20話『雷竜の槍』
タツヤとサイアがアルバイン弟を連れて階段を降りて行ったのを確認して、俺はカエデと一緒に目の前の全身鎧を睨みつける。
「逃げられると困るんだけどな〜。」
間延びした全身鎧の声に聞き覚えがあった。
「お前、あの錆びた鎧を着ていた傭兵か?」
「やっぱりそこはバレるんだ。」
全身鎧はやれやれというような動きをしながら剣を構えた。
どうやって玄関前で鎧を脱いですかさずアルバインの鎧に入り直したのかは謎だが、今は倒すことに集中する。
「まあお前ら倒してすぐにあいつ殺しに行くか〜。」
全身鎧は腰につけていた瓶を手に取る。
回復ポーションみたいなピンク色の液体ではなく、赤茶色の液体だ。
全身鎧は瓶を俺たちに向かって投げつけた。
綺麗に投げられた瓶はストレートで俺とカエデの間を通り過ぎていった。
「なんだったの今の……。」
カエデが呆れた表情で後ろを振り向いて、すぐさま剣を振った。
突然炎が一瞬浮かび上がったが、カエデの剣に炎が吸い込まれていった。
「火炎瓶・・・。玄関を戦士を燃やしたのはこれか!」
俺は手に持った槍を全身鎧に向けてジリジリと近づく。
「まじか……。」
全身鎧は火炎瓶の炎が消えたことに呆然としているが、剣はずっと構えたままだ。
先に踏み込んだのは、カエデだった。
剣を高々と振り上げ、勢いよく全身よりに走り寄る。
全身鎧はさっきの炎の吸収を見て察したのか、防御せずに後ろ跳びに剣を避ける。
俺も走って近づこうとした瞬間、足に激痛が走った。
ふくらはぎに陶器の破片が刺さっている。
目の前を他の陶器の破片がカエデに向かって飛んでいった。
「破片がきてるぞ!」
カエデはすぐさま剣の刃を炎に戻して振り回した。
陶器の破片は炎に触れて炭となり、カエデに当たらなかった。
周囲の壁や天井に火の手が回り始めている。
「カエデ、炎はあまり使うな。屋敷が燃える。」
「気を付けるね。」
カエデが再び剣を構えると、全身鎧は剣を投げつけてきた。
カエデは頭を伏せて剣を避けると下から振り上げる姿勢に剣を構えた。
「とった!」
カエデが剣を振ろうとした瞬間、全身鎧の投げた剣が不規則な動きでカエデの右腕に突き刺さった。
「危なかった〜。君の剣強そうだから危なかったよ。」
全身鎧は笑いながらカエデに刺さった剣を抜く。
急いでカエデと全身鎧の間に入って槍を突き出した。
全身鎧は槍を左腕の甲で弾くと、スタコラと階段の方へ走っていく。
「ショウ、追って!」
腰につけていたポーションを右腕にかけて治癒しているカエデが俺に呼びかける。
俺は全力で走って階段を降りようとしている全身鎧に槍を突き出した。
全身鎧も剣で受けるが、無理な姿勢で受けたからか、バランスを崩して廊下を転がっていく。
「よくもカエデを傷つけたな。この全身鎧。」
俺が槍を向けて全身鎧を睨みつける。
「雷竜の鱗が使われている槍……さっきの時鋼の短剣やフェニックスの羽の剣、なんだこのやべえ武装集団。」
立ち上がった全身鎧が剣を構える。
「あとその全身鎧って呼び方はやめてくれ。俺の名は魔王軍幹部『時計盤』9時の番人、不死身の暗黒騎士カルミネ・ガイストだ!」
「魔王軍幹部!?」
俺が驚いているのを気にせず、全身鎧改めカルミネは名乗ると剣を投げつけてきた。
なんとか槍で弾くが、剣は不規則な軌道で俺に向かってきた。
「一体どうなってるんだよこの剣!」
「よそ見をしてる場合かい?」
横を向くと、カルミネの拳が俺の脇腹に勢いよく撃ち込まれた。
脇腹を抑えながら背後に回った剣を弾く。
弾かれた剣が手元に戻ったカルミネが剣を高々と掲げる。
「剣技『バンブレイク』!」
高々と振り上げた剣が光を放ちながら、勢いよく俺に目掛けてくり下ろされた。
「なんだよそれ!」
俺は振り下ろされる剣を避けながら愚痴をこぼす。
床に剣が刺さり、ビキビキと音を立てながら床が壊れ1階の廊下がよく見えた。
多分この剣技というのが、キュクロが紙に書いていた『スキル』のことだろう。
それ以上に聞き逃せなかったのは、こいつの自己紹介だ。
魔王軍の幹部ということは、魔王について何か知っているかもしれない。
槍をカルミネに向けて、勢いよく突撃する。
急に無策な突撃をしてきたことに驚いたカルミネが驚いて剣を振り下ろすが、先に俺の槍が鎧と鎧の間を間を貫いた。
「あっぶな!俺じゃなかったら今の死んでたぞ〜。」
カルミネは冷や汗をかいているような仕草をしながら剣を俺に向ける。
カエデがあのカエルに使っていたときを思い出す。
「放たれろ!」
俺がつぶやいた瞬間、槍の穂が轟きながらカルミネの鎧の中で破裂した。
「アババッババババッ!」
カルミネは電撃が身体中に巡って感電したのか、よろけてその場に倒れた。
「ふざけんなよ〜。」
カルミネは悲痛な声を上げながら、よろよろと立ち上がった。
再び槍に穂を形成しようとするが、雷が一向に出てこない。
とりあえず、石突で剣を押さえつける。
竜の足見たいな形の石突は、剣を抑えるのピッタリだった。
「今の雷でろくに動けないな……。逃げよ!」
カルミネはそういうと、手品みたいに火炎瓶4つ取り出し、床に叩きつけた。
「また会おう!雷竜の槍使い!」
燃え盛る炎に包まれながら、カルミネは笑っていた。
床が燃え始めて、カルミネは1階へと落ちて行った。
「ショウ、伏せて。」
後ろを向くと、カエデが周囲の炎を剣に吸収している。
炎がなくなった床の穴を覗き込むと、バラバラになって壊れた鎧が1階の床に転がっていた。
俺は穴から離れると、手の中にある雷竜の槍を見つめた。
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