり引っ張る。
月に照らされて、少女の顔がよく見えた。
「宿屋の・・・?」
俺は言い終わるより先に呂律が回らなくなり、意識がなくなっていった。
ここまで読んでいただ、ありがとうございます。もしこの作品を読んでいただいた後に感想を書いていただければ励みになります。また、どこか漢字や文法の間違いがあった場合、指摘していただけるとありがたいです。




