44話『街中にて』
「えっと……つまり交渉は先延ばしになった?」
俺の質問にユリが頭を抑えながら首を縦に振る。
「あいつ本当に王様向いているのか?」
「知らないよそんなこと……。」
ユリに質問したタツヤも苦笑いを浮かべながら話しかけていた。
話を聞く限り、隠し事をしていた浅原たちが十中八九悪い。
せっかく毒も抜けて退院して宿屋に戻って、最初に聞く話が悪い知らせということに少し落ち込みそうになる。
「この国について全く調べてないから話についていけない以上、私はもう役に立てない。どうすれば……。」
「じゃあ今から調べにいけばいいんじゃない?」
カエデが窓を開けながら提案をしてきた。
よくよく考えれば、この街を回る前にカエデの誘拐騒動が起こった。
そこから更に虫退治と王族救出に出向いていて、この4日間は街の中を見回るどころか、宿屋で休む暇もなかった。
「そうね、じゃあショウとカエデとサイア、私とタツヤで別れよう。」
「わかった、ちょうど運動とかしたかったし。」
そういうとタツヤは久々の休日だからとドアを開けて走り去っていった。
「地図持っているの私なんだけど……。とりあえずもう1枚はショウに渡しとくね。」
ユリは1枚の紙をベッドの上に置いてタツヤを追いかけに外へと出ていった。
俺はベッドの上に置かれた地図を手に取る。
「じゃあ俺たちも行く?」
「そだね!行くよサイアちゃん!」
「え?」
驚いているサイアの手を引っ張ってカエデは外へと走っていった。
俺は急いで2人の後を追った。
宿屋から南へ向かって、一度馬車で来たところの出店を見回す。
「この辺りの出店は装飾品が多いんだね。」
カエデが周りを見渡しながら呟く。
周囲の出店の商品は、イヤリングやネックレスなどのアクセサリー類が多い。
お菓子の出店を探し回っている様子のカエデは物足りなさそうな表情で道を歩く。
「けどこれだけ見ると、本当に建物建てる必要あるのかな?」
カエデは疑問そうな表情で俺たちに話しかけてくる。
確かにこの大通りを見る限り、建築が必要そうな気配は無い。
「サイアちゃん、気になることはない?」
カエデが後ろで俺が渡した地図を見るサイアに尋ねる。
「私の意見なのですが……。」
サイアは後ろの建物の方を振り向く。
その建物と建物の間に隙間があった。
「あそこの隙間から子供が出入りしているのを確認しました。」
「ちょっと言ってくる。」
意見を聞いたカエデはサイアの頭を撫でて隙間に向かっていく。
俺は撫でられたことに照れているサイアの手を繋いでカエデの元に向かう。
カエデの横から建物の隙間を見ると、隙間の奥に何か建物と広場らしきものが見える。
「ここを子供が行き来してたの?」
「はい、私と同じくらいの背丈の子が入っていくのを見ました。」
サイアの説明を聞いて隙間に手を入れてみる。
確かに今いる場所の隙間だと、サイアくらいしか入れない大きさだ。
「サイア、地図を貸して。」
俺はサイアから渡された地図を見て、周囲を見回す。
この隙間の先は、工事中と書かれていた。
「子供がいっちゃダメな場所じゃないか?奥の状況が知りたいのに……。」
「サイアちゃんは入れる?」
カエデがカバンをいじりながらサイアに尋ねる。
「一応可能です。」
「じゃあ危なくなったら逃げていいからちょっと見てきてもらってもいい?」
カエデはカバンから取り出した水晶玉を起動してサイアに手渡す。
俺のカバンの中で水晶が光りはじめて、カエデの考えを察した。
「わかりました。」
水晶を手渡されたサイアはフードを更に深々と被って隙間の中へと入っていった。
水晶玉の中で隙間の先がどんどん見えてきた。
『もうすぐ広間です。』
サイアの声が聞こえると同時に水晶の中に隙間の奥の風景が見えた。
隙間の奥は広場になっており、工事が行われていた。
『あれ?あんたなんでここにいるの?』
水晶の中から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
サイアが振り向いたのか、水晶に白いローブを着た猫耳が映る。
『マオさんですね。ここについていくつか教えて頂けないでしょうか?』
サイアがマオに話しかける。
『ここはサフィア王国からの難民を受け入れるための居住区だよ。』
マオがサイアは水晶玉で居住区を移し回る。
居住区の中は簡素な布で出来たテントのがいくつも並んでいて、広場の片隅では王国から派遣されたらしい人々が難民たちにシチューを配っている。
そして並んでいるテントの奥では、大きな建物が建てられつつあった。
『あそこが建築途中の居住区ですか?』
『そうね、今はまだ資材不足で工事が遅れているけどね。』
しながらサイアの腕を掴んだ。
『どうかなさいましたか?』
『あんた一応奴隷でしょ?ここはまだ教会の治安維持部隊がいないから、あんたみたいな小さい奴隷はすぐに襲われる。それに狼種な以上差別意識も高いやつが多い。入り口前まで連れて行ってあげる。』
そういうとマオがサイアの左腕を掴んで引っ張っていく。
俺とカエデはサイアが連れていかれた場所を確認して走って向かっていく。
十字路で突き当たりを曲がったところで、隙間から出てくるサイアとマオを見つけた。
「こんにちは。」
マオは丁寧に頭を下げた挨拶をしてきた。
「水晶越しに見たんだが、あれが難民用の施設なのか?」
俺たちが知っていることに驚いたらしく、マオが気まずそうな表情を少し浮かべた。
「そうなります。木材の建築資材をなんとか調達したいのですが、調達できる場所が翡翠の森だけなんです。」
マオは呆れた表情で話をする。
「周囲に他の森林とかはないのか?」
「この王国を建てる上で近隣の王国と会議を開いたのですが、翡翠の森以外の付近の森林地帯はリズラス王国の領土ですし、今まで木材の交易をしていたサフィア王国も数日前にモンスターたちの襲撃で滅びてしまいましたし……。」
マオの話を聞いてどうしようもないことが伝わってくる。
「そういえば今サフィア王国のお姫様はこの王国にいるんだよね?」
「イオラ様のことですか?今は王城におられますね。」
「じゃあ姫様に王国取り返したら木材の取引を持ちかけてみたら?」
「そうじゃん!」
カエデの意見を聞いたマオが声を張り上げる。
俺はもうすでにそれもやった上で話していると思っていたから、まずやってなかった事に驚いた。
「それなら話せばどうにかなるんじゃないか?」
「けどイオラ様はサフィア王国国王の崩御した日から心を閉ざしていて話せるでしょうか……。」
マオの返事を聞いて頭の中であの騎士の行いを思い出す。
あの騎士が国王の首を姫に持たせて燃やすとかいう蛮行は部外者の俺でも辛い。
「とりあえず、その案を天川様にお話しに向かいましょう。」
マオはサイアの手を繋いだまま王国の方へと向かっていった。
サイアが目を見開いてマオと俺たちを交互に見ながら十字路を曲がって連れていかれた。
「待って!サイアちゃんの手離して!」
カエデが急いで2人の後を追って走り始めていた。
もしこの案が通ってサフィア王国を取り戻せたら、翡翠の森の虫たちも納得してくれて、穏便になるだろう。
俺は水晶玉を取り出してユリに繋いだ。
『どうしたの?何か問題があった?』
「解決策が見つかった。うまくいけば虫たちの交渉もうまくいくかもしれない。」
水晶からパチンとハイタッチをするような音と、痛えと叫ぶタツヤの声が聞こえた。
俺は水晶をカバンに戻して、3人と同じ道を走っていった。
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