30話『応接間での反省会』
「うちの馬鹿な王様がすみませんでした。」
白石が紅茶を机に並べながら私たちに頭を下げる。
その襲撃された2人は天川とともに城の中の医療室で打ち込まれた麻酔を抜くために休んでいる。
そして肝心の馬鹿な王様は、目の前でさるぐつわを咥えて、両手首と両足首を縛られて椅子に座っている。
「サイア、さるぐつわは外してあげて。」
私が喋ると、タツヤは浅原のさるぐつわを外した。
「すんませんでした……。」
浅原が謝罪の言葉を述べるが、明らかに謝罪をしている顔ではない。
隣でタツヤが呆れたと言いたげな表情で紅茶を飲む。
「じゃあいくつか質問するけど、この王国はどうやって建国したの?」
私は今1番疑問に思っていたことを聞いてみる。
「それは俺の神器の効果だな。」
浅原は諦めた表情を浮かべた後、淡々と話し始めた。
思った以上に素直に話し始めたことに少し驚きながら紙にペンを走らせる。
「神器の効果は自分が言った通りになるんじゃないの?」
「それはおまけの効果だな。」
浅原の返答に私とタツヤは顔を見合わせた。
「一瞬でも自分の思い通りにできる能力がおまけってどう言うこと?」
「俺の神器は豪華な剣で、『地面に突き刺した範囲から壁で囲われた範囲を自分の王国にする』能力だ。」
浅原の説明で、なんとなくだが彼の神器の能力は解った。
「つまり神器の能力はこの王国全土に及んでいて、ついでに思い通りにできる能力もついていたってことね。」
「まあ一瞬だったのはお前らが抵抗していたからで、俺の命令に抵抗しなかったら意識を失うまで使える。」
私が尋ねると浅原は首を縦に振った。
ただ、今までの話で少し引っ掛かることがあった。
「剣が壁で囲われた範囲って言っていたけど、壁の建てるのにかなりの時間がかかると思う。なんですぐに能力を発揮できたの?それと、建国して1週間くらいしか経ってないのに人口もそれなりに多そうだった。この国の人民はどこから集めたの?」
私は気になったことをいくつか聞いてみた。
「まず壁についてだが、元からこのまま囲われていたのを利用した。」
「どう言うこと?」
タツヤが困惑した表情で浅原に聞いてた。
浅原の答えを聞いて、可能性を考える。
「ルマリン王国ね。」
私が答えると、浅原もそうそれと言いたげな表情をする。
20年前、モンスターたちによって滅ぼされたルマリン王国。
その跡地を浅原が神器で自分の王国へと変えたと言うことだろう。
「じゃあ人民の方は?」
「縄を切れ。」
浅原が唐突に命令を出した。
白石の剣が両手両足首を縛っていた縄を切り裂いた。
「ここからはちょっと真剣に聞いてもらいたい。」
紅茶を飲んだ後、浅原が私たちを真剣な表情で見てくる。
「人民についてだが、20年前に滅ぼされた元ルマリン王国の移民を他の国に頼んで7割ほど返してもらった奴らと、サフィア王国からの避難民で構成されている。」
浅原の発言を聞いて、この後言いたいことは察した。
サフィア王国はこの国に1番近い小国で、現在魔王軍の幹部が率いるモンスターの軍に襲撃されている国だ。
「これからも増える?」
「増えるかもしれない。だから俺も受け入れる準備はしているんだが、この国の近くの翡翠の森に虫系モンスター達が多く巣食い始めた。」
脳裏にこの前襲いかかってきた虫系のモンスターたちが思い浮かぶ。
「奴らはそこまで強くはなかった。5人くらいで囲めば倒せるようなやつがほとんどだった。今までは単体で動いてたはずの虫たちが、いきなり他の虫同士で連携しかけてきたり群れを成して襲いかかってくるようになって、派遣した軍が負けるくらい強くなっているんだ。それに加えて森の中に繭で囲われた縄張りを作って、一種のダンジョンみたいになってきている。」
浅原は嫌なことを思い出したらしく頭をかかえる。
隣では白石もお腹を抑えて震えている。
「それで今、俺たちと同じように転生してきたクラスメートがこの国に訪れたら虫どもの討伐を手伝って貰おうと思って城の中に強制的に送り込んでいるってことだ。」
浅原が喋り終えたところでため息を吐く。
「だとしたらまともに招待してくれない?何あの誘拐まがいな招待方法?」
「天川が言うには、小杉が来た時、全く城に行くの拒んでて話すこともできなかったからな。」
浅原の返答を聞いて、なんとなく察した。
「一応今は天川が連絡つけるようにしてるけど、俺とは絶対に合わないと言ってたらしい。」
浅原はそういうと、紅茶を勢いよく飲み干した。
「これで麻酔は完璧に無くなったと思うよ。」
手渡されたポーションを飲み終えた俺とカエデに、頭に包帯を巻いた天川が話しかけてきた。
その後ろには俺を睨みつけている猫耳のローブを着た奴がいた。
「リーダー、こいつらは敵ですよね?」
「マオ、こいつらは僕たちの知り合いだ。今回僕たちが勝手に拉致したから本気で暴れてこうなってるだけでだから。」
天川はマオと言われた猫耳を宥めながら俺の方を向く。
「ところで、今の話だと小杉さんもいるんだよね?」
カエデが天川の手元にある水晶玉を指差しながら尋ねる。
水晶越しにユリと浅原の会話を聞いていたのである程度は状況がわかった。
「小杉なら今は教会からこっちに向かってる。シスターって兵種で治癒魔法が使えるらしい。」
天川と話していると、医務室の扉が開いて、全身を黒い服を身に纏った少女が現れた。
「こんにちは、さっき庭に並べられていた人たちの治癒が終わりました。残りの人たちはこっちですか?」
黒い服の少女は俺とカエデを見て、驚いた表情を浮かべる。
「早川さん、無事だったんだね!」
「久しぶりだね小杉さん!」
小杉が走り寄ってカエデに抱きついた。
現世でも仲良しだった2人だし、募る話もあるだろう。
「天川、タツヤたちの元へ案内してくれないか?」
天川は首を縦に振って、俺は医務室を後にした。
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