28話『殴り込み』
大きめの声が聞こえて、目を開ける。
「目は覚めた?」
椅子に座っているユリが、紙にペンを走らせながら話しかける。
目の前ではタツヤが天川の目にダガーを近づけてどすの利いた声で質問をしていた。
「俺はどれくらい眠ってた?」
「30分くらいね。天川が言うには、麻酔を塗り込んだアーチャーが部下にいるらしいよ。」
ユリはそういうと、ペンを置いて紙を仰ぐ。
俺は青ざめた天川の目の前に立つ。
「カエデはどこに連れていった。」
「アサハラ城だって。」
ユリが返答しながら俺にさっきまで書いていたのとは別の紙を渡してきた。
『・カエデを連れていった場所:アサハラ城。
・天川の武器:浮遊書簡。自分も含めて周囲のものを浮かす魔法。
・他に仲間がいるか:獣人のアーチャー、テイマーの白石光、剣士の浅原和樹。2人の神器については情報なし。』
渡された紙には、すでに情報がいくつか尋問で出てきていた。
「だいぶ口が固かったのか?」
「数分前に起きたばかりだよ。」
タツヤはため息を吐きながら天川の肩を掴んで揺らす。
俺はタツヤの前に座って睨みつける。
「なんでカエデを攫った?」
俺はまだ尋問で聞かれてないであろう質問を天川に聞く。
「僕らの王様が『転生者を見つけ次第拉致してでも俺の元へ連れてこい!』って言っていたからだ。前に出会った小杉を時間かけて招待する形で招いたら『連れてくるの遅いぞ!』って白石と一緒にどやされて、『次から言われた通りに拉致れ!』って言われてて、そして今回お前らが来たってわけ。」
天川は速攻で言い訳をして、終わらせた。
天川があまりにもペラペラと喋るせいで、本当のことかは疑わしい。
「こいつの言っていることは正しいのか?」
「仲間の情報以外はバレて問題ないそうよ。」
ユリは再びペンを走らせながら答える。
これからどうするか考えようとしていると、天川のローブのポケットから光が漏れ始めた。
『ノボル、早川は無事城へ保護した。お前もとっとと戻ってこい!』
男の声が聞こえたと思うと、光はすぐに消えていった。
今の声は聞き覚えがあった。
「さて、浅原が呼んでいることだし、一緒に行こうか。」
俺は天川の肩に手を置いて提案をした。
「そんな浮かない顔してどうしたの?」
目の前で紅茶を飲みながら、白石光が声をかけてくる。
言いたいことしかないが、状況の整理が一向に進まない。
なんか窓から白い人が入ってきて矢が腕に刺さってから意識を失って、気がつけば結構オシャレな部屋の中にいた。
ヒカリが無理やり連れてきてすまないと謝罪はしてきたが、腑に落ちない。
「というか、なんで私だけ連れてきたの?」
「もう1人は天川が連れてくると言っていた。もうそろそろくるんじゃない?」
ヒカリが紅茶を啜っていると、ドアが思いっきり開けられた。
「報告です!城に神器持ちの侵入者が4名きました!うち1人は天川様を連れています!」
猫耳の弓を持った少女が震え声で報告をしてきた。
「ヒカリ、これって……。」
「状況悪化したわね……。マオは侵入者に説得を試みて。」
ヒカリが頭を抑えながら紅茶を置いた。
マオと呼ばれた猫耳少女は急いで兵士を連れて廊下を走っていった。
私は剣を取って壁へ向かって走る。
剣を壁に突き立てて焼き切って外への逃走経路を作った。
飛び降りようとした瞬間、手に何かが絡まって部屋の中へ引き摺り込まれた。
「王様かの命令はなんとしてでも遂行されるべし。」
感情のこもってない声で喋りながら、目が虚な状態のヒカルが鞭を手繰り寄せてくる。
鞭を振りほどいて再び壁の穴へ向かおうと振り向いた。
穴の前には黒い龍がいた。
「クロロン、カエデを挟み撃ちにするよ。」
ヒカリが鞭を床に打ち付けると、クロロンと呼ばれた黒い龍が炎を吐き出してきた。
剣の刃を炎に変えて、龍の炎を吸収した。
「クロロン、壁から離れないで近づいてきたら爪で攻撃して。」
ヒカリが私に向かって鞭を叩き込もうと振る。
剣に鞭が巻き付いて引っ張られる。
「これで逃げられない。」
「放たれろ。」
赤い刃が柄を離れて鞭でヒカリの元に引っ張られた。
ヒカリの目の前で刃が破裂して周囲に煙が広がる。
ヒカリが咳をしながら煙の中から出てきた。
私はその煙の中へ突っ切っていき廊下へと出る。まだ侵入者に対処し切れてないのか兵士たちは私を見ても気にしている様子はない。
兵士が多いところに混じって進んでいく。
渡り廊下のあたりに来た時、目の前の通路を兵士が流されていった。
「スプラッシュマグナム!」
聞き慣れた声と共に城の廊下が水で満たされる。
廊下の曲がり角から、ユリとサイアが出てきた。
「怯むな!相手は2人だ!」
1人が声を上げると、兵士たちは2人を囲み始めた。
「お前も早く囲め!」
兵士の1人が声をかけてきたので、鞘に収まった鉄の剣を胴に叩き込んだ。
その場にいた全員が私に注目した。
「良かった、カエデ無事?」
息を荒げながら、ユリが近寄って聞いてきたので首を縦に振った。
ユリの背後から2人の兵士が槍を持って向かってきた。
サイアが氷の塊を投げつけて、兵士たちの腕から槍を弾き落とした。
私の後ろからも兵士たちが集まってきた。
兵士たちが道を開けると、ヒカリと黒い龍が歩いてきた。
「あなたたちは包囲されている。」
覇気のない声でヒカリが話しかける。
「スプラッシュマグナム!」
肩で息をしているユリは気にする様子もなく、ヒカリたちに向かって水球を放った。
ヒカリと兵士たちは龍の翼で受け止められてそこまで流れなかった。
「ショウ、こっちはカエデと合流して、準備もできた。そっちは!?」
ユリが水晶玉を取り出して喋り出す。
水晶玉の中では、城門前で天川を盾にして矢を打たれないようにしているショウとタツヤが映し出された。
『大丈夫!乾いてない!』
「死なない程度でよろしく頼むよ!バブルドーム!」
そういうとユリは私たちを近くに抱き寄せて泡の防護壁を大きくして覆った。
水晶玉の中で、ショウが雷の出る槍を近くの水たまりにくっつける。
次の瞬間、ドームが一瞬黄色く光ったと思うと私たちを囲っていたヒカリを含めた兵士たちがその場に倒れた。
「今のって……。」
「私が城全体を走って水を流した後、ショウの雷で感電させた。ここまでうまくいくとは思わなかったけど。」
ユリは笑いながらドームを解除する。
廊下を見ると、黒い龍が佇んでいた。
体が少し震えているのを見るに、感電はしたがそこまで聞いてないようだ。
しかし、黒い龍は私たちよりヒカリのそばを離れる気配はない。
「今のうちに逃げるわよ。」
サイアを先頭に私とユリは廊下を走っていく。
「どこだ!」
近くからショウの声が聞こえた。
「あいつら道間違えたわね。」
「私に任せて。」
赤い剣で近くの壁を焼き切って穴を開けると、タツヤの顔が見えた。
「ショウ!こっちこっち!」
タツヤが手招きをすると、壁を挟んでショウが現れた。
もう少し大きく壁を焼き切ると、拘束された天川も含めた3人が私たちと合流した。
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