17話『警備』
太陽が沈み始めた頃、俺たちは目的地のアルバイン邸前に到着していた。
目の前に大きな屋敷に10人くらいの人が集まっているのが見える。
「おーい、こっちこっち。」
人だかりの中からユリが俺たちに向かって手を振っていた。
集まっているところに向かうと、黒いマントを着た男が近づいてきた。
「君たちが彼女の仲間ですか?」
「はい、そうです。」
黒マントの男手に持っていた書類を確認して首を縦に振った。
「私は今回の依頼を受けた冒険者をまとめ上げることになりました。マルタ・ハービーです。よろしくお願いします。」
そう言うと、マルタは屋敷の前にいる門番の元へと向かっていった。
俺たちはユリとサイアの元へ向かう。
「ありがとうユリ。」
「何があったのかはサイアから聞いたけど、何やってんのよそこの2人。」
ユリが俺とタツヤを睨みつけながら話す。
「すいません。」
タツヤが申し訳なさそうな表情で謝罪する。
「皆さん、入管の許可が降りました。参りましょう。」
門の方からマルタが冒険者たちに呼びかける。
俺たちは他の冒険者と共に屋敷の中へと入っていく。
屋敷の前に、豪華な服を着たメガネの男がいた。
「皆さんが今回の護衛を受けていただいた皆さんですね。」
丁寧で穏やかな口調で男はマルタに手を差し出す。
「アルバイン家現当主のイェデン・アルバインです。」
目の前の男がアルバインと名乗った。
「あの人がアルバインさん?聞いてる人と別人なんだけど?」
ユリが小声で尋ねてくる。
俺も昼間に大声を張り上げながら尋問をしてきた人の印象が強すぎて、目の前の人が同一人物に見えない。
「さて、皆さんにはこの屋敷で私と家族、特におと……。」
「兄上!このならず者たちは何者だ!?」
アルバインと名乗った男が説明を始めようとすると、後ろから聞き覚えのある声が耳をつんざくほど響いた。
恐る恐る後ろを向くと、昼間に出会った全身鎧のアルバインが雄叫びに近い声を上げながら屋敷の庭へと入ってきた。
目の前の男は彼の兄らしい。
「彼は私の弟のドゥーワ・アルバインです。今起こっている殺人事件は全て騎士が狙われています。ですので彼を守って欲し……。」
「その必要はない!」
自身の兄の言葉を遮って、ドゥーワが冒険者たちにズカズカと近づいてきた。
タツヤはすかさず俺の後ろに回り込んで隠れる。
「被害者の中には兄上と同じように護衛を増やしている者もいたが、この中にいる可能性もあるだろ……。こいつとかな!」
背中から大剣を抜いたドゥーワが錆びた鎧の男の首筋に寸止めする。
鎧の男が軽く悲鳴を上げながら鎧をカタカタ揺らす。
「ドゥーワ、彼らは契約をしてあなたの護衛を務めることになった者たちです。報酬をもらえる以上、仕事はしてくれるはずです。」
イェデンが弟を宥めるように説得をする。
ドゥーワは説得に応じるように鎧の男の首筋から大剣を背中の鞘に戻した。
「悪いがお前たちを簡単に信用はしない。」
ドゥーワはそのまま屋敷の中に入って行った。
イェデンが困った表情でマルタに話しかけている。
「では皆さん、アルバイン邸での配置をそれぞれに言い渡します。」
マルタはそう言うと、次々と名前と配置を伝えていく。
「次にアオヤマさんとナツカワさんはこの屋敷の裏庭から警備をお願いします。」
マルタに言われて、俺は首を縦に振った。
数分後、配置が決まった傭兵たちがバラけていく。
俺とユリは屋敷の裏庭、カエデとサイアは庭の外周、そしてタツヤはマルタと共に屋敷の中を警備をすることになった。
「ショウ、俺大丈夫かな……。」
タツヤは震え声で俺に近づいてきた。
「むしろあの全身鎧を犯人から近くで守ったら信頼を得れるはずだ。がんばれ!」
俺はそういうと、本を立ち読みしているユリの元へと向かう。
タツヤはマルタに連れられて屋敷の中へと入っていった。
その後裏庭に回って警備を始めて、1時間が過ぎた。
日は完全に落ち、柵の奥では街灯が街ゆく人々を照らしていく。
足音がして横を見ると、玄関前の警備を担当している斧持ちの戦士が俺たちの元へ来た。
1時間おきに玄関前の2人のうち片方が他の警備している者たちに確認をとりにくることをマルタが言っていたからそれだろう。
「異常はないか?」
「今のところありません。」
「こっちもないよ〜。」
柵の向こうから外周を回って見ているカエデとサイアが手を振っている。
戦士は他の箇所の確認へと向かって行った。
さらに30分経って、俺はため息を吐いた。
「警備のバイトしたことなかったけど、暇だな。」
俺は背伸びをしてその場に座り込む。
ユリもなんかわかると言いたげな表情で屋敷の壁にもたれかかっている。
暗くなってから本が暗くて読めないから暇を潰しにくいのだろう。
「そういえば、ユリは犯人ってどんなやつだと思う?」
俺は暇つぶしに適当に話しかける。
それにこの事件について俺は一才資料に目を通してないから情報を知りたい。
ユリは少し考え込んで、話し始めた。
「まず騎士達は死んでいる時、どんな状態だったかは覚えてる?」
ユリの質問に過去に見た新聞の内容を思い出す。
「確か、口の舌引っこ抜かれて……。」
そこまで言ったところで、俺は口を閉ざした。
なんとなく察したのか、ユリが続ける。
「そう、舌を引っこ抜かれてさらに局部を破壊されている。まずそこから考えるに多分騎士達の横暴で被害を受けた人、多分女性の可能性がある。」
ユリが淡々と推測を話す。
「あと殺された騎士たちは腹部を各々の剣が刺されたことが主な死因で、舌を引っこ抜かれたのはその後だと書かれていた。この世界では自分の兵種と合わない武器で傷つけることは全く出来ない。おそらく犯人は剣を使える人となる。」
あれだけの資料を全部読んだからだろう、ユリが次々と推察をしていく。
俺だったらデマ情報まで信じ込んでここまで推理は出来なかっただろう。
「殺人で使われたのが剣だったから短剣を使うタツヤは本来だったら疑われないけど、あの弟さんの様子からしてそこまで考える余地がなかったのかもね。」
ユリは推理を言い終えて、空を見上げる。
「すごいな、そこまでわかるんならだいぶ絞れないか?」
俺が尋ねると、ユリは頭をかかえる。
「1番怖いのが、どうやって侵入したのかはわかってないことよ。どれだけ情報探してもそこだけがわからないのよ。殺された時の目撃者がゼロなの。」
ユリがうめきながら説明をする。
普通の殺人だったらどこかに目撃者がいるはずだ。
殺人で目撃者ゼロとかいう状況に持ち込める時点で一般人ではない。
他にあり得る可能性を考えると……。
「神器か?」
「あり得るとしたらその可能性が出てくるね。」
ユリが嫌そうな表情で答える。
神器持ちとなると、クラスメートが犯人ということになる。
「ただ、そうなると人から見えなくなる神器があるのかって話ね。」
「そんな都合よくあってたま……。」
俺は反論しようとしたところで、頭の中に昼間の記憶が浮かび上がった。
タツヤがアルバインに襲われた時、突き飛ばされるように大剣を避けて、何者かに引っ張られるように走って逃げていた。
俺は急いで水晶玉を取り出した。
「ダイキに繋いで!」
水晶が光り出し、鍛冶屋の背景にダイキが映し出された。
ダイキの後ろには荷物を運んでいるナオミがいた。
「ショウ、どうしたんだ?」
「杉原に変わってくれるか?」
ダイキが声をかけて、ナオミが水晶玉に近づいてきた。
「杉原、お前の神器ってなんだ?」
「私の神器はマントです。被っていると透明化できる優れものですよ。」
にっこり笑いながらナオミが灰色のマントを持って広げる。
とりあえず今ナオミが鍛冶屋にいることがわかって安堵する。
「それで、ショウはなんで俺たちに聞いてきたんだ?」
「今警護の最中なんだけど……。」
「ぎゃあああああ!!」
俺が説明を始めようとした瞬間、男の悲鳴が聞こえてきた。
玄関の方だから、おそらくさっきの斧持ちの戦士の声だ。
「すまんダイキ、何かが起こった!今日は杉原と一緒に夜を過ごしてくれ。」
何か言いたそうなダイキが水晶玉から消えたのを確認して玄関前まで走る。
すでに庭にいた他の傭兵たちが明るくなった玄関の前で集まっていた。
そして、玄関は二つの人型の何かの共に炎に取り囲まれ、燃え上がっていた。
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