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118話『目覚め』

ぼーっとした感覚のまま暗い夜の道を歩いていく。

周りは深い森が茂っていて、その奥から静かに何かが白い目で俺を睨みつけているのが見える。

あれはなんだろうと思っていると、後ろから2つの足音が聞こえてくる。

振り返ると、腹部にぽっかりと穴が空いたユリが虚な目で立っていた。

胴体に空いた穴の奥の風景が見えて、穴からは血まみれで倒れたマモル、夢野、佐々木が倒れているのが見える。

「お前ら、大丈……。」

「お前のせいだ。」

ユリが突然口を開いて叫ぶ。

「お前があのゴブリンを倒していればこんなことにはならなかった!」

ユリが怒号に近い声をあげながらにじり寄ってくる。ふと穴を見ると、さっきまで映っていた3人はいなくなり、代わりに小さな人影が映っていた。

黒く焦げているところから、ウィーク・アデプトだろう。

「殺しきれなかったのか!」

急いで手に持っている雷竜の槍を持ち上げようとした瞬間、腹部に激痛が走る。

見下ろすと脇腹から血が溢れ出していた。

目の前の奴が引き金を引いた状況がない。

必死に顔を上げると、ウィークが銃口を俺に向けていた。

「息子の仇だ。」

ウィークが静かに呟くと同時に俺の顔に水が近づいてきて、目の前が真っ暗になった。

これで死ぬのかと思った瞬間、ふと声が聞こえてきた。

「……きて、起きて!」

頬を叩かれる感覚で目を開けると、涙をこぼすカエデの姿があった。

「あえ……え?」

俺は話しかけようとするが、乾燥しているのか全く声が出ない。

ただ、俺が目を開けたことに気づいたカエデが目を見開いていた。

「良かったぁ!!」

カエデが満面の笑みを浮かばせながら俺に力一杯抱きついてきた。

同時に腹部から激痛が走る。

「いだいっ!」

「あっごめん、まだ痛むよね。」

慌ててカエデが離れる。

痛みもあるが、想像以上に寝汗がひどい。

「ショウ!良かった起きたか!」

扉を開けたタツヤが息を荒げながらその場に座り込んだ。

廊下からはユリとサイアが軽く手を振る。

「おおあ?」

「アサハラ王国の医務室だよ。ユリがなんとか残った魔力を振り絞って城の中の部屋に転移して急いで運んでもらったんだよ。」

カエデが俺の顔に涙をこぼしながら説明する。

部屋の中にユリとタツヤを押しのけて水の入ったトレーを持った小杉が入ってきた。

「よかった、治癒が間に合ったっぽいね。」

「小杉さんが必死に治癒してくれたんだよ!」

「あ……あいあおう。」

俺の話し方を聞いた小杉が少し笑いながらコップを差し出してきた。

水を飲むと喉が徐々に潤ってくると同時に、急に息が出来なくなった。

「ゲホ!ゴホッ!」

「あ、これ気道に入ったね。」

「大丈夫!?」

急いでカエデが俺の胸を軽く叩く。

多分叩き方は違うと思うが、少しして呼吸も安定してくる。

「それで、あれから何日経った?」

小杉が部屋から出て行ってみんなが集まったところで尋ねる。

「1週間くらいね。他の怪我人は2、3日で完治していた。」

「お前こそ大丈夫だったのか?」

ユリの話を聞いて少し不安になって尋ねる。

目の前のユリもあの時腹部を貫かれてそれどころじゃなかったはずだ。

「それも全部小杉さんが治癒してくれた。」

「シスターの力ってすげぇ……。」

「それはそうとリズラス王国がどうなったかの説明をする。」

そういうとユリはカバンからメモ帳を取り出す。

「結論から言うと、あの反乱の後リズラス王国の治安はめっちゃ悪化した。」

ユリの話を聞いて、俺はそうだろうなと思いながら頷く。

監獄に無罪で捕まっていた人間を全員解放した以上、治安はかなり悪くなったはずだ。

「ただ新聞を見る限り、ゴブリンやゴーレムに関する記述はない。明らかに人間ではない緑の看守等のモンスターについては2行だけ書かれていたけど、多分魔王軍関連は全くないね。」

ユリの説明を聞いて少し肩を落とす。

おそらく、王国側がもみ消したのだろう。

「あの時追ってきていた魔王軍幹部のゴブリンは?」

「あの時、馬車を少し離れたところで止めて確認してきたけど、上半身が完全に無くなっていた。死んでいたよ。」

ユリが説明を聞いて安堵する。

黒騎士みたいに不死身ってパターンだったら不安だったが、その心配はなさそうだ。

「それと、これも回収しといた。」

ユリが話すと、首を縦に振ったタツヤがカバンに手を入れた。

カバンから取り出されたのは、あのゴブリンが持っていた水鉄砲があった。

「それ神器だったか?」

「銃を使える冒険者に頼んで引き金を引いてもらったけど水が出なかったところ、水は出てこなかった。多分神器で合ってると思う。」

それを聞いて、少し残念な気持ちになる。

「どうしたの?」

「あのゴブリンが言っていることが正しいなら、少なくとも学校の生徒が1人死んでいることになる。」

その場の空気が重くなる。

全く関わりが無かったとはいえ、知っている人が死んだことを少し受け止めれていない。

「まずいわね。」

「ああ、このまま他の同級生がやられないように……。」

「それもあるし、神器を取られるのもまずい。」

ユリが真剣な表情で俺の言葉を遮って口を出す。

「え?」

「ゴブリンはただいろんな武器を使えるモンスターってだけに思ってた。けどウィークが使ってたのは神器だった。もしかしたら他の神器を奪われて使われる可能性もある。」

ユリの発言を聞いて少し考えた後、背筋が凍った。

よくよく考えたら、俺が倒したゴブリンの1体が俺の雷竜の槍を使っていた。

今回は運良く倒して槍と銃を奪い返すことができたが、もしユリの転移書簡やタツヤの時止めのダガーを奪われたら厄介な敵になる。

「マジで怖いな、使われるの。」

「全員、神器を取られてないように気をつけてね。」

ユリが話そ聞いた空間が徐々に緊張感で埋め尽くされ、通夜みたいな雰囲気は無くなった。

「とりあえず、次にやることを考えてくる。タツヤはまだお尻痛むなら部屋で休んでなさい。」

「そのこと言うな!めっちゃ恥ずかしいから!」

顔を真っ赤にしたタツヤと真顔のユリが扉へと向かう。

「そうそう、サイアは私についてきて。今から佐藤たちと話すけど、佐藤さんがあなたに会いたいって言うから着いてきて。」

「わかりました。」

サイアはカエデに一礼した後、ユリと一緒に部屋を出ていった。

カエデが周囲を見回した後、微笑みながら顔を近づけてくる。

「一緒のベッドに入ってもいい?」

「どうしてそんなった!?」

俺が少し叫びながら尋ねる。

医務室の中はみんな健康なのか誰一人いない。

「寝ている間ひどくうなされていたもん。私が一緒にいたらそんな夢を見ないんじゃないかなって。」

カエデが少し照れながら話しかけてくる。

確かにさっきまで見ていた夢は悪夢と言っても忖度ない。

「じゃあ、手を握ってくれ。」

俺はそう言いながらゆっくり右手を伸ばす。

カエデが俺の右手をしっかりと両手で握ったのを確認して、ゆっくりと目を閉じた。

ここまで読んでいただ、ありがとうございます。もしこの作品を読んでいただいた後に感想を書いていただければ励みになります。また、どこか漢字や文法の間違いがあった場合、指摘していただけるとありがたいです。

また、投稿が5分ほど遅れてしまい申し訳ございません。何度目か分かりませんが、このようなことが起こらないように善処します。

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