117話『友達100人見つけなきゃ』
「かなり燃えてますね。」
横から平田が申し訳なさそうな声で話しかけてくる。
後ろからついてくる点目2つで顔が構成されたゴーレム3体が少し怖いが、俺に攻撃する気配は一切ない。
「んで平田、俺たちがこの国に来る必要あるのか?」
「渡辺くんは今この城の一室に住んでいるんですよ。彼には楽しく生きてほしいのでね。あなたもそう思いませんか?長谷さん。」
平田が説明していると、少し豪華な鎧を纏った2人の兵士が近づいてきた。
「待て、ここから先は王家の部屋だ。今コイズ王子がご就寝なされて……。」
近衛らしい兵士たちの前に2体のゴーレムが立つ。
急に目の前に現れた2体に驚いて固まった兵士にゴーレムの腕が伸びる。
次の瞬間、バチンと音を立てて兵士たちが硬直し、その場に倒れ込んだ。
「ご……ごびず……。」
必死に声を出そうとしているが、感電しているらしく動けないようだ。
「用があるのは第3王子の部屋だ。第1王子の元へは行かないから安心しろ。行きましょう長谷さん。」
動けずにいる兵士たちを見下ろしながら平田が話しかけてくる。
2つの部屋の前を通り過ぎて、3つ目の扉の前に立つ。
「失礼します。」
落ち着いた声で平田が扉をノックする。
部屋の中からは聞き覚えのある女子の短い悲鳴が聞こえてくる。
「入っていいよ。」
部屋の中から聞こえた声に反応すると、平田が勢いよく扉を開ける。
部屋に入ると、上裸で椅子に座る渡辺とベッドの上で恥ずかしそうに毛布を被っている何かがいた。
肌色の肩が見えているところから、おそらく裸なのだろう。
「ああ、これ俺たちいていいのか?」
「気にしなくていいよ。」
「気にして!」
笑いながら許す渡辺と対照的に、毛布から黒髪ロングの赤らめた少女が顔を出す。
顔を出したのは、生徒会副会長の冬木なずなだった。
「それで何の話だっけ?感想でも聞けばいいのか?」
「聞かないで!」
「初めての経験でうまく言語化できないね。ただ放っている間はあそこまで体の力が抜けるのは想定外だったよ。学校にいた時、興味本位で『行為の後、男性のIQは2まで下がる』って調べさせたことあったけど少し書いてあること理解でき……。」
「事細かに説明しないで!」
少し顔を赤ながら感想を言う渡辺に、冬木が涙目で叫ぶ。
光景に目を瞑れば楽しそうな青春の1ページだろうが、半裸の2人と窓から映る煙をあげる監獄が許さない。
「さて、本題に戻そう。」
照れ顔から一瞬でいつもの爽やかな表情に戻った渡辺が話しかけてくる。
上もしっかり着ていればただのイケメンにしか見えない。
「2時の番人から聞いたよ。臨時とはいえ12時の番人の後任、おめでとう。」
渡辺の言葉を聞いて改めて真面目な表情をする。
数日前、渡辺と平田が推薦したことと10時の番人の実技試験の結果、俺は空きができた魔王軍幹部『時計盤』の12時の番人となった。
本来だったら前の番人であるグローブ・ビゲストの後継者がいてそのモンスターになるらしかったが、幹部になるには若すぎるとのことで俺が臨時で入ることになった。
「やっぱり、決めては君の神器の強さかな?当たったものを無条件で燃やすのは大概チートだからね。」
渡辺が笑いながら話しかけてくる。
確かに実技試験、もとい実戦は俺が剣を棍棒で受け止めた結果、鎧まで炎で覆ったことが決め手になった。
「普通の人間ならこの時点で詰みだし、弓矢などの遠距離手段を打ち返す反射神経と精密さもある。」と現在進行で燃えながら中学生くらいの藍色の服を着た人狼の少年とツノの付いた魔女っぽい服装の豊かな女性に評価を話す黒騎士がかなり印象的だった。
「というか、俺が幹部になって良かったのか?冬木の方が事務作業とかも上手いと思うけど……。」
「彼女は今僕の部下ってことになっている。それに神器の効果的にも君の方が強いからね。」
渡辺と話をしていると、再び扉がノックされる。
部屋に入ってきたのは目を赤く腫らしたゴブリンが入ってきた。
「失礼します、シャクジャです。」
一礼して入ってきたゴブリンは俯きながら部屋に入ってくる。
「11時の番人の直属の部下だね。どうしたんだい?」
「先ほど『時計盤』11時の番人であるウィーク・アデプト様が死亡しました。」
部屋の中の空気が重くなる。
さっきまで苦笑いしていた平田も、顔を赤らめていた冬木も、俺を含めて皆は真顔になった。
ただ1人、椅子に座っている渡辺だけがまだ笑っていた。
「確か、11時の番人の後継者は君だっけ?」
「はい。臨時ではありますが期待に応えれるように善処します。それと……。」
シャクジャはそのまま平田の方を振り向く。
「あなたの作ったゴーレム『シンパシア』のプレデ・カアイの自爆後、核は見つかりましたが頭脳を担っていた魔石は粉々に砕けているのが見つかりました。」
シャクジャは一通り言い終わると、部屋を出ていった。
部屋の中に沈黙が訪れる。
「さて、ちょっとしたパーティーの用意でもする?」
「よく今そんな話題に戻せたな!?」
笑っている渡辺に軽くツッコミを入れていると、横で平田が膝をつく。
「頭脳回路の魔石は残って欲しかった……。」
平田はかなり落ち込んだ状態で放心していた。
過去に別のプレデと名乗るゴーレムを見たことあるが、確か一度壊されたと聞いた。
おそらく脳の役目を果たしている魔石があれば何度でもそのゴーレムは蘇るのだろう。
「シンパシアってこれで残り5体?」
「いえ、ディオラ・ソウキの魔石も破損していて完全復活は無理だから残り4体です。ただデータは取れたので近接戦用の量産型の生産に利用しています。」
正気を取り戻した平田が呆然としたまま呟く。
「まあどっちみち、パーティーはもう少し先だね。」
渡辺は声のトーンを落としながら窓へと向かう。
「僕、なずな、平田くん、長谷くん。魔王城牢獄に水鏡さん。遺体なった前澤くんと渡井くんに谷崎先生、運転手の入間さんとガイドの宮下さん。今魔王軍で保有されている転生者は全員10人だ。今は捕まっているだろう下田くん、黒石くん、鷹見さんを含めて残り100人の転生者がこの星にいる。」
渡辺がペラペラと俺の知らない情報を次々と喋り始める。
いつの間にか5人も死んでいることに驚きを隠せずにいるが、すでに聞かされていたのか平田と冬木は落ち着いた様子で渡辺の話を聞いている。
「残った転生者を捕縛して、最低でも神器の回収、よかったら魔王軍の傘下に入るよう促して、拒んだら殺すのが魔王軍からのお達しだ。そういうわけだから、長谷くんも手伝ってね。」
渡辺は笑顔を振り撒きながら俺に手を伸ばしてきた。
「友達100人見つけなきゃ。」
渡辺の微笑みながら伸ばされた手を俺は躊躇いながらもその手を力一杯握りしめた。
後ろの窓では、今も監獄が燃えていた。
ここまで読んでいただ、ありがとうございます。もしこの作品を読んでいただいた後に感想を書いていただければ励みになります。また、どこか漢字や文法の間違いがあった場合、指摘していただけるとありがたいです。




