15話『鍛冶屋での恐怖』
「こちらをどうぞ。」
ナオミが鍛冶屋の客室の中に案内して、お茶を俺たちの前のテーブルに置いていく。
手に持っていた水晶玉を置いて、お茶の入ったコップを口に含む。
「まあとりあえず、いくつか聞きたいことがある。」
俺の横でタツヤが真剣そうな表情で2人に尋ねる。
さっきまで全身鎧に追いかけられていたから無理も無いだろう。
「お前らはどういう関係?」
俺が口に含んだお茶が勢いよく吹き出した。
ダイキは困惑してるし、ナオミはなんのことかもわかって無さそうだ。
「それ以上に聞くことあるだろ!」
ゴツンと1回タツヤの頭を殴る。
「まず、タツヤを追っていたあの全身鎧がなんなのか教えてくれ。」
頭を抑えているタツヤを無視しながら、ナオミに聞く。
「あの人達はこの国の騎士達ですね。」
「嘘だろ?」
ナオミの答えにタツヤが驚きの声をあげる 。
「どうしたの?」
「だって騎士ってあれだろ?主君への忠誠を誓っていて民を守るために戦う戦士だろ。あれが騎士なんて信じられねえよ。」
タツヤの反論に賛同したくなる。
ゲームとかで見た騎士達は、タツヤがいうようなキャラしかいなかった。
「小畑君、十字軍は知っていますか?」
ナオミの質問でなんとなく察した。
「イスラム教から聖地を奪い返した騎士団だろ?」
「正解です。それに加えて街の中を逃げ惑う一般人も含めて大量虐殺をして、ヴェネツィア商人に唆されて聖地奪還とは違う目的で都市のコンスタンティノープルを攻撃して占領、掠奪をした軍です。」
ナオミの説明を聞いたタツヤから反論の勢いががなくなっていった。
「要するにここの騎士はあまり素行が良くないってことだな。」
「多分この世界に騎士道って概念ないんだろ。」
ダイキがため息を吐きながら紅茶を啜る。
「そうだ、俺たち今この国で起きてることについて知りたいんだけど……。」
2人に質問をしようとした時、鍛冶屋の扉が激しくノックされる音がした。
「アダチ!少し来てくれ!」
聞き覚えのある大きな声が開いていない扉が開いてないのに部屋の中に響き渡った。
「この声、常連さんだな。」
ダイキがお茶を飲みほして立ち上がった。
多分声の主はさっきの全身鎧だ。
さっき玄関前で感動の再会をしたのが原因なのかもしれない。
「小畑君は足立くんの寝室に隠れてください。」
タツヤが階段を登って扉の開閉音を聞いてから、ダイキが鍛冶屋の扉の鍵を解除する。
扉がバンと音を立てて開き、さっきの全身鎧が鍛冶屋に侵入してきた。
「こんにちはアルバイン様、本日は何用で?」
ダイキが鍛冶屋の店主として全身鎧に話しかける。
アルバインと呼ばれた全身鎧は後ろにいた兵士に合図をする。
「我々は今この不届きものを探している!何か知らないか!?」
兵士は俺たちの前に出ると、一枚の紙を広げた。
兵士が突き出した紙には、タツヤの似顔絵が描かれていた。
「残念ながらその人は見ていませんね。」
ナオミが椅子を取り出しながら返事をする。
アルバインは当てが外れたようにその場で考え込んでいる。
「そこの客人も何か知らないか!?」
アルバインの兜が俺の方を向く。
俺は全力で首を横に振る。
ここも違うのかとアルバインが足を鳴らす。
「そういえば、この絵ってあの水晶を使って描いたのですか?」
話題を変えて乗り切ろうと、俺は兵士の持った絵を見て質問した。
「いえ、これはアルバイン様が咄嗟に書いたものです。」
兵士の返答に普通にすごいと感じた。
依頼所で見た絵を撮るタイプの水晶玉を使わずに、一度顔を見ただけでここまで誤差無く絵が描けるのは尊敬すべきだろう。
「アルバイン様はすごいですね。一度見た人の顔を完璧に描けるのは才能ですよ。」
ナオミがお世辞を言いながらアルバインに椅子を勧める。
しかし、アルバインは椅子座らずに背中の大剣の柄を握った。
「あれ、どうしたんですか?」
冷や汗をかきながらナオミが質問をする。
「今の発言、この人物を見たことあるような口ぶりだったな。」
アルバインの返答に、ナオミだけでなく俺とダイキも顔が青ざめる。
ただ威張り散らしているだけの騎士だと思っていたのが間違いだった。
背中から抜かれた大剣が、刃をナオミの首筋で光っている。
「アダチ、確認するがここに似顔絵の奴はいないか?」
アルバインの兜がダイキの方を向く。
ダイキは何も言えずに震えている。
俺は慎重に手を上げながらアルバインに近づく。
「あの、すみません。」
兜の目線が俺の方へゆっくりと向けられる。
冷や汗をかきながら近づいていくと、紙を持った兵士が片手で槍を俺に向ける。
アルバインが兵士に合図をして後ろに下がらせる。
ナオミに剣先を向けたまま俺に近づいてくる。
「どうした?言いたいことがあるなら言え。」
アルバインが低い声色で問いかけてくる。
「その人、俺の仲間です。」
風を切る音を出しながら、大剣が俺の首元に構えられる。
首筋に大剣の刃の光が見えて唾を飲み込みたくても飲み込めない。
「どう言うことだ……。」
アルバインが尋ねてくるが、声は震えている。
「貴様はあのアサシンの仲間ということか?」
「はい、ですが彼はあなたを殺す気はありません。」
俺は慎重に動きながらダイキの方を向く。
意図を察したダイキが上の階へと上がっていく。
数秒後、両手を上に上げた状態でタツヤが降りてきた。
「ようやく我々の目の前に現れたか。」
大剣の刃が俺の首筋から離れて、店の床に切先が置かれる。
体験を見て、タツヤが半分泣きそうな目をしている。
「ええと、アルバインさん。こいつは俺と共に旅をしている仲間で、あなたにぶつかった時もただ喧嘩が起こっていた場所から巻き込まれないように逃げるために走っていてぶつかっただけなんです。」
俺はタツヤとアルバインの間に割って入って必死に説得を試みる。
アルバインは俺を睨みつけながら大剣を再び構える。
後ろからカランと音が鳴る。後ろを向くと、タツヤが持っていたダガー2本を床に落とした。
「ショウの言うとおりで俺はあなたを殺すつもりはありません。信じてください。」
タツヤが涙目で震えながら訴えてから数分後、アルバインの大剣が背中の鞘に収まった。
「後日改まって聴きにくる。それまで貴様の短剣は預かっておこう。それとそこの冒険者、目上の者には様をつけることを心がけろ。」
アルバインはそういうと、兵士に何かの合図をして鍛冶屋を出ていった。
「失礼。」
兵士は一言タツヤに言うと、ダガーを持って鍛冶屋を出て行った。
扉が閉じて、鎧の音が聞こえなくなったところで4人揃ってその場に倒れ込んだ。
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