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45話『国無き姫の勅命』

「いけそうかな?」

壁に耳を当てながらユリが天川に尋ねている。

天川は口に指を置くジェスチャーをしながら壁に耳を当てる。

「遠くから見れば完璧盗み聞きしているように見えないな。」

「実際、盗み聞きだろ……。」

面白がって言うタツヤに佐々木が静かに話しかける。

今目の前の部屋では、浅原とサフィア王国の姫君が話をしていた。

内容はサフィア王国を取り戻すことについての話だ。

俺とタツヤとユリと天川と佐々木は、部屋の前の壁で耳を当てて話をこっそり聞こうとしていた。

「まずあいつと姫様を2人きりにしていいのか?」

「もしウチの王様が姫を襲いそうになったらドアぶち破って入ってそのハンマーを叩き込んでくれ。」

佐々木の質問に天川がドアを指差しながら応える。

浅原と姫様が2人きりになって2分後、浅原の声が聞こえてきた。

「ごっご機嫌よう、イオラ姫……。」

壁越しに浅原の緊張で震える声が聞こえてくる。

お金持ちだったから目上の人と会うこともあるから社交辞令はあると思ってたが、どうやら目上の人と話すのは初めてらしい。

「実はイオラ姫にご相談がありまして……。」

浅原の震え声を聞いて、廊下で聞き耳を立てていた俺たちの間に諦めムードが流れ始める。

「なぜそんなに声が震えているのですか?」

壁越しから姫様の声が聞こえてくる。

声には覇気がなく、呟くような話し方だった。

ふと横を見ると、佐々木が涙をこぼしていた。

「どうした?」

「ここに来てイオラ様が初めて口を開いた……。」

佐々木の返答を聞いて、俺はなんとなく察した。

「いえ、女性と話したことがあまりなくて、少し緊張していて……。」

姫様の質問に対する答えを聞いたユリが、壁に叩き込もうと振り上げた腕を必死に押さえていた。

ユリほどではないが、俺でもこれは無いと思える返事だ。

「本当に大丈夫なの?あいつ?」

「カズキはやる時はやる奴だ……。」

天川がユリを説得しているが、今のところ説得力がない。

タツヤに至っては壁から少し離れて笑い声を抑えようと必死になっている。

「それに、あなたはサフィア王国の姫様と目上の人と話す経験をあまりしたことが無く……。」

「滅びた国の姫が、今もなお発展をする国の王より目上のはずがありません。」

姫様の淡々とした正論に、浅原は言葉が詰まったらしい。

聞き耳を立てている俺たちの間に不穏な空気が流れる。

もう答え方一つ間違えれば話は速攻で終わる。

「そうか……。」

1分くらい経って、浅原が呟いた。

聞き耳を立てている俺たちの間に緊張が走る。

「だったら、命令をする。」

浅原の胸を張って姫様に話し始める。

佐々木がハンマーを壁に振りかぶろうとしたからタツヤと必死に押さえる。

浅原の言い方に思い当たる節がある。

「俺たちはこれからサフィア王国を滅ぼしたモンスターどもをやっつけてくる。その後サフィア王国を再建しろ。そして、その後俺との交易に応じろ。」

部屋の中が静かになったのか、聞き耳を立てても風の音しか聞こえない。

次の瞬間、ガタンと椅子が倒れる音が部屋の中から聞こえてきた。

急いでドアを開けようとする佐々木を宥めていると、予想した言葉が聞こえてきた。

「それが王の命令であるならば。」

姫様の返事が聞いた天川とユリが顔を合わせた。

部屋から浅原が冷や汗をぬぐいながら出てきた。

「早急に兵士たちを集めろ。」

「了解。」

浅原は天川を連れて廊下を歩いて行った。

入れ替わるように佐々木が姫様の部屋へと入っていく。

浅原がどっか行った後、その場でユリが安堵の表情を浮かべてその場に座り込んだ。

「一時はどうなるかと思ったけど、うまく説得できたってことでいいのかな?」

「いや、完全に説得し切った訳じゃないと思う。」

尋ねてくるタツヤの質問に俺は応える。

「あれは説得じゃない、浅原の神器の能力で無理やり言わせたんだ。」

まさかと言う表情を浮かべながらタツヤが姫様の部屋を覗き込む。

俺も覗き込むと、姫様は佐々木に背中をさすられながら口を押さえて震えていた。

本人にそのつもりはなかったのにいつの間にか自分の口から言っていたら驚くだろう。

「一件落着でいいのか?これ?」

「いいんじゃない?これであの翡翠の森の虫たちと喧嘩しないで済むならいい方でしょ?。」

「とりあえず、カエデに経緯は話すなよ。発案者もこうなると思ってなかっただろうし。」

俺はタツヤと共に城の庭へ出ると、門の前でマオが兵士から何かを受け取っていた。

門の前にいたマオは兵士に手渡された手紙を見て尻尾をピンと伸ばしていた。

「ラブレターでももらったのか?」

タツヤが冗談混じりで話していると、周囲を見回していたマオが俺たちに向かって走り寄ってきた。

「お2人さん、天川様がどこにいるか知りませんか?」

慌てた様子でマオが話しかけてきた。

ユリが浅原と天川が歩いて行った廊下を指さしたらマオは一礼して走って行った。

「天川にラブレターよこす奴っているか?」

「いないだろうし、天川ってことは多分国関係だろ。」

俺はタツヤに返事をしていると、ユリがマオの後を追い始めた。

俺たちも急いでユリに着いて行き、天川の部屋に到着する。

部屋に入ると、ユリとマオに挟まれた天川が、手紙を見てため息をついていた。

机の前で浅原が唸りながら膝から崩れ落ちていた。

「なあ、その手紙って何か問題あるのか?」

「めっちゃ大問題だよ……。」

天川が手紙を机に置いたので、俺とタツヤも近づいて手紙を覗き込む。

手紙には綺麗な字で書かれていた。

『10国会議参加通告書

開催場所:ディモンド王国 十国会議場

議題:サフィア王国崩壊に関する交易の変化への対策

モンスターたちによって奪われたサフィア王国領土の奪還計画の模索

参加国:ディモンド王国 ガネット帝国 リズラス王国 エメルド王国 パーズ王国 トラドンサキア教国 メジスト共和国 パル王国 アサハラ王国』

手紙の内容を理解していけばしていくほど、膝から崩れ落ちそうな気分になる。

「もしかして、さっき姫様に言った作戦ダメになった?」

「おじゃんだよ!」

天川が手紙を叩きつけて机に突っ伏した。

強引とは言え、決まったことを変更させられるのは嬉しいものではない。

「マオ、この手紙を送ってきた使いの者はなんて言ってた?」

「今から20日以内にディモンド王国までに、軍を連れて来てくださいと言っておりました。」

マオの返答を聞いた天川は予定を書かれてたであろう紙をくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に捨てていた。

浅原は立ち上がると、俺の方に向く。

「俺は兵士たちの編成をしてからディモンド王国に向かう。この会議はサフィア王国の話だから王族のイオラ姫も行かなくちゃいけない。だが姫は俺たちの王国の軍じゃないから俺たちじゃ連れていけない。」

真剣な表情で浅原が俺の手に肩を置いてきた。

「お前たち、イオラ姫をディモンド王国へ連れて行ってくれないか?」

「絶対やだ!」

俺は首を全力で横に振って抵抗する。

浅原は周りにいるタツヤとユリにも顔を向けるが、2人とも目線をそらして浅原と顔を合わせないようにする。

「そこまで嫌か?」

尋ねてくる浅原に首を縦にふる。

「一端の冒険者に他国の王族の護衛頼むって正気なのあんた!?」

横からユリが浅原に怒鳴りつけ始める。

浅原の後ろで椅子に座っている天川もその通りというように首を縦に振っている。

「そもそも、姫様が俺たちを怖がるだろ。」

「そこは姫様に耐えてもらおうってことで……。」

そろそろ殴ろうかと考えていると、後ろの扉が開いた。

振り返ると、佐々木に支えられたサフィア王国の姫様がいた。

ユリと天川、マオがすぐさま跪いたのを見て、俺とタツヤもその場で跪く。

「イオラ姫、何でここに?」

突然入ってきた姫様に、浅原は何をいうべきかを考えて口ごもっていた。

「先ほど急に口が動いて何かを言わされたような気がしたので、それを訂正するために来たところです。それと、10国会議の話も少しお聞きしました。」

姫様が話し始めて浅原が何も言えずに震えている。

姫様は部屋の中を見回すと、跪いているユリの元へ歩み寄った。

「私をディモンド王国に連れて行ってくれますか?」

「え?」

ユリが冷や汗をかきながら顔を上げる。

机の上に置かれた手紙をチラリと見た後、姫様はユリに手を差し伸べる。

「サフィア王国についての話がある以上、私はこの10国会議に参加しなければなりません。ですので連れて行ってもらえないでしょうか?」

もう目の前で父親の首を燃やされて塞ぎ込んでいた少女の面影は徐々に消えつつあった。

ユリは少しの時間熟考した後、俺とタツヤに申し訳なさそうな

表情を浮かべた後、頭を下げた。

「その依頼、引き受けます……。」

ユリは震え声で姫様の依頼を引き受けると言った。

ここまで読んでいただ、ありがとうございます。もしこの作品を読んでいただいた後に感想を書いていただければ励みになります。また、どこか漢字や文法の間違いがあった場合、指摘していただけるとありがたいです。

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