47話『護衛の始まり』
タツヤが天川と話しながら馬たちに新しい馬車の手綱部分の装着を取り行っている。
「姫様を連れて行くことになると思わないじゃん。」
マントに埃がついてないかを確認しながらカエデが話しかけてくる。
「俺もまだ実感が湧かないよ。他のみんなも探さないといけないのに…。」
「皆様にはご迷惑をおかけします。」
後ろを振り向くと、姫様と佐々木が立っていた。
カエデと共に急いでその場に跪く。
「そこまで丁寧な言葉を使わなくても構いません。」
「目上の人に敬語を使うのは当たり前のことです!」
俺は頭をゆっくりあげながら姫様に返事する。
「今の私は国を持たない1人の少女です。イオラと呼んでください。」
姫様は微笑みながらカエデに手を差し伸べていた。
「よ・・・よろしくお願いします、イオラさん…。」
カエデは体を震わせて苦笑いを浮かべながらイオラの手を握る。
後ろにいる佐々木もイオラが微笑んでいるのを見てか、安堵の表情を浮かべている。
「あなたもよろしくお願いします。」
「あ、はいイオラ様…。」
イオラが俺にも手を差し伸べてきたので俺も握手をした。
「無事馬車の準備終わったぞ〜。」
握手を終わらすと、後ろからタツヤの声が聞こえてきた。
振り返ると、前のより一回り大きくなった馬車の前にタツヤが立っていた。
天川は浅原を探しに行ったのかすでにいない。
俺は馬車に近づいてじっくり見ていく。
新しい馬車には扉が二つ付いていて、まずは前の扉を開けて中を覗き込む。
床だけだった前の馬車と違い、両端に簡易的な座れる椅子が付いていた。
前の扉を閉めて、後ろの扉を開ける。
中には何も置いてなく、後ろに当たる壁のところにはかんぬきが置いてある。
「前が人の乗る場所で、後ろは荷物置き場みたいな感じか。」
「姫様を連れて行くことになったからって天川が国の大工総出で作らせたらしい。」
後ろにいたタツヤが馬車の上に指をさす。
上を向くと、丸い何かが馬車に付いていた。
「荷物置き場に梯子があるだろ?」
タツヤに促されて改めて見ると、かんぬきのついた扉の横に梯子が設置されていた。
試しに登ってみると、さっきの丸い場所につながっていた。
「これって船とかにある見張り台みたいなやつか?」
「そうだよ。」
満面の笑みで下からタツヤが答えてくる。
前の扉部分に浅原王国の国章が描かれているところ以外は文句ない出来だ。
「素敵な馬車ですね。」
梯を降りてタツヤの元に戻ると、カエデとイオラ達が馬車を見上げながら近づいてくる。
「あ、どうもイオラさん。」
タツヤはイオラを見るとすぐに頭を下げた。
遠くから俺たちの話を聞いていたのか、すでに砕けた態度で接している。
「この馬車を操縦する小畑竜也と言います、以後お見知り置きを。」
タツヤは笑いながら手を差し出してきた。
かなり好印象だったのか、イオラは俺やカエデの時より明るい表情でタツヤと握手をしていた。
城の扉からユリとサイアが入ってきて俺たちのいる馬車の元に向かってきた。
「今日からしばらくよろしくお願いします。イオラさん。」
「よろしくお願いします…。」
ユリとサイアはイオラに一礼すると、手に持った荷物を持って馬車の後ろ扉に入っていった。
「俺もちょっと手伝ってくる。」
俺はタツヤに一言言って、荷物置き場に入る。
目に入ったのは、床に敷かれた大きな魔法陣の紙だった。
「離れといてね。『転移書簡』。」
隅っこにいたユリが一言言うと魔法陣が光はじめた。
魔法陣から前の馬車にあった荷物類やポーションの入ったカゴが現れた。
「便利だなお前の能力。」
「褒める前に荷物を並べて。」
ユリとサイアは出てきたばかりの荷物をすぐさま並べ始めた。
俺も手伝って数分で移動されてきた荷物は整理された。
外に出ると、浅原と天川が立っていた。
「みんな、協力してくれてありがとう。俺たちは軍を編成次第向かう。」
浅原は俺に激励の言葉をかけてくれるが、あまり嬉しくはない。
俺と浅原の横を天川は通り過ぎてユリに話しかけていた。
「ディモンド王国までの道で、盗賊が出現する地域がある。気をつけてくれ。」
天川が道について話すと、ユリが怪訝そうな表情を浮かべる。
「それ以外のルートはないの?」
「サフィア王国を通る事になるが大丈夫か?」
天川の返答を聞いて、ユリはため息をついた後馭者台に向かって行った。
「あと夏川には話していたが、もし道中でクラスメートを見つけたら教えてくれ。」
浅原はそう言いながら服の裾から水晶玉を取り出した。
俺もカバンから水晶を取り出してかざすと、二つの水晶は光を出した。
水晶玉には『アサハラ・カズキ』と名前が載っていた。
「もうそろそろ出発するぞ。」
すでに馭者台に座っているタツヤが手綱を手に取っていた。
俺は水晶玉をカバンに戻して浅原に手を振りながら馬車に近づく。
「あ、ショウは上の見張り台に登って。」
扉を開けてユリが言ってきたから、後ろの扉から馬車に乗る。
梯を登って丸い見張り台に登った。
馬が歩き始め、手を振る浅原と天川や周囲にいた兵士たちが手を振っていた。
俺は見張り台から身を乗り出して手を振った。
馬車はそのまま王国の壁を抜け外に出た瞬間、風が突然強くなった。
「頑張ってね〜!」
「早川さん、気をつけてね〜。」
上を見上げると、クロロンに乗った白石と小杉が手を振っていた。
俺は王国に戻ろうと旋回するワイバーンに向かって手を振ろうとした瞬間、急に馬車の速度が早まった。
下から女子たちの悲鳴が聞こえてきた。
「タツヤ、どうしたんだ!?」
俺は見張り台の縁にしっかり捕まって馭者台のタツヤに話しかける。
「馬たちがクロロン見て驚いて走り始めた!」
タツヤが悲鳴に近い声で返事をしてきた。
「王族乗せた馬車まで暴走させんじゃないよ、この運転免許未修得者!」
ユリの罵声がタツヤに放たれたが、馬を落ち着かせるのに必死で聞こえてなさそうだった。
ここまで読んでいただ、ありがとうございます。もしこの作品を読んでいただいた後に感想を書いていただければ励みになります。また、どこか漢字や文法の間違いがあった場合、指摘していただけるとありがたいです。
また、作者の諸事情により、2週間ほど休暇を取ることをご報告いたします。




