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37話『生還』

周囲の煙が晴れて、周りに敵がいないのを確認してからバブルドームを解除する。

後ろではタツヤがうずくまったままのショウをさすっている。

「タツヤ、何があったの?」

「多分腹部に破片がぶつかって気絶してる。」

急いでショウを仰向けにすると、腹部から少し血が流れ始めていた。

ショウの胸に耳を当てると、心臓の鼓動が聞こえてくる。

少なくとも気絶しているだけで問題はなさそうだ。

天川や他の兵士たちは鎧が少し破損している以外は問題ないのかすでに周囲にモンスターがいないかを確認している。

「佐々木さん、無事?」

サフィア王国からの馬車に近づいて、中にいた佐々木に話しかける。

佐々木の膝では、泣きじゃくっている姫様の背中をさする。

「私たちは無事だ、それと今はそっとしておいてくれ。」

佐々木は悔しそうな表情で姫様の背をさすっていた。

そっと馬車の扉を閉めて、私は天川の元へ行く。

彼女達の感傷に浸るのも仕方がないと思うが、今はそれどころじゃない。

「天川、あのゴブリンと自爆したやつの会話を覚えているか?」

「ああ、あの騎士が翡翠の森の虫モンスターたちが王国に攻めてくるかもしれない。」天川は手を震わせながら水晶玉を取り出して光らせる。

水晶玉の中に風圧で顔がすごいことになっている白石の顔が浮かび上がった。

「白石、今話せるか?」

『周囲にいるトンボの大群の相手しててそれどころじゃない!』

白石が天川が耳を抑えるほどの大声で叫ぶ。

おそらく、あの卑怯な騎士がもう翡翠の森に到着して虫モンスターをけしかけたのだろう。

「馬車で半日かかる距離だぞ!?どんな速度で行ったんだあの騎士!?」

天川が道を眺めながら呆れた表情を浮かべる。

「とりあえず、早く戻ったほうが良さそうね。」

私は馬車の方を見るが、ここまでくるのに乗ってきた馬車を引いていた馬達が死んでいた。

ドームの範囲外だったのが理由か、破片が身体中に突き刺さっている。

私は地面に素早く正確に魔法陣を描く。

「『転移書簡』。」

詠唱をすると、描いた魔法陣が光り始めた。

「ここから私たちが止まってる宿まで繋げました。急いで戻りましょう。」

私はそういうと、具合の悪そうな表情のカエデとサイア、ショウを抱えたタツヤ、佐々木と姫様、兵士たち、天川、私の順に入っていく。

魔法陣を通り抜けると、部屋の中が10人以上の人で鮨詰めになりそうな状態になっている。

窓を見ると、ワイバーンが上空で巨大トンボ達を蹂躙している姿が見える。

兵士たちも自分たちの出番がないだろうことを確信してどうするかを考え込んでいる。

「兵士の皆さんは姫様を急いで城へ!」

天川と佐々木と兵士たちは急いで姫を連れて外へと向かった。

「タツヤはシスターの小杉を連れてきて!」

タツヤも外へと走っていった。

部屋の中には女子が3名、気絶して動けない男子1名になった。

「カエデ、大丈夫?」

肩に赤くなった包帯を巻き付けているカエデに尋ねる。

カエデはベッドに座って気絶しているショウの頭を膝に乗っけてさすっている。

サイアが氷を作り出して、ショウの腹部に押し当てて応急処置をする。

「私って、みんなの役に立っているかな……。」

「突然何を言い出しているの!?」

私はカエデに近づいて尋ねる。

普段の天真爛漫さが全くない。

「ゴブリンの矢にあたってなければ、私があのボスみたいなゴブリンも倒したし、ショウが怪我しなかったかもしれない。」

私はため息をついて、くしゃくしゃになったベッドの上に乗る。

「ショウが大事なんだね。」

ちょっと茶化すように話しかけると、カエデは少し照れた顔を浮かべる。

「私はショウと幼稚園の頃から仲が良かったんだ。」

カエデはショウの頭を撫でながら話し始める。

「私が持っていた宝物を取られた時に取り返してくれたり、かっていた犬が行方不明になった時必死に探して見つけてくれたりしてくれたんだ。」

私はカエデの発言を聞いて少し疑問に思って首を傾げる。

「あれ、私が学校で見てた時のショウって休み時間に空き教室で他のみんなとトランプや麻雀してる不良ってイメージがあるけど。」

「小学生の頃は学校にゴキブリ詰め込んだ箱とか持ってきたりしていた頃に比べればだいぶ丸くなっていると思うよ。」

カエデは楽しい記憶を思い出すように喋っている。

会話を聞いている限り、カエデからは友達と仲良く遊んでいるだけに見えていたんだろう。

「恋人の趣味、悪いって言われたことはある?」

「特にないよ。」

カエデの話を聞いて、少しクスリと笑った。

「ユリ、今普通に笑ったね。」

カエデが笑いながら話すのを聞いて、納得する。

考えてみたら、この世界に来てから私が笑ったのは初めてかもしれない。

最後に笑ったのは転生する前日に部屋で見ていたお笑い番組を見た時だろう。

「出来てきたのかな・・・。余裕。」

私がつぶやいていると、タツヤがドアを勢いよく開けて入ってきた。

「連れてきたぞ!」

「早川さん!大丈夫ですか!直ぐに治癒魔法をかけます!」

「ありがとう、私よりショウを先にお願い!」

カエデはやってきた小杉に笑顔を振りまいてショウの頭をベシベシと叩く。

膝枕をされているショウが唸り声を上げながら手をあげる。

「ご主人!ショウ様の意識が戻ってきてます!」

サイアが目を見開いて驚いた表情で私に向かって報告をする。

私は安堵して窓を開けて、空を見上げる。

上空をワイバーンがぐるぐる回っていて、トンボの姿は一切なかった。


「お、戻ってきたね〜。」

着直したお気に入りの鎧を調整していると、突撃していったワームドラゴンたちの群れが俺の背後にある森へ戻って行った。

その中で唯一のランスビーが俺に向かって降りてきた。

「ダレダアノオウコクノセンリョクガヘッテイルトイッタノハ!」

ランスビーが俺に向かって羽音を立てながら怒鳴りつけてくる。

まあ結構被害が出ているのは確かだが、正直虫たちは俺の管轄外だ。

「ミカンくん、落ち着いて。」

ランスビーの背中から、ボロボロのマントを羽織った緑髪のポニーテールの少女が降りてきて説得をする。

「スズハラ、シカシ……。」

「今回はカルミネさんの言ったことを鵜呑みにした私のミスだった。だから責めないで。」

ランスビーは虫の顔のはずなのに複雑な表情で頭を下げる。

「さて、このこと10時にどう伝えるの?」

「フォロムさんには私から謝っておきます。」

鈴原藍は無表情で俺の横を通り過ぎて森の中へと歩いて行った。

ランスビーは俺の兜を睨みつけた後、ランの後を追っていった。

「よし、帰るか。」

俺は近くの木で止まっていたワームドラゴンに手を振る。

意図を察したらしいワームドラゴンは俺の肩を6本足で掴んで飛翔した。

ここまで読んでいただ、ありがとうございます。もしこの作品を読んでいただいた後に感想を書いていただければ励みになります。また、どこか漢字や文法の間違いがあった場合、指摘していただけるとありがたいです。

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