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46話『霧の中の騎士』

廊下から聞こえてくる木靴の音が徐々に近づいてきた。

扉を開けて廊下に出ると、ウィークが青ざめた表情で立っていた。

「どうした?3時のやつが呼び出しでもしてきたのか?」

「2時の番人にお前を連れてこいと言われた。」

返事を聞いて、俺は全てを察した。

死ぬことはないと分かってはいるが、死ぬほど会いたくない方だ。

「俺サフィア王国の王様の首を取ったんだぞ!怒られるようなことしてないぞ!」

「俺だって知らないよ!ショーテル磨いていたら急に扉蹴りあけてきたんだぞ!」

「ここでの口喧嘩は無駄だ。」

俺とウィークの口論している横に、1人の女性が立っていた。

バアツ・クロスミスト、魔王軍幹部『時計盤』の2時の番人の吸血鬼であり、俺の剣の師匠でもある。

全身を赤い鎧で身に纏った金髪の吸血鬼が、赤い目が俺とウィークを睨みつける。

「あ〜、どうも。」

俺は背筋を伸ばして例をすると、兜の後頭部に左手がそっと置かれた。

頭を上げた瞬間やられると鎧が震える。

「1000年前に、その話し方はやめろと言ったはずだ。」

冷たい声が頭上から聞こえてくる。

多分横ではウィークも冷や汗を垂らしているのだろう。

「サフィア王国国王の始末、ご苦労だった。」

冷たい声と共に兜の後頭部を優しく撫でられる。

その行動さえも恐怖を感じるのは俺の思い過ごしであると思いたい。

「さて、本題に入る。ドゥーワ・アルバインの暗殺の時、死にかけたそうだな?」

疑問を尋ねるような声を聞いて、俺は全てを察した。

これは完璧に説教に入る流れだ。

「暗殺の失敗自体はどうでもいい。サフィア王国の姫君を殺し損ねたことも、国王を殺した時点ですでに目的は達成しているからそこを怒ることはない。」

俺は少しずつ顔を上げて師匠の顔を見る。

思った以上に怒られる気配が無いのかと思って見上げた師匠の顔には、青筋が浮かんでいた。

「怒っているのは、私が修行をつけたお前が死にかけたことについてだ!」

次の瞬間には城の外に放り出されていた。

周りは赤い雲と霧で覆われていて、陽の光が通らず城の廊下の光しか光源がない。

この下は確か訓練をするための稽古場で、土が敷かれていて燃え広がる心配はない。

鎧の中から火炎瓶を浮かばせて、地面に叩きつけた。

地面に炎が燃え広がり、周囲を照らす。

すでに稽古場に飛び降りていた師匠が俺の真下で右拳を握ってちらつかせていた。

すぐに鎧全体を必死に浮かべて数メートルだけ落下地点をずらした。

無理に空中でバランスを取ろうとしたせいか、転ぶように着地した。

兜を持ち上げると、師匠が空中で生成される赤い剣を逆手に掴んで近寄ってくる。

「もう一度修行してやる。死なないお前に手加減は必要ないだろう。」

師匠は呟くと、俺の目と鼻の先まで走り寄ってきた。

急いで横に転がって距離をとる。

さっきまで俺の頭部があった場所に赤い剣が深々と突き刺さっていた。

起き上がりながら腰の剣を抜いた。

鎧と兜の隙間から予備の剣2本と火炎瓶2個を取り出して宙に浮かす。

「お前が負けたのは、槍使いだったな。」

剣を放り投げた師匠の手の中から、赤い棒が伸びていく。

石突にも刃の付いた十文字の槍を持った師匠が走って近づいてくる。

火炎瓶の1つを師匠の走る先に、もう1個を俺の真下に向かってぶつけた。

2個の火炎瓶は割れて炎が一瞬飛び出したあとすぐに消えた。

槍を消えていく足元の火を見ている俺の視界に、師匠の顔が見上げるように向けられた。

腰の周りに浮かんでいた剣で顔に向かって突き上げられる槍に砕かれながら防ぐ。

師匠は何も言わずそのまま俺にタックルをかます。

少し距離を取ろうと後ろに下がるが、再び師匠が姿勢を低くして俺に向かって突っ込んでくる。

剣を構えながらもう1本の浮かせた剣を周囲に漂わせようした瞬間、浮かべていた剣が砕かれた。

剣を砕いた師匠の赤い剣が地面に垂直に突き刺さった。

「よそ見すんじゃない!」

目線を下におとした瞬間、鎧の胴に十字の穂先が無理やりねじ込まれていた。

「生物ならこれで死んだ。」

師匠が呟くと同時に、鎧の中から次々と枝分かれして槍の穂先が隙間という隙間から飛び出して地面に突き刺さる。

鎧の自由が奪われていき、手から剣が地面に突き刺さった。

師匠が素早く剣の柄に踵を落とす。

「わざと落として浮かせるのは目に見えてる。」

ため息を吐く師匠が槍から手を離し、赤い剣を手に取ろうとした。

俺は何も言わずに、鎧の中にある火炎瓶を破裂させた。

鎧の隙間中から炎が破裂するように噴き出した。

師匠は目を見開いて距離を取る。

炎はすべて一瞬吹き出た後、すぐに消化された。

俺の中で枝分かれしていた槍は燃えて蒸発して行った。

「そんな芸当できるなら人間と戦う時も使えばよかったんじゃない?」

「使い切っていましたよ、そん時には。」

距離をとってくれたおかげで奪えなくなっていた突き刺さった剣を手に取った。

再び師匠は手の中で赤い十文字の槍を生成していた。

「槍技『フォールライン』。」

師匠が呟くと同時に、上空へと槍が放り投げ出された。

一瞬槍に目が向かいそうになるが、師匠から目を離さないように心がける。

師匠は走り寄りながら片手剣を構えていた。

「剣技『バンブレイク』!」

師匠の高々と振り上げた赤い剣が勢いよく振り下ろされる。

剣で受け止めると粉々に砕かれて武器がなくなる。

俺は左腕で赤い剣の重たい斬撃を受け止める。

「やはり神器は傷つかないか。」

不機嫌そうな師匠のかおから少し視線をずらすと、左腕に赤い短剣が生成されていた。

「暗技『シンクスタブ』!」

振り上げるように鎧の隙間へ短剣が突き出される。

鎧の手のひらで短剣を受け止める。

そのまま短剣ごと左腕を掴む

剣を空中でとどめながら右手も鷲つかむ。

両手を無理やり上に上げさせて浮かせている剣を師匠の首筋へ伝わせる。

「これで一本とれ……。」

俺が尋ねる前に、上空から降ってきた槍が剣を砕いた。

槍が宙に浮かんでおれの兜の隙間に捩じ込まれた。

「参りました。」

捩じ込まれた槍を引き抜きながら頭を下げる。

「動きは1000年前から全く進歩して無いな。その調子だともし今度同じやつと出会った時、その鎧を纏っていても殺されかねないぞ。」

師匠はそう言いながら城の中へと入って行った。

光源として消されなかった炎も消され、赤い霧が晴れていった。

「大丈夫か?」

城の中からウィークが走り寄ってきた。

「大丈夫だったか?」

「死なないけど、死ぬほど怖かった。」

俺は呟きながら地面に座り込んだ。

「なあ、後で手合わせしてもらってもいいか?」

「いいぞ。」

ウィークはショーテルを眺めながら返事をした。

頭の中で黄色い槍を持ったあの少年の顔が思い浮かぶ。

「負けたくねえ…。」

剣を取りに行くため、俺は立ち上がって城の中へと入って行った。

ここまで読んでいただ、ありがとうございます。もしこの作品を読んでいただいた後に感想を書いていただければ励みになります。また、どこか漢字や文法の間違いがあった場合、指摘していただけるとありがたいです。

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