31話『翡翠の森の霊虫』
「2人共、準備はできた?」
ユリが部屋の扉を開けて聞いてくる。
アサハラ城に攻め込んでから3日経っていた。
今日は浅原が予定していた翡翠の森に住む虫系モンスターたちを根絶するための進軍をする日だ。
俺たちが城前に到着すると、すでに門の前では冒険者たちが集まっていた。
「なんで冒険者までいるんだ?」
「単純にこの国が建ったばかりで兵力が少ないから。」
横を向くと、黒い竜に乗った白石が猫耳の少女と共に降りてきた。
「初対面ではありませんが名乗ってませんでしたね。私は天川様直属の部下であるマオと申します。」
マオと名乗った猫耳の少女が丁寧にお辞儀をする。
サイアと違って、奴隷ではなさそうだ。
黒い龍はこの前みたいに唸り声を上げているが、襲ってくる様子はない。
「広間でも見たけど、黒龍ってかっこいいな。」
タツヤが目を輝かせて黒龍を見る。
「小畑、クロロンはワイバーンだ。」
白石はタツヤの発言を訂正していると、城の門が開いて浅原が列を成した兵士たちと共に出てきた。
「諸君、我が軍と共に翡翠の森の怪物退治に協力してくれること、心より感謝する。」
前みたいな飄々とした様子は一切感じさせない声で浅原が演説を始めた。
「蒼山と小畑、説明は後でするからクロロンの背中に乗って。」
白石が促すと、クロロンが伏せて乗りやすい姿勢になる。
タツヤが乗っかった後に続いて俺も背中辺りに乗る。
クロロンは一声鳴くと上空へ舞い上がった。
遊園地のジェットコースターで感じた以上の風圧が顔面全体に襲いかかってきた。
王国全土が見渡せる高さに到達するとクロロンは翡翠の森に向かっては滑空していく。
「なあ白石、俺たちは別行動って聞かされていたけど何をするんだ?」
タツヤが白石に向かって質問をする。
城に着くまでに俺とタツヤは白石たちと共に別行動するとは聞かされていたが何をするのかまでは聞いてはいない。
「目標はある虫モンスターの討伐を頼みたいの。」
「ムカデか?」
「それ以上に進軍を阻害してくる虫がいる。」
白石が説明をしようとしていると、真横からブウンと音がした。
横を見るとあのでかいトンボが俺たちを見ていた。
「こいつか!」
「違う、このトンボたちはワームドラゴンって言うんだけど、こいつらは索敵が役目で攻撃手段が突撃のみの雑魚だから無視していい。」
白石が説明をしていると、翡翠の森の上空へ辿り着いた。
下に広がる森は、風が吹いて綺麗な緑色に光る。
「来るよ!」
猫耳が叫んだ瞬間、森の中から大量の紫色に光る物体が飛び出してきた。
クロロンの飛行速度が唐突に早くなって飛んでくる光から距離を取る。
「あの光がどこから出てきたかわかる!?」
白石が真剣な表情で聞いてくる。
俺とタツヤが首を縦に振る。
「あの光を打ち出している虫が森の中に隠れている!マオとタツヤとショウの3人はその虫を倒して!」
白石が命令をした後、クロロンが旋回をして光が出てきたところに向かって突撃する。
「今よ降りて!」
マオが叫びながら俺とタツヤの腕を引っ張って飛び降りる。
「ちょっと待て!」
「俺たちまだ心の準備がああ!」
俺とタツヤは悲鳴を上げながら森の中へと落ちていった。
周囲の木の枝に上着の裾が引っ掛かり吊るされる状態になる。
下を見ると、うつ伏せになって唸っているタツヤと無事に着地して周囲を見回すマオの姿があった。
「この人本当にシーフなんですか?」
マオが呆れた様子でタツヤを揺らしている。
俺は槍で枝を切って着地する。
森の中を見回すが、日の光を木々が遮っているせいで、かなり暗く見辛くなっている。
「マオさんだっけ?ここにさっきの光打ち出したやつがいるのか?」
「移動してなければ、この辺にいるはずです。」
3人で周囲を探索する。
歩いていると、足が地面の中に沈みそうになった。
「気をつけろ、この辺ぬかるんでいるぞ。」
「ぬかるんでいるなら、そこに奴がいた証拠です。」
マオが声をかけた瞬間、目の前に二つの黒い瞳が浮かびあがった。
背中に白いブツブツのついた巨大なタガメが前足を振り上げていた。
振り下ろされる攻撃を後ろに飛んで回避する。
「こいつが例の虫?」
「はい!そいつさえ倒せば進軍がしやすくなります!」
マオの返事を聞いて、俺はタガメに雷竜の槍を構える。
タガメと同じ生体なら感電しやすいはずだ。
「ウラミヲハラセ、ワガコタチヨ。」
俺とタツヤはその場で硬直した。
「虫って喋るのか?」
「少なくとも、ムカデはしゃべってなかったぞ……。」
俺とタツヤが話していると、タガメの背中についている白いブツブツが光始め、紫色の光が次々と飛び出してきた。
拳くらいのサイズのタガメに羽が生えたような形をした光の物体は全体に散らばった後、俺たちに向かってあらゆる方向から突撃してきた。
「全力でかわせ!」
マオが次々に飛んでくる紫の光に弓矢を次々に打ち込みながら走る。
俺も槍を振り回して紫色の光を叩くと、光は散り散りになって消えてゆく。
「うわあ!」
タツヤの悲鳴と共に横から爆発音が聞こえてきた。
振り向くと、タツヤに向かって3つの光が近づいて破裂していた。
「大丈夫か!?」
転げたタツヤに近づいて怪我を確認する。
しかし、タツヤの傷には爆発によるものはなかった。
「そいつの光は破裂すると衝撃だけ与えてくる!」
マオが弓に矢をつがえながら追尾してくる光を避ける。
ヒュンと音がしたと思っていると、後ろから光が飛んでくる。
俺は目の前のタガメに向かって走り寄っていく。
後ろから迫ってくる光は曲がって2人の方へと方向転換した。
「流石に自分の近くで爆発させるつもりはないな!」
俺は槍をまっすぐ向けてタガメに突撃する。
すぐさまタガメは鋭い前足を振り回して弾こうとしてくる。
タガメの前足が徐々に俺の槍に競り負けていくのが目にみえる。
横をタツヤが駆け寄ってダガーを突き立てようとするが、もう1本の前足で防がれている。
「マオさん、今のうちにタガメを狙えるか?」
「すまない、光の対処が精一杯だ!」
マオは後ろからさっきまでより増えた光に追いかけ回されている。
タガメを見上げると、背中のブツブツから次々と光の玉が無尽蔵に溢れ出ている。
「ショウ、突き刺せそうか?」
「ダイキの槍は持ってきてないから無理なんだ!」
俺の返事を聞いて、タツヤは悲鳴をあげる。
今持っている雷竜の槍なら電撃を流せるが、電気を流せばタツヤも感電する。
タツヤの時を止めれるダガーも防御に利用してて突き立てれない。
唯一今攻撃できるマオは光の玉に追われていて攻撃できない。
「誰かもう1人来てくれたら……。」
「ショウ、多分これ仲間が増えても難しいと思う。」
真横でタツヤが何かを察したような表情で喋る。
「こいつがあの馬鹿でかいムカデとかより危険視された理由が解った。虫たちの中でこいつの役割は後方からの支援砲撃だ。前線はあのムカデやトンボで抑えれば後方から敵を衝撃で吹き飛ばす弾を無尽蔵にばら撒くだけで他の虫たちに対応できなくなるんだ。」
タツヤの震え声でする説明を聞いて、俺も青ざめていく。
要するに、別で動いている本隊の戦いが終わるまで俺たちはこいつらを抑えておく必要がある。
「誰かあ!早くきてくれえ!」
俺は無数の光が飛び交う森の空に向かって叫んだ。
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