24話『森の中へ』
パーズ王国で過ごす最後の日になった。
俺は1人でダイキとナオミの鍛冶屋に訪れた。
「よおダイキ、やってるか?」
扉を開けて椅子に座っているダイキに手を振る。
「今日行くんだったな。」
「おう、それで頼まれていたのはもう出来てるか?」
俺の質問に、ダイキがにっこりと笑う。
ダイキは鍛冶屋の奥へと行き、1本の銀色の槍を持って俺の前に現れた。
「これが俺が作った槍だ。」
机の上に置かれた槍を手に持って振るう。
鉄棒を握っている感覚だったが、振り回してみると結構軽く感じる。
「すげえ扱いやすいし手に馴染むな。」
ドリルのようになった石突を床に置いて、槍を見回す。
ふと、真ん中の部分に繋ぎ目みたいな部分が見える。
「タツヤから聞く限り、槍の壊れ方が大体真っ二つに折れているようだったからな。」
「いや折れ目をつけんな!」
呆れながら槍をいじっていると、捻った瞬間に槍が真っ二つになった。
驚いたまま左手の石突の方を見ると、鋭く小さな穂がおれの方に向いていた。
右手の槍の部分にも穂は付いている。
「これって……。」
「2本に分けて使えるようにしてみた!」
俺はダイキの返事を聞いて、喜びながらブンブンと2本の短槍を振り回した。
調子に乗って振り回していて、後ろの人間に気が付かなかった。
開いた扉に右に持った槍の穂が刺さる。
「貴様!店の中で武器を振り回すな!」
開いた扉から顔を覗かせるアルバイン弟が声を荒げた。
槍2本を勢いよく床に置いてその場で土下座する。
今のは完全に調子乗って振り回していた俺が完全に問題だった。
「アルバイン様、あなたに頼まれていた新しい鎧は完成してますよ。」
ダイキが鍛冶場の奥から見たことある鎧が運ばれてきた。
「やはりアダチの作る鎧はいいな!」
渡された鎧を全て装着したアルバイン弟はアダチの手をがっしりと握った。
鎧の圧も加わったアルバイン弟の顔が俺の方に向けられる。
「お前はあの時の傭兵か!次からは気をつけろよ、危ないから!」
アルバイン弟はそう言うと鍛冶屋を出て行った。
「鎧を着た瞬間圧がすごいなあの人……。」
「まあ悪い人じゃないんだよな。なんか料金もちょっと多いし……。」
握られた際に手渡された料金の入った袋を覗き込みながらダイキが苦笑いをする。
再び鍛冶屋のドアが開いてタツヤが入ってきた。
「ショウ、馬車の準備も出来たから呼びにきたぞ。」
タツヤに呼ばれて、俺とダイキは外へと出ていく。
鍛冶屋の前に止まっていた馬車の荷車から顔を覗かせたユリとナオミが話をしていた。
「じゃあこれを鍛冶屋に敷いておけばいつでもこっちに来れるってことですね。」
「それじゃあよろしくね。」
話し終えたナオミが俺の方を向くと、にっこりと笑ってダイキの隣に並んだ。
俺は2人に手を振って、荷車に乗りこんだ。
タツヤが手綱を握り、馬車が走り始めた。
「じゃあ頑張れよ!」
走り始めた馬車に、ダイキが手を振っていた。
俺は馬車が道を曲がってダイキが見えなくなると、荷車の中に移動した。
荷車の中では、カエデとユリがすでに次の行き先への道を確認し始めていた。
「このルート、回り道みたいになっているからここの森を直行すれば早く着くんじゃない?」
「その辺りはこの前詳しい地図で確認したけど、モンスターが多いらしいからこの回り道の方が安全に行けるわよ。」
カエデとユリが次の目的地に向けての話しているところを横目に、馬車を操っているタツヤの元へ近づいた。
馬車はちょうどゲートを出て、目の前に森が広がっていた。
「安全運転で頼むよ。」
「とてつもなくゆっくり行くよ。」
タツヤがため息を吐きながら馬をトコトコ歩かせる。
今から行く国にあまり行きたくないのは俺も同じ気持ちだが、今は知っている奴らがどこにいるかを知りたい。
考え込んでいると、道の近くの茂みからコバルトンが現れた。
俺たちの乗った馬車を見ると、コバルトンは大きい声を上げながらにじり寄ってくる。
「またあのイノシシ?私に任せて!」
赤い剣を携えたカエデが荷車から乗り出した。
遠くからドドドドと音が聞こえてきた。
「タツヤ、馬車の速度を上げてくれ!」
「カエデも荷車に戻って!」
俺は冷や汗を垂らしながらタツヤをせかし、後ろでユリがカエデを荷車の中へ引き摺り込んでいた。
思った通り、道を走る馬車の後ろを40匹以上のコバルトンの群れが追いかけてきた。
あの数は無理と思ったのか、カエデもすぐさま剣を鞘に収めて荷車にしがみついた。
馬たちの脚力が勝っているらしく、徐々にコバルトンの群れから離れていく。
後ろからコバルトンたちの声が聞こえなくなった。
荷車から外を覗くと、ゴマ粒ほどのサイズまでコバルトンが見えなくなっていた。
「タツヤ、もうイノシシたち追いかけてこないから馬車をゆっくりにしていいぞ。」
「やばい、止まらない……。」
荷車からタツヤに話しかけるが、タツヤは冷や汗を垂らしながら俺たちの方を振り向いた。
荷車の中にいたみんなの顔が同時に青くなった。
「早く止めてこの運転免許未修得者!」
ユリが激しく揺れる馬車の中で悲鳴まじりの声を上げながらタツヤの肩を鷲掴んだ。
唐突に肩を鷲掴みされたタツヤは荷車の中へ転げ落ちた。
タツヤの手から手綱が離れたのを見て俺とカエデは悲鳴をあげながら1頭ずつの手綱を掴む。
「止まってくれ!」
「止まって!」
俺とカエデは悲鳴を上げながら手綱を引っ張って止めようとする。
荷車の方からガコンと音が聞こえてきた。
振り返ると、荷車から放り出されたらしいタツヤがユリとサイアに片足ずつ引っ張られていた。
「何やってるのよあんた!」
「タツヤ様!もう少し辛抱を!」
2人がなんとかしてタツヤを荷車へ徐々に引き摺り込んでいく。
俺とカエデは馬車を止めようと手綱を引っ張るが、一向に止まらずに道の上を徐々にスピードを上げて走っていった。
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