18話『侵入者』
俺は呆然として、目の前の燃え盛る玄関と2人を見る。
「誰か火を消してくれ!」
弓を持った傭兵が冷や汗を垂らしながら叫ぶ。
「スプラッシュマグナム!」
ユリが急いで水球を破裂させ、玄関の炎を鎮火をした。
焼け跡からは2つの焼死体が出てきた。
片方は数分前に定期報告で出会った斧持ちの戦士だろう。
そしてもう1人の方は、燃やされつつバラバラになっている。
「こいつは、さっきの錆びた鎧の男じゃないか?」
俺は目の前の空洞になった鎧を覗き込む。
「とりあえず、アルバイン様に報告を……。」
弓を持った傭兵が指示を出そうとした瞬間、上空から岩が降ってきた。
ユリのローブを掴んでその場から後ろ跳びに離れる。
他の傭兵たちも各々の武器で降ってくる岩の破片から被弾を避ける。
岩は玄関を塞ぐように落ちてきた。
「みんな大丈夫か!」
弓持ちの傭兵が周囲を見ながら叫んでいる。
俺は玄関の大岩に近づいて壁に音を立てる。
「誰かいない!?」
館側からタツヤの悲鳴に近い声が聞こえてきた。
「聞こえてるぞ!」
館の中にいるタツヤに向かって話しかける。
壁の奥から、マルタの声も聞こえてきた。
「外の皆さんは引き続き警備を!アルバイン様たちは内側の我々で対応する!玄関前の担当は他のメンバーが見えるところで1人で担当してください!」
マルタの声が聞こえてすぐに集まっていた傭兵が各自で動き始める。
玄関前は弓持ちの傭兵が担当することになった。
「タツヤ、俺たちは外側の警備をする。お前は何としてもアルバインさんを守りきれ!」
「わ、わかった。」
タツヤの声が聞いた後、すぐに元々の警備場所に向かう。
後ろの庭に回り、周囲を見回す。
「ねえ、あれって……。」
ユリが冷や汗を流しながら屋敷の方を見る。
屋敷の窓の1枚に穴が空いていた。
「まさか!」
割れた窓を覗き込むと、脳天に穴の空いた使用人の死体と目があった。
内側から込み上げそうなものを我慢しながらその場に座り込む。
「何があったの?」
「死体があった、すでに潜入されているか……。」
俺が返事をしようとした瞬間、脇腹に激痛が走った。
横を振り向くと、次々と石が俺とユリに向かって勢いよく降り注いできた。
身体中に次々と激痛を感じながら意識が薄れていくのを感じた。
「大丈夫かな、あいつ。」
「オバタさん、今はお二方の元へ向かいましょう。」
屋敷の中にいるせいで外の様子が見えないのを残念に思いながら、マルタさんと一緒に2階へと上がる。
すでに2人の男が廊下に出てきていた。
「一体何があったんですか?」
イェデンが不安そうな表情で俺たちの元に寄ってきた。
マルタがどう説明するべきか考えていると、横にいた不機嫌そうなイェデンそっくりの顔の男が腰につけた剣をマルタの首筋へと向ける。
「貴様ら2人がやったのでは無いだろうな!」
「違います!しかし玄関を大岩で塞がれましたので我々で守りに来ました!」
マルタが冷や汗をかきながら説得をする。
彼が鎧を着ていないドゥーワということに気づくのに数秒かかった。
すでに寝る準備をしていたのか、鎧じゃなくて寝巻き姿だし大剣ではなく普通の剣を持っている。
「わかった、僕たちの護衛は2人に頼むよ。」
イェデンは冷や汗を流しながらマルタの後ろに回る。
俺もドゥーワの前に立って、周囲を警戒する。
したから窓ガラスが割れる音と軽い悲鳴が聞こえた。
「使用人の声だ。下にいるのか?」
イェデンが震え声を上げながら自室の扉を開ける。
「俺が確認してきます。」
俺は階段を降りて廊下を走っていく。
突き当たりを曲がったところで、額から血を垂らして倒れている使用人の姿があった。
あれは生きていないだろう。
「バブルドーム!」
外から聞き覚えがある声が聞こえると同時に、窓ガラスが割れて大量の石が飛び込んできた。
悲鳴が一瞬聞こえたかと思うと、石の突撃が収まる。
さっきの使用人の死体には胴体に風穴が増えていた。
ゲームでも見たことのないような撒き散らされた臓物を見て口を押さえる。
「そこに誰かいるの!?」
外から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
窓から顔を出すと、頭から血を流して倒れているショウと無傷のユリがいた。
「ショウは大丈夫なのか!」
「大丈夫、ポーションの在庫は沢山ある。」
そういうと、ユリはカバンから一冊の本を取り出した。
水の魔導書とはまた違う魔導書だ。
「『転移書簡』。」
ユリが詠唱をしながら1枚の魔法陣が描かれたページを開いた。
描かれた魔法陣に光が浮かび上がった。
ユリが魔法陣に腕を突っ込むと、中からポーションが出てきた。
「なんだその魔法!?」
「私の神から与えられた魔法『転移書簡』よ。戦闘向きじゃないけどバッグに入りきらない荷物を別の場所に置いて持ち運べる。」
ポーションをショウの傷口にかけながら説明する。
周回中に見に来たのか、庭の塀を飛び越えて、カエデとサイアが入ってきた。
「ショウ、大丈夫!?」
カエデが驚いた表情でショウに近づいていく。
カエデはショウの口元に手を当て、息があるのを確認して安堵の涙を浮かべていた。
ふと後ろから悲鳴混じりの声が聞こえてきた。
「あいつらが危ない!」
「サイア、タツヤと一緒に動いて!」
カエデに頼まれたサイアが窓の割れ目から屋敷の中に飛び込んできた。
サイアを連れて階段の近づいた瞬間、イェデンとマルタが転げ落ちてきた。
階段を見上げると、ドゥーワが背中を向けて階段を降りてきた。
俺はドゥーワの前に立って階段の上を睨みつける。
階段から顔を覗かせているものを見て、冷や汗が流れ始める。
「あれって、アルバインさんの鎧?」
俺は階段の上から顔を覗かせる昼間に追いかけてきた全身鎧の兜が俺を見つめていた。
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