25話『野営』
近くの森で取ってきた薪を、鍋が上に置かれた焚き火の中に放り込む。
炎が大きく燃え上がって、焚き火を囲んでいるカエデとタツヤの顔がよく見える。
カエデの隣では、サイアが疲れ切って動けないユリの背中をさすっていた。
「なんていうか……ごめん……。」
タツヤが俯きながら俺たちに謝罪の言葉を述べる。
俺たちの馬車は制御されないで走り続けたあと、勢いよく木に激突して止まった。
馬車は損傷が無かったが、馬の1頭が怪我をした。
ユリがポーションをかけたおかげで傷は完治しているが、今日は歩かせない方がいいということで野宿することになった。
「まあ、こういうキャンプみたいなこともできるんだしたまには良いんじゃない?」
カエデがその場の雰囲気を盛り上げようと俺に話しかける。
確かにキャンプとかの経験もあまり無いから楽しめそうではある。
ここが普通の森ならば……。
「カエデ、ここがモンスターの多い森に近いこと忘れてないよね……。」
体調が良くなったらしいユリがサイアに支えられながら姿勢を変える。
今焚き火をしている場所は、カエデとユリがルート決めで話し合っていた森の辺りらしい。
事故を起こした場所が森の入り口みたいなあたりだったからか周りにモンスターはいないが、いつ出てきてもおかしくない場所だから落ち着いて寝れる空気ではない。
「大丈夫、私がずっと起きて見張りするから!」
カエデが立ち上がって胸を叩くが、ユリが信頼してなさそうな表情で睨みつけている。
信用されてないと察したカエデがしょんぼりした表情で焚き火の側に座り込む。
「まあ、とりあえず飯食べようぜ。」
俺は焚き火の上に乗っかっている鍋の蓋を取る。
鍋の中のシチューがいい匂いを出しながらぐつぐつと煮えたぎっていた。
「うまそうに出来上がっているな。」
「煤が入らないように気をつけてね。」
お椀を持ってユリが注意をしてくる。
ユリがゾクゾク手渡されるお椀へシチューを注いでいく。
みんなにシチューが回ったことを確認したユリは座って手をあわせる。
「いただきます!」
焚き火を囲んで食べるシチューは、とても暖かくコクがある。
「やっぱユリの料理って美味いな。」
タツヤが2杯目をおかわりしながらユリを褒める。
「それはどうも。」
ユリは照れながら返事を返した後、吸い物を飲む時みたいにシチューをお椀から飲み始めた。
「私もおかわりもらうね。」
カエデがおかわりしようと鍋に近づいた瞬間、何かが飛んできて鍋に衝突した。
ひっくり返りそうになった鍋をカエデが慌てて受け止める。
ぶつかってきた楕円形の物体が起き上がる。
「ダンゴムシ?」
タツヤが起き上がった生物を見て困惑した表情で呟く。
焚き火の炎で照らせれた黒い甲羅で体を包んだダンゴムシがいた。
ダンゴムシと言っても、小型犬くらいの大きさはあるが・・・。
ダンゴムシは鍋を持ったカエデを睨みつける。
カエデは鍋を焚き火の上に置き直して、ダンゴムシにズカズカと近づいていく。
ダンゴムシが動くよりも早くカエデは両手でダンゴムシを捕まえた。
カエデは興味津々な表情でダンゴムシの甲羅を触っている。
「おっきいダンゴムシだね。可愛いけどみんなも触る?」
カエデが笑いながらダンゴムシを俺たちに向ける。
カエデは気づいてないかもしれないが、俺たちにはダンゴムシのウヨウヨと蠢く足が向けられていた。
蠢く足を見て、ユリは完全に青ざめてそっぽを向いている。
「カエデ、その虫はもう逃がそう。めっちゃ足が暴れている。」
俺がカエデに近づいて注意をしようと近づいた瞬間、ダンゴムシは急にクルンと丸まった。
「あれ?急にどうしっ!!」
カエデの腹部で丸まったダンゴムシは勢いよく反った。
飛び出したダンゴムシは丸まった状態でサイアの頭に激突する。
「カエデ、大丈夫か!」
俺はお腹を抑えて跪いているカエデの元に近づく。
カエデはプルプル震えながら立ち上がった。
「鳩尾に強い衝撃がきた……。」
少し安堵しながら、銀色の槍を手に取る。
額を抑えるサイアの隣でダンゴムシは再び丸まると、俺に向かって突っ込んできた。
ギリギリ柄の部分で弾いて軌道を逸らした。
近くの木にぶつかったダンゴムシが再び俺に向かって飛んでくる。
丸まったところからバネみたいに伸び縮みすることで突撃してくる動きが、あまりに不規則すぎて全く読めない。
横を突っ切ったダンゴムシが俺の背中に向かって再び突撃してきた。
背中にダンゴムシが触れた瞬間、再び反ったダンゴムシがタツヤに向かって飛んでいく。
タツヤは軽い悲鳴を上げながら手に持っていたお椀を盾にしてダンゴムシを弾いた。
「物騒すぎないかこの虫!?」
お椀を落とされたタツヤは腰の白いダガーを構えながら愚痴を言う。
ダンゴムシは弾丸みたいに跳ねるのをやめて、タツヤの足元に素早く近づいてきた。
タツヤは後ろに下がりながらダガーを投げつける。
ダガーの刃がダンゴムシにぶつかるが、刺さらずに地面に落ちた。
「こいつ刃物が効かないタイプのモンスターか!?」
タツヤは予備の青いダガーを構えながら後退りする。
ダンゴムシは囲まれているにもかかわらず、地面に落ちたタツヤの食べかけのシチューに近づいて、啜り始めた。
その場にいた全員、その場で動かなくなる。
目の前のタツヤが武器をしまっても、ダンゴムシは襲いかかる気配が一向にない。
タツヤはダンゴムシに近づいて、地面に落ちた白いダガーを手に取った。
ダンゴムシは一切気にせずにシチューを啜っている。
「カエデ、お椀貸して。」
ユリが鍋のシチューに近づきながらカエデに話しかける。
カエデのお椀を渡されたユリがシチューを注いでダンゴムシに近づける。
ダンゴムシは地面のシチューを啜るのをやめてユリの手へと視線を向ける。
「バブルジェイル。」
ユリが詠唱をすると、お椀の中のシチューがシャボン玉の中に取り込まれた。
シチューの入ったシャボン玉がダンゴムシの出てきた森の中へと飛んでいく。
すぐさまダンゴムシは丸まって、シチューの入ったシャボン玉の向かった森の中へ突撃していった。
ようやくその場の静けさが戻ってきた。
「よし、私とショウで見張りをするからみんなは寝ていいよ!」
カエデはそういうと、赤い剣を手に持って焚き火の付近に立った。
その後俺とカエデで見張りをしたが、俺たちは特に何事もなく朝を迎えた。
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