119話『結果と決意』
「失礼します。」
丁寧な対応と共に水星、佐藤、後藤、赤崎が王の間へと入ってくる。
すぐに玉座に座る俺を見て察したらしい3人は横に並んでその場でひざまづいた。
「堅苦しいのは無しで行こう……。久しぶりだな!」
俺がニッコリと笑って話しかけると、3人が安堵した表情で顔を上げる。
横でメモを取る用意をしているノボルはようやくまともに話せる同級生が来てくれて嬉しいらしい。
よくよく考えれば、王城に殴り込む形で来た早川たちリターンズセイバーズ、鈴原や下田や黒石を考えると、最初は敵対している同級生があまりにも多いから安堵するのも納得だ。
「久しぶりだね、浅原くん。」
「何ていうか、安直な名前の王国ね。」
丁寧に挨拶する水星の横で佐藤が少し引き攣った笑顔で愚痴をこぼす。
「わかる、俺も新聞で見た時紅茶吹きそうになった。」
赤崎も若干苦笑しながら笑っている。
佐藤の横でまだ顔を伏せていた後藤の体が微かに震えている。
「ここにいるの身内ばかりで良かったな。」
俺は軽く笑いながら4人に話す。
多分この話を聞いていたらノボルの部下の猫種の獣人がすぐに弓矢を構えていただろう。
「ユリが来るまで俺と少し話そう。リズラス王国はどうだった?」
「そうだね、国に住む人たちは基本的に優しい人が多かったよ。最初あまりお金を持ってない時、炭鉱でのアルバイトを勧めてくれておかげで生活はしっかり出来てた。強いて言うなら王国側が魔族と繋がっているのは全く知らなかったけど。」
水星が苦笑いしながらリズラス王国での生活について話す。
「それで、黒竜討伐は?」
「馬車を購入するために僕たちが炭鉱で働いてる時に黒竜、そこにいるワイバーンが上空で暴れていたんだ。」
水星が柱の裏で寝ていたクロロンに指をさす。
「その黒竜は50年くらい前からリズラス王国周辺をナワバリにしていて、長年ギルドでも討伐依頼があったからそれを4人で受けたんだ。ユイナが僕たちにバリアを張って、僕は竜に属性魔法を次々叩き込んで、マモルくんが扇風の盾で地面に叩きつける。最後はハルオのハンマーで爆発させたって感じだね。」
黒竜討伐について水星が丁寧に説明していく。
クロロンが若干敵視しているが、白石が頭を撫でて落ち着かせる。
そうこうしているうちに扉を勢いよく開けてユリとあの水色の人狼が王の間へと入ってきた。
「みんな揃ってる?」
「揃ってるよ、夏川さんはお腹大丈夫?」
さっきまで少し突っ掛かり気味な佐藤が人狼の少女に抱きつきながらユリに不安な表情で視線を向ける。
確かに一週間前、ユリがショウを背負って転移してきた時、小杉が悲鳴に近い声で連れてきたモンクやシスターに指示出して治癒するほど必死になっていたのを思い出す。
あの時一瞬だけしか見えなかったが、ユリの腹部から血が出ていたのを脳裏によぎる。
「大丈夫よ。サフィア王国でも実感したけど、シスターたちの力ってすごいね。」
ユリはローブの上からお腹をさすりながら話す。
「それで、ユリは何を聞きに来たんだ?」
「ああそうね、この後4人はどうするのかを聞きに来た。」
「そうだね、馬車を借りて旅でもしようかな。」
「そうね、早くみんなを探したい。」
「俺も野球部のメンバーを早く見つけたいところだな!」
笑っている後藤を見て、ユリとノボルの顔が若干強張る。
少なくとも野球部部長が盗賊やって現在行方不明ってこと知ったらショックだろう。
幸いここにいる4人は長谷について話す気はあまりないらしい。
「夏川さんたちはどこに行くの?」
「メジスト王国ね。今回のリズラス王国の件でこっちに呼び戻されたから、途中の下宿で馬車をずっと預かってもらっている状態になっているし、早く取りに行かないといけないし。」
ユリが軽く俺を睨みつけながら話す。
「悪いが今ようやく国の財政が良くなってきたばかりだ。渡せる金はないぞ。」
「ギルドの依頼で稼ぐから気にしないで。」
ユリは軽くため息を吐きながら話す。
「それで、4人はこの後どこへ向かうつもり?」
「人を探すなら分散させたほうがいいよね?それなら僕たちはディモンド王国に向かうよ。」
笑いながら水星が話す。
「ディモンド王国には片岡と上原さんがいるから頼ってみると良いわ。今のうちに水晶玉で連絡も取れるように……。」
ユリがそこまで行ったところで、動きを止める。
赤崎も何か気付いたのか、若干呆然とした表情を向ける。
「お前らどうした?」
俺が話しかけると、ユリと赤崎が冷や汗を出しながら俺に視線を向ける。
「水晶玉の回収、忘れてた……。」
「今俺しかこのパーティー持ってねえ。」
2人の発言を聞いた俺を含めたみんなが軽く口を開けた。
王の間に似つかわしくない静かさが訪れた。
「じゃあ最初の任務だ。頑張ってきてね、長谷くん。」
白い綺麗な服を着た渡辺に軽く手を振りながらジャイアントが背負ってきた箱から丁寧に下ろされる。
俺は手元にある木箱を丁寧に持って目の前に見える村へと歩みを進める。
「お、人間だ。」
俺に気づいた近くの葉っぱで作られたテント状の家から緑色の小さな小人みたいな魔族、ゴブリンが姿を現した。
手には鎌を持っているが、俺に襲いかかるような気配がない。
「どうした?森で迷ったのか?」
不思議そうな表情でゴブリンが話しかけてくる。
村の中央では他のゴブリンたちが捕まえてきたらしい猪を解体して焼いているようだ。
「ええと、アデプトというゴブリンの家はどこか知らないか?」
俺が尋ねると、ゴブリンは一瞬目を見開いて、俺が持った箱を見て察したらしい。
「ついてこい。」
鎌を持ったゴブリンに案内されて村の中を歩いていく。
ゴブリンの村は全体的に森に囲まれていて、まるで隠れ里みたいになっている。
「あんた、数ヶ月前に魔王軍幹部になったっていう人間か?」
鎌を持ったゴブリンが話しかけてくる。
数ヶ月前は盗賊をやっていた頃だから、おそらく渡辺と平田だ。
「俺は最近なったばかりだ。」
「そうか……その木箱、ウィークのもんが入っているんだろ?」
ゴブリンが睨みつけながら話しかけてくる。
言葉に詰まるが言っていることは間違っていない。
ここに入っているのは、ウィーク・アデプトが持っていたショーテルだ。
人の遺品より先に魔族の遺品を手渡すことになるとは思わなかった。
少し離れてたところにある葉っぱの家に到着した。
「クネスさん、客人だよ。」
ゴブリンが葉っぱの家に向かって話すと、赤ん坊のゴブリンを抱えた女性らしいゴブリンが現れた。
「ええと、ウィーク・アデプトさんのご家族ですか?」
「ええ、妻です。」
クネスと呼ばれたゴブリンは死んだ目で赤ん坊のゴブリンをあやす。
体が少し震えて木箱を手渡すのを少し躊躇いたくなる。
それでも、遠くから感じる渡辺の視線がそれを許してくれそうになかった。
「魔王軍幹部代理の長谷一平です。ウィーク・アデプト様の遺品をお渡しに来ました。」
俺は簡潔に呟いて木箱を丁寧に渡す。
クネスは一度家の中に入り、赤子を丁寧に置いて再び俺の前に現れた。
「夫の遺骨ですか?」
「いえ、彼の使っていた武器です。遺骨は私の上司が持ってくると聞いています。」
俺は少し静かに言葉を紡ぎながら遺品の入った木箱を渡す。
ウィークの遺体は俺も見たが、下半身しかない遺体を家族に返すのは流石に可哀想だ。
あの黒騎士が遺骨の入った箱を早く持ってくるのを願った。
「ありがとうございます。」
クネスは涙をこぼしながら木箱を受け取った。
昔親戚の男性に不幸があった時を思い出す。
通り魔で命を落とした男性の妻だった女性は棺の前でずっと涙を流しながら叫んでいた。
「クネスさん、俺がウィーク・アデプト様の仇を打ってきます。」
あの時、親戚の女性は何度も犯人を殺すと叫んでのたうち回っていた。
この人も旦那の敵討を望んでいるはずだ。
「あなたは何歳ですか?」
突然クネスが質問を投げかけてくる。
「18です。」
「それなら、あなたは敵討など考えずにどうか長生きしてください。」
クネスさんは涙を流しながら話しかけてくる。
「あの人は、復讐よりも若い世代が育ち、平和な世界になることを何よりも楽しみにしていました。その平和はゴブリンだけでなく、ジャイアントや獣人、人間たちも平等に……。」
そういうと、クネスは一礼して家の中へと入っていった。
「送ってくれてありがとうな。」
横で話を聞いていたゴブリンに礼を言う。
「クネスさんも大変だな。長男に続いて旦那まで……。」
「長男?」
「ああ、なんでも謎の水の銃を使う人間が釣りをしていた長男を撃ち殺したんだ。他のゴブリンに狙いを定めているうちにウィークがとどめを刺していたが、長男は死んじまったんだ。」
そう言いながら村の門まで案内してくれた。
森に入ると、ジャイアントと渡辺が待っていた。
「やあ、お疲れ様。」
箱に入ると、ジャイアントが走り始める。
「どうだった?」
「恨まれると思ってた。」
俺はそれだけ言うと、箱の中で寝っ転がる。
「なあ、なんで人間とモンスターは争ってるんだ?」
「さあね、鎧君か2時の番人が知っているんじゃない?」
渡辺が呑気そうに寝っ転がりながら返事をする。
「確か、ウィーク・アデプトの死体には焼き焦げた跡があったんだよな?」
俺が尋ねると、渡辺は軽く頭を下げる。
あんなふうに焼く攻撃は俺と同じように仁義によるものだろう。
そう考えるなら、地域的にも可能性があるのはあいつしかいない。
「ウィーク・アデプトの仇には心当たりがある。あの女は俺が殺す。」
ジャイアントは森を駆け抜け、山へと登っていった。
ここまで読んでいただ、ありがとうございます。もしこの作品を読んでいただいた後に感想を書いていただければ励みになります。また、どこか漢字や文法の間違いがあった場合、指摘していただけるとありがたいです。




