29話『礼儀不必要な王』
「ここであっているんだな?」
俺はタツヤにダガーを向けられた天川に尋ねる。
目の前には両開きの扉が聳え立っていた。
天川は首を縦に振った。
「じゃあいくぞ!」
俺とカエデは蹴り開けて中へ入る。
扉の先は大きい広間となっていて、床には扉から真っ直ぐ続く赤いカーペットが敷かれていて、その先にある豪華な椅子に、奴は座っていた。
「やあ、白石から話は聞いてるよ早川さん。蒼山も来るのは聞いてなかったけど。」
豪華な椅子から立ち上がった浅原和樹が俺たちの方へ歩みを進める。
見える範囲の武器は、彼の腰につけた鞘が豪華な剣だけで他に見当たらない。
ただ、大広間の中にある柱に1本に1体ずつ兵士の像が立っていて、その腰についている剣は全て像とは別の素材で作られている。
「さて、同じ学校で学びを共にしたものと会えたこと、嬉しく思うよ。」
浅原は俺に向かって手を差し出した。
俺は手を取らずに、雷竜の槍を向ける。
「おいおいどうした?」
浅原は一瞬驚いた表情を浮かべたが、距離をとって再び笑顔で話しかける。
後ろからタツヤが天川を大広間へ投下いれた。
「え、天川どうした!?」
ぐったりと伸びた天川を見た浅原が、その場で硬直する。
今度は驚いた表情を隠す余裕もないようだ。
「どうしたもこうしたも天川たちに私を拉致させたのはそっちでしょう?」
少し怒りのこもった声でカエデが喋る。
浅原は少しその場で頭上を見つめると、思い出したように頭を抑える。
「ごめん、あれ冗談で言ったつもりだったんだけど。」
「てめえの冗談で俺は背中に麻酔込みの矢を打ち込まれたのか!?」
「あんたの冗談で私は腕に矢打ち込まれて拉致されたの!?」
俺とカエデは冷や汗を垂らしながら後退りする浅原に詰め寄って怒鳴りつける。
「跪け!」
浅原は悲鳴まじりに叫んだ。
突然、俺の体が勝手に動いて立膝をついた。
横を見るとカエデも同じように立膝をついている。
一瞬驚いたが、すぐに立ち上がれた。
「一瞬だけか……。」
浅原はそう言うと、腰につけた片手剣を抜いた。
「まあいい。俺に従うつもりがないなら、お前らは牢屋で一生を過ごしてもら……。」
「スプラッシュマグナム!」
ユリが浅原に向かって水球を打ち出した。
浅原一瞬驚いた表情をして、飛んでくる水球を走って避ける。
「動くな!」
浅原が叫ぶと、再び水球を作っていたユリの動きがピタリと止まる。
おそらく、浅原が命令をするとその命令通りに動くことしかできないのだろう。
横を向くと、カエデがいない。
前を向き直すと、すでに浅原に剣を交えている。
若干カエデの方が優勢だ。
「そういえば、早川って剣道部だったな。」
冷や汗をかきながら浅原はつぶやいた。
それでもニヤケ面が変わる様子はない。
「跪け。」
浅原がつぶやいた瞬間、カエデはその場で跪いた。
浅原が剣を振り下ろすギリギリでカエデは回避をした。
「動くな。」
剣を横に構えて浅原が呟く。
カエデが防御しようとするが動けない。
なんとか走りよれた俺は浅原の剣を弾いた。
「動くな!」
浅原が叫んだ瞬間、俺もカエデも体が動かなくなった。
浅原は走って天川の方へ向かい始めた。
タツヤは天川を踏みつけながらダガーを構えて、動けるようになったユリとサイアが水球と氷の塊を放つ。
浅原は飛んでくる水球と氷の塊を全力疾走で避けながらタツヤに近づいていく。
「どけ!」
浅原が叫ぶと、タツヤが天川から離れる。
「天川!援護しろ!」
天川はさっきタツヤにボコボコにされて疲れているはずなのに、瞬時に起き上がって魔導士を模した像から杖を抜き取って固まっている3人に向けた。
「『浮遊書簡』」
覇気の無い天川が詠唱をした瞬間、3人が勢い良く天井へ浮かび上がった。
「待って、降りられないこれ!」
浮遊で無理やり天井に押し付けられて動けなくなったタツヤがジタバタしている。
「2人とも!天川を倒して!天川の魔法さえどうにかすれば、人数差でなんとかできる!」
天井で動けないユリが俺たちに向かって叫ぶ。
俺は虚ろな目で天井を見てる天川に槍を向ける。
「動くな。」
後ろで声が聞こえて体が一瞬動かなかった。
耳元でカエデと浅原の剣がぶつかり合う音がする。
「最も、人数増やされたら困るからそんなことさせないけどね。」
浅原はそう言って剣を構えた。
俺とカエデは挟み込むように動いて、各々で武器を構える。
「さあ、来い!」
浅原が叫ぶと同時に、俺とカエデは突撃する。
浅原は俺に近づいて槍を弾いた後、すぐさま走ってカエデと切り結ぶ。
俺は距離をとって銀色の槍を2本に分けて投げようと構える。
「放たれろ!」
赤い剣の刃が柄から外れて宙を舞う。
赤い刃は呆気に取られた浅原の頭上で破裂した。
「あっつ!」
火の中から出てきてむせこんでいる浅原に向かって、半分のサイズの槍を投げつける。
ギリギリ当たると思った瞬間、黒い何かが扉から入ってきて槍を弾いた。
黒い龍が俺を睨みつける。
「意識があって良かったよ。」
浅原が安堵しながら黒い竜の背中を見る。
竜の背中には虚ろな目の白石がまたがっている。
「さっきの『さあ、来い』って言葉、俺たちじゃなくて白石に言ったのか。」
「え、城の中の兵士全員を対象にして言ったつもりだが、全員気絶させたのか?」
浅原が青ざめた表情で俺に聞いてくる。
要するに、今の敵は今ここにいる3人と1頭だけだ。
「まあ、ノボルと白石がまだいるから、今は4対2……。」
「3対5だぞ。」
浅原の後ろから、地面に足をつけたタツヤが声をかける。
遠くを見ると、鞘のついた鉄の剣を持ったカエデの足元に痙攣している天川の姿があった。
「嘘だろ……。」
「本当だぞ。」
浅原の肩にタツヤが白いダガーを軽く刺した。
白石と黒い龍が俺たちの方を向くが、女子3人が邪魔をしているせいかこっちにくる気配はない。
「くそ……やらかしたか……。」
俺はジャケットを脱いで、愚痴をこぼしている浅原の口の中に詰め込む。
ジャケットの袖を結び合わせて簡易的なさるぐつわが出来る。
ダガーを抜くと浅原は口の中に入ったジャケットを取り出そうとする。
俺は右手、タツヤは左手を掴んで勢いよく押し倒す
「んっん!んんんんんん!んんんんんんんんんん!」
浅原が青ざめた表情で何かを言っているが、さるぐつわのおかげで何を言っているかわからない。
「浅原、とりあえず1回頭を冷やしてこい!」
俺は勢い良く浅原の額にアッパーを決める。
浅原は2メートルほど飛んで、白目を剥いて気絶した。
女子たちの方を見ると、竜の背中で白石が両手をあげて降参していた。
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