12話『荷車での雑談』
「ショウ様、荷物はこれで全部ですか?」
サイアが最後の荷物を荷車に詰め込みながら尋ねてくる。
俺が首を縦に振って、荷車に待機するように促す。
「タツヤ、馬車はうまく動かせるか?」
「問題ないよ。」
タツヤが馬を撫でながら返事をする。
宿屋の方を見ると、カエデが宿屋のおばさんに頭を下げている。
「昨日の宴会の時、仲間が吐いて部屋を汚してすみませんでした。」
「あれはうちの旦那が飲ませたのが原因だから謝ることはないよ。」
宿屋のおばさんは笑いながらカエデを宥める。
おばさんが宿屋に戻った後、振り向いたカエデが俺を睨みつける。
「本当にごめん。」
「次飲んでんの見かけたら剣刺すから。」
こっちに向かってきたカエデはそう言うと、荷車へと入っていった。
後ろを向くと、ユリが大きな巻物をレイスケに手渡していた。
「何をしてたんだ?」
「私の魔法を便利にするために手伝ってもらうだけね。」
そういうと、荷車に乗っかった。
俺も荷車に乗ろうとすると、レイスケが俺の元に歩いてきた。
「お前は一緒に来ないのか?」
「僕はこの村の開拓を手伝って自分の家を手に入れてスローライフを送るつもりだよ。そのためにあのモンスター倒して欲しかったんだし。」
そういうと、レイスケが俺に手を差し出した。
「何かあったら僕も頼ってくれよ。」
俺はレイスケに笑顔を向けながら手を握る。
握手を始めると、レイスケの笑顔が引き攣り始めた。
「ちょっと握力強くない?」
「おう知ってる、ありがとな。」
カエデが怪我した原因と固い握手を交わす。
固い握手を交わした腕を抑えるレイスケに背を向けて、荷車へと入り込む。
「んじゃ、出発するぞ。」
タツヤが馬車を動かし始める。
後ろを見ると、レイスケと村の人が手を振っていた。
「機会があればまたきます!」
カエデが荷車から体を出して手を振る。
村を出てから馬車が少し歩を早くし始めた。
馬が道を安定して走り始めたところでユリが地図を取り出した。
「ユリ、街や村なら水晶玉で見れるじゃん。」
「水晶玉の機能、モンスターを討伐したことのアナウンスと離れたところにいる人との会話は使えるけど、マップの機能はないし地図を使ったほうが早い。」
そう言いながら地図を見渡す。
地図には10個の大小様々な国が描かれている。
「私たちがさっきまでいた村から1番近いのは、ここになる。」
そう言ってユリが指差したところには、『パーズ王国』と書かれていた。
前にユリが見せてくれた新聞で見たことある名前だ。
確かこの国には……。
「ここって殺人事件が起こってる国だよね?」
カエデがユリに話しかける。
ユリは首を縦に振りながら、この前の新聞を開く。
「この新聞によると、殺されたのは王国の兵士ばかりらしいから、冒険者やってる私たちには関係ないと思うわ。犯人がこの世界の住人だったらの話だけど……。」
ユリが表情を曇らせながら話す。
気にしているのは、その殺人犯が同級生の可能性があることだろう。
「まあ、うちの学校にそんな悪さする奴いなかったと思うから問題ないだろ。」
俺が説得しようとしたが、ユリが呆れた表情で俺を見てくる。
昨日の酒のやらかしのせいで信頼が全くされてないのがよくわかる。
「とりあえずパーズ王国の冒険者用の宿を取りに行こうよ。」
場を和ませようとカエデが提案をする。
ユリは少し考えてから口を開いた。
「じゃあ宿を取った後、二組に分かれて街を探索しましょう。」
ユリは地図を巻きながらこれからのことを話し始めた。
「私とカエデとサイアで街の様子を、男子2人で事件について調べるようにしましょう。」
「俺たちめんどうくさいこと押し付けられてない!?」
馬車を操ってるタツヤが驚きながら荷車の方を向く。
「タツヤは馬車を操るのに集中しろ。」
まだ馬車の操縦が完璧じゃないタツヤに注意をする。
話し合いが終わり、女子3名は馬車に揺らされながら眠り始めた。
荷車から馬車を操るタツヤの元へ移動する。
「王国は見えるか?」
荷車から顔を出してタツヤに質問をする。
「まだ見えないね。あの地図の縮尺がどれくらいかによるね。」
馬を闊歩させながらタツヤは愚痴をこぼす。
見える範囲では、道から外れた遠くの平原にコバルトンの群れが見えるくらいだ。
「いや〜、ここまで何もないと暇だね〜。」
タツヤはつまらなさそうに空を見ている。
確かにここまでのどかな道を歩くだけの時間は暇すぎる。
「そういえばタツヤ、お前の神器について調べたか?」
タツヤが面白そうな話題を提案する。
俺は荷車の中に立てかけてある黄色い槍を手に持った。
「改めて見ると、面白い形だな。」
俺は自分の槍を見て苦笑いをする。
槍は全体的に黄色く、柄は魚の鱗みたいな模様が刻み込まれている。
石突には、細い鳥の足を模したような形の爪がついている。
そして、本来なら槍の穂先に当たる部分には、でかい鱗にしか見えない。
「なんかでっかいスプーンみたいな形してるよな。」
タツヤが俺の槍を見て面白そうに話す。
「お前は前を見とけ!」
慌てて俺はタツヤに前を見るように促す。
言われてみると、鱗みたいな穂先を下にすると、スプーンにも見えるが、多分使い方は違うだろう。
頭の中で槍がワイトパンジーを貫いた時のことを思い出す。
「なあタツヤ、これあの白猿を貫いた時、なんか展開してなかったか?」
タツヤに言われたことを聞いて思い出した。
確かに白猿を貫いた時、黄色い刃が形成されていた。
「あと思い出したんだけど、神器に紙か何かついていない?僕のダガーにも効果が書いてあったからあると思うよ。」
タツヤに言われて槍を確認してみると、石突の爪の部分に小さな紙が括り付けてある。
石突から取り外して、紙を開いてみる。
『武器の製作、遅れてしまい申し訳ございません。この槍は翔様が魔力を込めると、穂先に雷の刃を形成する作りになっています。スキルなどを駆使して、魔王討伐に役立ててください。』
紙に書いてある内容を読んで1番最初に思ったのは、疑問だった。
「タツヤ、スキルってなんだ?」
俺はタツヤに槍を持って近づいて聞く。
「いや、俺も初耳なんだけど、ユリにでも聞いてみれば?」
タツヤの提案を聞いて後ろで寝ているユリを見る。
「今は寝ているし、あとで聞いてみるか。」
「もうそろそろ起こしてもいいと思うぞ。」
タツヤが道の先を見るように促しながら喋る。
タツヤが促す方向を見ると、石造りのそびえたつ壁が見えてきた。
目の前の門には、2人の衛兵が立っている。
「荷車の中を確認させてもらう。」
衛兵の1人が馬車に向かってきて尋ねる。
後ろで目を覚ましたユリが荷車の中を確認させる。
一通り目を通した衛兵は門の前の仲間に手をあげる。
「持ち物に問題はありません。パーズ王国への入国を許可します。」
衛兵が門の前に戻って開いていく扉へと案内してくれた。
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