19話『騎士対騎士』
「あの鎧に自力で動く力など存在しない!誰かが勝手に動かしていると考えて良い!」
ドゥーワが剣を構えながら俺に伝えてくる。
誰が入っているのかわからないが、今はこの兄弟を守ることに専念しよう。
「マルタさん、サイアと一緒にアルバインさんを連れて脱出してください。」
サイアは首を盾に振ると、イェデンの腕を引っ張って廊下を走っていった。
「ドゥーワさま、こちらへ!」
マルタがドゥーワにくるように言っているが、ドゥーワは俺たちを見下ろしている鎧を睨みつけている。
「私は鎧を勝手に使用しているあいつを殺す!貴様らは戦えない兄上を頼む!」
「ではせめて彼だけでも連れていてください。」
マルタは俺の肩を一回叩いて、2人の後を追っていった。
俺はドゥーワの隣に並んで短剣を構えた。
「貴様、昼間の短剣使いか!?」
横から尋ねてくるドゥーワの質問に首を縦に振る。
目の前に2本のダガーが取り出される。
「目の前に犯人がいる以上、お前が犯人の可能性は消え去った!お前に返そう!」
手渡されたダガーと手に取ると、ドゥーワが階段を勢いよく駆け上がっていく。
全身鎧が急いで大剣を構えようとするが、ドゥーワの振った剣が全身鎧の右手から大剣を落とした。
素早く大剣を持って階段を降りた後、すかさず持っていた普通の剣を屋敷の壁に深々と突き刺した。
「あいつが他に武器を持っていなければこの館にはこの2本以外剣はない!お前はその剣を奪われないように動け!」
ドゥーワはそう言い放つと再び鎧の元へと駆け上がっていった。
2階から顔を出すと、廊下の奥の方でドゥーワと全身鎧が戦っている……というより、ドゥーワが一方的に大剣を叩き込み続けていた。
全身鎧は前腕の分厚くなっている部分で防いでいるが、大剣を叩き込まれて歪んできている。
あの様子なら簡単に殺される心配は無いだろう。
カバンの中の水晶が光り始めた。
『小畑、聞こえる?』
水晶の中からユリが声をかけてきた。
ユリの後ろでは起き上がったショウが槍を持ちながら立ち上がっていた。
『今蒼山が起き上がった、そっちに合流した方がいい?』
「大丈夫、襲撃者は今アルバインさんが相手している。みんなには兄の方とマルタさんを頼む。」
俺は水晶玉を鞄に戻してドゥーワの方に目をむける。
大剣が撃ち込まれるペースが徐々に早くなっており、全身鎧の腕の走行が壊れるのも時間の問題だろう。
安堵しながら手元に戻ったダガーを持ち直していると、カタカタと音が聞こえてきた。
廊下に置かれている、植木鉢が揺れている音だ。
突然、植木鉢が勢いよくドゥーワの背中めがけて飛んでいった。
俺が声をかけるより先にドゥーワは振り返りながら大剣で植木鉢を勢いよく粉砕したが、一瞬の隙が出来た。
急いで近づこうと思った時にはもう遅く、ドゥーワの背中に全身鎧の拳がめり込んだ。
「アルバインさん!」
俺はドゥーワの近くに走り寄ってダガーを構える。
ふと後ろから物音がした。
後ろを振り向くと、俺の頬を壁に突き刺さっていたはずの剣が掠めていく。
全身鎧は飛んできた剣を掴んでその場で軽く振る。
「やっぱり大剣よりこのぐらいのサイズが俺には合うよ。」
全身鎧は聞いたことのある声で笑いながら剣を構えた。
「お前、門の前を担当していた鎧の男か?」
「そうそう、よくわかったね〜。」
呑気そうな声で全身鎧は剣を振り上げた。
逆手で持ったダガーで剣を受け流し、ズレて落ちた剣は床のカーペットに突き刺さった。
「くそ!この鎧泥棒が!」
起き上がったドゥーワは再び大剣を立ち上がり、体験を振り上げた。
ヒュンと音を立てながら、鎧の剣がドゥーワの腹部に赤い線を描く。
「やっぱ大剣より普通の片手剣の方が素早く斬りつけれるから使いやすいね〜。」
腹部を抑えるドゥーワに向かって全身鎧が間延びした喋り方をする。
俺は勢いよくダガーを振り下ろすが、鎧を少し引っ掻く程度の傷しか残らない。
神器が刺さったら、どんなものでも止めれるから刺したかったが、刺せない以上は普通のダガーとして使うしかない。
「普段使っている鎧より重たいけど、より一層頑丈だね〜。」
全身鎧は振り上げた剣を俺に向かって振り下ろす。
2本のダガーで受けるが、耐えれるのも時間の問題だ。
「このままだと押し負けるぞ。」
上から覗き込むように全身鎧が剣を近づけてくる。
額に剣の刃先が届きそうになった瞬間、階段を駆け上がる足音が聞こえてきた。
「間に合った!」
階段を登ってきたショウが手に持った槍の石突で全身鎧を突き飛ばした。
バランスを崩した全身鎧はそのまま奥の廊下を転がっていく。
奥の階段からカエデとサイアが上がってきた。
「タツヤ、あいつが犯人?」
カエデが赤い剣先を全身鎧に向けながら話しかけてきた。
俺の首を縦に振ると、ショウとカエデが俺たちの前に出てきた。
「あとは俺とカエデに任せろ。」
ショウはそう言いながら、あの黄色い槍を構えた。
使い方を熟知したのか、黄色い槍のスプーンの穂先には稲妻状の刃が形成されていた。
「タツヤ様、行きましょう。」
サイアがドゥーワにポーションをかけながら促す。
俺はサイアと共にドゥーワを担いで階段を駆け降りて行った。
あの2人が無事生き残れるように願いながら……。
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